「はぁ、気が重い…」
目の前に佇む旅館の様な自宅の玄関が見える場所で溜息を一つ吐いた。
旅館の様なと評したが、実際にここは数年前までは旅館であった。だからこそ玄関は広く、ガラス張りで奥が見えている。
その正面に気を重くしている元凶の一人が腕を組んで堂々と立っていた。
「はぁ、ただいま。」
「お帰りなさいませ、我が姫よ。」
「姫って言うなっ!って何時も言ってるだろっ!!」
「そんなご無体な。我が属性力は『男の娘』属性。無限の男の娘属性を持つ、完璧な男の娘である姫以外に誰を姫と呼べとっ!!」
「ああ、はいはい。」
「姫っ!!」
こうしていても如何にもならないと、気力を振り絞って玄関の扉を開けようとするが、こちらに気付いた目の前の人物によって先に開けられる。
溜息を一つ吐いて帰宅を告げるが、返された言葉に思わずツッコんでしまった。
総二にも勝るとも劣らない変態にである。当然無駄に熱く言い返され、頭を抱えるも、変に対処した方がめんどくさくなると知っている為、軽く流し、相手をしない。
「…なにやら今日の姫は一段と美しいと思えば……」
「だから姫って呼ぶなってば。んで、なにさ。」
「最強のツインテールではありませんかっ!!」
「あ、これは…」
普段ならばもう少しウザいのだが、何やら黙ってこちらを見ていると思えば…、総二にされたツインテールをそのままにしていたのを忘れていた。
こいつらの基本はツインテールらしい事もあり、何となく手をツインテールへと持ってくる。
「姫がツインテールにしているだってっ!!」
「なぁにぃっ!!」
「うわっ!?」
隣を歩くこいつが叫んだ瞬間、奥からドヤドヤドヤと変態達が雪崩れ込んでくる。
「貴様等っ!!お父上に言われた仕事は終わらせたんだろうなっ!!」
「わぁぁ……、スパイダーギルディ様、ご勘弁をっ!!」
「待たんかっ!!」
そんな変態達の様子に隣を歩いていた変態、まるでどこぞの仮面ライダー響鬼の様な蜘蛛の怪人男は怒鳴り散らす。
「あ、おかえりなさいませ~。」
「あ、ああ。ただいま清水君。」
そんな変態達を見送って、出そうになる溜息を耐えながらリビングに改造した部屋へと入ると、巨大なミミズ。いやにクネクネとした動きにミニスカートを穿いているワームギルディが声を掛けてきた。
ちなみに清水君と言うのは、あくまで怪人の着ぐるみと言うスタンスを貫いて、この世界でも普通に生きていけるように、俺が付けた名前だ。元ネタは南国少年パプワである。
と言うか、スカートって意味あるのだろうか?ミミズは両性具有だった筈で、男の娘属性と言うよりオカマに近いのではないだろうか?と言った疑問はとうの昔に遥か彼方に行っているから良いとして。
「皆、何で表に居るの?」
「セットが崩れてきちゃって、作り直しなんだって。」
「怪我人はって聞く方がおかしいか。」
「うん。皆一応武人ばっかりだからね。怪我人は居ないよ。」
何で皆が表側の、こちらの元旅館である自宅に居るのだろうかと言う疑問をぶつける。今の時間は父親の手伝いをしに裏で作業をしている筈なのだから。
そしたらそう答えが返ってきた。
父親の職業は特撮物の監督であり、そのため怪人役として変態達は重宝されていたりする。
変態の癖に、何だかんだとスパイダーギルディを筆頭に武人肌というか、それぞれ武を修めていたりするから今回の様な事故にも大活躍を見せてしまう。
「それにしても、姫様がツインテールにしているの、子供の頃以来だね。」
「ああ、そういえば子供の頃も総二にツインテールにされたっけ。」
他の誰かに言われたら怒ってしまう事でも、何故かワームギルディこと清水君に言われると腹が立たない不思議。
「いいんじゃない?今日ぐらいは…」
「いや、解くよ。邪魔だし。」
「そんなご無体なっ!!」
「お前もかっ!?」
だが、結局は此奴も変態の一人であり、ツインテールを解くと言うと、全身で驚きを表現し、叫びつつクネクネと迫ってくる。
「ああ、もう。結局いつも通りかっ!!」
迫ってくる清水君を抑え込みながら、麗路の叫びが木霊した。