なのはと仲直りした後、いつも通りの学校生活を送った放課後、俺ははやてに会うために八神邸に来ていた。その理由は昨日のお礼と彼女に今後のことを伝えるためだ。
「そうなんか~、じゃあ私はその聖王教会に行かなあかんのやな?」
俺からの話を聞いたはやては安心した表情で聞いてくる。自分の体の治療や闇の書の修復について進展が見られたことで少しホッとしているみたいだ。
「そうなるな、具体的な日程とかはまだ決まってないけど、それもなるべく早く決まるだろうし」
闇の書は蒐集しなければ主を蝕んでいく。ただでさえ、その侵食によってはやての足は麻痺しているし、闇の書を放っておけばどうなるか、それがわからない聖王教会ではない。なるべく早く、はやてを連れてきて、闇の書の修復を開始したいはずだ。
「私、どっか別の場所行くの久しぶりや」
はやては嬉しそうな表情でそう言う。はやては足が麻痺しているため、どこか遠くへ行くことはできない。ヴォルケン達が出てきてからも、発作などもあるので遠出はできないだろう。そんな彼女がどこかに行ったのは両親が生きていた頃ぐらいだろう。
「場所がどこになるかはわからないけど、聖王教会の本部は観光地としても有名らしいよ」
「そうなんや~、楽しみやな~」
「だから場所はまだ決まってないって」
俺の言葉を聞いて楽しみにしているはやてを見て、思わず苦笑いを浮かべてしまう。とはいえ、ヴォルケン達が現れるまでは一人孤独で過ごしていて寂しかっただろうし、遊びに行ったりという経験は少ないから仕方ないのかもしれない。それとも自分の不安を紛らわせるためにこうやって楽しいことを見つけ、明るく振舞っているのかもしれない。
俺は闇の書の修復については計画などを見て大丈夫だと確信しているが、はやては計画について知っていても、専門的な知識がないため、自分の命を俺達に預けることになる。現実の手術でもそうだが、他人に命を預けると言うこと、自分の未来を他人に預けるのは結構不安なことだ。
――まぁ、どれも勝手な想像だけど……
あくまでこれは俺の勝手な想像であり、実際にはやてがそう思っているかはわからない。ただ、そういった不安があるなら取り除いてあげるのも俺の役目である。
「予定が決まったらまた連絡するよ。多分、俺も一緒に行くことになるだろうし」
「そうなんや、すずかちゃんも?」
「いや、すずかは多分、行けないと思う。その代わりに別の子が行くことになるのかな?」
まだ具体的に誰がいくことになるかはまだ決まっていない。間違いなく俺は確定だろうが、旅行と言うわけではないのですずかはいけるかどうかわからない。そもそも転移だと和也は言ってたので、多くの人数はいけないようにも思う。
その代わり、行くことになりそうなのがなのはだ。魔導師として一度管理世界に行くことは悪いことではないし、管理局を見ておくことも必要だろう。と言っても、はやてのように転移ではなく、リンディさん達に連れて行ってもらうということになりそうだが…。
――そう言えば、フェイトはどうしてるのかな?
俺はフェイトのことを思い出す。確かそろそろこっちに来れるということを言っていた筈だが、それ以降連絡はなかった。もしかしたら、フェイトがこっちに来るよりも俺達が向こうに行くことのほうが早いかもしれない。
――そうなれば、会うのは向こうで…かな
そんな余裕があるのかはわからないが、会えるのであれば会いたいと思う。
「拓斗君?」
「ん、あっ」
「どうしたん? 楽しそうな顔して…」
はやては俺を見て訝しんだ表情を浮かべる。
「ごめんごめん、ちょっと向こうにいる友達のことを思い出して」
「へぇ~、じゃあその子にも会えるん?」
「ああ、紹介させてもらうよ」
俺がそう言うとはやては嬉しそうな表情を浮かべる。友達が増えるというのはやはり嬉しいことだろう。フェイトも同年代の友達が増えるので嬉しいだろう。
――そう言えば、まだなのは達を紹介してなかったな
俺はまだはやてになのはやアリサのことを紹介していないことを思い出す。フェイトに紹介する前にこちらに紹介する方が先だろう。そうすれば原作でも仲の良かった五人組が揃うことになる。
今日はすずかはバイオリンの稽古、アリサはピアノ、なのはは翠屋の手伝いということで来れなかったが次にはやてと会うときは連れて来よう。
「じゃあ、はやて。また今度ね」
「うん。拓斗君、バイバイ」
俺ははやてに別れを告げるとその足でそのまま帰る。なのはとの問題も解決し、計画も順調に進んでいるためか足取りが軽く感じた。
月村邸へと帰った俺を待っていたのは満足した表情を浮かべた忍であった。どうやら向こうから帰ったきたようだ。
「あっ、お帰り~拓斗」
「ただいま、お疲れ様、忍」
俺は忍に労いの言葉をかける。ここまで順調に進んだのは彼女が聖王教会との交渉を成功させたからであった。急なことで大変だっただろうが忍はそれを見事にこなした。
「それでどうだった向こうは?」
「楽しかったわよ~、技術とか生活とか見ているだけでも満足だったわ」
「へぇ~」
忍はかなり楽しんだようだ。確かにこちらと向こうでは生活から何から違うのだろう。魔法や技術関係が生活に影響しているはずだし、過ごすだけでも楽しいのかもしれない。
「それで結局、昨日は何があったわけ?」
忍は昨日のことについて聞いてくる。彼女が聖王教会に行くことになった理由、そう言えばまだ忍には話していなかった。俺は忍に起こったことを話す。なのはとの間に起こったことから今までのことを簡単にだが話した。もう解決していることだが、小学生と喧嘩して、さらには小学生に保護されたというのを話すのは少し恥ずかしい。
「なるほどね~、まぁ話だけ聞いたら悪役だものね~」
忍は笑いを堪えながら、そんなことを言ってくる。俺もそう感じてはいるのだが、こうはっきりと言われると溜息を吐きたくなる。というか、コイツも俺の味方をしていた時点で同罪ではあるのだが…本人はまったっく意に介していないようだ。
「まぁ、それはともかく、どうだった聖王教会は?」
「いいところだったわよ、カリムちゃんっていう可愛い女の子と仲良くなったし」
「カリム?」
俺は忍の口から出てきた人の名前に、思わず声をあげてしまう。聖王教会でカリムといえば心当たりは一人しかいない。
「そうカリム・グラシアちゃんって言ってね。なんか未来予知の特殊能力がある子らしいわよ」
忍の言葉で、その女の子がSTSで出てくるカリム・グラシアだと確信する。聖王教会からカリムが出てくるとは思わなかったが、忍と知り合いになったようだ。
「もしかして、知ってる子だったりする?」
忍は俺の様子を見てか、そんな質問をしてくる。ここで言う知っているとは原作に出てくる人物であると言うことを指し示す。そして、忍も俺の様子からカリムが原作に出てくる人物だと言うことに気づいたようだ。まぁ、知ったところで忍が気にするとは到底思えないが…。
「只者じゃないと思ってたけど、そうなんだ」
「なんかあったのか?」
「うん、私の交渉相手が彼女だったのよ」
忍の言葉に俺は少し驚く。カリムは多分、今の俺よりも少し年上なだけだから、まだ10代半ばといったところだろう。その彼女が闇の書という、危険なロストロギアとの交渉に出てくるのは素直に驚いた。聖王教会側が彼女でも任せられる事案だと思っているのか、経験のためか、それとも彼女の予知に今回のことが引っかかったのか、様々なことが考えられるが、計画の遂行に問題がなければどうでもよいことではある。ここで重要なのは聖王教会がこのことをどれだけ重要視しているかだろうか?
しかし、責任を負ってまで闇の書の回収を管理局に申し出た以上、軽視はしていない筈だ。
「なんというか、凄いな」
向こうの世界が低年齢でもそこそこ重要な役目に就けることは知っている。クロノや和也を知っているのでわかってはいるのだが、交渉にまだ若い彼女を持ってくるあたり、色々と凄いものを感じる。
「私もまさか自分より年下の女の子が出てくるとは思わなかったわ、でも彼女なら納得かな」
忍はそう言って笑みを浮かべる。どうやらカリムは彼女のお眼鏡にかなったらしい。かなり気に入っている様子だ。
「とはいえ、低年齢だと相手に舐められてる気がするのよね~」
忍はそう言って溜息を吐く。彼女自身、月村家の現当主と言うことでこういった場は経験することが多いのだろう。それ故に、そのときの悩みもよくわかっている。
交渉など人前に出る場において低年齢と言うのは経験が薄いとみなされ、下に見られることが多い。その能力の有無に関係なく若いというだけで下に見られるのだ。
ゆえに今回のような場に若い人間を出すと言うのはある意味、それでも大丈夫だと言っているようにも感じてしまう。
「まぁ仲良くはなれたんだし、一応計画は順調なんだから」
俺はそう言って忍を宥める。とはいえ、忍もあまり気にはしてないようなのでそれもそうねとすぐに笑顔をくれる。
「そうね。でも正直、私にできることはこのぐらいが限界よ」
だから後は貴方達が頑張りなさい。忍はそう言って、自分の部屋へと帰っていく。俺はそれを見送ると自分の部屋へと戻った。自分にできることがないか、もう一度見つめなおすために…。
今のところ計画は順調に進んでいる。しかし、もしかしたら予定外のことが起こるかもしれない。だから起こりうることを予測して、対策を練らなければいけない。そして、どんな事態にも対応できるようにならなければいけない。