目の前で起きた信じられない事に唖然としてしまって声が出ない。いや、誰だってこれは驚愕するだろう。
「あ、あのー…、麗路?」
俺に声を掛けてくるテイルレッドに、なんとか精神を持ち直させて改めて相対する。だが、やはり親友、ツインテールを愛していると公言している変態だが、列記とした男であり、身長もかなりある方だと思う。
特に自分が小さいからそう思うのだが、そんな幼馴染が突然女の子になったと言われれば、分かってくれると思う。
「…総二?」
「おう。でも出来れば今はテイルレッドって呼んでくれ。何処で誰が見ているか分からないからな。」
確かめる様に名前を呼ぶと、見てただろと言わんばかりの苦笑と同時に今はテイルレッドと呼んでくれと言われた。
でもそれよりも今、俺の頭の中に占めるのは。
「ツインテールが好きすぎて、女の子になるとは思わなかった…」
「そっちかっ!?いやツインテールの似合う女の子になれたのは良かったんだけどな。」
まさか総二にツッコまれる日がこようとは思いもしなかった。
何でこんな事になっているのかと、遠い目をして思い出す。そう、あれは体育館に移動した後だった。
何故かは判らないが、壇上に上がる現理事長の娘であり、生徒会長である神堂 慧理那が口を開いた瞬間に何か嫌な予感はしていたんだ。
『皆さん。…知っての通り昨日、謎の怪物たちが暴れまわり、街は未曽有の危機に直面しました。実は、わたくしも現場に居合わせ、そして狙われた1人です。』
別に彼女は親の七光りで生徒会長に選ばれた訳では無く、圧倒的な人気で選ばれている。要するに無駄に人気者であると言う事。そんな人気者である彼女が怪人に狙われたと聞かされた体育館内は一気にざわつき始める。
だが、入学式に彼女のツインテールに目を奪われていた幼馴染が、何の反応も示さない事が気になっていた。
『しかし、今こうして私は無事にここにいます。テレビではまだ情報は少ないですが、ネットなどで知った人も多いでしょう。あの場に、風のように颯爽と現れた、正義の戦士たちに助けていただいたのです。』
そしてざわつきを静めた後語り出した言葉で、ついには頭を抱えだした。それどころか檀上上からせり出てきた大型テレビに映し出された画像を見て悶えだしたのだ。
少なくともスパイダーギルディは見とれていたし、総二もそうだと思っていたのだが、だがこれは何かあると、放課後に誰も居ない場所で問いただした筈だったのだ。
俺はあれ、ゲリラショーの開催に何かかんでいるのではないか程度に考えていた。父さんの現場で手伝いをしていた事もあるし、何より総二のツインテール好きは家の変態達も認めているし、怪人の名前がギルディと付いていた。
全部総二が関係しているとすれば、解決する問題であるからで、問いただしたのも勝手に名前を使ってと戒める目的もあったのだが…
「そうだよな。うん、信じて貰えないかもしれないけど麗には見て貰った方がいい。」
何か苦悩していたと思ったら、そうポツリと言葉を溢したのを聞いた瞬間、特撮の変身ポーズの様に腕を曲げて、昨日はハメて無かった赤い腕輪を見せつける様にする。
「テイル、オン。」
そしてそう呟いた瞬間、総二の体を炎を纏うように覆い隠す。驚き火を消そうとする前に、炎は螺旋を描いて消えていき、中からテイルレッドが出てきたと言う訳だ。
うん、どういう訳だと混乱した俺は悪くない。
そしてオロオロと困惑するテイルレッドと頭を抱える俺と言う図式になったのだった。
「いきなりそんな事されたって、麗路も困っちゃうわよ?」
「愛香ぁ、どうしたら良いんだぁ。」
「……うん、取り敢えず昨日何があったのか、麗路に説明するのが先ね。」
突如後ろから声を掛けられた。愛香ちゃんである。というかテイルレッドを見て総二だと分かっている辺り、これの関係者と言う事だ。
でも説明してくれるのはありがたいけど、今一瞬オロオロするテイルレッドみて生唾飲み込んだよね。幾らこれが総二だからと言って、それは如何かと思うな?
『この世界に住まう全ての人類に告ぐ! 我らは異世界より参った選ばれし神の徒、アルティメギル!!』
『我らは諸君等に危害を加えるつもりはない! ただ、各々の持つ心の輝きを欲しているだけなのだ! 抵抗は無駄である! そして抵抗をしなければ命は保証する。』
『だが、どうやら我らに弓引く者がいるようだ……抵抗は無駄である! それでも敢えてするならば……思う様受けて立とう! 存分に挑んでくるがよい!!』
だが次の瞬間、空に映し出された黒い鎧の何かに目を奪われる。威圧感が画面越しと分かるのにそれを怖いと感じる自分が居て、一瞬たりとも目が離せない。
だがそれよりもそのセリフの中に、放置する事の出来ないセリフが混じっていたのだ。
余り詳しく説明して貰った事は無いが、それでもスパイダーギルディ達が何かやらかしたと思って、そんでもって総二達の方も放置出来なかった為、混乱した頭でひねり出した答えは…
「ちょっ、まっ、麗路ぃ!!」
「わきゃ、待ちなさいって、結構こいつ力強っ!!」
テイルレッドが浮き上がる程力で腕を引っ張り、愛香ちゃんを俵抱きにして家へと駆けだすことであった。