麻帆良祭二日目の朝、疑問を浮かべながらアーチャーからの報告を聞いていた。
「麻帆良武道会にアルビレオ・イマが……?」
「麻帆良祭一日目の夕刻から行われた予選会に姿を現したようです。高畑教諭も出場しているようでした」
何をやっているんだ、と言いたくなる。そもそも魔力が満ちる麻帆良祭の期間しか表に出てこられないため、気分転換の意味もあるのだろうが──まぁ、やることが増えたとは言ってもたまに息抜きするくらいは構うまい、と思う。
だが武道会に出るなど意味がわからない。何か理由があるのかと考えつつアーチャーに質問を重ねる。
「……主催者は?」
「マスターのクラスの超鈴音です。そのほか、気になる出場者もいるにはいましたが……」
「アーチャーが気になる、というほどか。実力者か、厄介ごとか。どっちだ?」
「両方かもしれません。同名の別人であればいいのですが、出場者の中に"スカサハ"という名があったもので」
その言葉に目を見開く。
"影の国"の女王にして門番。不死の神殺しとまで呼ばれるスカサハと同名を語るとは──。
俺は出身こそウェールズだが、グレートブリテンとして統一されている以上ケルト神話に触れることも多かった。大英雄クー・フーリンを語る上では外せない存在でもあるし、彼女自身格としては最上位に位置する英雄でもある。そして、そもそも彼女は『死んだという伝説そのもの』が存在しない。
人理が焼却されるような事態にならない限り、スカサハはサーヴァントとして召喚することも出来ない。
そのスカサハがいる。どういうことだ、と軽く頭を悩ませる。
偽物ならば話は早い。放っておけばいいだけのことだ。
だが仮に本物である場合、対処できる者はおよそ存在しない。サーヴァントとして召喚されるとは生前に比べて力を制限されるということでもある以上、生身のスカサハであれば神殺しの特性も相まって神性持ちのアーチャーでは分が悪い。
「……本人である可能性は?」
「気配遮断をしているのか、予選以降姿を追えませんでした。私の追跡を振り切ることが出来たあたりを加味しても、本人である可能性は十分にあります」
思わず舌打ちをする。
目的に寄るが、敵対した場合打てる手がかなり限られてくる。
そもそもどうしてここに現れたのか。何を目的として武道会に出るのか。
アーチャーの眼を以てしても捉えられず、対応は後手に回るしかない。千里眼でも持っていれば別かもしれないが、生憎アーチャーは千里眼のスキルを持っていない。ネギはここにきて現れた謎の存在に頭を痛めるも、すぐに報告すべきだと判断した。
「電話で一報しておくが、直接的な連絡はお前が行ってくれ。盗聴されている可能性がある」
「はい。学園長殿に伝えた後、もう一度足取りを追ってみましょう」
すぐに学園長に電話をし、早朝にも拘らず電話したことを謝罪して報告にアーチャーを向かわせたことを伝える。
ただ事ではないと思ったのか、学園長はすぐに了解して電話を切った。
電話は盗聴の危険がある。魔法使い同士で連絡を取り合う場合は念話をすることが多いが、こちらも盗聴の危険性はゼロではない。現段階では真偽が判別できないものの、盗聴している可能性のある超にわざわざ聞かせる必要もない。
──超鈴音。
俺が知っている限りでは学園祭で行動を起こす可能性が高いはずだが、未だ行動を起こさないどころかこれまでの行動そのものが大人しくなっている。
だが麻帆良武道会を開こうとしている以上、何かしらの行動はしているのだろう。禁止項目に『呪文詠唱の禁止』が入っていることからもそれは明らかだ。
「麻帆良武道会にスカサハか……仮に本物だとしたら、なぜ影の国から出てきたんだろうな」
彼女は影の国の女王であり門番。生半な理由で出てくるような存在ではない。そこには確かな理由がある。
闘争を好むケルトの英雄。
ならば現れた理由は闘争か……あるいは、誰かと交わした
一つ一つ考えるが、やはり情報が少ない。麻帆良武道会に出ることはわかっているのだから、一度見てみるべきだと判断し、すぐに準備を整えて部屋を出た。
●
麻帆良武道会は全員が一度目の試合を終え、二回戦へと進んでいた。
まるで弱者のみを振るい落とすがごとく振り分けされたトーナメント戦で、残ったのは八人。
タカミチ・T・高畑、桜咲刹那、犬上小太郎、クウネル・サンダース、龍宮真名、古菲、長瀬楓──そしてスカサハ。
表の実力者も混じってはいるが、ほぼ裏の実力者たちだ。超鈴音の思惑もあってか、残された面々はそうそうたる実力者といえるだろう……あくまでもこの大会に集った中では、となるが。
「……どう思う」
「間違いないでしょう。本物です」
アーチャーはスカサハと実際に会ったことがあるわけではない。だが、その動きを見て実力をある程度把握することは出来る。
具体的にどう判断しているのかはわからないが、彼が言うのなら本物なのだろう。
手に持つモップは単なる市販品のようだが、刻まれた見慣れない文字を見る限り、おそらくルーンを刻んで強度を上げているのだろう。
……というか、正直彼女はいろんな意味でかなり目立っている。
実力者ということもそうだが、全身タイツで赤目でスタイルのいい女性というだけで目立つ。
「試合は……次か」
二回戦最初の試合は龍宮さんと古菲さん。スカサハの試合はその次だ。超さんが警戒している二人をぶつけるとは主催者の権限をうまく利用しているな。
試合内容に興味が無いとは言わないが、スカサハの対応を考えておかねばならないので見ることは出来ない。アルビレオ・イマと話しておく必要もあるだろう。
そう考えて選手控室の方へと足を運ぶと、すぐ近くに高畑さんがいた。一応控室は選手以外立ち入り禁止なのだが緊急ということでここは一つ誤魔化してしまうとしよう。超さんにはあまり見つかりたくないがこればかりは仕方ない。
「おや、ネギ君。アーチャーさんも連れてどうしたんだい?」
「ちょっと緊急の用事が出来まして。クウネル・サンダースという選手がいるはずですが」
「緊急? ……彼なら開会式の時と一回戦の時以来見ていないね」
ふむ。どこに行ったのやら。と考えていると、背後から声が聞こえた。
「こちらにいらしてたんですか、ネギ君。丁度よかった」
「アル──クウネルさん。こちらも丁度話したいことがあったんですよ。高畑さんも出来れば」
「アル!? なんであなたがここに……」
「長々と話す時間はありませんので、手短に話しましょう」
そういえば高畑さんはこの胡散臭い男が麻帆良にいると知らなかったんだったな。その辺の話は追々二人でしてもらうこととして、俺は俺の用件を済ませることにする。
スカサハの姿は外で確認している。ここなら話が漏れることもないだろう。
アーチャーの気配察知をすり抜けるのは如何にスカサハとはいえ難しいだろうし、込み入った話をするには都合がいい。
「この大会に出ているスカサハという女性についてですが」
「それに関して私も話をしたかったところです」
「僕の対戦相手の? 彼女がどうかしたのかい?」
「
「歯切れが悪いですね」
「伝承でしか知りませんから。ですが、おそらく実際の実力はアーチャーに匹敵するかそれ以上です」
そう伝えると、二人とも悩ましそうに考え込む。無闇に暴れることはないはずだが、ケルトだからな。
アーチャーの実力はそれなり以上だとわかってはいるはずだが、その彼に並ぶかあるいは超える実力者だということは想像しにくいのかもしれない。実際に戦っているところを見たことがあるのはエヴァや桜咲さんくらいだしな。
……アルビレオ・イマならどこかで覗き見していてもおかしくはないが。
「なので、高畑さんは油断も慢心もなく最初から全力で戦ってください」
「ぜ、全力でかい? それはちょっと厳しいんじゃないかな……」
一般人も多く、居合拳は攻撃範囲が広いこともあって全力で戦うには向いていないという。
そういわれるとそうだな……しかも衆人環視の中で咸卦法を使うのもどうかって話になるし。魔法ばれを防ぐのも俺たちの仕事である以上、下手に動くことは出来ないか。
ともあれ、様子見するしかないか。
「クウネルさん。あなたも気を付けてください。彼女は原初のルーン使いでもあります。どれだけ魔法に長けていてもそれだけでは抑えることは不可能でしょう」
「……どこからそういう情報を手に入れるのか気になるところですが、気を付けましょう。私も死にたくはありませんしね」
クーフーリンもそうだったが、武勇に秀でているうえに魔法魔術に精通している相手など戦いたくはない。
純粋な武勇でヘラクレスを超える英雄はそうそういないが、出来ることの多さでは負けることもある。というか、クーフーリンだってヘラクレスに負けず劣らずの大英雄だ。その師であるスカサハも言わずもがな。
もし超一派の差し金なら学園にいる全戦力でようやく差し違えるくらいの覚悟が必要だろう。
「……そろそろ時間だね。色々聞いたけど、やはり実際に戦ってみるのが一番だろう。僕がどれだけ食いつけるかはわからないけど、出来る範囲でやってみるよ」
そういって、高畑さんは控室を後にした。
忙しいのが欠片も変わってないどころか余計に忙しくなってる気さえしますが、生きてるのは生きてるのでそのうちまた更新すると思います。
申し訳ないですが気長に待っていただけると嬉しいです。
一応いろんな鯖が出る見せ場とか考えてるので、早いうちにそこまで書きたいところ……。