あの日から幾ばくかが発った。総二はほぼ毎日の様に攻めてくるエレメリアンとの戦いに赴き、辛うじて勝利を掴んでくる毎日である。そんなある日だが、中々エレメリアンが現れず、愛香ちゃんと共に俺の撮影の様子を見に来たらしい。
ヘアードレッサー!!ファイブテイルの主人公はツインテールにしている9歳の女の子。ある日髪形を食い物にしている化け物に襲われるが、その化け物は仲間から裏切りにあい、近くに落ちていた人形に力を封じ込められる。
その事に怒ったその怪人は主人公に力を貸して裏切った化け物達を打倒していくという物語だ。
この主人公役の子、朝霧 真奈美ちゃんは、昔から父さんの特撮によく出ている女の子。この子5歳から歌舞伎をやっており、女は歌舞伎役者になれないと知って、アクション女優へと転向した子だ。三歳ごろから小さい子供のスーツアクターとしても活躍しており、ゴテゴテした衣装での殺陣もこなせてしまう。
テイルレッドがモデルであるテイルツインの配役にピッタリの子であったりする。
そんでもって俺の配役は、その主人公の子が初めてピンチに陥った所で助けに来る主人公の兄の役。この兄主人公と顔立ちが似ており、女の子とからかわれた事で引き籠りになってしまう。だが大好きな妹の為に身を挺して駆けつけると言う話だ。
そして駆けつけた兄に例の怪物入り縫い包みが戦士として覚醒させてしまうと言うもので、正しくそのシーンを取る為に今自分はこんな恰好をしている。
テイルレッドに似た衣装、主にアーマーや布で覆われているが、肩の部分が大きく露出しており、さらには特殊メイクによってはみ出んばかりの胸が強調されている。
色は白と言うより銀色に輝き、黒い縁取りがされている。所々に赤いアクセントがあり、目は黄金色のカラコンを付けさせられた。
髪の部分は前は五分分けにされ、普段高めにポニーテイルにしているように、テイルレッドのウイングの様な髪飾りを二つくっ付けたリボンの様なもので結われていた。
ほんのり化粧をされている事を除けば、普段通りで。この姿を見た愛香ちゃんに歯軋りされていたりする。俺は男だっ!!
「本当に、もぎ取ってやろうかしら。」
「はいはい、あまり強く掴むと、本当にもぎ取れるからやめてね。もうすぐ出番なんだから。」
小声で、俺の胸に出現した巨乳を握りしめ恨めしい目で見てくる愛香ちゃんを宥め、視線を前へとやる。
テイルツインがカマキリの怪物であるマンティスグルノイアと対峙し、その攻撃でツインテールが切り取られようとしている。
ちなみにマンティスグルノイアは言わなくても分かるだろうが、マンティスギルディだったり。何気に怪人役として人気が高い。
「う、うう…、誰か、助けて……、お兄ちゃ、ん…」
今だと言う指示を受け、一段高い場所で待機していた俺はマンティスグルノイアに向かって飛び降りるのだった。
ちなみにマンティスギルディが衝撃を逃がすように吹き飛ばされたように見せかけながら抱きとめてくれる。ことこう言った事は得意な奴で、本当に凄いのか凄くないのか判らない奴等である。
「お待たせ、双羽。」
「…結唯お兄ちゃん?」
「うん。」
俺の役である神野 結唯が変身した姿でテイルツインに手を差し伸べる。だが吹き飛んだマンティスグルノイアもまた起き上ってしまう。
「貴様は誰だっ!?」
そしてお約束の誰何のセリフで、二人そろってポーズを決め名乗りを上げる。
「空に映るは一つ結い。ポニーテイルは至高の証!!テイルポニー!!」
「風に靡く二つ結い。ツインテールは最強の証!!テイルツイン!!」
そこで互いに場所を入れ替え、ハイタッチを決める。
『二人はヘアードレッサー!!』
まだメンバーが揃って居ない為、名乗りもまだタイトルに程遠い。
「おのれヘアドレッサーめ!二人になった所で関係ないわっ!!」
そうマンティスグルノイアが宣言した所でカットが掛かった。
「はぁ、とちらなくて良かったぁ。」
「あはは、麗路さんがセリフ間違った事なんて一回も見た事無いですけど。」
「それでも毎回緊張するんだよ?」
何とかセリフを間違えずに、ポーズも決まったと思った。さんざん恥ずかしいのを我慢して練習したからなぁ。真奈美ちゃんが笑いながら話しかけてくるが、そんな余裕はない。
流石に真奈美ちゃんは緊張なんかしない様で楽しそうにスタッフやギルディ達と話していた。
「うをぉ、早くテレビで見てぇ。」
「うん、そうだろうと思ったよ。」
総二はカットが掛かった瞬間に息を吐き出し、嬉しそうに悶えている。真奈美ちゃんにツインテールが似合っている事もあり、テイルレッドがモデルだとは言え、絶対こいつグッズとか買い集めるだろうなと思えてしまう。
隣で愛香ちゃんがそんな総二の様子に溜息を吐いた瞬間、総二にエレメリアン反応が出たと知らせが入った。急いで走り去る二人を眺めながら、もう少しこの肩こりと付き合わなければならない事に溜息が止まらない。
「麗路さん、次の準備が終わりましたって。」
「はいはい、今行くよ。」
もうこうなったらさっさと終わらそうと立ち上がり、次のシーンを取る為に舞台へと上がるのだった。
明日と言うか今日ですね。更新が出来なさそうなので、今のうちに更新しておきます。