俺、男の娘から脱却したいです。   作:yosshy3304

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俺、握手会を行います。

何でこうなったと言いたい。目の前には目をキラキラさせて、順番待ちをしている子供達。それに混じり大人しく待っている大きいお友達。というか女性の比率も決して低くは無く、しかも子供の付き添いと言うよりは自分の趣味といった感じだ。

 

「いつも応援ありがとう。」

「が、がんばってくださいっ!!」

 

玩具の箱にサインをして、差し出された手を握る。笑顔で応援ありがとうだけのセリフ。

 

なんでこうなったんだっけと現実逃避気味に思い出してみる。

 

確か今日はファイブテイルの新作変身ブレスレットの発売日であり、マクシーム宙果でイベント販売を行う予定だった。

 

ただ今日は平日であり、だからファイブテイル役の俺も含めた五人は学校があって、エレメリアン達グルノイア役の連中が販売を手伝うと言う事は知ってはいた。

 

知っていたからこそ、学校帰りに寄って少し様子を見るつもりだったのだが、予定入荷日にズレが生じて、今日の夕方からとなっていたのは知らなかった。

 

俺が販売前に現れた事で、急遽お詫びのイベントが組まれる事となったのである。

 

ただ衣装がない。俺も自分家の大事な収入源の一つである事は理解しているからこそ、応援してくれている人をガッカリはさせたくは無かったし、ヒーローショーにも出演してしまっている。

 

学校でもからかいはあるし、ある程度は開き直ってはいた。だけど流石に高校の制服は駄目だと思うんだ。

 

「殿様が居ります。」

「…………何時の間に作った…」

 

そう言うとホッパーギルディが殿様を連れてきた。その手には新品同様のテイルポニーの衣装が掲げられており、しかも奥でビーギルディがスタンバイしている。

 

こうして周りを固められ、俺はただ立ち寄っただけなのに、握手会をさせられるハメになったのだ。

 

「精が出ますね、限無君。」

「会長、何で居るんですか?」

「決まっているじゃないですか。」

 

何故か生徒会長の新堂 慧里那先輩が声を掛けてきた。昨日襲われたばかりで、桜川先生に注意されていたのではなかっただろうか。今日廊下でそう言った話をしていたのを見ている。

 

というか堂々と並んでいたのだろうか?この町どころか世界有数のお金持ちで、販売会社に言えば幾らでも手に入りそうな物を。

 

戦隊というかヒーロー物大好きな会長がマクシーム宙果に来るのは何時もの事だから目を瞑るが。

 

差し出してきた変身アイテムの箱にサインを書く。

 

「はい。いつも応援ありがとう。」

「ありがとうございます。また明日学校で。」

 

偶然と言うのもあるだろうし、そう思う事にして本日何度言ったか分からない御礼の言葉を述べる。

 

差し出した手を両手で握ったら、その上に更に手を重ねて微笑む会長。すぐに離れていったからよかったけど、少しだけ悪寒が走った。

 

会長の歩いて行く先は、そういった過去のヒーロー物のアンティークを置いてある専門店。まだ買うのかと思いつつ、まだまだ並んでいるお客様を捌く為に、前を向いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「人質を離せっ!!」

「断らせて貰う。もし人質を助けたければ、テイルブルーよ大人しくするのだな。」

 

叫ぶテイルレッドは良いのかと聞きたいが、下手な事は出来ない。何せその人質と言うのが俺なのだから。蟹の怪人クラブギルディの両手の鋏が俺の首の所で交差している。

 

鈍い光を放っているその刃は、鋏が肉厚と言う事もあって、無理やり上を向かされており柔らかい首に触れるか如何かと言った所。

 

「くぅー、見事な項だ。しかも男の娘だから貧乳でもある。」

「こいつ、貧乳属性なのか。」

「いや、我は項後属性。だが所属している部隊の部隊長クラーケギルディ様は貧乳属性であり、アルティメギルは総じてツインテール属性よ。」

「わけわかんない事を!!……だけど―――――胸に関する連中は全殺しよ。」

 

うん、生命の危機な筈なのに、何も怖く無い。目の前で気焔を上げるテイルブルーの方が何倍も怖いからだ。人質を取って有利なはずのクラブギルディも顔を真っ青にしているし、テイルレッドも注視しているのはテイルブルーの方だった。

 

「まっ、待て、この人質がどうなってもいいのかっ!?」

 

グングン近づいてくるテイルブルーに恐れをなして、両手を上げて抗議するクラブギルディ。生物の本能で、怖いものから距離を取ろうとする防衛本能が出た為だ。

 

「今よっ!!」

「ギルディオン!!」

 

流石に目の前に刃物がある状態では変身出来なかったが、本能で手を上げてしまった為に、首から鋏が離れる。

 

距離を取る為に、ギルディブレスを叩きつける様に、項後属性の属性力を吸収、変身ワードを唱えて変身。

 

基本的にはツインテールで変身した時とは大差ないように見えるが、胸のパーツに巨大な球体が出現。背後には片方に寄ったウイング。手の部分が鋏に変形していた。

 

前へと飛ぶようにして、突っ込んできていたテイルブルーと交差する。あれ、テイルレッドは何処行った?

 

と思えば向こうの車の影で何かワタワタしている。何やってんだあいつ。

 

そう思ってたら突如車の陰から黄色いツインテールの戦士が飛んできた。

 

「何っ!?新しいツインテイルズだとっ!?ってどわ、驚愕する暇くらいくれてもいいじゃないかっ!!」

「あら、私胸に関する属性力のエレメリアンは即時殲滅を掲げているのよ。」

「怖い、怖いよテイルブルーっ!!」

 

いやさ、名乗りぐらい聞いてやれよとも思う。折角『わたくしはテイルイエロー!第三のツインテイルズですわっ!!』って胸を張ってたんだから。ほら落ち込んで敵のモケモケ(アルティロイド)に慰められるという珍事件を起こしてるじゃないか。

 

というかテイルブルーの言っている事が怖すぎるんですけど。

 

「せめて雑魚ぐらい!!」

 

と意気込んで、手を貸してくれたアルティロイドにその銃口を向ける。

 

「モケ?」

「あ、あら?」

 

なにそれ。その夜店のコルク銃とか、子供向けの怪我をしない弾を発射する鉄砲みたいな威力は。

 

「…モ、……モケ。」

「ど、同情は要らないですわぁ!!」

 

しかも相手も、これ如何したいいと言う雰囲気が流れている。終いにはそれこそ子供と遊んでいるお父さんの様に、パタリと倒れるアルティロイド。泣きながら去って行くテイルイエロー。

 

「あ――――…………」

「取り敢えず、片付けようか。」

「そうだな。」

 

隣まで来たテイルレッドがそんなテイルイエローの様子を見て、どういえばいいのか分からないといった表情をしている。俺もそれに答える事は出来ない。仕方がないので、テイルレッドと協力してアルティロイドだけ倒してしまう事にしたのだった。

 

向こうで、項を見る為に背後を取る事に人生を費やしたと言うだけあって、テイルブルーの凶悪的な攻撃を回避しまくっていたが、それでも背後にしか避けれないと言う事を見抜かれ、あっさり倒されたクラブギルディ。

 

うん、一言言わせて貰おう。今日は厄日だ。


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