「ギルディギアの調子が…おかしいですか。」
「うん。今日もいきなりツインテールにされたし、昨日も撮影中に女の子になっちゃったし…」
「保存している属性力の暴走…だとは思いますが…」
トゥアールも頭を掲げている。ここの所ギルディギアの調子が変なのだ。教室でいきなりツインテールにされたり、この時は総二の所為にして切り抜けた。
俺が油断しているとツインテールにしてくるのは何時もの事なので、級友にも不思議には思われなかったが、それでもその他の属性で変身してしまえばどうなるか。
クラス、と言うより学校全体でエレメリアンレベルの変態が多いから、絶対大騒ぎになるだろうなということは判る。
昨日の撮影中の時も、それはエレメリアンの事を知っている家庭内での事だったから、それほど問題にはならなかったからよかったものの、それでも撮影が一時中断されてしまった。
それに、何時もならゴテゴテしたアーマーが形成されるのに、この時に限ってはそうならない。助かった事は助かったけど……
「いざっ!て時に問題になりますね…」
「うん…」
「ああ、落ち込む男の娘もいい…!!」
トゥアールが何か言っているけど、気にはならない。それどころか、此処の所どうしても俺自身も調子が出ないのだ。
「それで、原因は分かったの?」
「そんな直ぐには無理ですよ。ただギルディギアはテイルギアと比べて余計なシステムを積んでいる分、何が起きても不思議ではないんですよね…」
ふざけているトゥアールに愛香ちゃんが問い掛け、今その解析の真っ最中だと話す。
「一応、システムの方は何とも無いようですが、オーバーホールしておきますね。」
「うん、よろしく…」
データのあらいだしが終わり、何処にも異常がない事が確認され、念のために分解整備しておくと告げられた。
「アンタも、元気出しなさいよ?」
「何さ、それ?」
「はぁ、相変わらず寂しがり屋なんだから。」
そして愛香ちゃんに励まされる。そんなに元気なかったかなと思い起こすように首を傾げていると、溜息を吐かれた。
「今、強くなる為に修行中なだけでしょ?今までだってあったじゃない。」
「スパイダーギルディの事?それはそうなんだけどさ…」
「はぁ、アンタ今本当に恋する乙女みたいよ?」
「俺は男だ……ゴメン本当に元気無いや。」
「重症ね。」
愛香ちゃんに女見たいと言われ、いつも通りに言い返そうとして、尻すぼみになってしまう。そんな俺の様子に手で顔を覆ってしまった。
テイルイエローとテイルブルーの必殺技のぶつかり合い、あれは閃光と大爆発を起こし、テイルブルーの勝利で決着が付いた。
トゥアール曰く、テイルギアの中ではもっとも古い、元はトゥアールが使っていた中古品であるテイルブルーのテイルギアが、最新型の防御と砲撃に優れた最新型のテイルギアに勝てる道理はないそうなんだが、そこは愛香ちゃんだからという理由で納得していた。
その決着に巻き込まれ、吹き飛んでしまったものの、特に俺のギルディギアは防御特化の為、泥まみれになった以外は怪我も無く、泥を落とす為に家の風呂へと皆で直行した時だった。
何時もなら玄関口で待っている筈のスパイダーギルディが居ない。この程度なら、裏の撮影所に居るとか、自身の修練をしているとか考えられるが、俺が帰宅を告げても顔を見せないのはおかしい。
訝しみながら、自身の部屋へと着替えを取りに入ったら―――――……
「――――なにさ、これ………」
部屋の片隅に巨大な繭が鎮座していた。その程度なら、またぞろ家の変態共が何かしたんだと思い、その繭に触れようとすると―――――
「お待ちください…」
「何処に居んのさっ!!」
変態共が持ち込んだ、大き目のクローゼットの中から殿様が出てきた。思わず殴りながらツッコんでしまう。
「…お、男の娘の……生着替え、を、見るまで俺はしなんっ!!」
最初の内は息も絶え絶えだったのに最後の方は無駄に元気に叫んでいた。
「それさ、見て楽しい?俺も顔についてはどうこう言えないとは思うけど、体の方は鍛えてあるよ?」
「そのギャップがいいのではないですかっ!!」
「あっ、そう。でも俺今から風呂入るから。着替え取りに来ただけだから。」
「そんなっ!?」
男の裸なんか見て楽しいのだろうか、下手すれば手遅れなんじゃないかと思ってしまう。
「んで、これ何さ。」
「――――……只今、スパイダーギルディ様が変態中、いや決して変な事ではなく、蛹から蝶になる方の変態中なのです。あまり触らないでほしいのです。」
「いや、分かったけど、何で俺の部屋?」
「スパイダーギルディ様が……此度の変態は長時間掛かるので、その間姫様が寂しがらない様にって……」
「俺は子供かっ!?」
最初はシクシクとORZで落ち込んでいた殿様だったが、繭の事を訊ねれば、スパイダーギルディの繭だと言う。俺の部屋に繭を作った事の意味を聞いて思わずツッコんでいた。それ程時間も掛からないだろう。長時間と言ってもそれほどじゃないだろう。
そんな単純に考えて、着替えを持って風呂場へと行ったのだが、今それから二週間近く経っている。スパイダーギルディはまだ出てこない。
二日目、三日目は違和感もあった。だけどスパイダーギルディは繭の状態とはいえ、自分の部屋に居る事もあって問題なかった。
四日目から七日目では違和感が大きくなっていた。いつもの声が聞こえないというのは不思議なもんだなぁと気楽に考えながら、もう少しで出て来るのかな?と考えていた。
九日目だったかな?寂しさを感じるようになり、スパイダーギルディの繭に話しかける様になったのは。それでも一言二言程度で、馬鹿をやらかす変態達を追いかけ回して居た。
だけど、それ以降は寂しくて、寂しくて仕方が無くなってきた。考えてみれば、学校以外では、小さい頃から必ずと言っていいほど、スパイダーギルディと一緒に居たのだ。
これ、長期間の旅行だ何だとなったら耐えられるんだろうか?と考えてしまうも、電話して声を聴く事も出来るからと思い直す。
このぐらいだっただろうか?総二や愛香ちゃんが心配そうに声を掛けて来るようになったのは。そういえばギルディギアの不調もこのぐらいだったっけ?
「そんななりで明日大丈夫なのか?」
「…なんとか乗り切るよ。撮影シーンもそれほど無いしさ。」
総二が心配を多分に含んで、明日の撮影が大丈夫なのか聞いてくる。無理なら休めと心の声が聞こえてきそうだ。
明日は少人数で、テイルポニーの、テイルポニーが個人で戦うシーンを取る為に近郊にある倉庫を借りて撮影する事となっていた。
相手は復活したと言う設定でスネイルギルディ。撮影ペースが落ちている事もあり、また個別の戦闘シーンでもあってそれぞれバラバラの場所での撮影となっている。
エレメリアン達の撮影技術も、父さんが褒める程度にはあるらしく、後で編集すればいい、もし駄目なら取り直すという言葉で、エレメリアン達と共に撮影する運びとなったのだ。他の人のスタッフは俺の所には居ない。流石に五か所同時では人手が足りなかったそうだ。だからこそエレメリアンに一番慣れている俺が、エレメリアンスタッフで撮影する事となった。
ちなみに今回の大目玉のシーンはテイルストレートの戦闘シーンであり、父さんは姉さんに着いて行っている。
「はぁ…」
「駄目ねこりゃ。」
俺の吐いた溜息に、手を肩の横で広げて愛香ちゃんがお手上げという。うん、俺もそう思うよ。
――――――――――……………寂しいよ。