いや、まさかテイルイエローの正体が会長だとは思ってもみなかった。
「特訓だっ!!」
この総二の一言で、俺の家の元採石場での訓練が決定したのだが、その時何故か会長が居て、何か燃えていた。
掛け声と共に身長が伸び、胸が大きくなる。愛香ちゃんの目がやばくなった。あー、総二とは逆のパターンなのか。
話を聞けば、会長のツインテールも総二が騒ぐほど見事な物なのだと言う。ツインテール馬鹿が騒ぐほどと言う事は、それ即ちツインテールの奪取を目的に侵攻してきているエレメリアンに狙われやすいということで。
俺のと同じく、身を守れればと言う事でテイルギアを渡したのだそうだ。あのテイルギア、俺のギルディギアと同じく防御火力重視だし、撃ち尽くした後は速度特化になり逃げやすいから。
ただ会長のヒーローオタク具合を舐めてて、まさかエレメリアンに自ら突っ込んでいくとは思ってもみなかったそうだ。
そんで、なんか総二とツインテール部の部室で話した結果が特訓なんだそうで、一段低い場所から見上げている。
「なんで同じ高さでやらないの?」
「特訓ぽいからでしょ?」
「そういうもん?」
「そうなんじゃない?」
なんか効率悪そうだなと愛香ちゃんに話しかければ、特訓ぽいからというとんでもない理由が返ってきた。
「別に間違ってはおりませんよ?テイルギアで変身している以上、そこは属性力が大事なのです。属性力の特訓だとすれば、その心の内にある風景を再現するのが一番ですからね。」
「ああ、会長はヒーローオタクだから。」
「そういう事です。まぁそれだけじゃありませんが……」
「何か言った?」
トゥアールの言葉に、そういえばこういった場面て、先輩ヒーローが後輩ヒーローに特訓を付ける時に似ていると思った。愛香ちゃんは最後にボソッといったトゥアールを訝しんでいるけど。
この時止めとけばよかったんだよな。なんかここの所こんなのばっかりだ。
「慧理那ぁ!!お前の全てを見せて見ろぉ!!」
うん、テイルレッドがそんな事を叫んだ瞬間、「分かりましたわ、ご主人様ぁ!!」って、えっ!?
テイルブルーの、体操服属性で重力操作で持ち上げた山の様な、というかもうそれ、下手したら山だよね。大岩を粉砕して見せた。
「うわっ!?」
「慧理那!?もういい、もう止めろっ!!」
「あひゃひゃひゃ、やっぱりそうです。やっぱりそうなんです。開けちゃいけない扉開いちゃったみたいですねぇ!!」
ただそれだけでは無く、武装が続く限り周りも攻撃し始めたのだが。どうやらマゾ気質だったらしく、テイルレッドのセリフでスイッチが入っちゃったようで、しかもラリッてる様な、恍惚とした表情で涎まで垂らしている。
「見てください。私の全てを見てくださいぃぃ!!」
「しかも露出狂の気まであるようですねェ。」
「冷静に分析してんなっ!!」
武装を使い切ればドンドンパージされて行く事で素肌が露出していく。高威力の武装こそ最初に使い切ってしまった筈なのに、一向にこの爆撃じみた攻撃は終わらない。
露出狂の気があるせいで、興奮して更に暴走しているからのようで、吹き飛ばされながらも分析していたトゥアールに愛香ちゃん、テイルブルーのツッコみが入った。
「麗路のギルディギアで吸収出来ないの?」
「属性力が放出されているか、直接触れないと無理っ!!」
「あくまであのテイルギアは属性力をエネルギーにして実弾、光弾を打ち出すように設計しましたから…」
テイルブルーが属性力吸収装置で吸収して強制的に止められないのかと聞いてくる。がそれは無理なのだ。
テイルレッドとテイルイエローの属性力の使い方が違いすぎる。
テイルレッドのテイルギアは、総二のツインテール属性を鎧の様に全身に纏わせる。
テイルイエローのテイルギアは、装着された武装や鎧を動かすエネルギーにすると言うもので、属性力を吸収しようとしても、手前の鎧に弾かれてしまうのだ。
「完全開放!!」
「おいおいっ!?」
それも打ち尽くしてしまえば終わると考えていたのだが、どうやらトリガーハッピーの気もあるんじゃないか?必殺技の体勢へと移行する。
打ち終わりパージされた武装が一つの大砲を作り上げていた。弾丸はテイルイエロー自身の様で、天空から雷の矢とかしたテイルイエローが降り注ぐ。
「ああ、もう。怪我ぐらい我慢しなさいよっ!完全開放!!」
「ちょっ、待てっ!!」
流石に必殺技をくらえばマズイと判断ししたのか、テイルブルーが相殺するべく必殺技を展開する。三叉の槍が変形し、噴射口にエネルギーの光が灯る。
「ヴォルティック―――――――ッ!ジャッジメント――――――――ッ!!」
「エグゼキュートッ!ウェイ――――――ブッ!!」
天から降り注ぐ雷を纏ったテイルイエローのキックと、下から次元すら穿つような突き上げるテイルブルーの無慈悲な一撃がぶつかり合った。
「それでは今から変態を始める。拙者が動けぬ間、姫様の守を頼んだぞ。」
この場合の変態とは変態行為の変態ではなく、虫等の生物が行う大きく形態を変える方の変態である。虫型のエレメリアンである彼らもまたこの変態を行う事が出来た。
但し特定条件が必要で、空間に属性力が充満している事。それは麗路の家で言えば何処でも条件は満たしている。但し、この変態直後は著しく全体的に自力が落ちており、身を守る術がない。
その為アルティメギルに居た時は、地底湖の水の中で行い肉体が馴染むまでジッとしていなければいけなかった。
「それは分かりましたが、どうしても変態しなければなりませんか?」
「巨乳派、貧乳派の長はリヴァイアギルディにクラーケギルディ。それにそろそろダークグラスパー様や四頂軍も動き出すはずだ。」
それらは全てスパイダーギルディやドラグギルディと同格、または格上の敵。自身の隊の隊長までも敵に回している。
「しかしっ!!アルティメギル様が倒されたというのは確実なのでしょうか。」
「確実…だろうな。その上もしドラグギルディの様に物質を取られている場合……」
「唯でさえ強敵なのに血眼になって攻めてくる……」
自力だけでも上げておかなければ、これからの戦いは守るべき存在を前へと押し出してしまう。本末転倒の、それどころか
「今の、成長限界まで来てしまった我では何れ姫様の足すら引っ張ってしまう。それに…」
「――――男の娘とは生きる事と見つけたり。決してオカマではない。」
「そうだ。あの日、姫様に言われた言葉。そうなりたいと化粧の鍛錬をしようとも、心の内までは男の娘とはならない。男の娘とは見た目が麗しい少女の様であれ、心は野獣の様な男を秘めている物。」
まだまだ麗路が小さい時、この時はスパイダーギルディも男の娘道の探究者として、自身に化粧を施す鍛錬を行っていた。それを見た麗路の指摘に、ショックを受けてしまう。
「それに…」
「それに?」
「いや、何でもない。―――――頼んだぞ。」
「はっ!!」
言いよどんだスパイダーギルディ。まだまだ未熟と自身に言い聞かせ、この変態が終われば想いを告げてみようかとも思う。
見た目麗しい少女の顔を持つ姫様でも、心は立派な男。麗路がいれば、体も男だっ!!とツッコんでいただろうが、ここには居らず、ましてやこれはスパイダーギルディの心の内の話。叶わぬ恋、だがこの変態が終われば叶わないとは言い切れなくなる。
シュルシュルと水の中の代わりに、自身で生み出した糸で繭を作っていく。
「我々は如何すればいいだろう。」
「いつも通りで良いんだよ。」
「ワームギルディ……そうか、そうだな。」
スパイダーギルディという指導者が一時的にせよ居なくなる。不安を覚えるも、決して死んだわけじゃない。自身の鍛錬を行っているだけだと思い込めばいい。
いつも通りの日課を行うべく、スパイダーギルディの繭を残して部屋を出たのだった。
「ぐふぁはっ!!」
手を掛けようとし、そのあまりの威力を持った攻撃で吹き飛ばされる。
「まだ、……まだ」
ドラグギルディもまた自己の鍛錬を行っていた。
「友は我を救ってくれたのだ。」
五大究極試練が一つ、透明な箱でネット通販したものが届くと言うスケイル・アマ・ゾーンの比では無いその鍛錬。テイルレッドの姿を、正確にはそのツインテールを思い浮かべ、何とか耐える。
「我が友には夢を叶えて貰ったのだっ!我もまた友の思いを守る為に戦うっ!!だがその為にはっ――――今の、今の我には想いが足りないっ!!」
吠え、そして手に掛けて解いた。再び衝撃が走ると共に、心の内が空虚感を感じる。受け身すら取る事に罪悪感を感じ、攻撃を余すことなく受け止めなければならない。
ドラグギルディは倒れ伏したまま視線を前へとやった。
「我には無理なのか、生まれた時よりツインテールを愛していた我には、……新しきツインテールを認められないというのかっ!!」
そこには総二が、ロングホーンドギルディや、ドラグギルディすら認める見事なツインテールを持った人形が居た。総二が持てる技術を駆使して結ったものである。
それを一つずつ解いて、新しい形に結い直すという試練を課したのだ。
だが原理的ツインテール派であるドラグギルディには、見事なツインテールを解くだけでもダメージが入り、そして原始的ツインテールに結い直そうとすると心が拒否してしまう。
虫型のエレメリアンの様に変態で力の向上を見込めない自身では、こうして地道な鍛錬でしか鍛えられない。
ましてや最強のツインテール属性であり、頂の一人としてあるドラグギルディが劇的に能力を伸ばそうと思えば、他のツインテールを認める行為以外に道は無かったのだ。
這いずる様にして人形の、ツインテールに手を伸ばす。そこには只々我武者羅に強くなろうとしている騎士が居た。