ああ、これは夢だと思った。場面はちょうど変態蜘蛛怪人ことスパイダーギルディと出会った所。
この頃はまだ無邪気で、幼稚園から小学校に上がる前ぐらいだったと思う。
女の子みたいな格好をしていても気にならなかったが、何処かおかしいと考え始めた頃じゃなかったかな?
何時もの様に公園で総二を含む友達数人で遊びまわり、空が夕焼けに染まった頃に一人で帰ってきた所だった筈だ。
母は元々女優であり、その縁で父と知り合ってゴールインというありそうな話であり、姉もまた、母の強い押しで子役として活躍していた頃だ。
父もまた監督として忙しく、少し寂しい思いをしていた。
「そこな幼女よ。」
「えっと、僕ですか?」
「なるほど、正しく男の娘であるようだな。」
そんな俺に声を掛けて来たのは、何処の特撮物に出て来るんだと言いたくなる様な格好をした変人であった。
普通なら逃げ出すか叫ぶか泣くかするだろう。だが、父親の仕事柄、そういった物を見慣れていた俺は、幸か不幸か、普通に相対してしまったのだ。
「なにやら休暇中に我が属性力である男の娘属性を感じて来てみれば、なるほど。溢れんばかりの男の娘属性を持っているようだ。」
「あ、あの…?」
「幼子と言えど貴様のその属性力、我が貰い受ける。」
だが不穏な空気を感じ、そこで初めてこれはマズイと思ったが、時既に遅し。その変人が黄色く輝く輪っかの様なものをこちらに飛ばしてくる。
「ひっ!?」
「怖がる必要はない。その属性力を貰うだけだ。痛い事も命に係わる事も無い。」
悲鳴を上げそうになり、恐怖でへたり込むも、視線だけは外してなる物かとがんばったが、それでも幼い心には精一杯であり、ついには目を瞑ってしまっていた。
「な、何っ!?」
「え、あ、何?」
だが次に聞こえたのは驚愕した声であり、思わず目を見開いてしまった。そこには同じく目を見開いて驚きを露わにする変人が居て。
「まさか、奪ったはずなのに。後から後から湧き出てくるこの属性力は…」
「おじさん、大丈夫?」
「まさか、無限の属性力とは。」
「頭痛いの?」
「おお姫よ。我が姫よ。先程の無礼はお許しくだされ。」
「うん。許すよ。ちょっと驚いただけだから。」
「はは、流石我が姫だ。」
そんなやり取りの後、あれよあれよと家族に気に入られ、何だかんだとスパイダーギルディがトップを務める男の娘一派が通うようになってしまった。
その後に、特撮専門の監督になってしまった父親が、今の旅館の家を買い取り、裏に撮影所を作り上げてしまった。
最初の内は旅館としても経営していたようだが、女中さんとか雇われている人を路頭に迷わさない為の措置として一年ぐらいは経営していたと思う。それもやめてしまい、本格的に変態達が移り住んでしまったのだ。
「……本当に、な、つ、かしい、夢を見たよっ!!」
「げろっぱっ!!」
起き上りながらのアッパーに、キスをしようとしていたハエの怪人が奇声を上げて吹き飛んで行く。
「何をしようとしていた?」
「おお、姫よ。汗を掻いていた様なので舐めて差し上げようと…」
「すんなっ!!」
「そんな、このフライギルディは寝ている男の娘の汗を舐めるのが一番興奮するんですよっ!?」
うん、相変わらず変態の巣窟である。夜寝ている時には襲われないのが唯一の救いか?救いなのか?救いだよなぁ…。
「ってか、いつの間に着替えさせた。」
「それは某が…」
「何処に居るんだお前はっ!!」
「エルボーっ!!」
良く見れば寝た時の寝間着とは違っている。こんな見た目だが、列記とした男であり、だからこそ黒いジャージを寝間着替わりに使っているのだから。
だが、今起きて見れば、白いツヤツヤのサテンのだろうか。女性物の寝間着だ。サラリと流れる長い髪が鬱陶しい。
問いかければ布団の中からバッタの怪人がニュッと出て来る。何時の間に潜り込んだのやら。
叩きのめせば、技名を叫んで悶絶するグラスホッパーギルディをベッドの上の布団から叩きだす。
「ああ、男の娘が発する香りが移った布団がぁ…」
「二人とも出てけぇっ!!」
取り敢えず、着替える為に未だに汗を舐め取ろうと忍び寄るフライギルディと、悶絶しながらも布団を手放さないグラスホッパーギルディを部屋から叩きだす作業へと移った。
ああ、あの時の自分を打ん殴ってやりたいと、折角の思い出が台無しになるのを感じていた。今日も変態達が煩い。無駄に元気すぎるだろうとも思った。