転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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27話目 二人の戦い、最後の決闘

 海にあるジュエルシードを封印した翌日、俺はアリサから連絡を受け、彼女の家へと来ていた。

 

「アリサ、それでその拾った犬って」

 

「この子よ、怪我してたからできる限りの治療はしておいたわ」

 

 俺がアリサの家へと来ると、アリサがとある檻へと案内してくれる。その中には額に宝石がある大きなオレンジ色の毛並みをした犬がいた。そんな犬など俺は一匹しか知らない。

 

「確かアルフだったか?」

 

 確かめるように話しかけてみる。こうして言葉を交わすのはお互いに初めてだ。

 

『アンタは確か、あの白い子と一緒にいた』

 

「念話を使わなくてもいい。ここにいる人達は全員、魔法について知ってるから」

 

 俺はそう言って、デバイスを展開するとアルフに治療魔法を使う。アルフの肉体は治療されていたが、その治療痕からでも相当の怪我を負っていたことがわかる。

 

「アリサちゃんっ!!」

 

「アリサお嬢様。なのは様をお連れいたしました」

 

 なのはが大きな声を上げて、こちらに駆け寄ってくる。当然、アリサが彼女を拾ったことは高町家も月村家も知っている。その間に俺はアルフの怪我をある程度治しておいた。

 

「とりあえず事情が聞きたいんだけど…」

 

『悪いけど、こっちに来てもらえるか?』

 

 俺がアルフから事情を聞こうとすると空中にモニターが現れ、そこに和也の顔が映る。タイミングがいいのはサーチャーを使って、こちらを監視していたからであろうか…。

 

『悪いようにはしない。それにこっちも話したいことがある』

 

「わかった、何人か連れてそっちに行くから、なのは、士郎さんに連絡しておいて」

 

「うん、わかった」

 

 俺は携帯を取り出すと忍に連絡する。そして、俺達はアースラへと向かった。

 

 

 

 

「そう…大体の事情はわかったわ」

 

 アルフの話しを聞き、リンディさんが少し暗い表情でそう言った。わかっていたとはいえ、実際に聞くと辛いものがある。

 

「母親からジュエルシードを集めるように命令され、集められないと虐待なんて…」

 

 忍が言葉を漏らす。その表情は怒りに満ちていた。今、この場にはアースラクルーのメンバー以外に、アルフ、俺、なのは、士郎さん、ノエル、鮫島さんがいる。皆、アルフの話しを聞いて、苦い表情を浮かべていた。

 

「お願いだっ、フェイトを助けておくれ!!」

 

 アルフは必死な形相で俺達に頭を下げてくる。自分の主のため、彼女も必死なのだろう。

 

「わかった、できる限りのことはしよう」

 

 そう言ったのは意外にもクロノであった。管理局側がそう言ったことに俺達は驚き、思わずクロノの顔を凝視してしまう。

 

「べ、別におかしなことではないだろ。どちらにしてもプレシア・テスタロッサはアースラを攻撃している。これだけでも十分、行動する理由になる」

 

 クロノは皆に見つめられたことに戸惑ったのか、どもりながらそう言った。そんなクロノの姿を見て、和也がクスクスと笑う。

 

「そうだな、俺達が動く理由は既にできているからな」

 

 和也は笑いながら言っているので、少し緊張感がない。素直に助けたいと言えないクロノを面白がっているようだ。

 

「プレシア・テスタロッサの居場所は?」

 

「ああ、ここにいるはずだ」

 

 話しを変えようとクロノがアルフにプレシアの居場所を聞くと、アルフが座標を伝える。それを見たリンディさん達が突入の計画などを立てていた。

 

「えっ、魔力反応? 艦長っ!!」

 

 エイミィが声を上げる。彼女がすぐにモニターに映像を表示すると、そこにはフェイトの姿が映っている。

 

「フェイト…」

 

 アルフがフェイトの名前を呟く。その声には色々な感情がこもっていた。

 

「都合が良いな、転移の用意をしてくれ。彼女を確保する。説得のために君達もついてきてくれ」

 

 和也はそう言って、俺、アルフ、なのは、ユーノを連れてフェイトの元へと行こうとする。当然、俺たちもそれに従い、フェイトの元へと向かった。

 

「フェイトちゃんっ!!」

 

 俺達が転移してフェイトの前に現れると、なのははフェイトに声をかける。フェイトは俺達が現れたのを確認するとデバイスから魔力刃を出し、臨戦態勢に入った。

 

「フェイト…もうやめようよ。あんな女の言う事もう聞いちゃダメだよ。このまんまじゃ不幸になるばっかりじゃないか。だからフェイトっ!!」

 

 アルフは懇願するが、フェイトは首を左右に振り、拒絶する。

 

「だけど…それでも私はあの人の娘だから…」

 

 フェイトの意思は固く、アルフの言葉も彼女には届かない。なのははそんなフェイトを見てか、少し前に進み、彼女と対峙する。

 

「ただ捨てればいいって訳じゃないよね。逃げればいいって訳じゃもっとない…だからフェイトちゃん、もう、これで最後にしよう?」

 

 

 なのははデバイスをフェイトに向ける。

 

「それからだよ、全部…それから」

 

 なのはがデバイスを構えたのを見て、フェイトもデバイスを構える。そこに俺達が関わる隙など一切ない。

 

「私達の全てはまだ始まってもいない。……だから、本当の自分を始めるために。……始めよう。最初で最後の本気の勝負!」

 

 なのはとフェイトのそれぞれの思いを賭けた戦いがここに始まった。

 

「いいのか管理局として、こんな決闘を許して?」

 

「まぁ、思う存分やってくれればいいさ」

 

 俺と和也はなのはとフェイトの戦いを少し離れたところで見ながら会話する。ユーノは結界を張り、アルフと一緒に観戦している。どちらも心配そうな表情で二人の戦いを見ていた。

 

「消耗してくれれば確保もしやすい。それに多分、この戦いは二人にとって必要だからな」

 

 和也はそう言って、のんびりと観戦する。確保しようと思えばいつでもできる。それをやらないのは、彼女達のことを思ってだろう。そして俺も彼女達の戦いを邪魔するつもりはなかった。

 

 ——四回目にして、最後の戦い…か。

 

 なのはとフェイトの戦いは俺が知る限り四回目だ。一番最初の邂逅、温泉旅行のとき、管理局接触前、そして今。俺の介入によって既に原作からズレてきている。だからこそ、この戦いは予想がつかなかった。

 

 

 

 

 

 私とフェイトちゃんの戦闘は激しさを増していった。私のレイジングハートとフェイトちゃんのバルディッシュがそれぞれ振り下ろされ、ぶつかり合い、そしてまた離れる。

 

「フォトンランサー」

 

 金色の魔力球がフェイトちゃんの周囲に作り出される。私はそれに気づくとレイジングハートをフェイトちゃんへと向けた。

 

「ディバインシューター」

 

 私の周りにも複数の魔力球が現れる。お互いに機を窺うが、先に動いたのはフェイトちゃんだった。

 

「ファイアッ!!」

 

「シュートッ!!」

 

 お互いの発射した魔力弾がそれぞれ相手に襲い掛かる。私は身を捻ったり、フラッシュムーブを使いながら、フェイトちゃんの放った魔力弾をかわす。フェイトちゃんは上空へと飛び上がり、回避しようとするけど、誘導弾だったので、振り切れないと判断し、シールドを張って私の攻撃を防いだ。

 

「シュート!」

 

 さらに私は四つの魔力弾をフェイトちゃんに向かって放つ。しかし、フェイトちゃんはその全てを躱す、あるいは切り払い、真っ直ぐと私に襲い掛かってくる。

 

「っ!?」

 

「Round Shield」

 

 レイジングハートがシールドを張ってくれる。フェイトちゃんの振り下ろした魔力刃はそのシールドに激突し、防がれたけど、そのまま力づくで押し込んで破壊しようとしてきた。それに慌てずに先ほどフェイトちゃんに回避された魔力弾を後ろから当てるために操作する。だが、それも当たらない。

 

「Flash Move」

 

 私はフラッシュムーブを使ってフェイトちゃんの後ろに回りこむとレイジングハートを振り下ろした。フェイトちゃんも咄嗟にバルディッシュで防いでくる。私は一旦離れるが、フェイトちゃんの行動の方が早かった。

 

 フェイトちゃんはすぐに斬りかかって来る。私は何とか回避したけど、胸のリボンがその攻撃で斬られてしまった。

 

 ——やっぱりフェイトちゃんは強い

 

 何度もフェイトちゃんと戦ってきたけど、今回は今までと違って、気合が入っているように感じる。前と比べて少し動きが鈍いのに、一撃一撃が重く感じる。

 

「ッ!!」

 

「ファイア」

 

 間髪いれずにフェイトちゃんの魔力弾を発射してくる。咄嗟にシールドを張って、魔力弾を防ぐけど、全ては防ぎきれずに少しだけ被弾してしまう。フェイトちゃんの攻撃が止むと、私はフェイトちゃんから距離を取った。

 

「はぁ、はぁ、やっぱり凄いな〜、フェイトちゃんは」

 

「はぁ、き、君も初めて会ったときより、ずっと強くなってる」

 

 お互いに本当に全力で戦っているため、息が乱れ、肩を上下させている。体力的にも魔力的にもそろそろ辛くなってきた。

 

 フェイトちゃんがバルディッシュを構えるとそれと共に足元に巨大な魔法陣が展開される。

 

「Phalanx Shift」

 

 次の瞬間、フェイトちゃんの周囲に凄まじい数のスフィアが形成された。

 

「ッ!!」

 

 レイジングハートを構え、対策しようとしたけど、突然背後に現れた魔法陣にレイジングハートを持つ左手を拘束され、続けて右手も拘束されてしまう。さらには足も拘束され、私は空中に磔されてしまった。

 

「ライトニングバインド」

 

「やばいよっ!! フェイトは本気だっ!!」

 

 アルフさんが何か叫んでいるけど、こっちはそれに耳を傾ける暇もない。何とか拘束されてある手足を解放しようとして足掻くがびくともしない。その間、フェイトちゃんは詠唱を紡いでいた。

 

「打ち砕けっ、ファイアッ!!!」

 

 フェイトちゃんの周りに無数に展開されたスフィアから高密度に圧縮された射撃弾が大量に私に襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

「凄いな」

 

 二人の戦闘を見て、俺の口から思わず感嘆の声が漏れる。それほどまでに二人の戦いは凄まじかった。

 

「二人とも限界が近い、そろそろこの戦いも終わる」

 

 隣にいた和也が冷静に分析する。二人はもうボロボロでお互いに魔力も残り少なくなってきている。バリアジャケットは破損しており、その下にある肌が見えていた。

 

 そんな中、フェイトが魔方陣を展開し、周囲に無数のスフィアを展開した。

 

「やばいよっ!! フェイトは本気だっ!!」

 

 近くでアルフが叫んでいるが、俺達は介入することができない。これは二人の戦いで、誰も邪魔することは許されない。

 なのはの手足がバインドによって拘束され、動きを封じられる。

 

「打ち砕けっ、ファイアッ!!!」

 

 フェイトがスフィアから無数の射撃弾を放つ。一発一発が高威力でそれが高速で無数になのはに襲い掛かった。

 

「なのはっ!!」

 

 ユーノが悲鳴じみた声を上げる。俺も思わず拳握り締めてしまう。それほどまでにフェイトの攻撃は凄まじい威力を誇っていた。

 

「高密度に圧縮した射撃弾の乱れ撃ち、これは半端ないな」

 

 和也も冷や汗を流しながら、その光景を眺める。なのははプロテクションを張っていたが、どれほど防げたのかはわからない。

 フェイトの攻撃によって発生した煙が晴れるとそこにはボロボロになったバリアジャケットを再構築したなのはがいた。

 

「バリアジャケットが再構築されてる?」

 

「デバイスに防御を任せて、自分で再構築したみたいだな」

 

「でも、あれほどの攻撃、防ぎきれるわけがない。直撃もかなり喰らってたみたいだし」

 

 ユーノの疑問に俺と和也が答える。あれほどの攻撃だ。防御しきれず直撃もかなり受けていたようだから、その衝撃、痛みは相当なものであっただろう。しかし、それでもなのはは立っていた。

 

「今度はこっちの番だよ」

 

 なのはの手元に大量の魔力が集められる。二人が戦って周囲にばら撒かれた魔力をなのははもう一度自分のところに集める。

 

集束砲(ブレイカー)…」

 

「ああ、周辺の魔力を集めて体内を通さずに直接使用する、砲撃魔導師の最上級技術だ」

 

 俺は教えていなかったがやはりなのははここに辿り着いたらしい。なのはは魔法を知ってわずか数ヶ月にも関わらず、最上級技術を習得した。恐るべき成長速度だ。

 

「フェイトちゃん、これが私の最後の魔法。これを撃ちきったらきっと私は墜落する」

 

 なのはは魔力集束をしながら、フェイトに話しかける。せめて余力を残せよ、と思わないでもないが、言葉にはしない。

 

「防ぎ切れたらフェイトちゃんの勝ち、撃ち抜けたら私の勝ち。もし、私が勝ったら少しでいいんだ、お話し——させてくれる?」

 

「私は負けない、受けて立つ」

 

 なのはの言葉にフェイトははっきりと返す。その瞳は真っ直ぐになのはの方を向いていた。

 

「いくよ、これが私の全力全開、スターーライト・ブレイカーーーッ!!!」

 

 

 なのはがフェイトに向かって全力の砲撃を放つ。フェイトは正面からシールドを張り受け止めるが、なのはの砲撃はそれをたやすく撃ち破り、フェイトを撃ち抜いた。

 なのはの砲撃を受けたフェイトがその魔力ダメージによって気を失い、海へと墜ちていく。なのはもフェイトの攻撃によるダメージと先ほどの集束砲による魔力枯渇などによって海へと墜ちていった。

 

「ああ、もうっ!!」

 

 ソニックムーブで二人に近づくと二人をバインドで縛り、墜落を防ぐ。

 

「おお、ナイスキャッチ」

 

「お前もちょっとは手伝えよ」

 

 和也がのんびりとそう言ってきたので、少し不満の声を漏らすが、フェイトは既にアルフが抱きかかえ、なのはは俺が抑えている。

 

「とりあえず無茶した二人の治療をしますかね」

 

 和也が転移魔法を展開し、俺達をアースラへと運ぶ。なのはとフェイトはすぐに医療班の手によって医務室へと運ばれ、アルフもそれに付き添っていく。こうして二人の戦いは終わった。この戦いは別に勝敗を決めるものではない。ただ、なのはの想いが、言葉がフェイトに届けば良いのだ。そして、きっと、フェイトにも届いたと俺は思った。


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