転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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47話目 管理局員として

 

 

 時空管理局にある一室。そこではリンディ・ハラオウンとその息子クロノ・ハラオウンが一人の初老の男性と二人の女性と向かい合っていた。しかし、その初老の男性…ギル・グレアムは力なく俯いており、その傍らにいる彼の使い魔であるリーゼロッテもリーゼアリアはグレアムを心配しつつも悔しそうにしていた。

 

「グレアム提督……」

 

 リンディは目の前にいるグレアムに声を掛ける。そんなリンディの表情はまるで苦虫を噛み潰したかの用だった。

 

 事の始まりはほんの数十分前のことであった。聖王教会の人間が八神はやてを教会本部へと転移を確認したあと、リンディ達時空管理局組の任務は終了となりアースラは時空管理局本局へと戻った。リンディは本局に到着するとクロノを連れ、その足ですぐさまこのグレアムの部屋へとやってきたのだ。

 

「失礼します、グレアム提督……」

 

 リンディは扉の前でノックをして声を掛けるやいなや、返事を待たずに部屋の中へ入る。本来なら無礼に値する行為であるが、それを止めるべきであるクロノも事情が事情なだけに止めることはしない。

 

「リンディ君か、そんなに急いで何か用かね」

 

 いきなり部屋の中に入ってきた人物にグレアムは驚くものの、相手が知っている人間だということで落ち着きを取り戻す。

 

「グレアム提督にお聞きしたいことがあります」

 

 そう言ったリンディの表情は険しい。それはこれから彼にする質問がどれだけ重大なことかをわかっているからだ。

 リンディはグレアムに自分が手に入れた情報を見せる。それはグレアム自身が闇の書の所在を和也の報告以前から知っており、闇の書の主である八神はやてを後見人として支援していたことを表すものだ。

 

「あなたは闇の書の所在を既に知っていましたね?」

 

 それは質問ではなく、確認だった。証拠は揃っており、その事実はもう疑いようが無い。

 

「……ああ、知っていた」

 

 グレアムはあっさりとその事実を認める。目の前に出された証拠から否定しても無意味だと理解したのだ。

 

「「お父様っ!!」」

 

 リーゼ姉妹がグレアムの言葉に反応する。いくら事実とはいえ、自分達の主がこんな簡単に認めるとは思わなかったのだ。

 

「いいんだ、ロッテ、アリア」

 

 そう言ってグレアムは二人を制する。それに対し二人は渋々といった表情で無言になった。

 

「それで、お聞かせ願えますよね?」

 

「ああ……」

 

 リンディの言葉にグレアムは肯定し、話し始める。なぜ、自分がこのようなことを行ったのか、グレアムは目の前にいる二人に話さなければならない。それは罪を犯したものとして当然であるが、もう一つ過去の闇の書事件で自分が死なせてしまった部下の身内というのも理由にあった。

 

「11年前のあの事件以降、私はずっと闇の書の転生先を探していた」

 

「破壊、もしくは封印するためにですね」

 

「ああ、そうだ。結局、破壊は不可能で封印という手段しか思いつかなかったがね」

 

 グレアムは自虐的に笑う。その封印という手段も今となっては不可能だ。闇の書が発見され、既に聖王教会が介入した時点でグレアムにできることはない。もし今回の闇の書事件の責任者が自分であったならばという思いにグレアムは駆られるが、そんな過程は無意味である。

 

「しかし闇の書は発見され、聖王教会が闇の書の修復方法を見つけた……」

 

「それが事実かどうかはわからんがね」

 

 リンディの言葉にグレアムは苦笑いを浮かべる。今まで自分がやってきたことを無に返されたのだ。時空管理局でも有名であるグレアムには個人的な情報網などもある。闇の書についての対策と言ってもいいような研究されていたならば自分の耳にも届いていただろうが、そんな情報は今まで無かった。

 

「私は許せなかった!! 闇の書が、彼を奪ったあのロストロギアが!!」

 

「だから封印しようと……」

 

「…両親に死なれ、体を悪くしていたあの子を見て心は痛んだが、運命だとも思った。孤独な子であればそれだけ悲しむ人は少なくなる」

 

 グレアムの感情の籠もった言葉にリンディは共感しつつもどこか冷めた目で彼を見つめる。確かに彼の気持ちは痛いほどにわかるが、そんな彼の姿を見てむしろ憐れに思ってしまう。

 闇の書の凍結封印しようとすること、それはある意味では正しいことである。危険なロストロギアは周りに被害を及ぼす前に封印してしまった方がいい。しかし、それに無関係な一般人が巻き込まれているならどうだろう。今回の場合、闇の書の主ということで無関係ではないのだが、できる限りの対処をすべきではないのだろうか。

 

(私も人のことを言えないわね)

 

 リンディは自虐的な笑みを浮かべる。数ヶ月前のPT事件でジュエルシードを回収する際、リンディはフェイトが暴走させたジュエルシードを放置しようとした。フェイトを確保するためだったとはいえ、現地の住民を危険に晒したのは間違いなく、そんな判断をした自分は目の前にいるグレアムとなんらかわらないように思えたからだ。

 

「グレアム提督……」

 

 リンディはグレアムの名前を呼ぶ。これが先ほどまでこの場で起こっていたことだ。

 

「しかしね、これでよかったとも思える」

 

「え?」

 

 グレアムの言葉にリンディは戸惑う。クロノもグレアムの顔を見て驚いた表情を浮かべた。なぜならグレアムは安堵の表情を浮かべていたからだ。

 

「君達がこの部屋に来たとき、私は安心したのだよ。ああ、やっとこれで解放されるとね」

 

 グレアムはリンディ達がこの部屋に入ってきた瞬間安心した。その時には既にこうなるであろうということに気づいてしまったのだ。自分のやってきたことを死なせてしまった部下の身内である彼女達に気づかれたこと、その事を自分達に問い詰めようとしにきたこと、それにグレアムは安心してしまった。ああ、もうこれでこんな事をしなくて済むと……。

 グレアムは真面目で優しい人間であった。八神はやての凍結封印に罪悪感を覚える程度には。まだ、幼いはやてを凍結封印する事、そして違法な行為に手を染める事にわずかながらではあるが罪悪感を抱いていたグレアムはそれを隠し闇の書の封印を進めようとしていた。

 しかし、聖王教会が闇の書の修復方法を見つけ、その権限を握ったとき、自分達の計画が崩れた事に焦りを覚えながらも内心ではホッとしていた。そして今日、リンディ達が彼の部屋に来たとき、自分がこれ以上罪を重ねずに済むという確信にも近いことを感じ安心したのだ。

 

「「お父様……」」

 

 そんなグレアムを見てリーゼ姉妹が彼の名前を呼ぶ。二人は自分達の主の苦悩に気づかなかった。目の前の闇の書の封印に目を向けすぎていた。しかし、グレアムも本気で闇の書を憎んでおり、自分達の手で封印しようと本気で思っていたのだから、彼女達が気づかないのも無理は無かった。

 

「アリア、アレをクロノに……」

 

「……はい」

 

 グレアムに命じられ、リーゼアリアは自らの懐からカードのようなものを取り出すとそれをクロノに手渡した。

 

「これは……」

 

「氷結の杖、デュランダルだ。本来はあの子の凍結封印のために用意したものだが、私達にはもう必要ないだろう。どう使うかは君次第だ」

 

「わかりました、受け取らせていただきます」

 

 クロノは手渡されたデュランダルの本来の使用目的に顔をしかめるもののそれを受け取り懐に入れる。

 

「では提督……」

 

「ああ、構わない」

 

 リンディはグレアムに声を掛けると彼を拘束する。リーゼ姉妹もクロノに拘束され、数分後リンディが呼んだ管理局員によって三人は連行されていった。

 

「グレアム提督……」

 

 連行される三人の後姿を見ながらクロノは彼の名前を呟く。お世話になった恩人であり、師匠でもあった三人が罪を犯し、連行される姿を見るのはあまり気分のよいものではなかった。

 

「……」

 

 リンディもクロノと同じような気分に駆られる。それは知り合いがそうなってしまったという事もあるが、自分もそうなってしまってもおかしくなかったからだ。リンディもクロノも一歩間違えればグレアムと同じ選択をしたかもしれなかった。

 

「……あとは貴方達の仕事よ」

 

 リンディは誰にも聞こえないほど小さな声で呟く。自分にできる事はやった。後は本命である闇の書の修復作業だけで、それを行うのはあの二人の役目だ。

 


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