転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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41話目 友達だから

 

 

『というわけでとりあえずなんとか管理局側は押さえ込むことに成功した。それに聖王教会の協力も得ることができたから結果としては申し分ないんだが……』

 

「ゴメン…迷惑掛けた」

 

 和也から報告を聞いて俺はホッと一息吐くと同時に内容を聞いて申し訳ない気持ちになる。本来であればこれほど綱渡りな展開になるはずではなかったのだが、自分の行動がこの展開を引き起こしてしまったからだ。

 もしこれで、こちらの計画が台無しになった可能性を考えると本当に恐ろしくなる。

 

『それで何があったんだ? いきなりのことでこっちは焦ったんだが…』

 

 和也はなぜこのような事態が起こったかを聞いてくる。計画の立案者としては不測の事態が起こったことに対する原因の追究と、事態の把握は急務なのだろう。もちろん、隠すようなことではないので正直に話す。

 

 俺が無印事件で行おうとしていたこと、それがなのはに知られてしまったこと、それにショックを受けて雨の中を歩いていたらはやて達に遭遇し、そのまま八神邸に行くことになってしまったこと。その全てをできるだけ詳細に俺は和也に話した。

 

『……ハァ、なるほどね』

 

 和也は俺の話を聞き終わると溜息を吐き、納得した表情を見せる。少し呆れ気味に見える表情で、それが心に突き刺さる。

 なのはのことは完全に自業自得だし、それにショックを受けて計画を台無しにしそうになったことは呆れられても仕方がない。完全に自分の責任だった。

 

『まぁ、仕方ないんじゃないか』

 

「え?」

 

 和也の言葉に俺は思わず戸惑いの声をあげてしまう。正直、計画の重要性を考えると俺のミスは仕方ないで済まされるようなものではない。

 

『管理局員として言いたいことはあるし、計画のことを考えると文句の一つも言いたくはなるけど、拓斗がもとの世界に帰りたいという気持ちはわからないでもないしな』

 

 和也はそう言って笑みを浮かべる。和也は俺に一番近い人間だ。もとの世界に帰りたい俺と帰るつもりのない和也とでは違うところもあるが、一番お互いを理解できると言っても過言ではない。

 

『ジュエルシードを使った時点でお前を捕まえることもできないわけじゃないし、失敗したらどうしてくれるんだと小言を言ってやりたいし、てめぇのせいで危うく計画が台無しになるところだったじゃねぇかとか、そもそも濡れる前に転移魔法でも使って速攻で帰れよ、と言いたいところだが我慢してやる』

 

「深く反省します」

 

 和也の口から文句は出るものの本気で怒っているようではないので安心する。今回の件で和也に物凄く負担がかかっているのだ。まぁ、今回の件だけではなく前の事件から結構迷惑は掛けてるし、今回の計画も下準備のほとんどが彼の担当なので相当大変なのは理解できる。

 

『そっちの問題は自分で片付けろよ』

 

「わかってる。流石に個人の問題で他人に頼るわけにはいかないって」

 

 俺となのはの問題はかなり個人的なものだ。だから俺自身が解決しなければ意味がない。

 

『なら良いさ、さてとじゃあ今後の予定についてだな』

 

「はやて達をそっちに連れて行くんだっけ?」

 

 俺達は話題を変え、今後の段取りについて確認する。俺達は今後はやてを連れて聖王教会に行くことになっていた。

 

『ああ、聖王教会側としては夜天の書とその主を確認しておきたいって所だろう。確かにこっちの方が都合が良いと言えばそうなんだが…』

 

「暴走したときの危険性を考えると…って所か?」

 

『まぁ、そうだな。それともう一つ、闇の書の被害者のこともある』

 

 和也は顔を暗くして言う。はやてを管理世界に連れて行くデメリット、その一つとして闇の書の被害者の近くに連れて行くことが挙げられる。

 過去に甚大な被害をもたらした闇の書、それが手の届く位置までやってくるのだ。被害者が直接干渉しに行くことは十分に考えられる。それに闇の書を聖王教会が保護していることで聖王教会自身への不満などが募る可能性も十分にありえた。

 

『かと言って、そっちに残したままにするのも良くないわけだが…』

 

 しかし、和也の言うようにこちらに残したままというのも良い手ではない。はやての身体のことを考えるとこの世界より管理世界の方が症状を調べることができるし、症状を和らげることも可能かもしれない。そしてもう一つ、被害者の問題だ。確かに管理世界に比べ、直接的に手は出しにくいかもしれないが、それでもいないとは言えず、もしそういった事態が起こった場合、こちらよりも向こうの方が聖王教会という組織がある分、安全に思える。

 

「それで移動方法とかは?」

 

『転移だけど』

 

 移動方法は単純だった。まぁ、次元航行船で移動するよりも速いし、直接目的地に到着するので手出しができないという意味で安全ではある。

 

『というわけで日時とかは決まってから伝えるから、彼女にも伝えておいてくれ』

 

 和也は俺にそう言うと通信を切る。必要なことは伝え終えたというのもあるが、まだ管理局員としてすることがあるのだろう。

 

「ハァ、なんか戦力外だよな~」

 

 俺はベッドに倒れこむと天井を見つめる。今回のことに関しては正直、俺は何もできていない。確かにはやてと交流を持ち、闇の書の存在の証拠を和也に送ることができたが、それは別に俺でなくても良かったし、何かできたとは到底思えなかった。

 

「忍は聖王教会との交渉をして、和也は管理局員として働いている上に、根回しや準備までしてるってのに」

 

 二人に比べて、自分はどうだろう。なのはのことでショックを受けて、はやてに慰められて、和也に迷惑掛けて…本当に何もできていない。

 そんな自分が情けなくなるが、できることには限りがある。俺達の目的はあくまで闇の書の修復とリィンフォース、八神はやての救済にあって、自分が活躍することではない。何もできてないことは確かに悔しいが、個人の感情など持ち込むわけにはいかない。

 

「はやてには明日連絡するとして、まずはなのはかな…」

 

 もう深夜と言ってもいい時間帯だった。こんな時間に連絡するわけにはいかないので、はやてへの連絡は明日にし、なのはのことを考える。明日は平日でもちろん学校がある。ということはなのはと顔をあわせるということだ。

 

「…話し合わないとダメだよな」

 

 正直、気まずいのだが、こればかりは仕方ない。これからも仲良くしていきたいし、このままではいるわけにはいかない。

 俺は明日のことに頭を悩ましつつもそのまま布団に潜り眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 翌日、いつも通り朝起きた俺はすずかと一緒に通学路を歩く。そしていつも乗るバスに乗って学校へ向かう。今、バスに乗って気づいたのだが学校行くまでもなく、なのははこのバスに乗るので、なのはが意図して時間をずらさない限り、どうしてもこのバスで彼女に会う事になる。

 

「拓斗君、どうしたの?」

 

 すずかが俺の顔を覗き込みながら聞いてくる。どうやら表情に出ていたらしい。俺がわかりやすいだけか、それともすずかが良く見てくれているのかはわからないが、彼女は気づいたらしい。

 

「もしかしてなのはちゃんのこと?」

 

「…知ってんの?」

 

 俺はすずかには話してないが、すずかはなのはと親友だし、昨日の今日とはいえ知るのは可能だろう。

 

「ほら、アリサちゃんがなのはちゃんに話したって言ってたから…それに昨日、なのはちゃんと練習してたはずだし、昨日帰ってくるのも遅かったから、もしかしたらと思って…」

 

 どうやらカマをかけられたらしい。事実その通りなのだから、否定することはできないが…こうもあっさりと知られてしまうと結構ショックを受ける。

 

「拓斗…くん」

 

 俺がショックを受けていると前から声が聞こえる。そちらに目を向けるとなのはが立っていた。すずかと話している間にバスは停車してなのはが乗り込んできたらしい。なのはは俯き少し暗い顔をしている。俺達二人の間に気まずい空気が漂う。

 

「おはよう、なのはちゃん」

 

 すずかが空気を帰るように明るくなのはに挨拶する。俺もそれにのってなのはに挨拶をする。流石にもともと大学生の身としては小学生相手に気まずい空気で挨拶を躊躇うのは情けなかった。

 

「なのは、おはよう」

 

「あ、うん、おはよう」

 

 なのはは俺からの挨拶に戸惑いながらも返してくれる。その態度に少し複雑な気分だが、昨日のあの様子をみると挨拶を返してくれただけでもまだマシなのだろう。

 

「拓斗君、あの」

 

「なのはちゃん、先に座った方がいいよ」

 

 なのはが話しかけてこようとすると、すずかがなのはに座席に座るように言う。前の方を見てみると運転手が困っているようだった。

 

「ご、ごめんなさいっ」

 

 なのはは慌てて座席に座ろうとするが、いつもは俺の隣に座るはずのすずかが離れ、俺と自分の間になのはを座ろうとさせる。なのはは俺が隣にいるということで少し躊躇うが周りが急かすような空気なため、抵抗することができず、そのまま俺とすずかの間に座った。

 

「あ、あの拓斗君、昨日のことなんだけど…」

 

 隣に座ったなのはがおずおずと話しかけてくる。こういうときどう返せばよいのだろう。気にしてないと言えば、傷つけるような気もするし、これが大人であるならともかく、なのははまだ小学生だ。素直に言った方が言葉が伝わるだろう。

 

「なのはは悪くないよ。隠してた俺が悪いから…ゴメンね」

 

 俺はなのはに謝る。もとはといえば隠していた俺に非はあるし、流石に自分の目的のためとはいえ、勝手が過ぎた。

 

「わ、私もごめんなさいっ」

 

 なのははそう言って俺に頭を下げる。

 

「あの、その、拓斗君、あの事なんだけど、どうして…なの?」

 

 なのはは俺にそんな質問をしてくる。だんだんと尻すぼみに俯き加減で問いかけてくるので、そんな表情をさせていることに心が痛む。ただ、なのはの質問は事実の確認ではなく、その理由についてだ。俺がもとの世界に帰ろうとする理由、ジュエルシードを集めるのに彼女達を使った理由、どうして黙っていたか、その辺りが聞きたいのだろう。

 

「なのははさ、いきなり自分が一人ぼっちになったらどう思う?」

 

「あっ…」

 

「確かにここには皆がいるけど、俺にとって家族はあの人達だけだし、仲の良い友達だっていた…」

 

 もう一年以上もこの世界にいるが、家族や友人のことは今も鮮明に思い出せる。大学は実家から離れた場所であるため、帰省したときにしか家族に会うことはできないのでこれぐらいの期間会えないことなどはざらにあるのだが、やはり帰る家があるのとないのでは安心感が違う。

 友人達もなんだかんだで大学からの付き合いの奴も長い付き合いの奴もいるが、小学校に通っていると本当に彼らのことが懐かしくなる。

 

「だから俺はもとの世界に帰るためにジュエルシードを集めた。偶然落ちてきた願いを叶えるといわれるロストロギア、それが唯一可能性があるものだったから」

 

 本当は原作知識によってジュエルシードが落ちてくるのは知っていたがそれは伝えない。原作知識のことや自分が大学生であったことなどを説明するのは手間だし、この場で説明しても余計に混乱させるだけだ。

 

「ユーノを手伝ったのは目的を知られると邪魔されると思ったからだよ。俺のやろうとしていたことはプレシア・テスタロッサと同じ、いやそれ以上に危険とも言えることだし…」

 

 そう考えると俺とプレシアやフェイトの境遇の差は酷いものだろう。人造魔導師の作成という罪もあるとはいえ、同じことをしようとしたプレシアは犯罪者扱い、フェイトもそれを手伝ったということで管理局への奉仕活動を行わなければならない。しかし、実際に実行した俺はお咎めなしどころかこうやってのうのうと暮らしている。

 

「ふ~ん、それで私達に話さなかった理由は?」

 

 俺の話に割り込んできたのはアリサであった。どうやら離している間に彼女もこのバスに乗ったようだ。アリサは真っ直ぐ俺を見つめ問いかけてくる。

 

「拓斗がそのことを私達に話さなかった理由、そういえば聞いてなかったわよね?」

 

 アリサはそう言ってすずかの隣に座るとすずかとなのはの二人を挟んでいるにもかかわらず、真っ直ぐ俺のほうを向いて視線を逸らさない。

 

「皆に話さなかった理由か…」

 

 確かに皆に話さなかったが、その理由はいたって単純なものだったりする。

 

「もし言って皆に止められたら、決意が鈍りそうだったから…かな」

 

 この世界は居心地が良い。自分のおかれている立場や自分の周囲の人達のことを考えても、もとの世界のことがあっても間違いなく後悔しないであろう人生が遅れることが確信できるほどに…だからこそ、彼女達に止められて決意が鈍るのは嫌だった。そうなれば、残るにしても帰るにしても未練が残ってしまう。

 

「止めないよ」

 

「えっ?」

 

 俺の言葉にそう返してきたのは意外にもなのはであった。

 

「ちょっと、なのはっ!?」

 

「なのはちゃんっ!?」

 

 なのはのその言葉にアリサとすずかが驚いた声をあげる。当然だ、それほどまでになのはの言葉は意外であった。

 高町なのはという少女は孤独を嫌う。親しい誰かが離れることや、誰かに嫌われるのことが嫌な女の子だ。もちろん、人間であれば、それは当たり前ともいえるが彼女は人よりもその傾向が強い女の子であった。

 だから困っている人のために手を差し伸べ、敵対していたフェイトのことを知ろうと仲良くなろうと頑張った。

 だからこそそんな彼女がこんなことを言うのは本当に意外であった。

 

 そしてその言葉に傷ついている俺がいた。先ほどは言わなかったが俺が彼女達にもとの世界に帰ろうとしたことを言わなかったもう一つの理由…こうして、止めてくれなかったりすることが怖かったからである。

 止めてくれれば迷いが生じるが、逆に止めないと本当に友達だったのかと仲が良かったのかと不安になる。もしかしたらなんとも思われていないんじゃないかと、我侭なことを言っているのは自覚しているが、そう思ってしまうものは仕方がない。

 

「拓斗君は大事な友達だよ。私も拓斗君がいなくなれば寂しいもん。でも、それが拓斗君の幸せなら、拓斗君が願ってることなら私は止めない」

 

 なのはは俺達にそう言ってくる。胸の前で手を握り、何かを堪えるようにして、俺の意思を尊重すると言ってくれる。

 俺はなのはのその言葉に安心し、そして嬉しくなった。自分の意思を尊重させてくれるなのはに、こう言ってくれる友達に、俺はお礼を言う。

 

「ありがとう、なのは」

 

「うんっ」

 

 返事をしたなのはの顔は少し悲しげだった。

 

 

 

 

 

 ~おまけ~

 

「でも帰る方法見つかってないんでしょ?」

 

「うん」

 

 俺となのはの会話を聞いてアリサがそんなことを言ってくる。

 

「しばらくは帰れそうにないわね」

 

 俺の返答を聞いてアリサは呆れたような、でも嬉しそうな表情を浮かべる。

 

「とりあえず一年ぐらいしたら残るかどうかの答えを出す予定かな?」

 

 俺は忍との約束を思い出しながら皆に伝える。そう、おれはあと一年で答えを出さなければならない。正確に言うとマテリアル事件が終わった後ということになるが…。

 

「それ初耳なんだけど?」

 

「私も…」

 

 俺の言葉にアリサとすずかが声をあげる。心なしか睨んでいるようにも見える。

 

「まぁ一年後に答えだしても、帰る方法が見つからないと意味はないけどね」

 

 俺はそう言うと荷物を持って席を立つ。ちょうど停留所についた。

 

 まだやるべきことはあるし、すぐに帰ることはできない。

 

 だから今を後悔しないように生きていけばいい。

 


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