転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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18話目 みんなは待ち望んだかもしれないけど、俺は別だ

 ユーノとの出会いから数日が経過し、俺達はあれからさらに三個のジュエルシードを集めていた。

 

「ジュエルシードは順調に集まってるみたいね」

 

「ああ、人手があるとホント楽だよ」

 

 忍の言葉に俺が返す。この数日で集まった三個のうち、二個はバニングス家の使用人が見つけたものだ。片方は暴走する前に封印できたので集めるのが非常に楽であったのは間違いない。

 

「それでね拓斗。ここに呼んだ理由なんだけど……」

 

「俺達以外のジュエルシード探索者……だろ?」

 

 忍の言葉を発する前に俺は忍が言おうとしていることを言葉にする。

 

 こうなることは原作知識がある以上、簡単に予測がつく。

 

「ええ、さっきバニングス家の使用人が接触したそうよ。ジュエルシードを発見してすぐに接触、その場にあったジュエルシードを封印した後、すぐにその場を立ち去ったみたい」

 

 忍が起こったことを報告してくれる。

 

「バニングス家の使用人達に怪我はないみたいだけど、とうとうやって来たわね」

 

 忍には原作のことを大まかにではあるが説明してある。だから、今回の第三者の介入も当然であるが彼女は予測していた。

 

「その子は大体すずか達と同じくらいの年齢で金髪、レオタードにスカートという格好で手にはなのはちゃんのデバイスに似たような機械的な杖を持っていたそうよ」

 

「まぁ、予想通りではあるな」

 

 介入者の容姿に俺はその人物の姿と情報を思い出す。

 

「フェイト・テスタロッサちゃん……だっけ、その子の名前?」

 

「ああ」

 

 忍が名前をもう一度確認してくる。

 

 フェイト・テスタロッサ。アニメ本編において、なのはの敵対者として現れた少女だ。必死で母親のためにジュエルシードを集めていたが、母親から虐待を受け、そして拒絶された女の子。彼女の境遇に同情した人は多かっただろう。

 

「拓斗はどうするつもり?」

 

「彼女の境遇は可哀想だとは思うけど、ジュエルシードを優先するよ」

 

 忍の質問に俺は答える。

 

ノーパソを使えばできることはたくさんある。例えば、アルハザードのデータなんかはそうだ。

 プレシアにデータを送ることは可能だ。しかし、彼女がアリシアの蘇生まで漕ぎ着けるかといえば、首を傾げざるおえない。

 現代の技術では不可能な上、成功確率もアリシアが死んでからかなりの時間が経過しているので低い。プレシアの病のことを考えると技術開発をするより、直接アルハザードへと行くことを考えるだろう。

 

 和解をさせることも考えたが、正直、他人のために説得などやる気はない。俺は自分の目的のためにジュエルシードを集めているのだ。だからこそそんな余裕など存在しなかった。

 

「最低な奴だって思うか?」

 

 忍に聞いてみる。どうにかできるかもしれないのに何もしようとしない俺を彼女はどう思うだろう。

 

「どうなんだろ。私にはわかんないわよ」

 

 忍は困った感じで返してくれる。彼女の肯定も否定もしないその返答が寧ろ今の俺にはありがたかった。

 

「まぁ、今はジュエルシードの回収に集中しようか」

 

「ええ」

 

 俺達はそう言って、ジュエルシードの探索へと戻る。先ほどまでの思いを振り切るように、作業へと向き直った。

 

 

 

 

 

 私は今、ユーノ君と一緒にジュエルシードの魔力を感じた方向へと急いでいた。

 いつもなら家族の誰かがついて来るんだけど、今日は誰もいない。どうしてかと言うと、みんなはお仕事中だからだ。

 お父さん達からジュエルシードの探索をするときは家族の誰かを連れていくようにと言われていたけど、私はその言いつけを破っている。お仕事の邪魔はしたくないし、私一人でも大丈夫だと証明したいからだ。

 拓斗君には私は頑張りすぎだから休めるときに休めと言われたけど、ジュエルシードは暴走すると危険だし、休んでいる暇なんかない。

 

『なのは、こっちだ!』

 

 ユーノ君が示す方向へと急ぐ、ジュエルシードの魔力はどんどんと近づいていた。

 

「見つけたっ、レイジングハート」

 

「stand by ready. set up.」

 

 ジュエルシードの暴走体を見つけるとすぐにセットアップをして、バリアジャケットを身に纏い、レイジングハートを握る。ユーノ君は私がセットアップしている間に結界を張っていた。

 

「いくよレイジングハート」

 

「all right.」

 

 私は気合いを入れ、レイジングハートを暴走体へと向けて魔法を放とうとする。その瞬間、金色の魔力光が暴走体を襲った。

 

「えっ?」

 

 いきなりのことに私は戸惑う。そして、慌ててその魔法が放たれた場所を見るとそこには私と同い年くらいの女の子がいた。その子の手にはデバイスが握られていることから、彼女が先ほどの魔法を放ったみたいだ。

 

「ジュエルシード封印」

 

 彼女はそう言うとこちらを見向きもしないでジュエルシードを封印する。

 

「あの魔法、ミッド式、管理世界の魔導師?」

 

 ユーノ君が女の子を見て、何かを呟いているが、私は彼女に声をかけてみることにする。

 

「あのっ、ジュエルシードを封印してくれてありがとう。あなたのこと聞かせて?」

 

 しかし、女の子は私の声を無視してジュエルシードに近づくとジュエルシードをデバイスに格納し、そのままどこかへ飛び去ろうとする。

 

「待ってっ!! あなたはどうしてジュエルシードを集めるの?」

 

 私は飛び去ろうとする女の子を止めるように進路を妨害して、質問する。

 

「ジュエルシードは危険なものなんだ。どうして集めるのか理由を聞かせてほしい」

 

「私にはジュエルシードが必要だから……」

 

 ユーノ君が女の子に声をかけると女の子はポツリと言葉を漏らす。

 

「あなた達もジュエルシードを持ってるなら渡して」

 

 そう言って、女の子は私達にデバイスを向けた。

 

「ねぇ、どうしてジュエルシードを集めているのか教えて? 私達も協力できるかもしれないし」

 

 私は彼女に質問するが彼女の返答は魔法であった。

 私は慌ててそれを回避すると彼女にレイジングハートを向ける。

 

「いきなり攻撃なんてっ」

 

 私は声をあげるけど、彼女は止まらず、魔力刃をだしてデバイスをまるで死神の持つ大鎌のようにして斬りかかってきた。

 

「プロテクション」

 

 急いで目の前に防御壁を張って攻撃を防ぐ。

 

「話しを聞いてっ」

 

 声をかけるけど、彼女は攻撃の手を緩めてくれない。

 

 ——仕方ないの。

 

 彼女から話しを聞くために戦うことにする。

 フラッシュムーブを使って、距離をとると彼女に狙いを定めて、誘導弾を多数展開する。

 

「アクセルシューター、シューーートッ」

 

 誘導弾があの子に向かって放たれる。しかし、彼女は高速で移動すると誘導弾を全て回避してしまう。

 

 ——速いっ、全部避けられた

 

 回避しながら近づいてくる彼女に私は拓斗君から習ったことを思い出す。

 

 ——高速で移動する敵の相手をする時は、まずその機動力を奪うんだ。

 

 拓斗君の言葉が頭に響く。そして対抗策が頭の中に幾つか浮かび上がった。

 

 しかし、その時だった。

 

「フェイトーーーッ!!」

 

 私の後ろからオレンジ色の髪をしたお姉さんが叫びながら近づき、私を殴りつけてくる。

 

「Protection.」

 

「邪魔するなっ、バリアブレイクッ!!」

 

「きゃあああ!!」

 

 レイジングハートが咄嗟にプロテクションで防御してくれるが貫かれ、攻撃をもらった私はそのまま地面へと落下するが、ユーノ君が魔法を使い衝撃を和らげてくれる。

 

「フォトンランサー、……ごめんね」

 

 女の子は私に謝りながら魔法を放ってきて、それを受けきれなかった私はそのまま意識を失った。

 

 

 

 

 

 俺は今、ジュエルシードの魔力を感じ、そちらの方へと急いでいた。

 しかし、途中から違う魔力を感じるようになった。

 

 ——なのはの魔力じゃない? ということはフェイトか?

 

 ユーノの結界が張られるが、内部の魔力ぐらいは把握できる。その魔力は明らかに俺が知る人物以外のものであった。

 そしてその近くになのはの魔力も感じる。

 俺はスピードを上げるが、距離が離れているため、時間がかかりそうだ。

 

 すると二つの魔力が大きくなるのを感じる。

 

 ——戦闘? マジかよっ。

 

 大きくなった魔力は戦闘を意味するものだ。恐らく、なのはとフェイトが戦っているのだろう。

 

「なのは、勝てるかな〜」

 

 俺が到着する頃には決着がついているだろうと思い、勝敗を予想する。

 なのはには一応、フェイト対策を教えているが付け焼き刃の上、試合ではなく実戦である。実戦という場は当然練習の時とは違うし、何が起こるかわからない。

 

 ——そう簡単には負けることはないと思いたいんだけど……

 

 俺の予想では三対七でフェイトに分があるだろう。しかし、この数字はデバイスを持って僅か数日にしてはかなり高いものだ。

 

 結界へと近づくと二つの魔力が鎮まる。どうやら戦闘が終わったようだ。

 

 すぐに近くから二つの魔力が遠ざかる。覚えのない魔力であることから、フェイト達であることを予測づけた。

 

 急いでなのはの魔力のするところへと向かう。なのはは地面に倒れ、気を失っていた。近くにはユーノもいる。

 

「なのはっ、ユーノっ」

 

 俺は二人に近寄ると声をかけながらなのはの上半身を抱えあげた。

 

「ユーノ、何があった?」

 

「僕達以外にもジュエルシードを探している魔導師がいて、なのはは戦ったんだけど……」

 

 ユーノが起こったことを説明してくれる。

 

「その魔導師ってどんな奴だ?」

 

「なのはと同い年くらいの金色の髪の女の子だよ。あともう一人、オレンジ色の髪の動物の耳と尻尾を生やした女の人…」

 

 俺はユーノからなのはと戦った魔導師の情報を得る。どうやらフェイトとアルフの二人であることは間違いないようだ。

 そして、イレギュラーがないことにホッとすると同時に少し残念に思う。

 既に原作から離れているとはいえ、自分の予期しない出来事が起こるのは少し怖い。

 

 ——俺以外の転生者は未だ確認できず……か

 

 自分以外の転生者はまだ確認できない。フェイトと共にもしかしたらと思ったが、そんなことはないみたいだ。まぁ、フェイト陣営にいないと決まったわけではないがこの分だと可能性は低いだろう。

 

「ん、うっ、あれ? 私…」

 

「なのは、大丈夫?」

 

 腕の中で目を覚ましたなのはに声をかける。

 

「拓斗君? うん、大丈夫だよ」

 

 なのはは俺の腕の中から起き上がり、地面に立ち上がるとバリアジャケットを解除する。

 

「ユーノから話しは聞いたよ、魔導師と戦ったんだって?」

 

「うん、私と同い年くらいの女の子、フェイトって呼ばれてた。あの子の名前だと思う」

 

「そう」

 

「ここにあったジュエルシードもその子が封印して持って行っちゃった。どうして集めるのか聞いてみても教えてくれなくて」

 

「まぁ持っていかれたのは仕方ないよ。でも俺達が回収を続けている以上、その子とはどこかでまた逢うことになるだろうね」

 

 ジュエルシードを持っていかれたことにか、負けたことにか、それとも話し合えなかったことにかはわからないが落ち込んでいるなのはを励ましながら、もう一度、フェイトに逢える可能性があることを示唆する。

 

「そうだよね。次に逢ったときはあの子、理由を教えてくれるかな?」

 

「なのは次第じゃないか?」

 

「拓斗君は理由を知りたいって思わないの?」

 

「俺は先にジュエルシードを確保する方を選ぶから、話しを聞くのはその後かな」

 

「それもそうだね」

 

 俺の言葉になのはは納得した表情を見せる。

 

「それじゃあ、これからも頑張ろうか」

 

「うんっ」

 

 俺達は気合いを入れ、ジュエルシードを探索を再開した。

 

 

 

 

 

「これで二個目、順調だねフェイト」

 

「うん、そうだねアルフ」

 

 私はアルフに返事をするとジュエルシードを眺める。

 

「そういえばフェイトの邪魔をしたアイツ、アイツもジュエルシードを集めているみたいだね」

 

「うん」

 

 アルフの言葉に今日、ジュエルシードを集めるときに出会った白い服の魔導師を思い出す。

 

 出会ってから何度も私のことを聞こうとしたあの子、最後、少しだけ戦闘になっちゃったけど、あの誘導弾は油断できないものだった。

 

 

 

 ——でも、負けていられない。

 

 ジュエルシードを集めるのはお母さんのためだ。あの子が強くても、弱くても負けるわけにはいかない。

 

「それにこの世界の人達も探しているみたいだし」

 

 一個目のジュエルシードを見つけたときに近くにジュエルシードを探している人達がいた。もしかしたらあの白い子の仲間かもしれない。

 

「アルフ、頑張ろうね」

 

 私はアルフに声をかけると明日もジュエルシードを集めるために目を閉じて、ゆっくりと休んだ。

 

 

 

 

 

「そういえばユーノって結界張った以外に何してたんだ?」

 

「うっ、ごめん、何もできなかった」

 

 俺の言葉にユーノは落ち込んだように返す。まぁまだ回復しきっていないみたいだし、仕方ないだろう。

 

「なのはも士郎さん達は?」

 

「あっ、あのね。お仕事中だったし、ジュエルシードの魔力を感じて急がなきゃって思ったの」

 

 俺の言葉になのはは焦った表情を見せる。どうやら士郎さん達には何も言わずに出てきたようだ。

 

「ふーん、まあ、間に合わなった俺が何言っても仕方ないか」

 

「ほっ」

 

 俺の言葉になのははあからさまにホッと安心した表情を見せる。

 

「まあ、心配かけたみたいだから少し叱られるかもね」

 

 そう言って俺が視線を向けた先には恭也さんがいた。

 

「お、お兄ちゃん」

 

「なのはっ、急にいなくなって心配したんだぞ」

 

「ご、ごめんなさい」

 

 なのはは恭也さんに謝る。その姿は何かに怯えるようにビクビクしていた。

 

「もし今日みたいに俺達がいない時はせめて連絡だけでもしてくれ、じゃないと心配だからな」

 

 そう言って恭也さんはなのはの頭を撫でる。その姿は本当に家族のことを心配してたんだということを感じて、少し寂しくなった。

 ああいったところを見ると家族のことが懐かしくなる。

 

 なのはは嬉しそうに頭を撫でられる。それは先ほどまでのビクビクした表情とは違っていた。

 

 ——フェイトのこともあるし、頑張りすぎないといいけどな

 

 なのはの嬉しそうな表情を見つつ、フォローはちゃんとしようと思った。


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