「なぁ、総二?」
「何だ?」
高校一年に進学した俺は、すぐ隣の幼馴染である観束 総二に怒りを耐えて問いただす。
わなわなと震え、拳を握る手にも力が入るが、それでもまずは手を出すよりも、問いただす方が先だと思ったからだ。
「何をやってんだ?」
「ツインテールに決まってんだろっ!!」
そう此奴は大のツインテール馬鹿なのだ。それこそツインテールを見れば、そのツインテールの持ち主がどんな人間か分かると豪語するほどであり、先程部活の入部希望または新設希望にツインテール部と書いたほどである。
そんな馬鹿はまたも馬鹿をやっている。小さい頃から何故か、姉や母に懇願されて長く伸ばしている俺の髪を、二つに、ツインテールに結っているのだ。
「何でそんな事をしてるんだ?」
「似合ってるぞ。」
「俺は、男だっ!!」
まだだ。打ん殴るのは早いと何故そんな事をしてるんだと問い返せば、小さい頃から言われ続けた言葉で返される。
俺は男で、女の髪形であるツインテールなんか似合わないと言い続けるも一向に聞いてくれない。それどころか、騒ぎでこっちを見ていたクラス中の視線が、お前何言ってんだ?と語っていた。
これも何時もの事。くっ、もう少し身長と筋肉があればと考えた事は数知れない。
「ほんと、麗って女の子みたいだよな?」
「訳すな、女見たいって言うなぁっ!!」
限無 麗路(げんな れいじ)の魂の叫びが木霊した。取り敢えず総二は打ん殴って置く事にする。
ふわりと視界の隅で揺れるツインテールが鬱陶しい。ああ、自分の髪なのに、引き千切ってしまいたい衝動に駆られる。
麗路は名前を訳される事が嫌いだ。見た目ですら女みたいなのに、名前まで女見たいになるから。
母親譲りのパッチリした大きな目に、何処のアイドルだと言いたくなる小顔。家族全員の共通事項。ガッチリした強面の父親ですらそうなのだから、麗路が受け継がない訳が無かったプックリした唇。二重で、長めのまつ毛はクルンと自然にカールしてしまう。
低身長であり、筋肉は付くのだが、外側に現れる事は無くほっそりとしている。いや、胸だけ三角筋が少し盛り上がり、服を着て隠せば膨れ始めの女性の胸の様だった。しかも無駄な脂肪をそぎ落とした事で腰に括れが出て来る始末。
声変わりがまだな所為で高い声色。なのにキーンとする様なものでもなく、正しく男の娘と言えた。
せめてもの抵抗に髪を短く切ろうとしたが、家庭内のヒエラルキー上位に組する母姉連合に泣いて阻止された上、もし切ったりしたら、小さい頃の写真をばら撒くと脅された。
姉のお古。それもヒラヒラのドレスやゴスロリの様な服を着せられている写真だ。自分が見ても似合っているのが嫌だ。
それ以来、何とか男らしくしようとしているも、全てが逆の結果に繋がって行く。
髪を高く、丁髷の様なポニーテイルにしていたのだが、それも解かれて総二にツインテールにされてしまった。
「はぁ…、なぁ、総二。お前ってそっちなの?」
「そんな訳無いだろっ!! 俺はツインテールが好きなだけだっ!!」
家に帰れば、ある事情から心休まる時間は無い。一つ溜息を吐いて、せめて学校だけは安らぎの時間を得たいと、総二に諦めさせようと、噂として広まったら大変な事になりそうな事を聞いたが、きっぱり否定された上、変態的な魂の叫びを上げる幼馴染にガックリとくる。
「愛香ちゃんは?」
「世界一のツインテールだっ!!」
「ツインテールと付いてなければいいのに。」
もう一人の幼馴染の名前を上げる。愛香ちゃんはこのツインテール馬鹿に恋する女の子であり、総二がツインテールを好きな事を知ってから、毎日その髪をツインテールにしている。
総二曰く世界一のツインテールと言う事であったが、そういうものだろうか。
総二は愛香ちゃんの恋心には気付いておらず、意識すらしていない。良くて仲の良い友達、いや、親友ぐらいは考えているかもしれないが、愛香ちゃんも報われないなぁ。
「あ、総二。」
「如何した?」
「ツインテールを愛しているって叫べるよな。」
「当然。」
一つ思いついた事があって、総二に問いかけると、間髪入れずに返事を返してくる。
「じゃさ、愛香ちゃんのツインテール愛してるってここに叫べる?」
「任せろ。」
携帯の録音機能を入れて、総二に叫ばせた。と言ってもまだ教室だから、声は押さえさせて。でないと本当に叫ぶからなこいつは。
後でパソコンで編集した後、愛香ちゃんに売りつけよう。
それにしても、確実に手に入る臨時収入よりも、家の事を考えると気が重くなる。
「はぁ…」
「なんか溜息ばっか吐いてないか?相談ぐらい乗るぞ?」
「ああ、大丈夫。ほら、愛香ちゃんも迎えに来たし、帰ろう。」
「あ、ああ、そうだな。」
こんなツインテール馬鹿だが、正義感が強く真面目な性格な上、顔もソコソコ整っている所為でまぁモテル。せめてそのモテ力を少しでも分けてくれと考えながら、帰路についたのだった。