転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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22話目 交渉

 薙原の転移魔法によって、俺達が転移した先には忍、ノエル、ファリン、そしてなのはと恭也がいた。皆、見たところ怪我などがないことに俺は安心する。

 

「皆、無事みたいだね」

 

「ええ、私達は」

 

「私は少し、フェイトちゃんと戦ったけど怪我とかはしなかったよ」

 

 俺の言葉に忍となのはは答えてくれる。そして、忍はすずかを見つめた。

 

「すずか」

 

「っ!?」

 

 忍に名前を呼ばれ、すずかはビクッとなる。やはりデバイスの無断の持ち出しや、自分がどれほど危険なことをしたのかはわかっているのだろう。

 

「お、お姉ちゃん」

 

「お話しは帰ってから、ね」

 

 忍はそう言ってすずかの頭を撫でる。その表情には怒りは感じられず、無茶をしてしまった妹に少し苦笑い気味であった。

 

「もう、いいかな? とりあえず今回の事情とかを聞きたいからこの船の責任者のところに向かいたいんだけど」

 

 忍とすずかのやり取りを大人しく見ていた薙原が声をかけてくる。まぁ、彼らとしても話しを聞かなければいけないので、いつまでも待って貰うわけにはいかない。

 

「あ、ごめんなさいね」

 

「いや、構わない。君もいつまでもその姿は窮屈だろう。君達もバリアジャケットとデバイスを解除するといい」

 

 忍の謝罪にクロノがそう言ってきたのでユーノは元の姿に戻り、なのはもバリアジャケット解除するが、俺はバリアジャケットもデバイスも解除しなかった。

 

「どうしたんだ?」

 

 デバイスを解除しない俺をクロノは訝しんだ表情で見つめてくる。

 

「まぁ、いきなりこんなところに連れてこられて警戒しないっていうのは無理かなと」

 

 俺は目の前にいる管理局員達に向かってそう言う。時空管理局のことは信用していないわけではないが、いきなりここへと連れてこられたことなどに対する悪感情のアピールのためだ。あまり好印象は抱いていませんよということを示すことにより、相手からの譲歩を引き出すつもりだったりする。

 

「それは…申し訳ないと思っている。ただ、こちらとしては君達から事情を聞かないわけにはいかないんだ。すまないがこちらに付き合ってくれないか?」

 

「このままでもいいなら」

 

「構わない。こっちだついてきてくれ」

 

 俺たちはクロノに案内され、館内を歩く。なのは達はユーノの人間状態と初めて会ったため、会話を楽しんでいる。

 

「この姿で会うのは二度目かな?」

 

「初めてだよっ。初めて会ったときからフェレットだったよっ!?」

 

「えっ、ああ、そうだったね」

 

「でも、まぁ人間っていうのは知ってたから今更なんだけどね」

 

 なのはとユーノのやり取りを見て、俺は突っ込む。こうしてユーノの人間としての姿は初めて見るわけだが、普通に中性的な顔立ちをしており、大人になれば女性に持てそうな雰囲気を持っていた。女装なんかをさせると似合いそうだ。

 ユーノのことで盛り上がっている傍ら、忍達のほうは通路など目を向けながら使われている技術などに興味を示している。

 

「へぇ〜、やっぱり相当技術は進んでるのね」

 

「L級次元航行船アースラ、管理局で使われてる船です」

 

 忍の口から漏れた感想に薙原が説明を加えてくる。忍は薙原達に話を聞きながら、クロノの案内のまま進んでいるのだが、俺はこの通路を歩くのが少し億劫だった。というのもこの機械的な通路は俺がこの世界に来る前にいたあの場所を思い出すからだ。

 

「どうかしましたか?」

 

「ああ、大丈夫だよノエル。ちょっと、つまらないことを思い出しただけ」

 

 俺はノエルに返すとそのまま進む。その時に薙原がこちらをチラッと振り向いてこっちを見てきたのが気になったが、後で色々聞くつもりなので今はこれからのことについて考えることにした。

 

「ここだ。艦長、お連れしました」

 

 クロノは立ち止まると目の前にあるドアを開き、部屋の中へと入る。俺達もそれに従って、部屋の中に入った。部屋は似非和風の雰囲気の内装をしていて目の前には翠色の髪をした女性が座っている。

 

「ようこそアースラへ。私はこの船の艦長をしていますリンディ・ハラオウンです。どうぞ楽にしてください」

 

 リンディ・ハラオウンに促され、忍、恭也、なのは、すずか、俺は座るがノエルとファリンは立ったままだ。従者として自分の主と同じようにするわけにはいかないようだ。

 

「そちらのお二人もどうぞ、お座りください」

 

「いえ、私達はメイドですので」

 

 リンディさんの言葉にノエルが返す。ノエル達もそこは譲らないようで、リンディさんも諦めたのかお茶を注ぎ始めた。

 

「こちらをどうぞ」

 

「ありがとうございます」

 

 リンディさんに差し出された羊羹とお茶を受け取る。皆にお茶と茶請けが行き渡ったのを確認すると俺達の話し合いが始まった。

 リンディさんにユーノが起こったことを話す。俺と忍もそれに補足しながら、今回のジュエルシードの回収にあたり起こったことを事細かに説明していった。特に隠すものなどないので、本当に包み隠さずといった感じだ。といってもあくまでもジュエルシードのことだけしか話していないのだが…。

 

「なるほど……」

 

 ジュエルシードのことについて俺達から話しを聞いたリンディさんは今聞いた内容を頭の中でまとめる為か、目を閉じて思考に没頭する。

 

「そちらのユーノ君のことについてはわかったわ。それで君のことについて聞かせて欲しいんだけど」

 

 リンディさんはそう言って俺のほうを見つめてくる。こればっかりは仕方がない。ユーノ、そしてユーノからレイジングハートを受け取ったなのははともかく、俺のことについての説明がなされていないからだ。

 

「次元漂流者と言えば、そっちもわかるだろ。気づいたらこの世界にいた、ただそれだけだ」

 

「管理外世界への魔法行使、魔法技術の漏洩、管理外世界への無断渡航など色々言いたいことはあるのだけど」

 

「管理局については知っているが、管理世界の出身というわけではない」

 

「それを証明するものは? 君の魔法はミッドチルダ式だし、デバイスも持っている。それに管理局について知っているのであれば、こっちのルールも知っているだろう?」

 

 リンディさんとクロノは俺に対して色々聞いてくる。それは既に質問というよりは詰問、取調べのようにしか感じられない。まぁ、こうなることは予想していたとはいえ少し煩わしく感じる。

 

「彼の身元に関しては僕が保障するよ」

 

 俺とリンディさん達の会話に割り込んできたのは今まで黙っていた薙原であった。俺は彼が自分を擁護してきたことに驚く。

 

「あなたが?」

 

「僕も彼と同じ次元漂流者で管理外世界の住民であったことはお二人も知ってるでしょ?」

 

「え? まさか、彼も?」

 

 薙原の言葉にリンディさんが戸惑った表情を浮かべる。ここまでの会話の流れでおれはとあることに気づいた。

 

 ——まさかとは思うけど。

 

「彼も僕と同郷だ。それに関しては既に確かめさせてもらった」

 

「「「なっ!!」」」

 

 薙原の言葉にリンディさん、クロノ、忍が驚きの声を上げる。事情を知っているノエルとファリンも声こそ出さなかったが驚いていた。

 

「どうしたんだ忍?」

 

「ええ、ちょっとね」

 

 事情を知らない恭也が忍に聞くが忍は答えをはぐらかす。当たり前だ、本当のことなど話せるわけがない。

 リンディさん達の反応を見ても、予想できることではあるが、彼女達が俺たちの事情を知っている可能性が出てきた。いや、もうほとんど確定といってもいいだろう。

 

「なるほど事情は理解しました。彼には色々聞きたいことがありますが、それはまた後日、ご連絡をいたします。それでジュエルシードのことですが、これより時空管理局が全権を持ちます。まずはあなた達の持っているジュエルシードをこちらに渡してもらいたいんだけど」

 

「却下よ」

 

 リンディさんの言葉に忍が即答する。

 

「今まで来なかったアナタ達に任せるほど信用はできてないの。それにこっちもコレを集めるのに苦労してる。当然、それなりの見返りがなければコレを渡すことはできないわ」

 

「ちょ、ちょっと」

 

「悪いな、ユーノ。お前は善意で動いたかも知れないけど、こちらは慈善活動じゃないんだ。ジュエルシードという危険なものが街に落ちてきてその被害を抑えるために動いている。それを後からきた奴らに無償で受け渡すわけにはいかないんだ」

 

 原作とは違い、こちらではジュエルシードによる被害はそれほど出ていない。しかし、少しは出ているのだ。その保障などに関しては月村家が裏で動いていて、その分、お金も使っている。

 

「わかりました、それに関してはこれから交渉しましょう。クロノ、そちらの方々を案内してあげて、交渉に時間がかかるでしょうし、その間、暇でしょうから」

 

「わかりました」

 

 リンディさんの言葉でクロノはドアの近くへと待機する。

 

「すずかとなのはちゃんは色々見てくるといいわ。恭也とファリンも一緒に行ってあげて」

 

「ああ」

 

「かしこまりました〜」

 

 忍の言葉に恭也とファリンはなのはとファリンを連れて、ドアの近くへと移動する。するとすずかが何かに気づいたのか俺を見つめてくる。

 

「拓斗君は?」

 

「俺はこっちで交渉してるから、そっちはそっちで楽しんでくるといいよ」

 

 楽しめるものかどうかわからないが、色々暇をつぶせるのはいいことだろう。こっちは既に腹の探りあいのような雰囲気が漂っているし。

 すずかは少し落ち込んだ表情を見せていたが、恭也達に連れられクロノの後をついていった。なのはも少しつまらなそうな表情を浮かべていたが、これは仕方ないことなので諦めてもらうほかない。

 

「ユーノ君だったわね。あなたは何かこちらに要求はある?」

 

「いえ、特にはありません。実際、回収したのは彼らですし、僕はただ現地の人間を巻き込んだだけですから」

 

 ユーノは何故か恭也達と共に出て行こうとしていた。ユーノは探索者ということで一応、この交渉のテーブルに座る権利はあるのだが、それを放棄するつもりのようだ。本当にいい奴なのだろう。原作とは違い、既に俺がなのはに魔法を教えていることから彼自身に問題などほとんどないのにもかかわらず、何も対価を得ようとしていない。

 

 ユーノが出て行き、部屋の中には俺、忍、ノエル、リンディさん、そして薙原の五人が残っている。

 

「それでは交渉を始めましょうか」

 

 リンディさんの一言で俺達の交渉が始まった。

 

「そうね、こちらが要求するのはコレくらいかしら」

 

「多すぎます。せめてこの程度にっ」

 

 目の前で忍が要求する対価にリンディさんが反論している。忍の要求した内容を見せてもらったが、まぁ納得とも言えるような要求ではあった。

 ジュエルシードを回収する際にかかった人件費、これは月村家、高町家、そしてバニングス家の使用人に対する報酬だ。ジュエルシードを探索するに当たって動員した人数、それを時給換算して、その上、俺達が暴走体と戦ったときの危険手当、当然、俺達魔導師や高町家の戦闘能力を加味した上なので相当高額になる。

 そして、ジュエルシードで出た被害に対する保障と俺達がいなかった場合に予想される被害への報酬。今でさえ、ある程度の被害が出ているのだ。原作通りに進んだ場合でも相当な被害が予想されるし、ユーノがこの世界に来ていなかったら、相当などでは収まらない程度の被害が出ていたことが予想されるのでその分を対価に加算している。

 さらには探索および封印にかかった諸経費、コレには先ほど壊された忍お手製のデバイスの金額と探索に使った車両費などが書かれている。

 ここにジュエルシード自体の価値などを加算しているため、もうこちらも思わず管理局を同情してしまうほどの対価が忍から要求されている。

 

「拓斗はなんか要求ある?」

 

「そういえば、俺の立場って管理局的にはどうなるんだ?」

 

 忍の言葉にまだむしり取るつもりかと少し恐怖を抱きながら、俺は薙原に質問する。

 

「管理外世界への無断渡航も技術漏洩とかまぁ問題はあるんだけど、管理外世界の次元漂流者だからね。嘱託の試験受けて、ちょっと仕事すればOKかな。ただ、そっちのメイドさんに関しての情報は何とか封じないと大変なことになりそうだね」

 

 思っていたよりも遥かに条件がいい。ノエルやファリンのことは確かにどうにかしないと不味いのはあるが、それでも予想していたよりはかなり良い条件だ。ノエルやファリンに関してはノーパソを使ってデータを消せば何とかなるだろう。

 

「なら、そのあたりの交渉も忍に任せるよ。俺はちょっと彼と話したいから」

 

 交渉を忍に任せて、俺は薙原を連れて部屋を後にする。俺は彼に転生者として聞きたいことがたくさんあった。

 

「じゃあ、場所を変えようか。ここだとだりぃし」

 

 部屋を出たら、薙原の口調がいきなり変わる。俺はその事に戸惑いを覚えつつ、先ほど感じた違和感の正体に気がついた。どうやら、こっちが彼の素の姿であるようだ。

 

「そっちが本性ってわけだ」

 

「当然だろ、執務官なんかやってると色々堅苦しくやらなきゃいけないんだよ。まぁ、コレも俺が選んだことだから仕方ねぇけどな」

 

 薙原の後ろについていくと、薙原がとある部屋に入る。俺も彼に続いて中に入るとそこはかなり広い部屋だった。

 

「ここは訓練場だ。都合いい部屋が思い浮かばなかったからな。それでまずは何から話す?」

 

 薙原はそう言うと俺に向かって楽しそうに笑う。

 そして俺達転生者同士の会話が始まった。


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