それと報告があります。詳しくは活動報告にて
「後はアレをどうにかするだけだな」
和也の言葉を適当に聞き流しながら、俺は暴走体の方へと目を向ける。その暴走体は今ははやてとユニゾンしているリインフォースと同じ姿をしていた・
「とはいえ、ちょっと予想外だな」
――まさか、リインフォースと同じ姿のまま戦うことになるなんて……
暴走体との決戦――これ自体は予定通りだった。しかし、相手がリインフォースと同じ姿をしているとなると話しは違ってくる。
暴走体が予定通り大型の怪物として現れてくれたのであれば簡単に終わらせる事ができた。単純にここにいる全員で最大火力をぶち込むだけで良かった。
この場にいるのは原作でもいたメンバーに加え、管理局員、さらには聖王教会の人間もいる。なのはやフェイトのデバイスの強化がなされてないとはいえ、それを補うには十分すぎる戦力だ。
しかし、これが人型相手だとまた内容が違ってくる。原作では大型で動きも鈍かったため、全員が最大火力の攻撃を行う事ができ、尚且つそれを当てる事もできた。
「ディバイン…バスターーーッ!!!」
なのはが暴走体に向けてディバインバスターを放つ、しかし暴走体はそれをあっさりと避けるとこちらの方へ向かってくる。
「させないよっ」
「バルディッシュ」
それをリーゼロッテが阻もうとし、フェイトもその援護に向かう。二人とも近接攻撃で暴走体を押さえ込もうとしている。
「クロスファイア……シュートッ」
彼女達が暴走体を押さえ込んでいる隙に俺が魔力弾を十数発叩き込んだ。その瞬間二人が離脱する。
「「今だっ」」
二人が離脱した瞬間に和也とクロノが同時に周りにいる人間に向けて叫んだ。そして、その指示と共に数十発の砲撃が暴走体に叩き込まれた。
「……」
数十発の砲撃が暴走体に着弾する事で見えなくなるが、誰も砲撃が当たった事に歓声を上げない。皆一様に警戒を緩めずに着弾点を見つめている。そして着弾による煙が少しずつ晴れていくが、そこには暴走体の姿がなかった。
「え?」
「うわぁぁあああ!!!!!」
誰かの戸惑いの声と悲鳴が上がるのは同時であった。慌ててそちらの方を見ると、管理局員の一人が暴走体の攻撃を受け、地面に地面に叩きつけられていた。
「クソッ!!」
「てやあああああ!!!」
傍にいた管理局員と聖王教会の人間が暴走体に向け攻撃を加えるが、暴走体は直撃を受けたにもかかわらず怯むことすらなく彼らを撃墜する。
「防御力堅すぎるだろっ!!」
和也が暴走体のあまりにも高いその能力を見て、思わず苦言を漏らす。人型になる事で大型の時に比べて遥かに機動力が上がり、さらには堅固な防御力を誇る。普通の人間ではありえないスペックを持つ暴走体は間違いなく単体では今まで出会った中で最強の存在であった。
「このっ!!」
俺は暴走体に向けて誘導弾を撃ち込む。しかしながら、その攻撃も暴走体を足止めすることにも至らない。
「強すぎるっ」
こちらの攻撃がまるで通らない。誘導弾は足止めすらままならず、砲撃は奴の機動力によって回避され、バインドは力任せに引きちぎられ、近接攻撃も受け止められてしまう。それほどまでにこの暴走体は強かった。
原作どおりであれば闇の書が覚醒した時に現れたリインフォースはデバイスを強化したなのはが十分に足止めできるほどの力であった。
しかし、この暴走体はここに集められた戦力であってもまともにダメージを与える事さえできないほど強い。
「まるで…」
――システムU-Dだな……
システムU-D…ユーリ・エーベルヴァイン。闇の書の奥深くに封印されているシステムでゲームにおけるラスボス的存在。干渉制御ワクチンを撃ち込んだ後、次に防壁を破壊し、同じく用意した対システムUDプログラム装備のデバイスでやっとダメージが通るというなんともチート性能である。
もしかして同一存在か? とも思ったが、そうであれば彼女より先にマテリアル達が現れるのでこれはないだろう。
「しかし、どうやって攻略するか…」
手っ取り早いのは俺達が離脱してアルカンシェルを撃ち込むことだろう。既に再生プログラムと転生プログラムを壊している以上、復活の心配がないのでこれが一番早い。しかし、撃てばいくら無人世界とはいえかなりの被害が及ぶだろうし、そもそも人型であの機動力、そして防御力だ。もしかしたら生き残るかもしれない。
となると……
「やっぱり実力行使だよな」
そう結論付けて周囲を見る。既に数名倒されていて、回収されているようだ。和也の方を見ると同時にあっちも俺の方を向いてくる。そして目が合うとお互いに笑みを浮かべデバイスを構える。どうやら同じ結論に達したようだ。
「「カートリッジロードッ!!」」
俺と和也が同時に叫ぶ。一気に六発のカートリッジをロードして一気にフルドライブ状態に移行する。クロックシューターを左手にも展開し、両手に持った銃で暴走体に狙いをつける。和也も同様にフルドライブに移行するとデバイスが変形し杖の先から槍の穂先が展開される。
「ランスフォームってか」
「お前こそ、ガン=カタでもやるつもりかよ」
お互いに軽口を叩きあうと俺はソニックムーブを使って暴走体へと突撃する。和也はそんな俺よりも早く暴走体へと突撃した。
「うおおおおおおお!!!!!!」
和也のデバイスの穂先が暴走体へと突き刺さると同時に和也の背中から羽のようなものが生える。よく見てみるとなのはのフライアーフィンの魔法と同じようだ。要するにアレで飛行に加え突撃速度も上げているのだろう。
「せいっ!!」
「これも追加でっ」
和也は槍を暴走体に突き刺したまま、地面へとデバイスごと突き刺す。俺は和也に追いつくとクロックシューターを暴走体の眉間と胸に向け、零距離で砲撃をぶっ放した。
「二人ともっ、離れろっ」
クロノから声が聞こえたので俺はすぐさま、和也はデバイスを回収した後すぐにその場から飛び去る。
すると上空から魔力刃が降り注ぐ。その数は優に百を超えていた。その全てが暴走体へと突き刺さる。
「フェイトちゃんっ」
「うんっ、なのはっ」
「ディバインバスターーーッ!!!」「サンダーレイジッ!!!」
追加でなのはとフェイトが魔法を放つ。二人の魔法は暴走体のいた位置をしっかり捉え、着弾と同時に大きな爆発を起こす。
「私らもや、クラウソラスッ!!」
さらにはやての魔法が暴走体に襲う。流石、広域殲滅を得意とするはやてというべきか、その威力はなのはやフェイトを上回る。
「流石にこれだけの攻撃でダメージなしはないと思うが…」
「それは勘弁して欲しいな」
和也の言葉に俺は返して暴走体が現れるのを待つ。そして煙が晴れると共に暴走体は現れた。
「なに…あれ?」
現れた暴走体になのはが声を上げる。その声は震えていた。周りを見ると皆、現れた暴走体の様子を見て驚いている。しかし、それも無理はない。現れた暴走体は和也に突き刺された胸から、俺の砲撃によって傷つけられた顔から、そして皆の魔法によってできた傷からうにょうにょとなんとも説明し難いあふれ出しているのだ。
言うなれば人間の内臓的なものが傷口から溢れて、それが暴走体を飲み込んでいくのだ。
「ボーっとするなっ!! 一気に片付けるぞっ」
和也はそう言って、砲撃魔法をソイツに向けて撃った。その攻撃は暴走体を傷つけるもその傷ごとあふれ出るものが飲み込んでいく。
「再生しているのか?」
「だとしたら拙いな」
クロノが冷静に暴走体の状態を考察する。もし、クロノが言ったように再生であるならかなり拙い。もう既に闇の書が起動してからかなりの時間が経過している。このままだと今までの闇の書と同じようにかなりの被害を撒き散らしかねない。
最悪、離脱してアルカンシェルを撃てば全部が終わるとはいえ、この世界の環境を破壊する事だけは避けたい。
「アレの再生速度を超える攻撃でリンカーコアを露出させ転送、最後はアルカンシェルで止め……でどうだ?」
「結局、やることに変わりはないだろ」
和也の言葉に俺が返す。結局は原作の最終決戦と同じように、そして初期の計画通りになっただけだ。
「全員、最大威力で攻撃だ」
「「「「「「「了解」」」」」」」」
和也の指示と共に俺達は自身の持ちうる最高威力の魔法を用意する。
「夜天の魔導書を、呪われた闇の書と呼ばせたプログラム……闇の書の…闇」
十字の装飾が施された書を片手に、はやてがそう呟く。
「いくぞっ、アイゼンっ!!」
ヴィータの持つグラーフアイゼンの槌が魔力光を伴って消失し、代わりに現れたのは更に巨大なそれ。
ギガントフォーム……ヴィータの持つグラーフアイゼンの最終形態だ。彼女がそれを大きく振り被ると、鉄槌の部分が何十倍にも巨大化した。
「轟天・爆砕! ギガント……シュラーク!!」
ヴィータの掛け声と共にかなりの大きさとなった鉄の伯爵が振り下ろされる。
暴走体に叩きつけられたそれは大きな音を伴い、暴走体を破壊する。
「刃と連結刃に続く第三の姿。その身に受けて、知りて死ね」
シグナムは自分の手に持ったレヴァンティンの鞘と柄を重ね合わせ、カートリッジをロード。第三形態である弓にデバイスを変形させた。魔力光が迸り、その姿を弦へと変わる。ボーゲンフォルム……レヴァンティン唯一の遠距離狙撃モードである。
「翔けよ隼!!」
シグナムの言葉と共に放たれた弓が暴走体を貫通する。しかし、まだこの程度では足りない。
「フェイト・テスタロッサとバルディッシュ。いきます!」
フェイトはバルディッシュを構えると自身の持つ最高威力の魔法を唱える。
「アルカス・クルタス・エイギアス。煌めきたる天神よ。いま導きのもと降りきたれ。バルエル・ザルエル・ブラウゼル。撃つは雷、響くは轟雷。アルカス・クルタス・エイギアス――
――サンダーフォールッ!!!!!」
フェイトの声と共に落雷が暴走体へと落ちる。落雷は暴走体を焼き、その威力を持って破壊する。
まだまだ攻撃は終わらない。上空にいたはやては書を開くと、杖を持つ手に力を込めた。
「彼方より来たれ、宿木の枝。銀月の槍となりて……撃ち貫け!!」
白いベルカの魔方陣が展開し、その周囲を魔力でできた球体が囲む。そして彼女はその魔法を発動した。
「石化の槍……ミストルティン!」
はやてによって放たれた魔力の球は形を変え、槍となって敵の身を撃つ。着弾した部分から暴走体の体は石となり、全身を覆っていった。
「次は僕だ……
クロノが自分の持つデバイスを構える。デュランダル……グレアム総督が闇の書の主ごと封印しようと製作した、ストレージデバイス。最強の氷結魔法をプログラムされた、管理局の技術の叡智。
「悠久なる凍土。凍てつく棺のうちにて、永遠の眠りを与えよ」
クロノの詠唱と共に周囲に雪が降る。それは自然の力ではなく、クロノの魔力が生み出したものだ。詠唱による魔法発動。デュランダルがそれを補助、強化し、暴走体をの周囲を凍らせていく。
「凍てつけっ!!!!!」
絶対零度の氷結魔法が周囲丸ごと暴走体を封じ込める。
「次は俺の番だ」
そう言って和也がデバイスを暴走体へと向ける。
「カートリッジロード」
和也の言葉と共にデバイスからカートリッジが吐き出される。その数八発。おそらく載せてあるカートリッジを全て使い切ったのだろう。
和也の構えたデバイスに複数の魔法陣が展開され、和也の背中にも巨大な魔法陣が展開される。
「エンドブレイカー、シュートッ!!」
和也の放った魔法は暴走体をたやすく飲み込み壊していく。
「じゃあ、俺もいくよ」
俺は両手のデバイスを向けるとカートリッジをロードする。クロックシューターに搭載できるカートリッジは六発。あわせて十二発のロードだ。
「リミットブレイク…フルバースト、ドライブ・イグニッション」
カートリッジロードによってフルドライブのさらに上、リミットブレイクを発動する。フルドライブが使用者の100%の出力なら、リミットブレイクは120%引き出すものだ。
当然、使用者への負担も大きい。フルドライブですら過剰負荷によるダメージは体に残り、傷や体調不良を悪化させる要因ともなる。リミットブレイクならば術者とデバイスの命を削るほどである。
「拓斗っ、なにやってんだお前はっ!!!!」
和也が俺を見て怒鳴るのが聞こえる。和也はリミットブレイクの危険さを十分理解しているはずだ。当然、今俺がどれだけ馬鹿な事をやっているかも……。
こんなところでリミットブレイクを使用する意味などない。和也のやったようにカートリッジロードでの砲撃だけでも十分だ。わざわざ体に負担をかけ、寿命を削ってまで攻撃する必要はない。
しかし、それでも俺はやる……。
「フルバースト…ファイアーーッ!!!!!!!」
展開された六つの魔法陣から特大の魔力砲撃が暴走体に向けて放たれる。それらは暴走体を破壊し、コアを露出させるがすぐに再生し、コアの周囲を覆おうとする。
「ラスト、高町なのは、いきますっ!!」
なのはがそう声を上げる。すでにそこには極大の魔力が集束されていた。
「なんていう馬鹿魔力……」
それを見たクロノが呆気に取られる。それもその筈、なのははこの宙域にある魔力を根こそぎ集めたのだ。制御できるギリギリとはいえ、その量はとてつもなく多い。
「これが私の全力全壊っ、スターライトブレイカーーーッ!!!!」
なのはの放った魔力は暴走体の周囲を根こそぎ吹き飛ばす。まるで爆弾が爆破したかのような爆発音をクレーターを残して…。
「捕まえ…た!」
後方にいたシャマルは、旅の鏡を用いてコアを探し出す。そこからユーノとアルフの魔方陣がコアを挟み込んだ。
目標は軌道上、アルカンシェルの射線上。アースラは既にアルカンシェルの発射準備が整っている。
「転…送……!!」
三人の声が重なり空を越えて宇宙へと、暴走体のコアが転送される。
そして宇宙で光の華が咲いた。
『みんな、お疲れ様でしたあ! 事後処理等々いろいろあるんだけど、コアは消滅。状況は無事、終了でーす!』
空に光る、アルカンシェルの砲撃を眺め終えるとエイミィから地上に報告が入ってくる。それと同時にこの場にいた人間は歓喜に沸いた。
「ご苦労さん」
「和也…そっちもお疲れ様」
歓喜に沸いている周囲を眺めていると和也が声を掛けてくる。そしてお互いの労を労いあう。
「それで、なんであんな無茶をしたんだ?」
和也は先ほどの事を質問してきた。どうやらこの状況に流されてはくれないようだ。
「これが最後かもしれないし、一度全力で魔法を使ってみたかったんだよね」
そう、俺はたったそれだけ理由でリミットブレイクを使用した。まだ帰還の方法が見つかったわけではないが、GODが起こらずstsまでに帰還方法が見つかった場合魔法を全力で放つ機会などない。だから今、全力で魔法を使ったのだ。
「本当にそれだけか?」
「それだけだって」
和也は俺の言葉を疑いもう一度聞きなおしてくる。
「そうか、ならっ!!」
「~~~~~ッ!!」
和也は俺の頭を思いっきり殴りつけた。あまりの痛さで悶絶する俺を見下ろして和也は言う。
「自分の身体は大事にしろっ、周りに心配させるような事するなっ」
「うっ、ゴメン」
「それと何かあったら俺に話せ、いいな?」
「……了解」
念を押すように俺に言ってくる和也に返事を返すと和也は呆れたような表情を見せながら去っていった。やっぱりリミットブレイクはやりすぎたようだ。
「ホント、和也は鋭いな~」
思わず自嘲した笑みを浮かべてしまう。まぁ、俺の言葉があまりにも嘘っぽかっただけかもしれないがし、和也が心配性なだけかもしれないが……。
俺がリミットブレイクを使った理由は先の理由の他にもう一つある。というかアレが理由であるはずがない。
俺がリミットブレイクを使った理由……それは俺の衝動を抑えるためだ。この世界に来てから起こるようになった攻撃的衝動、士郎さんに剣を習い始めてからというもの少しはマシになったが、それでも結構な頻度で湧き上がる。
どうして湧き上がるのかわからないが、最近ずっと抑え込んでいたためか制御ができなくなっていた。だから、今回の件で発散しようと思ったわけだ。リミットブレイクを使ったのは自分への戒めのため、身体に痛みを感じさせる事で衝動を抑制しようとしたわけだ。
今は全力で魔法を撃ったため、身体中に痛みがあるがそれでも衝動は感じられない。どうやらいい発散になったようだ。
「これも調べた方がいいのかな?」
誰にも聞こえない程度の声で呟く。色々と不安な事はあるが、答えは出ない。
「ま、今ぐらいは忘れちゃおうか」
闇の書のサルベージが終わり、少なくとも俺達が知る現実より良くなったはずだ。だから今ぐらいは素直にこの喜びを噛み締めよう。