家を逃げ出すように飛び出したものの、確りと手には余計な荷物を持っていた。こんな状態でも、趣味のゲームの為になら商売根性出すんだからと、家に蔓延している変態達の事を笑えないと頭を抱える。
「はぁ…、あのバカ。」
目の前を溜息を吐いているツインテールの少女が居た。総二のもう一人の幼馴染であり、総二に恋心を抱いている津辺 愛香が一人で歩いている。
何故かその手には新聞が握りつぶされており、表面にはマクシーム宙果でゲリラヒーローショーが開催されたと記されていた。
「おーい、愛香ちゃん…」
「ああ、麗路。おはよう。」
「うん、おはよう。そういえば総二は?」
取り敢えず後ろから声を掛けて、横に並ぶ。そして何時もなら一緒に登校している総二について聞く。
「知り合いが転校してくるもんだから、先に行ってるわ。」
「へぇ~、その人女の人?」
「何で、分かったのよ。」
「いや、だってねぇ~…」
その理由に顔を顰めて嫌そうに答えるもんだから、その転校生が女性だと分かった。何で知ってると睨みつけて来るもんだから、にやにやと分かり易いと声に出さず暗に答えた。
「そんなんだから女の子見たいって言われるのよっ!!」
「女見たいって言うなっ!!」
好きな人の隣に、別の女性が居る事で不機嫌になってるんだろうとからかわれた事に気付いた愛香ちゃんの反撃に思わず叫んでしまったが、そういえばと思い出し、鞄に手を突っ込み音楽プレーヤーを取り出す。
「これ、買わない?」
「またぁ。いい加減手作りの総二グッズ売りつけるの止めないと、その内肖像権侵害で訴えられるわよ?」
「大丈夫、総二もおばさんもそんなタイプじゃないから。」
「まぁ、それはそうだけど…」
正義感に熱く、真面目な性格をしており、当然友情にも熱いあのツインテール馬鹿はそんな事はしないと言うと、肩を落として納得する愛香ちゃん。だが顔は笑っている。総二のそんな所を好きになったからだろう。
おばさん、総二の母親である未春さんもノリが良く、どちらかと言うとこちらに味方しそうである。重度の中二病で大好物と公言している幼馴染との恋を応援しており、愛香ちゃんの事を応援していたりするぐらいだから。
「幾らよ。」
「今月欲しいゲームソフトがあるんだよね…」
「私もそんなに出せないわよ?」
「まぁまぁ、物は試しって言うじゃない。」
そんでもって確りと買う方向に向かうのが愛香ちゃんであり、笑顔で高めであると暈して伝えると、顔を顰めながら少し距離を置いてくる。だからこそ、試しに一回聞いてみてとイヤホンを渡し、再生した。
「どう…って早っ!?」
「これで、これは私の物よね。」
再生が一回終わったか如何かと言うタイミングで声を掛けた瞬間、いつの間にか音楽プレーヤーは愛香ちゃんが握っており、俺の掌には福沢さんが握らされていた。
スパイダーギルディと殺陣の、本気では無いとはいえ、小さい頃からやってるからそこそこの速度を誇る殺陣で、それなりに動体視力には自信があったのだが、愛香ちゃんの動きがまったく見えなかった。
大事そうに音楽プレーヤーを握りしめて、リピートモードで再生している。中身は今まで録りためた総二の愛の囁き集。というか総二は天然でやらかすからすぐに容量が満タンになるのだが。
「えへへ、って麗路これっ!?」
「まぁ、加工してるけど…、どう?」
「褒めてつかわす。」
「ははぁ。」
どうやら昨日録った部分に差し掛かったようで、今までフニャっとしただらしない顔が驚きに染まる。うん、分かり易い。
加工している事を告げたが、それでも嬉しいのだろう。ほんの僅かに涙目になりながら、それでも嬉しそうにふざけてくる。
総二にあれだけアピールしながら、それでも報われないのだから、加工した物でも愛してると言われれば嬉しいのだろう。
そんな事を思いながら、学校に向かって通学路を歩く。周りのひそひそ話を意図的に無視しながら。何せその内容が、可愛い女子二人のオフザケみたいな内容なのだから。
うん、正確には言ってないけど、気持ち悪い部分は、俺の精神的にも脚色させて貰いました。
「はぁ…」
そして教室に入った瞬間、黒板に描かれたテイルレッドたんの文字と絵、その前でわいのわいのやっている幼馴染を見て溜息が漏れたのだった。
「ほら、今日は全校集会の日だろ。早く体育館に移動するよ。」
「そうだった、会長の御姿を堂々と拝見出来る日だったっ!!」
取り敢えずで声を掛けると、変態的な事を言って駆けていくクラスメイト。いや、何故かうちの高校って生徒会長の事好きな奴が多いよなと思いながら、俺も準備する。
「た、助かったよ麗。」
「はいはい、後名前を訳すな。」
「いっつも、それだな。」
なんてふざけながら、総二と共に体育館へと移動するのだった。