外は既に夕焼けの様で茜色の光が窓から差し込んできた。薬品棚に鉄製のシンプルな机。ベッドが二つ並び、カーテンで仕切られるようになっている。
学校の保健室のセットで、あそこから近い、と言ってもまだ敵か味方か分からない状態で家に入れる訳にも行かないと、此処に運んだのだ。
「ぬぅ、ここは…」
目の前にある黒い鎧がゆっくりと起き上る。
「学校の撮影に使われる保健室のセット。」
俺の言葉にガバッと起き上るドラグギルディ。
「ふん、起きたか。」
「…スパイダギルディ?」
「その名は捨てた。今の私はスパイダーギルディと呼んで貰おう。」
「変わってないじゃないかっ!!」
「いえ、姫様。これは心の、覚悟の問題と言いますか…」
後ろで、ドラグギルディが気付くまで、交代で見守っていた俺達を警護していたスパイダーギルディが声を掛け、そこで初めてスパイダーギルディに気付いたようだった。
その名を呼んで、スパイダーギルディが訂正する。と言っても音を伸ばす棒が有るか無いかの差で、思わずツッコみを入れると、しどろもどろに言い訳してくるスパイダーギルディ。
「私は、そうか、敵に情けをかけられたか…」
「…アルティメギルは如何してしまったと言うんだ。」
「お前は、そうであったな。ここ数年は顔も見せておらなんだ。」
そんな様子を見て驚いていたドラグギルディだったが、何故自分がこうして無事なのかと悟った様であった。テイルレッドとの死闘の後に倒れてから記憶が無いとはいえ、こうして無事ならば答えは一つしかないのだから。
そんな落ち込んだ様子のドラグギルディに、下手に声を掛けていいものか迷ったようスパイダーギルディが声を掛ける。
最初は何を言っているのか判らないといった様子だったドラグギルディだったが、スパイダーギルディがここの所本拠地へと戻っていない事を思い出したようだ。
そんな時、外からワイワイと騒がしくやってくる音がする。
まぁ、騒いでいるのはトゥアールとかいう科学者と愛香ちゃんだろう。総二の静止の声と、鶏の首を絞めたかのような叫び声が聞こえるから。
「っ!?…目が覚めたかよ。」
「お前は…」
扉を開けた瞬間、ドラグギルディが起きていた事に驚くも、すぐに声を掛ける。ドラグギルディも言葉を返そうとしたが…
「誰だ?」
「あらー、ってか判らないのも無理ないか。テイルオンっ!!如何だ、これなら判るだろ。」
「っ!?テイルレッドだと!?」
まぁ、ドラグギルディが総二の事を知らないのも無理は無く、疑問の声を上げる。さっきまでのシリアス調を崩されてズッコケる総二だったが、すぐにその事に思い至り、テイルレッドへと姿を変えた。
ドラグギルディが驚くのも無理は無く、何せ男から幼女へと姿を変えるのだから。
「総二、大丈夫っ!!って、何やってんのよっ!?」
「まぁまぁ、起きたばっかりだから…」
総二の変身の掛け声に、何かあったのかもしれないと駆け込んできた愛香ちゃんであったが、テイルレッドとドラグギルディの様子に叫ぶようにツッコみを入れた。
「むぅ、やはり、これほど見事なツインテールは早々見た事が無い。」
「だろ、俺も気に入ってんだ。」
何せ目の前では、テイルレッドのツインテールを手に持って、極上の絹の様にスリスリと撫でまわしている変態二人が居るのだから。
「…ドラグギルディ。」
「むっ、…今は仮面ツインテールであったか?」
「ええ、だけど何の因果か、こうして顔を合わせたのです。…トゥアールと呼んでください。」
「承った。」
「…何故、何故、私じゃないのですっ!?私の世界は、もう属性力を生み出す事など無いと言うのに……」
だが愛香ちゃんのツッコみですら気付かなかった二人であったが、トゥアールの小さく呟いた言葉には反応し、ドラグギルディがその名を呼んだ。
だけど、感極まったのか、スパイダーギルディとの出会いから始まり、エレメリアンとの仲のことも説明済みで、テイルレッドとドラグギルディが何だか仲の良い風景に泣き出してしまった。
もしトゥアールの世界も、俺達の様に平和的に解決する事が出来ていたのならと考えずにはいられないのだろう。
「私の、私の世界では、もう…、幼女を可愛がっても誰もツッコんでくれないのに!!その所為で触り放題なんですよっ!!」
「だから、何でアンタはこんな時でも変態思考にいくのよっ!!」
「ちょ、待って愛香さん、ここは感動する場面ですよぉ「どう見てもツッコみを入れる場所でしょがっ!!」あんぎゃぁぁぁ…」
だが続いて出てきた変態的なセリフに、愛香ちゃんによって物理的に黙らさられる。思わず筋肉バスターと言いたくなってきたのだが、その前にパンツが見えていたり、色々台無しであった。
「クク…、すでに心の整理は付いているか。ならば私も覚悟を決めよう。」
「いや、俺はお前を倒さない。」
「なに?」
「それよりも、同じツインテールが好きで好きで大好きな馬鹿なんだ。手を取り合えるはずだ。」
トゥアールのその様子に、すでにドラグギルディの事なんかどうでもいいと言った雰囲気が感じられ、その事に笑いが込み上げてくるドラグギルディであったが、それでも部下の事を考えれば許されるはずも無く、だがテイルレッドの手を見つめる。
「すまん。その手を取る事は出来ない。」
「なっ、何でだよっ!?」
「私はエレメリアン。人の心を奪い生きる化け物だ。」
「ならっ!!」
「だからこそっ!!だからこそ、そこな嘗ての戦士の様に我らを恨んでいる者達も居る。助けられた身だ。恩人に危害が加えられるの可能性を、黙って見ている訳にはいかない。」
テイルレッドの状態で、上目使いにドラグギルディを見上げる総二だが、その眼を真っ直ぐ見つめてドラグギルディはその手を取る事を拒否した。
その理由として例え、宿敵として相対していた相手だとしても、命を助けられたことには変わりなく、その恩を仇で返す様な事をしたくないと吠える。
だがそんな理由では、この熱血ツインテール馬鹿は止められない。ほら眼の奥に炎が灯り出したのだから。
「うるせぇ、お前は生きるんだよ。俺が助けたのは死なせるためじゃねぇっ!!」
「なっ!?だが…」
「だがもくそもないっ!!狙われるってんなら、撃退すればいいし。お前に勝った俺だぞっ!!それに、死ぬのが償いじゃないっ!!勘違いすんなっ!!」
無理矢理な理論が展開される。だがその言葉の熱に、ドラグギルディの目にも光が戻ったかのような気がした。属性力は心から生み出される。
心が弱っていれば、生み出される属性力もまた弱いと言う事だ。テイルレッドの、ツインテール馬鹿だが心は熱い総二には、他人の心に火を点けてしまうという特技がある。
「そうですね。今あなたが倒れても、私の世界に属性力が戻る事は無いのですから。生きて償って貰います。」
「そうね。敗者は黙って勝者の言う事を聞くって言うしね。負けたアンタが何だかんだ言ったって、結局は総二の心次第よ?」
トゥアールも、と言うか復活速いな。愛香ちゃんも総二の味方をする。俺達も総二の意見には賛成で、周りに味方が居ない事を悟ったドラグギルディは、スパイダーギルディの方を見て、互いに頷く。
「…私の知っている事なら何でも話そう。これから宜しくお願いする。」
ドラグギルディの言葉に、部屋が歓声で埋まった。何時の間にやって来たのか、家に住んでいる変態達が集まって来ていたのだ。全く、良かったと思ってしまったよ。