転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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34話目 出会い、友達

「う〜ん、とはいってもどうやって八神はやてと接触しようかな?」

 

 俺は部屋の中で頭を抱えていた。和也に言われて八神はやてとどうにかして交流を持たなければいけないのだが、その方法が思いつかなかった。

 

「確かヴォルケン達が登場するのが八神はやての誕生日だから…六月四日だっけ?」

 

 随分曖昧になった原作知識を思い出す。六月も終盤に差し掛かり、もう既に八神はやての誕生日は過ぎていた。つまり、ヴォルケン達は既に召喚されているということだ。

 

「一人だったら楽だったんだけど、コレばかりは仕方ないか」

 

 八神はやてがまだ一人であったなら、色々な理由をつけて彼女と接触することは可能だ。しかし、既にヴォルケン達が召喚されているとなると少し厳しいものがある。

 頭の中でいくつかプランを考えるがどれもしっくりこない。強引な方法は使いたくないし、かといってあまり時間をかけることもしたくはない。

 

「やっぱり図書館かな」

 

 八神はやてに接触する場所として最適な場所を考える。図書館は原作において彼女とすずかが初めて交流を交わしたところである。ヴォルケン達もまさか図書館でいきなり暴れたりすることはないだろうし、接触するには一番良い場所に思えた。

 

「とりあえず明日、図書館に行ってみようかな」

 

 八神はやてと接触するのはどうにかなるとして、それから先のことを考えなくてはいけない。闇の書のことと妨害のことだ。

 闇の書の破損プログラムの修復のためのデータは既に揃っている。闇の書の修復ではなく、リインフォースを生存させるためのデータだ。破損プログラムを書き換え、修復するという手段はできるのであれば、それが最善であるのが間違いないのだが、正直、プログラムに関しては俺は自信がなく、和也もバグやエラーの可能性を示唆していた。

 そのため、俺たちが用意したのはもう一つのプランである、夜天の書の機能の移し替えである。闇の書、元の夜天の書であるがその機能は大きく分けて三つある。

 

 まず一つ目に蒐集機能だ。他人のリンカーコアから魔力を蒐集し、その人の魔法を記録し、さらにはその魔法を使うことができる。

 二つ目にデバイスとしての機能だ。魔法を扱うためのデバイスとしての機能、杖だけではなく、リィンフォースとユニゾンすることでの魔法行使へのサポートもある。

 そして最後に守護騎士プログラムである。ヴォルケンリッターと呼ばれる四人の騎士を召喚し、自らを護衛させるものだ。

 

 夜天の書には大きく分けてこの三つの機能があるのだが、このプログラムを他のものに移し替えればいいというのが、俺達の立てたプランだった。

 もともとの夜天の書の頃にあったと言われている旅をするための機能や復元機能は消えてしまうが、これらは転生機能や無限再生機能といった闇の書たる機能に変わっているし、正直、あまり必要性を感じないので消してしまっても問題はないだろう。問題はリィンフォースが闇の書の根幹であるプログラムであるため、この二つの機能をリインフォースからいかにして切り離すかであるが、一応手段も考えてある。

 

 というわけで闇の書に関してはとりあえずは問題ない。問題は妨害であった。グレアムの使い魔であるリーゼロッテ、リーゼアリアの猫姉妹。彼女達は八神はやての目の前でヴォルケン達を闇の書に蒐集し、さらにはなのは達の姿でそれを行ったことで八神はやてを絶望のどん底へと叩き落した。

 そこまでするという以上、こちらの妨害など当たり前のようにしてくるだろう。できるのであれば和也がグレアムを説得するか、その行動を封じることで彼女たちの行動を封じるのが一番良いのだが、それがどこまでできるのかがわからない。

 

「まぁ、そのあたりは和也に任せるしかないんだけどね」

 

 俺に八神はやてとの接触を頼んだんだ。それぐらいはやってもらわないと困る。

 

 俺はとりあえず今後のことを考えた俺は日課である勉強をするために机に向かった。

 

 

 

 

「それじゃあフェイトちゃんともうすぐ会えるの?」

 

 お昼休み、学校の屋上。いつも通り俺たちが屋上でお弁当を食べながら、俺がフェイトのことをなのは達に話すとなのはは物凄く嬉しそうな表情を浮かべた。

 

「ああ、またビデオメールを送ってくると思うけど、公判も順調に進んでいて、あと少しすればこっちに来れるらしい。それと皆にもよろしくってさ」

 

「そうなんだ、じゃあ私たちもフェイトに会えるんだ」

 

「うん、良かったね、なのはちゃん」

 

 俺の言葉にアリサとすずかの二人は嬉しそうな表情を浮かべるが、なのはは先ほどの嬉しそうな表情から少し変わって俯いていた。

 

「うん、本当に、良かった、良かったよぅ」

 

 なのはの目から涙が零れ落ちる。フェイトの公判が無事に終わりそうなこと、フェイトともう一度会えることが嬉しすぎて泣いているのだろう。

 

「そうだね、ホント、良かったわ」

 

「そうだな」

 

 なのはを慰めながらホッとした表情を見せるアリサに相槌を打ちながら、俺はフェイトの公判のことを考える。

 俺の介入によって、プレシアが生存したことでもしかしたらフェイトの公判にも影響があるかと思ったが、むしろこれほどまでに早い結果に純粋に驚いていた。和也達は大丈夫だと言っていたが、やはり心配だったのでこういう結果になったことは純粋に安心した。

 ただ、コレほどまでに公判が早いことを考えると少し不安になる。正確にフェイトの公判が終わる日を知っているわけではないが、コレほどまでに早くはなかった筈だ。

 

 ——プレシア生存の結果なのか、それとも和也達が頑張ったのか

 

 前者であれば問題はないが、後者の場合、どういう頑張り方をしたかによって色々変わってくる。どちらにしても無茶をしてなければ良いのだが…。

 

「拓斗君?」

 

「ん? なに?」

 

「いや、なんか考えているみたいだから」

 

 すずかが俺の様子を見て声を掛けてくる。どうやら色々考えていたのがわかったみたいだ。いつも一緒にいるためか、すずかは俺の状態にもすぐに気づく。

 

「ああ、フェイトの公判が思ったより早く終わったから、頑張ってくれた和也達にお礼でも言っておこうかなって」

 

「うん、そうだね。ちゃんと薙原さん達にもお礼をしておかないと」

 

 和也達には正当な交渉とはいえ、忍のことやフェイトのことでかなり負担を強いている。少しぐらいお返しをしても良いだろう。まぁ、八神はやてのことで色々押し付けられた気もするが、この世界にいる以上避けられない問題ではあるので仕方ないだろう。

 

「ねぇ、拓斗君。そういえば、どうしてフェイトちゃんの公判のこと知ってるの? それに皆によろしくって?」

 

 泣き止んだなのはがフェイトのことを詳しく知っている俺のことを不思議に思い聞いてくる。それに俺は冷や汗を流した。なのは達は俺が和也と連絡を取り合っていることは知っているがフェイトと結構話していることは知らない。というのも公判中、外と連絡を取っていることを知られないようにするためだ。

 

「公判のことは和也から聞いたんだけど、昨日、ちょっとフェイトと話す機会があって…」

 

「ズルイッ!! 拓斗君、ズルイよっ、私もフェイトちゃんとお話したいのにっ!!」

 

「そうね、私達だってフェイトと話したいのに」

 

「へぇ〜、一緒に暮らしているのに、どうして私が知らないのかな?」

 

 正直に皆に話すと、三人とも俺に迫ってくる。なのはは純粋に俺に大してズルイと羨ましいという感情を真っ直ぐに表しているが、アリサとすずかは笑顔で迫ってくるため、余計に怖かったりする。

 

 ——もっとなのはみたいな子供らしい態度だと楽なんだけどな〜

 

 アリサとすずかの態度に物凄く追い詰められた気がして、思わず苦笑いを浮かべてしまう。三人とも子供らしくないほど精神的に大人びているが、なのはは素直に感情を表し、アリサは表情に見せないがはっきりと言葉にし、すずかは表情にも言葉にもしないが態度でわかる。

 

「まぁ、俺も和也と話しをしてて、たまたまフェイトと話しただけだから、それに本当は良くないことだからな」

 

 何とか三人を説得しようとするが、すぐには納得してくれない。結局、彼女たちの機嫌を直すために今度三人で遊びに行くことになった。

 

 

 

 

「拓斗君が図書館に行こうって言ってくれるの久しぶりだね」

 

「そうだな、いつもすずかから誘ってくれるから」

 

 そして放課後、俺はすずかと一緒に図書館に来ていた。いつもはすずかに付き添って来ることが多いのだが、今回は俺からすずかを誘ってだ。その理由は言わずもがな、八神はやてとの接触のためである。

 こうして俺からすずかを誘うのはこの世界に来た当初、図書館で色々な情報を手に入れるために来たとき以来だ。ノエルやファリンの手が空いてないときにすずかと一緒によく来ていた。

 

「今日はどんな本を読むの?」

 

「とりあえず技術書かな、それと小説を何冊か借りようかなって」

 

 本当は本に興味などはないのだが、それだとすずかに怪しまれてしまうので、誤魔化すために本を探す。この市民図書館は蔵書数がかなり豊富なため、本を探すだけでもそこそこ楽しい。

 すずかに言ったように技術書や小説のコーナーを歩きながら、目的の人物を探す。これまですずかと来たときに八神はやてと会ったことがないのですぐに会えるとは思っていないが、ここで会えるならそれに越したことはない。

 

 館内を歩きながら車椅子の女の子がいないかを探す。二次元の絵からリアルの女の子を探すのは考えてみれば結構無茶な話ではあるが、彼女の場合車椅子という普通とは違う部分があるので目立つし、わかりやすい。

 

 本を取った後、目当ての人物が見つからなかったので少し落ち込みながらもすずかのところに戻る。女の子を探して、戻るのも女の子のところというのは正直どうなんだろう? 思考が変なところに向かっていくのを感じつつ、すずかの姿を探すとすずかが誰かと話しているのが見える。本棚の影で相手の姿が見えないが、すずかが誰かと話しているのは珍しいので気になる。

 

 ——というか、まさかね。

 

 すずかがこの場所で誰かと話しているという状況に俺は淡い期待を抱いてしまう。

 

「すずか?」

 

 そして俺はすずかに声を掛けた。少しずつ歩を進め、すずかへと近づく。まだ、すずかと話している相手の姿は見えない。

 

「あっ、拓斗君」

 

 すずかはこちらを振り向いて俺の名前を呼ぶ。するとすずかと話していた相手の声が聞こえてきた。

 

「すずかちゃん、その子は誰や?」

 

 関西弁、その口調を聞いただけで一瞬俺の胸の鼓動が強くなる。そして、すずかと話していた相手は俺の姿を見るために本棚の影から現れた。

 

 ——まさかとは思ったけど、本当に運がいいな

 

「あっ、紹介するね。烏丸拓斗君、私の友達で同じ家で暮らしてるの、それでこっちは」

 

「八神はやてや、さっきすずかちゃんに助けてもろうたんよ。よろしくな、烏丸君」

 

 彼女は笑顔で挨拶する。彼女は間違いなく俺の探していた人物であった。特徴である関西弁、そして車椅子、茶髪と髪飾り、それは間違いなく俺の知っている彼女の特徴と一致している。

 

「拓斗でいいよ、よろしく」

 

「わたしのこともはやてでええよ」

 

 内心、都合よく彼女と出会えたことに少し動揺しているが、それを隠しながらも彼女と挨拶を交わす。言葉だけではなんなので、右手を差し出すと彼女は右手を握り返してくれた。すずかのような白い肌でもなく、アリサのようなきめ細かい肌でもなく、なのはのように柔らかい手でもない。病人のためか少し細い指先ではあるが、家事をしっかりとしているためか、意外としっかりして手で、車椅子のためか少しマメの感触を感じる。

 

「あの、拓斗君?」

 

「あっ、ゴメン」

 

 ずっと手を握っていたためか、恥ずかしくなったはやてが俺に声を掛けてきたので謝りながら手を離す。

 

「ええよ、男の子に手を握られるのってあんまないから、少し恥ずかしかっただけやし」

 

 はやては照れたように笑う。余り嫌悪を感じていないようなので、それにホッとした。流石に第一印象で悪印象は与えたくない。純粋に女の子に悪印象を抱いて欲しくはないし、今後のことを考えると悪印象だと動きづらくなる。

 

「はやてちゃ〜ん」

 

 すずかと共に三人で会話を楽しんでいると遠くからはやてを呼ぶ声が聞こえる。そちらの方を向くとそこには金色の髪の女性が立っていた。

 

「あ、シャマル。もうそんな時間か〜」

 

「お迎え?」

 

「うん、わたしの大事な家族や」

 

 その言葉を聞いて、俺は少し憂鬱な気分になる。彼女の境遇は知っている。両親を亡くし、身よりもなく一人で暮らしていて、そしてようやく彼女達新しい家族を手に入れたのだ。彼女にとってヴォルケン達はなくてはならないほど大切な存在であり、本当に大事な家族なのだ。

 シャマルの声を聞いてもわかる。はやてとヴォルケン達はもうかなり深い位置まで繋がりを持っているのだ。

 

「そういえば連絡先、まだ交換してなかったよね」

 

 すずかはそう言うと携帯を取り出す。はやてもそれを見て、嬉しそうな表情を浮かべると携帯を取り出して、俺達と連絡先を交換した。

 

「すずかちゃん、拓斗君、本当にありがとうな。それじゃあ、また今度」

 

「またね、はやてちゃん」

 

「今度はもっとゆっくり話しをしたいな」

 

 はやては俺達に別れを告げるとシャマルと共に帰っていく。その姿を見届けると俺達も帰路につく。

 

「拓斗君、はやてちゃんのこと気にしてたけど、どうかしたの?」

 

 帰り道、すずかがそんなことを聞いてくる。やはりすずかにはわかってしまうようだ。

 

「うん、ちょっとね。車椅子のこととか」

 

「…嘘は嫌だよ、ちゃんと本当のことを教えて」

 

 誤魔化そうとする俺にたいしてすずかは少し悲しげな表情を浮かべる。

 

「わかったよ、本当のことを話す。ただ、家に戻ってからね」

 

「うん、ちゃんと話してくれるならいいよ」

 

 すずかはそう言うと俺の手を握る。その手を握り返しながら、俺はすずかと共に帰った。

 

 

 

 

 

「はやてちゃん、機嫌が良さそうですけど、どうかしたんですか?」

 

「うん、友達ができたんや」

 

 シャマルがわたしに聞いてくる。シャマルの言う通り、私は今、物凄い嬉しい気持ちで一杯やった。それはさっき出会った二人のお陰や。

 すずかちゃんと拓斗君、こっちに来てから、ううん、わたしの初めての友達。

 わたしは生まれたときから足が不自由でそのせいか友達もできへんかった。それに学校にもまともに通えへんから、友達なんて夢のような存在やった。シャマル達のお陰で家族がおらへん寂しさも最近ではなくなってきたけど、やはり友達という存在は憧れやった。

 そんなときに出会った二人、すずかちゃんは高いところにある本が取れないわたしを助けてくれて、拓斗君は初めて手を繋いだ男の子。

 二人とも車椅子のわたしのことをあまり気にしないように話してくれて、とってもやさしかった。

 わたしは携帯の電話帳を開き、登録したばかりの二人の名前を見る。今まで登録されていたのはお世話になっている石田先生ぐらいやった。

 

 携帯の画面を見ているとメールが入る。それは先ほど出会ったばかりの二人からやった。慌ててメールを開くと、そこにはこれからもよろしくという内容が書かれてた。初めての友達からのメールに物凄く嬉しい気分になりながら、二人にどうメールを返そうか悩むが、こっちもよろしくと返しておいた。初めてのメールのやり取りはシンプルだったけど、物凄く嬉しかった。

 

 ——ずっと二人と仲良くしたいな〜

 

 たまに身体の麻痺が起きるときがある。そのたびにいつ死んじゃうのかと思ってしまう。新しく家族ができて、それに友達もできて、だからこそ私は…

 

「…死にたくないな〜」

 

「どうかしましたか? はやてちゃん?」

 

「ううん、なんでもあらへんよ」

 

 思わず漏れてしまった言葉にシャマルが反応するけど、わたしは笑顔で誤魔化す。この辛い気持ちを隠すように、この苦しい思いを隠すように…。

 

 

 

 

 

 

「はやてちゃん、機嫌が良さそうですけど、どうかしたんですか?」

 

 私は機嫌良さそうにしているはやてちゃんに問いかけながらも頭では別のことを考えていた。それは先ほどはやてちゃんと話していた二人のうちの一人、男の子の方だ。

 

 ——あの子、魔力を持ってた

 

 さっきの男の子が魔力を持っていたことを思い出す。それも相当な量の魔力だ。この世界の人は基本的に魔力を持っていない。魔法のことも知らない可能性が高いのだが、やはり少し気になってしまう。

 

「うん、友達ができたんや」

 

 でもはやてちゃんの笑顔を見ると、あまり人を疑うようなことはしたくない。それもはやてちゃんの友達だ。

 

 ——なにかあったら、私達がはやてちゃんを守ればいい

 

 私達ははやてちゃんの守護騎士だ。危険があれば守る。それが私達の役目である。

 

 はやてちゃんの笑顔を見つめる。私達ヴォルケンリッターはこれまでまともな扱いを受けていない。これまでの主は私達を物のように扱ってきたし、私達もそれに従うだけの人形であった。

 しかし、はやてちゃんに出会ってから変わった。はやてちゃんは魔法生命体である私達を人間のように扱ってくれ、ちゃんと一人の存在としてみてくれた。そのお陰で、私達は今幸せな生活を送ることができている。

 だから私達ははやてちゃんが大好きでそんなはやてちゃんのためになりたいと思っているのだ。

 

 私は胸にそんな決意を抱きながら、はやてちゃんと一緒に帰る。今のこの幸せをかみ締めながら…。


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