「──では、今年の3-Aの出し物はメイドカフェということで」
「「「異議なーし!!」」」
夕暮れ時のHRで、彼女たちは喝采を上げている。他の候補としてはお化け屋敷だったり演劇だったりと、このクラスのバイタリティをもってすれば繁盛するであろう物もあったのだが……まぁ、メイドはさておきカフェというのは悪くないんじゃなかろうか。
社会経験という意味でも接客や調理というのはどこかに就職した場合でも役に立つだろうし。
……このクラスの面子だとそういうことはあまり考えていなさそうだが。あと、滅多に関わろうとしない長谷川さんが生き生きしているのもこの出し物にした理由の一つでもある。
小さなきっかけでも、少しずつクラスに馴染んで欲しいものだ。あと一年もないが、まだ遅くはない。
何かを始めるのに遅すぎるということはない。誰しも願いを叶える権利は平等だ。
「出し物も決まったので、キッチンとホールの班分けに内装、それからシフト割も作らなければなりません。部活の出し物もあるでしょうから、最低限の人数を確保するためにもシフトの希望日時と時間帯、キッチンかホールかを紙に書いて提出して下さい。あ、これは部活などの兼ね合いもあるでしょうから、明日か明後日までに提出して貰えれば構いません」
朝のHRでメイドカフェをやると言っていた彼女たちにたいし、真っ白な紙を配る。レイアウトを作っている暇はなかったので仕方がない。
ワクワクしながら話している彼女たちに対し、つまらなそうな目でぼーっとしているエヴァのもとにも紙を配る。
彼女もこのクラスの一員だ。今のままで行けばこのクラスの一員として卒業できるのだから、最後だと思って頑張ってほしい。
「……私にもこれをやれということか」
「ええ。貴女が何者かということは関係ありません。皆対等、平等に権利はありますから」
どうあれ、エヴァに配っておかねば怪しまれるかもしれないしな。
さて、と教壇で一息つく。
「ひとまず出し物は決まりました。これから内装と何を出すかを決めたいのですが……まぁ、今すぐメニューを決めろと言っても無理でしょう。先程配ったシフト割のための紙を含め、明日か明後日当たりまでに簡単なレイアウトを決めたいと思っています」
「どんなものでもいいんですかー?」
「公序良俗に反しないレベルにしてくださいね」
こーじょりょーぞく? と首を傾げている鳴滝姉妹。まぁこの二人は暴走するとしたら周りに乗せられてだろうし、特に暴走しやすい柿崎さんや早乙女さんには釘を刺しておくべきだろうか。
チラリと視線を向けてみれば、二人とも明後日の方向を向いて全力で目をそむけている。
……釘を刺しておくべきだろうなぁ。
「公序良俗に反するような店になると僕が判断した場合、この案は取りやめになります。期間によっては出し物無しになる可能性もありますから、気を付けてくださいね」
ええー、というクラスの少女たち。当たり前のことです。
それをきちんと理解している数名の少女たちにはしっかりと念を押して置き、今日のHRは解散とした。
ワイワイガヤガヤと話しながら部活に行く者、この場でレイアウトを考え始めた者、帰ろうとしている者などにわかれる。
俺は出し物を決定したとして書類にその旨を書き、新田先生に提出するために職員室へと戻る。
職員室にはHRで決定したであろう書類を持って新田先生のところに足を運ぶ先生たちがおり、俺もその中に混じって書類を出す。
「おお、3-Aも出し物が決まったのですか……カフェですか。ふむ、いいですね」
「彼女たちもやる気を見せてくれていますから、成功させたいですね」
ちなみに、メイドカフェというのはカフェの一種なので軽食を出せる飲食店として提出している。そのままでも却下はされないだろうが、念のためである。
書類も提出し終わりやることもなくなったので帰ろうかとしていたのだが、荷物を持ったところで瀬流彦先生に声をかけられた。
「あ、丁度よかったよネギ君。これから僕らでご飯を食べに行く予定なんだけど、一緒にどうだい?」
「今からですか?」
高畑先生も出張から帰ってきており、彼の分の夕飯を作る必要もあるのだが、高畑さんも一緒ということだし別に構うまい。
なんでもこの時期にしか出店しない超包子という名前の屋台があるらしい。らしいといっても、一応超さんや四葉さんのことだし担任の俺には話が来ているので知ってはいたが。
美味い、安い、早いの三拍子揃った麻帆良祭準備期間限定の屋台ともなれば人も多く、かなりの大繁盛をしているのだとか。
●
そうして終業時刻となり、鞄を持って俺たちは超包子へと足を運ぶ。高畑さんは一度学園長のところに寄る必要があるとかで遅れるらしいが、左程気にするほどではあるまい。
料理に限らず人が作るものには癖があるものだが、四葉さんは中学生にして癖が少なく安定した味の料理を作れるのだとか。料理人の癖を好んでやってきて、それを食べる人も多いのだろうが。
ついた場所は大賑わいだった。中等部に高等部、大学生に教師だってそこらじゅうにいる。
こちらに気がついた超さんが小走りで近づき、ニコニコしながら席へと案内する。同時にポケットからペンと紙を取り出し、注文を取ろうと構えた。
「お飲み物はどうしましょうカ?」
「私たちにはビールを。ネギ君は何がいいかね?」
「僕は烏龍茶で」
「はいはい。少々お待ちヨ」
手早く持ってきたジョッキのビールとグラスに入った烏龍茶。キンキンに冷えたそれで乾杯し、暑くなってきた中でのどを潤す。至福のひと時だな。
人数が多いので複数のテーブルに分かれたが、新田先生は提案者として時折テーブルを回っている。
料理は初めての俺はわからないので他の先生たちのおすすめをちょっとずつつまんでいく。どの料理も安定して美味しい。ピリッとした辛みが強いエビチリや摘みとして丁度いいチンジャオロース、それから誰が頼んだのかぐつぐつに煮えたぎった激辛麻婆豆腐などもある。
炒飯を少しずつ食べながら他の料理に手を出す。人気なのは摘みとしての春巻きや餃子か。チンジャオロースはすぐになくなったし、高畑さんが来るまでにもう一皿くらい頼んでおくのもいいかもな。
激辛麻婆豆腐は誰が食べるのかと思っていたら、瀬流彦先生が汗だくになりながらも一心不乱に食べている。
「……瀬流彦先生、ここに来ると毎回あれ食べてるんですよ?」
と、教えてくれたのはしずな先生である。彼女は彼女で焼酎片手に回鍋肉を食べていた。
しかしあの真っ赤に煮えたぎった麻婆豆腐を毎回食べているのか……ある意味凄いな、瀬流彦先生。あそこまで辛そうなのは俺には無理だ。
「こうして見ていると、先生たちの個性が視えますね」
「そうですねぇ……瀬流彦先生は言うまでもなく、新田先生なんてほとんど飲んでばかりで食べていませんものね」
摘みを軽く口にしているだけで、酒を飲んでばかりの新田先生。遠目に見える葛葉刀子先生やら神多羅木先生もそれぞれ自分の好みの飲み方をしている。
人間観察はかくも面白い、ってね。
烏龍茶を傾けながらそんなことを思っていると、高畑さんが遅れて到着した。
「やぁ、ネギ君。すまないね」
「いえいえ、いいですよ。こっちに別口で注文したのが取ってあるので、好きな飲み物を注文してから好きに食べてください」
「悪いね。助かるよ」
「ふふ……まるで出来る子供とだらしのない父親みたいですね」
俺と高畑さんのやり取りを見て、しずな先生がくすくすと笑う。高畑さんも記録としてはそれほど年を取っているわけではないんだろうが、エヴァの別荘を使って修行をしていたと聞いている。
あそこは外の一時間に対して一日が過ぎるから、使い過ぎると周りよりも老けていくんだよな。多少年を取るくらいは今更気にもしないが、高畑さんはばっちり見た目に来ているし。
そう考えると、まぁ確かに親子には見えなくもないか。見た目はともかくとして。
「ははは、僕なんかじゃ親は務まりませんよ」
「あら、そんなことはないんじゃないかしら。煙草をやめて健康に気を付けて、もっと自分を大切に出来るようにすればね」
「そうですよ。煙草は臭いもつくのでやめるよう努力してください」
「こりゃまいったなぁ……どこかに味方はいないものか」
苦笑して箸で春巻きをつまむ高畑さん。煙草の臭いというのは落ちにくいし、そうでなくても高畑さんの健康にもあまり良いとは言えない。
……誰かの面影を追っているから、その誰かがやっていた煙草を吸うという行為をまねているのかもしれないがね。
確かガトーだったか。……最近、過去の記憶があいまいになりつつあるな。さほど重要なことでもないが。
「高畑さんは誰かいい人はいないんですか?」
「僕なんかと付き合ってくれる人もいないしねぇ……そうでなくても、誰かに愛される資格なんて僕にはないよ」
……これは根が深いな。
誰であろうと幸せになる権利は存在する。それを自ら捨てるとは、中々に筋金入りといえるだろう。
人殺しであろうと大罪人であろうと幸せになる権利は存在する。それを快く思わない者たちがそうさせまいとしているに過ぎない。もちろん被害者の気持ちも十分に理解出来るが、そのうえで言っている。
誰もが「あいつが不幸になればいい」などという後ろ向きな考えではつまらんだろう。前を向き、現実と向き合い、乗り越えることが人間には出来るのだから。
ユメを見るのは人の自由だ。それを奪う権利など誰にもありはしない。
「何に対して後悔しているかは知りませんが、一人で後悔を抱えて生きていくつもりですか?」
「…………」
驚いたような顔でこちらを見る高畑さん。まさか俺に見破られるとは思ってもいなかったのだろう。
厳密に言えば見破ったわけではないのだがね。
「……僕は、それでもいいと思っている。僕の後悔を他人に押し付けることはしたくないからね」
「……そうですか。高畑さんがそう言うなら──そう思っているならそうするといいでしょう」
楽しいことも悲しいことも共有できる仲間がいることを、貴方は知っているだろうに。そしてそんな奴らが世界を救うということも、俺よりずっと知っているはずなのに。
俺が言ったところで何の重みもない言葉だ。高畑さんの決意は固いし、言うだけ無駄というものだろう。
だが、これだけは言わせてもらおう。
「あなたに幸せになってほしいと思っている人だって、少なからずいるんですよ」
「……そう、かもしれないね」
「辛気臭い話はこれで終わりです。美味しいものを食べているのなら笑顔でいるべきでしょう」
「そうですね。高畑先生もほら、飲んでください」
コップになみなみと注がれた焼酎に口をつけ、一息ついて微笑む高畑さん。ひとまず気分を切り替えることは出来たようだ。
そこから軽い雑談をして、いい時間となったのでお開きとなった。
カモ君のためにいくらか包んでもらい、教えてくれたことや誘ってくれたことを新田先生たちにお礼を言っておく。
その後、多少遅い時間ながらも俺と高畑さんは帰路につきながら星を見ていた。
●
考える。
エヴァの殺意の籠った『断罪の剣』を紙一重で躱し、ごく至近距離で魔法の射手を使って迎撃する。
全力には程遠いとはいえ、その速度は目を見張る。最強格の存在ということに偽りはなく、その動きの一つ一つに無駄がなく、確実に追い詰められている。
まだ遅い。思考を洗練させ、相手の攻撃に対して反射的に防御と迎撃を行わねば死ぬだけだ。
相手の行動を見て、考えていたのでは間に合わない──ッ!!
「──お前は目が良すぎるんだ。だからこんなちゃちなフェイントに引っかかる」
わずかに視界の端に捉えたエヴァの行動に対応しようとした瞬間、逆方向から右肩へと斬撃が振り下ろされる。
確実に殺しにかかった一撃だ。そして俺には、それを防ぐ手段はない。
痛みに備えて覚悟を決めるも、エヴァは肩に触れる直前でその刃を止めた。
「ここまでだな。やはり砲台型としての力に特化し過ぎだ。アーチャー自身どちらも出来るとはいえ、お前が前衛をやれるようにすれば奴はその力を十全に発揮できるだろう」
「……分かっている。だが、そうそう身につくものでも無いだろうが」
「当然だ。だからこそこうして模擬戦を繰り返して経験値を蓄積させているのだろう」
近接戦闘というのはどうしたって積み重ねた経験が地力として生きる。前よりは持つようになったが、それでも本気のエヴァ相手では一分持つことなどほとんどないと言っていい。
アーチャーがいなければ文字通り即死だったわけだ。
……やはり、センスの問題もあるか。それ以外にも身体強化の魔法の洗練。あとは前々から構想を練っていた新しい魔法の開発。
この辺りで近接戦闘の穴を埋めるしかあるまい。時間はないが、別荘を使えばある程度はこちらに時間を割ける。
そうでなくても魔法世界救済のための方法を立案・実用段階に持って行く必要があるのだから頭が痛い。この辺はエヴァの知識も使っているが、それだけでは埋まり切らない知識の量だ。
「ところでお前、魔法世界に行くつもりなのか?」
「……そのつもりで準備はしている。どちらにせよ、一度は行かなければ何もわからないからな」
現状の魔法世界の状態、『完全なる世界』との因縁、本場に埋もれている可能性のある魔法に関する知識。それらを確認し、場合によっては行動を起こす必要もある。
戦力でいえばアーチャーがいればいいのだが、何時までも彼に頼りっぱなしではいずれ来る可能性のある"アリストテレス"の相手など夢のまた夢だ。
「入国に関する手続きはどうしている?」
「カモ君を通じて、メルディアナの校長──つまりは俺の爺さんに頼んである。手続きの大部分はあっちで処理してくれるはずだ」
メガロの圧力もあるが、面倒なのは俺がオスティア王家の血筋ということにある。それを知っている元老院の一部、あるいはほとんどが俺を殺害するために動くはずだ。
向こうに行ったとして、俺の協力者足り得る存在など今のところ存在しない。高畑さんでもいれば別だが、彼も彼で『悠久の風』関係の仕事で忙しかろう。
加えて味方になってくれそうな"千の刃"のジャック・ラカンは行方不明と来た。このまま向こうに渡るのなら自殺志願もいいところだ。
「……それがわかっていても、向こうに渡るつもりなのか?」
呆れた顔でエヴァはそう言うが、俺にはそれしか選択肢がないともいえる。魔族と協力するならある程度協力者もいるだろうがな。
神楽坂さんの存在がばれる可能性は年々高まっていると考えていい。特にヘルマン伯爵がここを襲撃したことを考えると、大方の当たりはつけているはずだ。
例え造物主関連の情報収集であって神楽坂さんに関係のない襲撃だったとしても、何かしらの偶発的要素で見つからないとも限らない。最悪の事態は常に想定してしかるべきだろう。
そんなことを考えていると、エヴァはこれ見よがしにため息を吐いた。
「私がここから動ければ、あの程度の奴らを捻り潰すなど造作もないんだがな……」
「……なんだ、心配してくれているのか?」
「馬鹿を言うな。貴様が死ぬビジョンなど見えないし、そもそもあの使い魔を倒すことなどほぼ不可能に近い。心配なのはむしろ私の登校地獄の呪いが中途半端になったまま放置されることだ」
まぁ、エヴァはアーチャーと本気の殺し合いをしている分、その強さが骨身に染みているのだろう。それはアーウェルンクスも同じはずだが、奴らとて何の策も無しに二度目の接触などしてくるまい。
実際に二十年前に現れた『蒼崎』とやらのせいでアーチャーの『
……すっかり忘れていたが、『蒼崎』は二十年前に姿を消してからどこにいったのだろうな。英霊の座にいる本体にフィードバックされるとはいえ、呼び出されたときの記憶はアーチャーにはない。厳密に言えば泡沫の夢のようなものだから思いだせないという状況に近いはずだが、手掛かりがないのだから同じことだ。
あるいは、俺と同じような存在がいるのかもしれない。
「おーい、兄貴ー!」
「お疲れ様でした、マスター、ネギ先生。お飲み物をどうぞ」
「ああ、ありがとう茶々丸」
よく冷えた麦茶をぐいっと飲み、運動したせいで火照った体を冷やす。
戦っていたはずのエヴァは息を乱すことすらしておらず、余裕しゃくしゃくと言った顔でビンから酒をラッパ飲みしている。行儀が悪いぞ。
「兄貴、よくあんなの相手に戦えてましたね……」
「あれくらいは出来ないと生き残れないからね。アーチャー任せにも限度がある」
「いや、普通あれだけ強い使い魔がいると術者ってのは固定砲台として戦うか隠れているもんだと思うんですけど」
「隠れているのは性に合わない。固定砲台として戦うのは今のスタイルに近いが、それでも常にアーチャーが傍にいられるわけじゃないんだよ」
特に今後、麻帆良祭でも何かしらの騒ぎが起きるだろうからな。俺一人の戦闘能力など高が知れているが、それでも鍛えないわけにはいかない。
……さて、今まで考えていたことだが、魔族関連。特にザジさんとの密約をエヴァに話しておくべきかどうか。
強力な味方を増やせるのが短期的な強みだが、ザジさんの方も「魔族は一枚岩ではない」と取れる話し方をしていた。エヴァの封印を無理に解けば俺の立場も悪くなり、それに追随して高畑さんや学園長の支持も落ちるだろう。そうなればさらに敵を増やすことにつながる。
現時点で優先すべきは知識を蓄えること。"アリストテレス"の出現確率がどの程度かわからない以上は判断のしようもない。
……やはり、ザジさんとは何かしらの方法でもう一度話し合いの場を作らなければならないか。
備考:エヴァの本気速度→原作終盤ネギ(雷天双装未使用)でも反応しきれず防御すら間に合わない
スカサハピックアップ、初期からFGOやってる身としては「当たらんだろなー」と思いながらガチャガチャ回してたんです。
もし仮に出たら小説に出してもいいかもなーとかも思ってたんです。
出 ま し た 。
そんなわけでどっかのタイミングでおっぱいタイツ師匠がでると思います。プロットなんか投げ捨てた(おい