転生生活で大事なこと…なんだそれは?   作:綺羅 夢居

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9話目 初めての実戦

9話目 初めての実戦

 

「すずかが攫われたわ」

 

 ノエルを追って忍のもとにたどり着いた俺達に彼女はそう言った。忍の表情は苦渋に満ちている。

 

「なんだとっ!?」

 

「アリサちゃんも一緒に攫われたみたい」

 

 驚く俺達に忍は状況を説明する。

 

「ファリンは? 確か迎えに行ってるはずだろ」

 

 俺はファリンのことについて質問する。彼女の戦闘能力を考えるとそうやすやすと誘拐を許すはずがない。

 

「ファリンが到着する前に攫われたようよ。犯人はそのまま車で逃走、ファリンが今追ってるわ」

 

 ——なるほど、合流する前を狙われたか……

 

 いくらファリンが強かろうといない時を狙われてしまえば、どうすることもできない。

 

「相手の数や目的は?」

 

「わからない。ただ、数は相当いると思っていいわ、ここまでやってくるんだもの、きっと相手は相当に戦力を整えているはずよ」

 

 忍は今回のこれを単なる誘拐とは思っていないらしい。確かにそうだろう。タイミングが良すぎる。二人に関する情報を知った上での行動だろう。これが単に特殊性癖な人間であれば、もっと他にも被害が出ていてもおかしくない。……二人に惚れての犯行という可能性も捨てきれないが、もし、そうであれば一緒にいた俺を嫉妬で狙うことも考えられたのでかなり低い可能性だろう。

 

 ——なら考えられるのは身代金か、それとも……

 

「それで二人にお願いがあるんだけど」

 

「わかってる。父さんや美由紀にも応援を頼む」

 

 忍のお願いというのは俺達に力を貸してほしいということだろう。そんなことは言わなくても理解できる。恭也は忍の言葉を遮って返答すると連絡を取るために俺達から少し離れた。当然ながら戦力は多ければ多いほどいい。

 

「拓斗は?」

 

「当然参加するぞ。すずかには助けられてるんだ、恩はちゃんと返させてもらうさ。それに……」

 

 俺はクロックシューターを強く握り締める。

 

「男が女の子を助けるために動かないわけがないだろ」

 

「そうね、期待してるわよ」

 

 俺の言葉に忍がクスリと笑う。言葉ではこんなかっこつけたことを言っているが内心では別のことを考えていた。

 

 ——非殺傷設定を解除して、殺してやるか

 

 表面では取り繕っているが、心の中は怒りで満ち溢れていた。それこそ犯人に対して躊躇いがなくなるぐらいに……。

 なまじ、それができるだけの力があるゆえに思考がより凶悪に、凶暴になってしまう。

 

 誘拐という行為は基本的に誰であろうと嫌悪するものだ。それが身内が被害にあえばなおさらのことである。

 

 俺はIPhoneを取り出してデバイスにインストールされてある魔法を確認する。これはノーパソの機能の一部が使えるため、出かけているときや授業中などかなり重宝していた。

 

 ——火力が足りないか? 一応アレも入れておくか。

 

 今入れてあるテスト用の魔法をアンインストールして、実戦用の魔法を再インストールする。

 

「忍、二人の場所は?」

 

「ノエル!!」

 

「確認できました。東地区の廃工場です」

 

 恭也がアリサとすずかの場所をノエルに聞くとそれを電話相手に伝える。俺の方も再インストールが終わり、準備はできていた。

 

「急ぐわよ」

 

 忍の一言で俺達は月村家の保有している車に乗り込むと、急いですずか達のいる廃工場へと向かった。

 

 

 

 

 廃工場へとたどり着くとそこには既にファリンが待機しており、すぐさま俺達と合流する。

 

「お嬢様〜」

 

「しっ、ここからは二手に分かれるわよ。恭也はノエルと動いて頂戴、私達は三人で行動するわ」

 

「父さんたちが到着するまで待たなくてもいいのか? それに……」

 

 恭也は忍に質問すると同時に俺のほうへと目を向ける。俺のような子供がこのような現場に関わるのがあまり好ましくないのだろう。

 

「俺は大丈夫ですよ。もともとこういうのは覚悟してましたから」

 

「それと士郎さん達を待っている余裕はないわ。二人ともなにをされるかわからないし、できるだけ早く救出したいの」

 

「わかった」

 

 恭也は納得の表情を見せ、小太刀を握る。俺達ももちろん装備を構えた。

 ファリンやノエルは最近忍が作った、簡易デバイスに加え、銃器をいくつか用意している。忍も銃を手に持ち、ヤル気は満々のようだった。

 

「行くわよっ」

 

 忍の合図とともに俺達は廃工場の中へと進入する。まずは俺が見張りに対して、魔力弾を放った。これは俺の攻撃が他に比べて音を出さず、敵に気づかれにくいからだ。

 

「ぐわっ」

 

「うわっ」

 

 魔力弾が見張りの二人を撃ち抜く。非殺傷設定は解除している。犯人達には悪いが、今回俺はかなり冷静さを失っていた。

 

 ——そういえばこれが初めての実戦だったな

 

 今になって実戦経験が初めてであることを思い出す。倒れた見張りを見るが自分でも驚くほどなんともない。

 

「殺したの?」

 

 忍がそんなことを聞いてくる。

 

「いや、スタンと衝撃で気絶させただけ。まぁ骨ぐらいは折れているだろうけど……」

 

「そう、よかったわ」

 

 忍はほっとした表情を見せる。俺が犯人を殺さなかったことに安心したようだ。

 

「それにしても……」

 

 忍はそう言いながら、見張りの服を漁る。そこから出てきたのは黒光りする銃であった。

 

「まさか、こんなものまで用意してるなんてね。ますます、ただの誘拐じゃなくなってきたわね」

 

「どうするんだ忍?」

 

 見張りが持っていた銃を破壊している忍に恭也が聞く。

 

「進むわ。こういうのは時間が経てば経つほど事態は悪くなるのよ」

 

「なら、俺達はこっちへ進む」

 

「気をつけてね恭也。ノエル、頼んだわよ」

 

「かしこまりましたお嬢様」

 

 恭也と忍のやり取りを横目で見ながらサーチャーで内部を探索する。どうやら結構な数がそろっているようだ。しかしながら、相手の目的が全く見えてこない。

 

「ギャーー!!」

 

「し、侵入者だっ!!」

 

 恭也達が戦闘を始めたのか、建物の中が騒がしくなる。

 

「始まったようね。私達も行くわよっ」

 

 忍の合図とともに俺達も進攻を開始した。

 

 

 

 

 

「ん、あれっ、私、どうして?」

 

 私は目が覚めると地面で寝かされていた。なぜ、自分がこうなっているのかを思い出しつつ、周囲をうかがう。

 

 ——確かバイオリン教室が終わって……ッ!!

 

 そこで一気に思い出す。自分達がいきなり何人かに囲まれて、その瞬間気を失ったことを……

 

 ——アリサちゃんは!?

 

 慌てて周囲を見てみると近くでアリサちゃんが倒れているのがわかる。

 

「アリサちゃん!!」

 

「う、ん、す、ずか?」

 

 声をかけるとアリサちゃんは反応を返してくれ起き上がる。

 

「ここは、どこなの?」

 

「わからない、でも私達、誘拐、されたみたい」

 

 いきなり誰かに連れ攫われた恐怖に声が震え、恐怖が襲い掛かる。アリサちゃんも同じなのか、身体が震えていた。

 

 ガチャ

 

「おや、起きたんだ。ちょうどよかった」

 

 いきなり扉が開き、そこから一人の男性が現れる。

 

「はじめまして、我が姪よ。僕の名前は氷村遊、君の叔父にあたる」

 

「氷村遊っ!?」

 

 その名前には聞き覚えがあった。私の両親が亡くなって以来、私達がお世話になっていた人の兄の名前だ。

 

 ……ただ、あまりいい話は聞いていない。お姉ちゃんやその人が話す限りでは良い人間ではないということがわかる。

 

「なにが目的ですか?」

 

 怯える声を隠しつつ氷村遊をにらみつける。

 

「最近、君のお姉さんとさくらがなにやら企んでいるようなのでね。ちょっと気に入らないのさ」

 

「そんな理由でアンタは私達を攫ったのっ!?」

 

 アリサちゃんが氷村遊に向かって怒鳴りつける。

 

「黙れっ劣等種が!! これは僕達一族の問題だ!!」

 

 氷村遊がアリサちゃんを蹴り飛ばした。

 

「アリサちゃん!!」

 

「ふんっ、軽く蹴った程度でコレか。やはりもろいな」

 

 アリサちゃんは蹴られた衝撃からか気を失い、地面に倒れこむ。

 

「殺しはしないさ。利用価値はあるようだからな」

 

 氷室はそう言い、こちらの方へ歩を進める。

 

「夜の一族の党首の娘がこんな劣等種と友達とはね」

 

「何が言いたいんですか?」

 

「いやいや、彼女は君が吸血鬼だということを知っているのかと思ってね。彼女と盟約は交わしたのかい?」

 

 氷村遊の言葉が私に突き刺さる。アリサちゃんとは盟約を交わしていない。いや、アリサちゃんだけじゃない。なのはちゃんも拓斗君とも盟約は交わしていない。

 

「その様子だと彼女は君が吸血鬼だとは知らないようだね。クックック、それでよく友達なんて言えたものだね」

 

 ——やめて、言わないで

 

 氷村遊の言葉が私の心を抉る。それはずっと私が気にしていたことだった。

 自分が人の血を吸う化け物であることを知られたくない。だって知られたらきっと嫌われちゃう。そうしたら、せっかくできた友達がいなくなっちゃう……そんなの嫌だ!!

 

 でも友達に隠し事をしているのは嫌だった。嫌われたくなかったけどずっと隠しているのも嫌だった。

 

「ん? 外が騒がしいな」

 

 部屋の外がにわかに騒がしくなる。何か起こっているようだ。氷室遊は外の様子が気になるのか通信機を取り出し、誰かと連絡を取っている。

 

「ハハハ、まさかこれほどまでに早いなんてね。喜べよ、君のお姉さんが助けに来てくれたようだよ」

 

「お姉ちゃんが……」

 

「でもここには武器を持った人間が五十人近くいる。それにアレもあるしね。ここまでたどり着けるかな?」

 

 氷室遊が余裕そうな表情を浮かべている。しかし、私は安心していた。いくら武器を持っていようとお姉ちゃんやファリンたちが五十人程度に負けるわけがない。

 

 ——それに拓斗君もいるもん

 

 最近現れた魔法使いである彼のことを思い浮かべる。ノエルやファリンには負けているみたいだけど、それでも彼が普通の人間に負けるなんて思わない。

 

「ハハッ、もう安心だと言いたげだね」

 

 氷室遊が何かを言っているが、私はみんなが私達を助け出してくれることを確信していた。

 

 

 

 

 

「ぐっ」

 

「くそっ」

 

 敵を倒しつつ、俺達はすずか達のいる場所を探す。

 

「しかし、思ったよりたいしたことはないな」

 

 武器を持っているにも関わらず、あっけなく倒れていく敵に少し物足りなさを感じる。当初はもっと激しい抵抗があると予想していただけにこの状況は少し意外であった。

 

「油断していると足をすくわれるわよ」

 

「悪い」

 

 忍の言葉に気を引き締めなおす。ここは戦場であり、相手は武器を持っているのだ。一瞬の油断で自分が死ぬ可能性をもう一度考え直し、警戒心を高める。

 

「ファリン、すずかのいる場所は?」

 

「ここからもう少し奥に進んで、左に曲がって突き当たりの部屋です〜」

 

 ファリンがすずかにつけられた発信機をセンサーで拾い場所を特定する。どうやらこういうときのために忍がすずかにつけていたものらしい。

 

 道中、敵を倒しながらすずか達のいる部屋へと向かっていくと、そこに一人の男が現れた。

 

「やあ、よく来たね」

 

「氷村遊っ!?」

 

 忍がその男の名前を叫ぶ。俺はその名前を思い出す。

 

 氷村遊、とらハ1に出てくるキャラで基本的にヒロインに粉を掛けてくる奴であったと記憶している。忍たちと同じ純粋な吸血鬼で彼女達の叔父にあたり、とらハ1のヒロインである綺堂さくらの兄であったはずだ。

 そして、俺がゲームをやっていて一番嫌いだったキャラでもある。

 

 さくらルートのバッドエンドでは色々あったのだ。その後のことがあったとはいえ、正直あれは胸糞悪い。

 

「すずかは無事なんでしょうね?」

 

「ああ、無事だよ。そのお友達もね」

 

「それでいったい何が目的なの? こんなことをしておいてただじゃ済まさないわよ」

 

 忍が氷村を睨む。身体中から怒気が溢れており、言葉も威圧するかのようだ。

 

「最近、君とさくらが何か企んでいるみたいだからね。ちょっと昔の意趣返しに邪魔してやろうと思っただけさ」

 

「そんなことでッ!!」

 

 ——昔の意趣返し? 女にボコボコにやられたことか?

 

 氷室のいう昔のことがゲーム本編のことなのかは気になるが、

 

 

それよりも目の前にいるコイツの存在を消したいを思う自分がいる。

 

「そこの少年は何でこんなところに来たのかな? そんなおもちゃを持って、あの子達を助けるつもりかな?」

 

 氷室は俺を見下しながらそんなことを言ってくる。ヤバイ、嫌いな奴からこんなことを言われてしまっては……

 

 ——本気で殺したくなる

 

 クロックシューターに魔力を込めはじめる。なぜ、ここまで躊躇いなく人を殺そうと思えるのか不思議であるが、そんなことは後で考えることにした。

 

「君達には痛い目にあってもらうよ」

 

 氷村がそう言うと物陰から人が何人か出てくる。そして、そいつらは俺達に向かって殴りかかってきた。

 

「よけなさいっ!!」

 

 忍の言葉に反応し、回避するとそいつらの攻撃がはずれ壁に当たる。その壁は陥没していた。

 

「自動人形…氷村遊っアンタまさか!?」

 

「イレインといったかな、あれの技術を使ってね。まあ、ただの戦闘人形だよ」

 

 氷村の言葉に目の前にいる彼らを見る。どうやらこいつらはノエルやファリンたちと同じ自動人形のようだ。イレインはとらハ3で出てきた敵キャラでノエル達自動人形の最終生産型である。

 

 俺達の目の前にはその自動人形たちが五体並んでいた。

 

 余裕かと思われていた初めての実戦はここからが本番であった。


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