修学旅行最終日。
エヴァは大はしゃぎで「観光に行くぞ!」と言っているが、彼女がこちらにいる間学園長はペタペタとハンコを押し続けなければならないはず。
ということで事が終わったと学園長に連絡したのだが、エヴァが「お前の見通しの甘さが招いた事態だ。甘んじてそれを続けろ」と言って電話を切ってしまい、瀬流彦先生と二人肩をすくめることになった。
結果的に言えば、エヴァがいなかったら負けていたわけだからな。アーウェルンクスが四体もいるとは思わなかったが、念には念を入れておいて正解だったという訳だ。
……あとで学園長に差し入れるお茶とお茶菓子でも買っておこう。なんだかんだと苦労しているだろうし。
俺がいなかった辺りの仕事やら何やらは全て瀬流彦先生に押し付ける形となってしまったし、そちらにも菓子折り持って行く必要があるだろう。
あちらも仕事だったとはいえ、人間関係を円滑にするならこういった配慮も必要だ。
「……で、結局何をしていたんだ?」
「報告書を書いてた」
エヴァのお守りは茶々丸さんに任せたいところではあったが、彼女は故障しているので留守番である。葉加瀬さんと超さんが直そうとしていたが、そもそもパーツがないので修理のしようがなかった。
なので最低限データ保護だけして俺と一緒に留守番をしていた。
お守りは近衛さんたちに任せることにした。過激派も完全に沈黙したわけではないだろうし、その点護衛としては優秀だろう。
ちなみに俺は今回の事件に関する報告書と始末書を書きあげる必要があったので行っていない。午後からは詠春さんに頼んでナギの別荘へと案内して貰う予定だ。
「エヴァを呼んだことで麻帆良の先生方を納得させるための始末書、それから関西呪術協会との進展に関する報告書、そして近衛木乃香さんに関する報告書。最低でもこれらは必須だったんだ」
「ジジイの見通しが甘かったせいだろうに、お前も苦労するな」
「半ば死にかけたしな。だが生きているなら十分だ……それより、エヴァもついてくるのか?」
「当たり前だ。ナギの手掛かりがあるかもしれんのだろう? なら、私が行かなくてどうする」
ナギが生きている可能性を示唆しただけだが、機嫌のいいエヴァに水を差してやる必要もあるまい。
十年前に失踪して以来、手掛かり一つなかったのだ。生きている可能性と足取りを掴めるかもしれないという期待がテンションを上げているのだろう。
俺としても期待している……もしかしたら、『蒼崎』に関して何らかの情報がつかめるかもしれないしな。
無論ナギに関しても情報があれば御の字だが、現状差し迫った脅威としてはアーウェルンクスが狙っている『蒼崎』に比重が傾く。
『蒼崎』が盗んだという何かを俺が持っていると判断している以上、今後も執拗に狙ってくるはずだ。まずは情報を手に入れることが最優先だろう。
「まぁ、『紅き翼』とはそれほど接触はなかったようだし、『蒼崎』に関しては望み薄だな」
「つくづく厄介ごとに巻き込まれる男だよ、お前は。どちらかといえばナギのせいだが」
「アーチャーがいれば並大抵のことはどうにか出来る。そうだろう?」
『もちろんです』
霊体化しているアーチャーが短く告げる。
実力に裏打ちされた自信から出た言葉は頼もしく、それに疑問を持たないくらいには俺もアーチャーを信用している。
「そろそろ時間だが……」
「──おや、早いですね。時間通りに来たつもりでしたが……」
「気にしないでください。予定の時間よりはまだ早いですから」
待ち合わせ場所に現れたのは私服姿の詠春さん。今回はこの三人でナギの別荘へと向かうことになる。
近衛さんや桜咲さんも興味がありそうだったが、詠春さんが「また別の機会に」と言って三人で向かうことになったのだ。
そこにどういう理由があるかは知らないが。
「では少し早いですが、別荘の方へ行きましょうか」
そう言って先導する詠春さん。それほど遠くない場所に見える三階建ての白い建物を見て、意外と金を持っていたことに驚く。
まぁ一応は大戦の英雄だし、金くらいは持っているのだろう。その辺の事情は子供だからと聞かされていないが。
草木が生い茂った林の中ではあるが、外観は立派だ。
「彼が最後に訪れた時のまま保存しています。多少埃をかぶってはいますが、綺麗なものですよ」
そう言って鍵を開け、そのまま鍵を俺の方へと渡してくる。ナギの持ち物だったから、所有権は今俺にあるということか? 訪れる機会はそれほどないと思うが、貰っておこう。
しかし、この別荘のことはイギリスの爺さんも知らなかったのだろうか。一度も話を聞いたことが無いが……。
中はやや埃っぽいところがあるものの、日の光が心地よく降り注ぐ建物だった。
「へぇ……」
「ほう」
「ナギはここを資料庫としても使っていましたから、様々な本もおいてあります。ナギの手掛かりもいくらかあるかもしれません」
埃をかぶった蔵書から何冊か本を取り出し、パラパラとめくって中身を確認する。……これはギリシャ語か。魔法を使うにあたって覚えるギリシャ語やラテン語ならば十分読めるが、事典のような厚さだ。読むのに時間がかかるだろう。よくよく考えるとナギは英国人なのだから日本語の本が少ないのは当然か。
背表紙で確認してみると、このあたりは星に関する本らしい。星の運行、星座、それから計算表。
別の棚を見ると、こちらにあるのは神話の類がかかれた本だ。ギリシャ神話、ケルト神話、それにアーサー王物語。メジャーどころは抑えてある感じだな。
「……ん?」
興味を持った本を一冊抜き取ると、本の合間に挟まっていたであろうメモがはらりと床に落ちた。
どこにでもあるメモ帳から切り取られているであろうそれにかかれていた内容は、驚くべきものだった。
「『魔法世界の寿命は持って三十年』、だと……?」
裏側にはおそらく棚の番号であろう数字が書かれており、それに従って本を探す。
指定された場所にあったのは魔法世界の神話関係の本。そして魔法が発動する理論と合わせて、魔力──マナの生成される理論が書かれた蔵書。手書きの計算表もあるが、これは地球と火星の運行周期から割り出す日数のズレを確認するためのものだな。イギリスの実家にも同じようなものがあった。
……確定だな。
他の場所もあらかた探したが、メモはこれ一枚だけしか残っていなかった。偶然捨てられずに残った一枚と考えていいだろう。
ナギの手記でもあれば、とは思うが……いや、それは高望みのし過ぎだな。
十年前に消息を絶ったというナギ。残されたメモと蔵書の偏り方。
……ナギはきっと、魔法世界を封印しようとする造物主を止めたのだろう。二十年前の事件同様、十年前にも人知れない戦いがあった。
結果として消息を絶つことになり、魔法世界を救うための方法を模索することも出来なくなった。
「──なら、俺がやるべきだな」
俺と同様に建物の中を物色していたエヴァと合流し、詠春さんのところへと向かう。
エヴァは俺の方を見て何かを感じたようだが、言葉には出さないでいる。気を使ってくれたのかもしれないが、自分ではそれほど変わったとは思わない。
やるべきことがはっきりと見えただけだ。元よりやることに変わりはない。
「──詠春さん」
「どうしましたか、ネギ君……それは?」
「ええ、残念ながら確定こそできませんが、父さんが書いたメモです」
「ほう、ナギの書いたメモか」
興味あり気に視線を向けるのでメモを渡すと、すぐにとって内容を確認するエヴァ。一瞬眉をひそめるが、裏返すと驚愕に目を見開いていた。
詠春さんにそのまま渡すと、腕を組んで考え込むエヴァ。それを尻目に、俺は質問をする。
「このメモに書かれている内容、詠春さんも心当たりがあるでしょう?」
「……ええ。いくらか心当たりがあります」
「計算表も残っていましたよ。地球と、火星の日数のずれを確認するためのものが」
「なるほど……では、頭のいい君のことだ。理解したのでしょう?」
「八割方は。ですが、僕の認識と貴方の認識が食い違っている可能性もある。だから、確認をさせてください」
念を入れるやり方に「そういうところはナギとは大違いですね」と苦笑を浮かべる詠春さん。ふと別のところに向けたその視線の先にあるのは、かつて魔法世界で戦った『紅き翼』の六人が写った写真。
俺は一呼吸置き、詠春さんに問い質す。
「魔法世界は何者かが火星の表面上に作り出した異界であり、それを維持するための魔力が枯渇しつつある──合っていますか?」
「正解です。我々『紅き翼』は、その結果として魔法世界を封じ込めようとする組織と戦い、これに勝った……故に英雄と呼ばれたのですよ」
そういう詠春さんの顔には自嘲が浮かんでいた。
……その組織との戦いにこそ勝ったが、きっと救えなかったものもあったのだろう。
詠春さんの事情には詳しくないのだから、訳知り顔で語るわけにもいかない。
「その後、とある事情から我々はメガロから指名手配を受けました。それ自体は後悔などしていませんし、誇りに思っています」
何故か俺を見る眼が優しくなった。
詳しく語ろうとはしないが、俺の母親であるアリカ女王関連のことなのだろう。皆が皆、母親に関して尋ねると困った顔をして何も教えてはくれない。
というか、不自然なほどに情報をシャットアウトしている。どこから情報が漏れるかわからないからだろうが、一番漏らしてはいけないであろうメガロに漏れているのだから無駄だと思うがね。
「指名手配を受けた我々はメガロの追手と時折交戦しながら紛争地帯を回りました。もっとも、私は一身上の理由でこちらに戻ってきたのですがね」
「旧姓青山、ということは神鳴流本家の青山家から近衛家への婿入りをしたのですね」
「そうなります。婚約自体は大分前から話が持ち上がっていたのですが、私の見聞を広めるという意味でも旅をしたかったので」
話がずれましたね、と詠春さんは眼鏡の位置を直す。
「その後のことは私は左程詳しくはありません。一度ナギ達が京都を観光したいといったので案内をしたことがあり、その時にこの地が気に入ったようで別荘を購入したのです。何をしていたかはそのメモを見ればわかる通りです」
「別荘の中に入ることはなかったのですか?」
「いえ、時折訪れては酒を飲み交わすこともありましたよ。その時に聞いたのです、『これらの事実を知って、お前はどうするつもりなんだ』とね」
「……父さんの答えは?」
「『俺が何とかしてやるよ』、です。ナギ一人に任せるべきではない、大きな問題でしたが……下手に公表してしまえば、大きな混乱が避けられないものでもありましたから」
旧世界の極東の島国の、その中でも一つの勢力でしかない関西呪術協会では協力出来ることは多くなかったのだろう。
実際、こちら側の人間にとってはあまり関係ないと思う事柄であるのは否定しない。外国で紛争が起こっているとして、テレビでそれを知っても実感が湧かないのと同じだ。
世界を隔てている以上危機感など持ちようもあるはずがないし、下手に公表することの出来る話でも無かった。
公表したところで、ホラ話扱いされる可能性も大きいだろうしな。
「そして十年前、ナギは行方を晦ましました……私から話すことが出来るのは、これくらいです」
「父さんの行方は聞きません。それより、質問したいことが──」
「おい、詠春。つい昨日戦った白髪のガキども、『造物主の使徒』と名乗っていたぞ。心当たりはあるのか?」
「……ええ、あります。先程話した、二十年前に戦ったとある組織──『
無論造物主の使徒の名を騙る偽物である可能性だってゼロじゃないが、造物主の存在を知る者がまず少ない以上、偽物なんて現れようがないだろう。
詠春さんは実際に二十年前に戦っているが、今回戦ったアーウェルンクスと直接会ったわけではない。それでもそこだけはまず間違いないと確信していたようだ。
あれほどの実力者がそうポンポン現れられても困るがな。
「彼らは『蒼崎』に何かを盗まれたと思われる発言をしていました。それを取り返すことも今の目的の一つだと……詠春さんに心当たりはありますか?」
「残念ながら、そちらに関しては何も。『蒼崎』に関しては先日話した通りですが、盗られたものですか……彼らが盗まれて困るものなど、それほど多くはないはずですが」
「結局、お前は魔法世界の寿命とやらに関してはどれ程知っているんだ?」
「魔法はそれほど詳しい訳ではないのですが……なんでも、火星表面上に作られた異界を保持するための魔力が消失しつつあるそうです。その根本的な原因は全くの不明。対処法もなく、どうにか出来ないかとあがいていたのですがね」
「メモがいつ書かれたものかにもよるが、短くても十年から十五年程度と考えるべきか」
「現時点での試算ですから、ズレは出てくると思います。ですが、時間が無いのは事実でしょう」
すぐにでも行動を始めなければ魔法世界が崩壊を始める。ただ闇雲に造物主を倒せばハッピーエンドってわけでもないあたり、面倒な話ではある。
とはいえ、造物主を止めなければ魔法世界は消失してしまうことに変わりない。
造物主を止める。魔法世界を救う。両方やらなくっちゃあならないのが英雄のつらいところだな。
「これを知っているのは?」
「紅き翼の面々はおおよそ知っているはずです。ですが、私とアル、ナギが気付いた段階で誰にも話さないようにと示し合わせたので、他のメンバーも知らないかと。ジャックあたりは気付いているかもしれませんが」
「ふん。あの野生人なら勝手に気付いてもおかしくはないな」
「なんだかんだであいつも口が堅いので、知ったとしても無闇に言いふらすことはしないでしょう」
「ですが、対処は出来ていないのでしょう?」
「残念ですが……どうにか出来ないかと考えてはいたのですがね。私もナギも剣を振るうことや魔法を放つことしか知らない子供でしたから」
回答の一つを知っているものの、出来ることならギリギリまで別の道を探したい。テラフォーミングでは旧世界を巻き込み過ぎる。
いずれ二つの世界は広くまじりあっていくのは確実だろうが、今の段階でそれをやってしまえば軋轢が余りに大きい。時間をかけてやるべきことを急いでやっても事を仕損じるだけだ。
それに、俺に『ネギ・スプリングフィールド』ほどの開発力は無いと自負している。
地道な努力でコネを増やし、なるべく影響を小さくするために奮闘しなければならない。
「……ヒントがない訳ではないがな」
「何かあるのですか?」
「ダーナ、という女がいる。吸血鬼の貴族で、『狭間の魔女』と呼ばれている奴でな。かなり永い時を生きた存在だから、何かしらのヒントは得られるかもしれ──ん?」
ゆらゆらと頭上から一枚の紙が落ちてくる。
どこから落ちてきたのかと上を見るが、何かがいるような気配はない。
足元に落ちた紙を拾い上げ、それにかかれている内容を読む。
『わたしはこの件に関しちゃノータッチだ。ある盟約でその時代には手を出せないからねぇ』
無言でエヴァに渡し、エヴァを見る。
エヴァは渡した紙を一度見て、二度見て、おもむろにびりびりと破り始めた。
「今の話は忘れろ。元よりこっちから会うことなど難しい相手だからな。それにあまり借りを作りたくない」
「はぁ……まぁ、構いませんが」
「だが、ふりだしに戻ったのは事実だ。ナギの研究成果を書いた手記とかはないのか?」
「あるとすればむしろイギリスにある生家の方が可能性は高いと思いますが……どうでしょうね」
「父さんの生家はウェールズにあるはずですが、僕はそこに住んでいた記憶はありませんから……五歳くらいまでは住んでいたはずですが、それからあとは大量の悪魔に襲われて壊滅状態になりましたし」
「なら手記が残っている可能性は低いか……手詰まりだな」
「いえ、幼い子供がいる場所にそんな重要なものをポンと放置するはずもないでしょうし、いくつか心当たりがある場所を探してみれば、あるいは」
何故か微妙な顔で視線を交わすエヴァと詠春さん。幾らナギでもそんな重要なものを悪戯するかもしれない子供のいるところにポンと置かないだろう。というか、公的には俺が生まれたのはナギが死んだ後だ。
別の場所に保管してあってもおかしくはない。
……そう考えると、やはり一度はイギリスに帰る必要があるか。夏休みにでも時間が取れるといいが。
●
帰りの新幹線の中で俺は一人考え込んでいた。
ナギの行方はこの際置いておくとして、魔法世界の今後だ。わかっていたことではあるが、実際にその理論が目の前に提示されると焦りを覚える。
何せ時間が無い。どうあっても最短あと十年前後で魔法世界の崩壊が始まるというのだから、こればかりはどうしようもない。
俺は試練を良しとするが、それを乗り越えてこそだ。
富も名声も地位も名誉も興味はない。ただ、未知を知り、道を見つけ、誰もが笑顔で居られる未来を目指すのみ。
アーウェルンクスも今後こちらに目を付けて動き始めるだろう。それに対処する方法と、力をつけなければならない。
そして魔法世界を救う方法も。
「忙しくなりそうだな」
『マスターなら出来るでしょう。必要ならば私の力を貸すし、周りにはマスターよりも知識もつながりも持っている者が多い。きっと解決出来るはずです』
「信頼が重いな。解決できるよう尽力するよ」
まずは俺自身を鍛え上げ、同時に魔法世界を救うために魔法世界の成り立ちを知るところからだな。
最近いろんなところで見るダーナさん。意外と使い勝手良さそうですがUQホルダー読んだことないので出てこないよと釘を刺すの回。
……そう言えば、Fateにも不死身で英霊の座に登録されてない某ケルトの人とか、どこぞの世界に幽閉されて死なないから英霊の座に登録されない魔術師とかもいましたね(フラグ
FGOの話
前回嫁王引くために課金し、余った石80余りを全力で投入。見事にセイバー式を引き当てました。カワイイヤッター!
まぁおかげでスキル上げしようとしてQPとクッキーと素材が吹き飛んで阿鼻叫喚の状態ですけど。アサシン式の魔眼が「おっ。行けるやん」とポチポチ押してたら何時の間にかスキレベ10になってたり。勢いって怖いですね。