転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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15話目 出陣

 ユーノからの念話が届き、俺達がジュエルシードを二個確保した翌日、俺は学校を休んでジュエルシードを探したい気持ちに駆られながら、その気持ちを抑え、学校へと来ていた。

 

「しかし、拓斗が授業中熟睡するなんて珍しいわね」

 

「そういえば昨日の夜、何かあったみたいだけどどうしたの?」

 

 昼休み、アリサとすずかが俺の様子が気になったのか問いかけてくる。すずかは昨日の夜のこと、アリサは俺が授業中居眠りをしていたことだ。そして、なのははというと一人なにやら浮かない顔をしている。

 

「昨日、誰かから助けを求められてな」

 

「え?」

 

 俺の言葉になのはが反応する。深夜だったので、なのはは寝ていた筈だ。おそらくはあの念話のことを夢だと思っているだろう。

 

「それでエリアサーチの魔法を使ってみれば、変なものが落ちてきているみたいだから、昨日はその対処をしてたんだよ」

 

 授業中もずっとサーチャーを使って探していて、魔力を消耗したため、回復させるために寝ていたのが、今日珍しく俺が授業中寝ていた理由だった。

 

「それってどんなものなの?」

 

「ジュエルシードっていう菱形の形をした宝石みたいな石だよ。願望を叶える力があるって話だけど、暴走したりするからかなり危険なんだよね」

 

 アリサが興味を持ったようなので説明する。

 

「それでなんだけど、なのは、力を貸してくれないか?」

 

「わ、私?」

 

 俺の頼みになのはは戸惑った声を上げる。

 

「ジュエルシードを封印するために魔法が必要なんだ。俺やノエル達がいるとはいえ、人手は多い方がいいからね」

 

 それにノエル達も月村邸から離れさせて探索させるわけにもいかない。彼女達には月村邸と主である忍、すずかを守るという仕事があるのだ。

 

「私でも、できるかな?」

 

「なのはなら大丈夫だよ。才能もあるし、それができるだけの実力もある」

 

 不安そうななのはを励まして、背中を押してあげる。

 

「うん、私、ジュエルシードを封印するのお手伝いするっ」

 

 なのはは勢い良くジュエルシード収集への協力を了承した。正直、彼女がいるのはありがたい。純粋に探索に割ける人数が増えるし、戦力も増える。ただ、デバイスがないのが心配であるが……。

 

「それで私はどうすればいいの?」

 

「しばらくは塾とか休んでもらうことになるかな。サーチャーでジュエルシードを探して見つけたら封印しにいくって感じ」

 

「私達も手伝えることないかな?」

 

 なのはに今後の行動を説明しているとすずかが聞いてくる。自分達も協力したいと考えているのだろう。

 

「もし見つけたら、俺かなのはに連絡して場所を教えてくれ。だけど決して触らないように、触ったら暴走するかもしれないから」

 

「うん……わかった」

 

 俺の言葉にすずかは少し寂しそうな表情を浮かべる。危険なものだとわかっているのに自分が力になれないのが、悔しいのだろう。

 

「とりあえず放課後、すずかとアリサも塾まで送ってから探索するよ」

 

「私達のことはいいわよ。それよりもそのジュエルシードを探すのを頑張りなさい」

 

「むしろお前達がジュエルシードに巻き込まれたりしないように一緒に行動するんだよ」

 

 二人の誘拐事件以来、俺は彼女達に付き添って、学校から塾まで道を護衛することにしていた。彼女達が危険な目に遭わないための措置なのだが、今回はさらにジュエルシードと言う危険が増えている。そのため、一緒に行動しないという考えはなかった。

 

「なのは、気合入れすぎて、授業中にサーチャーとか使わないようにね」

 

「うっ、で、でも拓斗君は使ってるよね」

 

「俺はいいんだよ。デバイスの補助もあるし、授業聞かなくてもなんとかなるしね」

 

 サーチャーを使って、今からでもジュエルシードを探しますと気合の入っているなのはに釘を刺す。今から気合を入れて探しても持たないだろうし、なにより学生の本分は勉強だ。前世知識のため、勉強しなくてもわかる俺と今勉強する必要がある彼女とでは授業に対するの意味が全く違う。俺はあくまで復習程度でいいが、彼女達は学習なのだ、きちんと勉強して知識を得る必要がある。

 

「放課後は忙しくなるから、それまで我慢してくれ」

 

 なのはを宥めるために、頭をぽんぽんと叩き、放課後に備えてもう一度眠ることにした。授業中起きたときに、なのはが放課後になるのを今か今かと待ち望んでいるのを見て、その姿に思わず微笑んでしまった。

 

 

 

 

 放課後になり、すずかとアリサを塾へと送るために一緒に歩く。

 

「拓斗達も急いでるんでしょ、なら近道するわよ」

 

 アリサはそう言って、いつもとは違う道へと歩き出す。

 

「ここを通ると近道なのよ。まあ、道は悪いんだけどね」

 

「そうなんだ」

 

 アリサの言葉にすずかは感心したように言う。いつも通っている道ながら、こういう風に違う道を探しているアリサの行動力に感心したようだ。

 しばらく歩いていると、突然なのはが立ち止まる。

 

「なのは?」

 

「ここ、昨日夢で見た場所…」

 

 ——そういえば、ユーノってここで倒れてたんだっけ。昨日はスルーしてたから、今もそのまま放置されてるんだろうな〜。

 

 ユーノがこの辺りに倒れていることを思い出す。昨日はジュエルシードを集めるために必死で放置していたのだが、良く考えると子供の助けを放置するって、かなり酷いことを行っていることに気がついた。

 そんなことを考えつつ、先へ進んでいると念話が聞こえてくる。

 

『助けて…』

 

「念話? 拓斗君」

 

「ああ、こっちだ」

 

 聞こえてきた念話になのはが反応する。俺もユーノの放置に気づいたことで急に罪悪感を感じ、念話の聞こえる方へと急いだ。すると、少し進んだ先にフェレットが倒れているのが見える。

 

「この子、怪我してる…」

 

「とりあえず治療するよ、フィジカルヒール」

 

 周囲に誰もいないのを確認して、魔法を使いユーノを治療する。

 

「この子がつけてるのって宝石みたいだけど……」

 

 フェレットが身に着けるには豪華な装飾にアリサが不思議そうな表情を浮かべる。

 

「それはデバイスだよ。多分、この子は魔導師だ、念話をしてきたのもこの子だろう」

 

 原作知識のお陰で知ってはいるのだが、彼女達に不信感を与えないために少しはぐらかして言う。

 

「とりあえず連れて帰ろう。すずか、アリサ、悪いけど……」

 

「わかってるわ、塾まですぐそこだから大丈夫よ」

 

「うん、拓斗君となのはちゃんも気をつけてね」

 

 フェレットを月村邸へと連れて帰るためにアリサとすずかに別れを告げる。とその時であった。近くに大きな魔力反応を感じる。

 

「二人とも動かないでっ」

 

 俺は慌ててアリサとすずかを止めて、彼女達へと近づく。

 

「クロックシューター、セットアップ」

 

 すぐにデバイスを起動させて、バリアジャケットを展開すると周囲を警戒する。

 

「拓斗君?」

 

「ジュエルシードだ。暴走してる、皆危ないから離れないで」

 

 皆をかばうように立つと目の前に昨日と同じくジュエルシードの暴走体が現れた。すぐさま結界を張るが、俺の張っている結界はあくまでこの空間を隔離するためのものだ。近くにいるアリサやすずか達を避難させることはできない。

 

「なのはは皆を守ってくれ」

 

「わかった。拓斗君は?」

 

「アレを片付ける」

 

 なのはにすずか達の護衛を任せ、俺は暴走体へと向き直る。昨日はファリンがいたが、今回は戦えないすずか達と魔法は使えるけど、デバイスもなく、戦闘に不安があるなのはだけだ。

 

 暴走体がなのは達に近づかないように牽制しながら戦う。思っていた以上に誰かをかばいながら戦うのは難しい。

 暴走体は昨日戦った奴より防御力があり、生半可な攻撃が通じない。強力な攻撃を放とうにもその隙にすずか達を襲おうとするため、強力な攻撃を放てる隙がなかった。それ以上に衝動がヤバイ。

 昨日はそうでもなかったのだが、暴走体を目の前にして、俺の衝動が湧き上がる。

 

 ——消滅させてしまえ

 

 そんな衝動が湧き上がるが、何とかそれを抑え込む。そうしないと広範囲魔法を使って、すずか達を巻き込みそうだ。

 

「バインドシューター、シュートッ!!」

 

 衝動を抑えるために叫びながら魔法を放つ。昨日、使ったものと同じものだ。着弾した相手を拘束する魔法、地面に縫い付けるタイプと体を拘束して動かないようにする二つのバリエーションがある。

 

「ふう、これで封い「拓斗君っ危ないっ!!」ッ!?」

 

 俺がジュエルシードを封印しようとするとなのはが叫び声を上げる。すると右側から何かが襲ってきて、俺に突撃した。

 

「ぐっ」

 

「「拓斗君っ!?」」「拓斗っ!?」

 

 暴走体の攻撃を受け吹っ飛んだ俺を見て、なのは達が叫ぶ。俺に突撃してきたのは先ほどバインドで拘束したのとは別の暴走体だ。

 

 ——二体目!? クソっこんなときに…

 

 暴走体の二体目の登場に俺は焦りを覚える。先ほどバインドで拘束した奴もバインドが解け、こちらへと向き直っている。その様子は先ほどまでと違い興奮しているようにも見える。

 

 ——二対一か、これはヤバイな。

 

 この状況に思わず舌打ちをしてしまう。

 

「モード2リリース、トゥーハンドガンズ」

 

 デバイスの機能を開放し、両手にクロックシューターを持つ。これがモード2、二丁拳銃だ。両手のデバイスでそれぞれの暴走体に狙いをつけ、魔力弾を放つがどうも左手の狙いが甘い。

 右利きである俺は基本的にクロックシューターを右手で持つ。そのため左手で練習することはあまりなく、左手で持ったときの命中精度はかなり低い。

 

 ——もっと練習しとけばよかったな

 

 全然当たらないことに後悔するが、いまさら言っても遅い。両手にクロックシューターを持ったことで二対の敵を牽制することはできるのだが、それ以上に敵の攻撃が苛烈になってくる。

 攻撃を捌ききれなくなり、敵の攻撃が直撃しようとしたその時、膨大な魔力が近くから溢れ、桃色の光が辺りを照らした。

 

 

 

 

 

「なのはっ、どうにかできないの?」

 

 目の前で二体の敵と戦っている拓斗君を見て、アリサちゃんは言ってくる。二体の敵を相手に拓斗君は押されていた。私も何とか援護しようとしているが、上手く狙いが定まらない。下手すると拓斗君に当たってしまう。

 

 ——なんとかしないとっ

 

 どうにかして拓斗君を助ける方法を考える。すると先ほど見つけたフェレットの首にかかってある宝石が目に映った。

 

 ——これ、確かデバイスって言ってた。フェレットさんごめんなさい、これ少し借ります。

 

 フェレットさんから宝石を外す。すると、その宝石が話しかけてきた。

 

「Who aye you?」

 

「私は高町なのは、お願い力を貸して、拓斗君を助けたいのっ」

 

 デバイスに必死にお願いする。するとデバイスが手の中で光り、頭の中にデバイスの名前と呪文が思い浮かんだ。

 

「我、使命を受けし者なり」

 

 デバイスから光りが溢れる。

 

「契約の元、その力を解き放て」

 

 頭の中で杖の姿と魔法の服、バリアジャケットの姿をイメージする。

 

「風は空に、星は天に」

 

 拓斗君を助けたい。そのことだけを強く願って呪文を叫ぶ。

 

「そして、不屈の心はこの胸に!! レイジングハート、セーーットアップッ!!」

 

「standby ready. set up.」

 

 光が私を包み、バリアジャケットを身に纏わせる。急なことだったので今自分が着ていた聖祥の制服とほとんど変わらない。そして手には先ほどイメージした杖が握られていた。

 

「なのはちゃん、それ……」

 

 すずかちゃんが驚いた表情を見せる。いきなり私が変身したことにびっくりしているのだろう。でも、今はそんな場合じゃない。

 

「レイジングハート、拓斗君を助けるよ」

 

「All right, my master!」

 

「ディバインバスターーーッ!!」

 

 拓斗君を襲おうとしている暴走体に向けて全力で砲撃魔法を放つ。放たれた魔法は暴走体を直撃し、暴走体を沈黙させた。

 

 

 

 

「なのはっ!?」

 

 いきなり放たれた砲撃に驚き、砲撃元を見てみるとなのはがレイジングハートを構えていた。どうやら、レイジングハートを起動させて、魔法を放ったらしい。

 

 しかし驚いてばかりではいられない。

 

「シュート」

 

 残っているもう一体へと魔法を放ち、ダメージを与え行動を封じる。

 

「ジュエルシード、封印」

 

 そしてソイツを封印した。もう一体の方を確認するとなのはが封印しているのが見える。俺は自分の封印した方へと近づくとジュエルシードを拾い上げ、デバイスへと格納した。

 

「拓斗君っ!!」

 

「大丈夫、拓斗君っ?」

 

「大丈夫なの拓斗?」

 

 三人が近づいてきて、俺のことを心配してくれる。今回は苦戦したため仕方のないことだがここまで心配をかけると心が痛い。

 

「ああ、大丈夫だ。なのはのお陰だよ。なのは、ありがとう、お陰で助かったよ」

 

 なのはにお礼を言う。するとなのはは嬉しそうな表情を浮かべながら、涙を零した。

 

 

 

 

 

「なのは、ありがとう、お陰で助かったよ」

 

 拓斗君からお礼を言われ、私はそのことが嬉しくて、涙が溢れ出す。

 

「な、なのは?」

 

 いきなり泣き出した私に拓斗君は珍しく戸惑った表情を浮かべた。

 

「ゴメン、私泣いちゃって」

 

 抑えきれない感情が溢れてしまう。

 

 私が小さい頃、お父さんが怪我で入院した時のことだ。まだ翠屋が開いたばかりでお母さんはお店のことが忙しくて、お兄ちゃんやお姉ちゃんも、ずっと頑張ってた剣術の練習をやめてまで店のことや家の手伝いをしていて、私は一人ぼっちでいることが多かった。

 

 そんな時間が悲しくて、一人でいるのが寂しくて、私はいらない子なんじゃないかって思うときもあった。

 

 でも違っていた。私をお母さん達は心配してくれて、私の目の前では辛そうな表情を見せなくて、寂しくないようにって、私のそばにいるときはずっと優しくしてくれた。

 

 それが嬉しくて、切なくて、そして悔しかった。

 

 心配してくれて、優しくしてくれているのに、私は何もできなくて、お母さん達だって悲しんでいるのに自分は何もできないのが悔しくて…

 

 だから、一人でいる時にたくさん泣いた。寂しさじゃなく、悔しさで、家族に迷惑をかけないように一人でいるときに思いっきり泣き叫んだ。

 

 家族のために何もできない自分の無力さをずっと感じていた。

 

 お父さんが退院した後も、それはずっと感じていた。もし、また何かが起きたとき、私は何ができるんだろうって、ずっと悩んでいた。

 

 そんなときに拓斗君に魔法のことを聞いた。私には魔法を使える力があって、しかも物凄い才能を持っているんだって……

 初めて自分で魔法を使えたときは本当に嬉しかった。私ができることがようやく見つかった気がしたから…。

 

 そして今、その魔法で拓斗君を助けることができた。拓斗君からありがとうってお礼を言われて、私は初めて、自分が誰かのために何かをすることができたんだって思うことができて、それが物凄く嬉しくて、涙が溢れ出した。

 

 自分が何かをできたってこんなに思ったことはない。こんなに嬉しかったことはない。だから、私は拓斗君にこう言うんだ。

 

「拓斗君、ありがとう」


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