さて、世界を救うと決めた手前実に言いにくいのだが、俺はネギまの最終巻を知らない。
頭空っぽにして読む分には楽しめたが、真面目に考察などやろうとすら思わなかった俺は週刊誌の方で確認した後全巻中古で売り払ったのである。
最終巻手前までは何度か読み返したので覚えているのだが、最終巻になると何年も前になる上に一度しか呼んでいないので詳しいことを覚えていない。受験が重なったので誘惑を断ち切るという意味でも売り払うのが一番手っ取り早かったのもある。
なので、最終的にネギが世界を救えたのかも知らないし、どういう手段でテラフォーミングをしたのかも知らない。
テラフォーミングしたというのは印象深かったから覚えてるんだけどなぁ……。
ネットで盛大に叩かれていたのは有名だが、使える手段を使ったまでの話だろう。何でも一人で出来るわけじゃないんだし、別にそこまでいうほどのことではないと個人的に思っている。
そんなことを考えつつ魔力を練ってライター程度の火を出し続けるのは中々に苦行だった。
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ネギ、もとい俺の住んでいた村は悪魔にやられてしまったのでまず住居が必要だった。
ネカネさんもアーニャも魔法学校に入っているから別にいいが、俺は家が焼かれて根無し草。だからと言って寒空の中放り出されるなんて爺さんが許すはずもなく、魔法学校の校長室の片隅で魔法の練習をしていた。
どのみちアーチャーへの魔力供給もあって魔力はあればあるだけ困らないのだが、こればかりは天賦の才に頼るしかない。
なので、俺がやることは徹底的な魔力運用効率の上昇だ。
魔力を精密に操ることで暴発することが無いようにするのも目的の一つだが、アーチャーに魔力の供給をしつつ自身で戦闘をこなさなければならない可能性も踏まえて出来るだけ節約する術を学んでおくべきなのは自明の理。
ひとまず「火を灯せ」と呟いて練習用の杖の先に火を灯す。
そこからひたすら長時間火を灯し続けるだけである。
慣れないうちは魔力が垂れ流しなのだが、続けるうちに自然と必要な量の魔力を体が覚えて効率化してくれるらしい。
あとは魔力のコントロールを体で覚える。
ちなみに魔法そのものは爺さんに一度見せてもらったら出来た。ネギ君の肉体マジハイスペック。
「普通はそう簡単に出来るものではないんじゃがのぅ……」
「出来るんだからいいでしょ。悪いことじゃないし」
「まぁ、そうじゃな」
英雄の息子というだけでいろんなところから狙われるとは、難儀なものである。そうでなくても血筋的にはかなりいいところのものだし、爺さんも扱いには困っているんじゃなかろうか。
そう考えると、早めに独り立ちしておくのが望ましい。ナギが参加した大分裂戦争では帝国にかなりの被害を出したはずだし、魔法世界人が現実世界に出てこれないと言っても怨まれ続けるのは気分の良いものではない。
だからと言って謝罪して回るなんてしないが。
大体全部『
冗談はさておき、火を灯し続けるだけというのもかなりつらい。魔力消費もそうだが、ぼーっとそれを見続けるのが苦痛だ。
かと言って集中しないと火が消えてしまうし、そうなると魔力運用の効率化など図れない。
「ネギ! 魔法使えるようになったって本当!?」
授業終了のチャイムが校舎内に鳴り響くとほぼ同時に、赤髪をなびかせながらアーニャが校長室に乗り込んできた。幾ら幼馴染の親類だからって、よくそんな当たり前のように乗り込めるな。ある意味尊敬するわ。
俺の気持ちなど知らないアーニャは、杖の先に火を灯し続ける俺を見て悔しそうに顔を歪める。
負けん気が強いのはいいが、俺に暴力を振るうのはやめてください。
暴力と言っても癇癪を起して頬やら髪やら引っ張られたりする程度だが、地味に痛いので止めてほしい。爺さんはニコニコ笑いながら見てて止めてくれないし、ネカネさんもこの辺割と当てにならないんだよなぁ。
怪我するわけでもないので俺も放っているが、早いとこ矯正してほしいものである。ヒステリックな女になったら面倒だぞ。
「私だって頑張ったのに! 私より早く使えるようになるなんて生意気よ!」
「痛っ! 痛いよ、アーニャ!」
暴君過ぎだと思うのだが。
あと、アーニャは既に魔法は使えるので、多分同じ年の時はまだ使えなかったと言っているのだろう。忘れがちだが彼女は俺の一つ上だ。
一つ上とはいえ、まだ四歳なんだよなぁ……多少の癇癪くらいは、まぁ仕方ないのかもしれない。
「これこれ、アーニャ。お姉さんなら少しは落ち着きを持ちなさい」
「でも──」
「それに、アーニャはネギよりもたくさんの魔法が使えるじゃろう。ネギのお手本になるように、もっと頑張るというのはどうじゃ?」
「……そうね! 私もっと頑張って、あのサウザンドマスターの息子よりすごいって言わせて見せるわ!」
その言い方はちょっとよくないと思うのだがどうだろう。
偉大な親を持つと子供が苦労するというのはよく言われるが、自分がその気分を味わうことになるとは思わなかった。
ていうか、アーニャってこんな性格だったか……?
「これ、サウザンドマスターの息子ではない。ただ一人のネギを見て、それよりもすごい魔法使いになれるように頑張るのじゃ」と言っている爺さんだが、アーニャは首を傾げている。まぁ子供ってのは親の影響やら周囲の環境やらで簡単に思想が染まるからなぁ。あとわかりにくいっていうのもあるんだろう。
爺さんがちょいちょい訂正させたり矯正させたりして原作のあのお転婆娘になったのかもしれない。
まぁ、何はともあれ修行あるのみだ。
「ぜーったい負けないんだから!」
微笑ましく見てたら照れ隠しで殴られた。解せぬ。
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その次の年になり、俺は俺は魔法学校に入学することとなる。
やはりというべきか、英雄の息子というレッテルは周囲との壁が出来る。普通に接するのはアーニャかネカネさんくらいのものだ。
暗黒の青春時代というには少しばかり早いにせよ、やることの多いこの時期、俺も周囲の人間関係になど気を配ってはいられなかった。
とにかく修行。一に修行二に修行。三四に勉強五に修行である。
なんどかぶっ倒れたが、倒れるたびにネカネさんが心配するので三度目以降は倒れる限界を見極めて休息をとっている。
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魔法学校二年目。
魔法の基本は徹底的に練習して習得し、魔力運用の効率化を続けている。
最近知ったのだが、どうにも『魔法の射手』というのは意外と後にならうものらしい。まだ幼いままで相手を怪我させる魔法を覚えさせられないということもあるのだろうか。安全上の問題というならせめて十五くらいから教えるようにしてもらいたいものである。それでは俺が困るのだが。
覚えた魔法は『物を動かす魔法』とか『占い』など、一年次と大して変わらないが少しだけ応用も混じったものを習い始める。
もっとも、これらは一年の時に完全にマスターしたのでほとんどやることもなく、座学は魔法に関するモノだけ勉強して学年主席をキープ。
周りからは「英雄の息子ならこれくらいできて当たり前」みたいな雰囲気を感じるのだが、所詮は自分と相手は違うと決めつけて努力しない奴の言葉だ。対して気にする必要はないだろう。
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魔法学校三年目。
一年分余分に学んだので飛び級でアーニャと同じクラスに配属される。最初はびっくりしていたアーニャだが、最終的にツンデレっぽい台詞を拳と共に振ってきたので拳だけは躱しておく。
実質四年生になるのだが、この段階でようやく『魔法の射手』を習うらしい。それに伴って自分専用の始動キーを決めておくようにと担任に言われたので、原作でネギが使っていた始動キーをそのまま使わせてもらうことにする。
始動キーは個人で変えろというが、実際のところ初心者練習用の「プラクテ・ビギ・ナル」でも何の問題もないのである。ようはノリの問題だ。
冗談はさておき、始動キーというのは型月における魔術回路の起動と似た様なものだ。なので簡潔に「セット」というだけでいいのではないかと思ったらそういう訳でもないらしい。
面倒かつどうでもいいと思ったので始動キーに関する模索は一週間でやめることにした。ここを短縮出来れば詠唱そのものをわずかではあるが短く出来るのでちょっと思考錯誤してみたが、先人がなしえなかったことをそう簡単に成すことは出来ない。
世知辛い世の中である。
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魔法学校四年目。
基本的に学校で習うことは全てマスターしたので、知識を蓄える意味でもアーチャーに手伝って貰って禁書庫に潜り込む。
『白き雷』くらいは学校で教えてくれるが、流石に『雷の暴風』クラスとなるとウェールズの魔法学校では教えて貰えないらしい。まぁ、なんだかんだであれって戦争くらいにしか使わないだろうしなぁ。
あとは人格面でも教えられる人間は限られるとか。その人格にしたって、基本はメガロメセンブリアに有用な人間なら大体教えて貰えるらしいが。それとメガロのお偉いさんの関係者。
権力ってのはつくづく面倒なものなのだと思う……それで思い出したが、どうにも俺にちょっかいを出そうとした奴らがいたらしいが、アーチャーの手にかかる前に爺さんの手にかかって投獄されていた。
まぁ、メガロのお偉いさんの関係者ならすぐにでも出てくるだろうと言っていたが。
アーチャーは俺の障壁に見せかけて魔法を防いだだけである。『
型月世界における『神秘』というのは……というか、『魔術』というのは基本的に「知っている人間が少ないほど」効果が上がる。対してこの世界の魔法は一部の魔法やオリジナルスペルを除き、魔法使いならばほとんど誰でも知っている。
魔法も『神秘』を宿していることに違いはないが、知っている人間が多いせいでかなり神秘としてのランクは下がっているようだ。
なお、爺さんが『千の雷』を使えたので実験してみた結果がかすり傷であったために考えた理論である。
ヘラクレスさんマジチート。
あと、そろそろ体が出来始めるので、動きだけでも杖術を教えて貰ったりする。
幼少期に筋肉をつけると背が伸びないので、今は動きを覚えるだけだ。反復練習を繰り返すことで動きそのものを体に染みこませるやり方は、体が出来てからやるよりもむしろ小さい時からやる方が効率的だと昔テレビで言っていた。
まぁ、間違った動きだと矯正するのも一苦労なので、きちんとしたトレーナーがいないとやるべきではないのだが。
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魔法学校五年目。
また飛び級した。今度はアーニャも一緒にだ。まぁ、毎日のように一緒に勉強していれば成績も同じくらいになるのは道理か。それでも主席は俺だけど。
最早学校で習うことはほとんどなくなったと言っても過言ではないし、修行もそろそろ頭打ちになり始めたので戦闘用に特化させることにした。
俺が目指すのは『魔法使い』タイプ──いわゆる固定砲台だ。
移動砲台のアーチャーがいるので俺個人の戦闘能力などたかが知れているし優先順位は低いが、実際に使ってみると案外応用が効くものがあったりする。
例えば『精霊召喚』の魔法だが、呼び出した精霊はAIを組み込むことで思い通りに動かすことが出来たりする。上位精霊ともなると自分の系統の魔法がある程度使えるので驚いたものだ。
なのでネタのつもりでファンネル扱いしてみたら予想以上に魔力を食ってぶっ倒れたのは笑い話である。ネカネさんにがっつり怒られたが。
やっぱり最初から「雷の暴風」五連撃というのは無理があった。しかも同時に撃ったせいで相乗効果が表れて最早別の魔法じゃないのかと言わんばかりの威力になってしまった。
使えそうなので少しずつ改良して運用効率を上げようと思う。
あと相変わらずヘラクレスには傷一つなかった。
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魔法学校六年目──ではなく、卒業。
本来七年通わなければならない魔法学校だが、日本と違ってイギリスには飛び級という制度が存在している。
なので、若干十歳にして魔法学校の首席卒業である。なおアーニャも一緒に卒業する模様。彼女は次席だが。
ドヤ顔でからかったらグーで殴られた。ほとんどお家芸状態の暴力女だが、なんだかんだで手加減するということを身に着けたらしく、怪我はしなくなった。あるいは俺が頑丈になったともいう。
「絶対アンタよりすごい魔法使いになってやるんだからぁ──!!」と捨て台詞を残して走り去るアーニャを尻目に、俺は卒業証書を開いて修行先を確認する。
『日本で教師をすること』
ネカネさんは卒倒した。
アーニャはそれを訊きに戻ってきて、訊いたと思ったら校長である爺さんに直談判に行ってしまった。
勉強に必死で原作忘れ気味だが、そんなものに頼るようでは最善の未来など掴めまい。
自分で見て、感じて、訊いて、体験してこそ出せる答えにこそ意味があるのだ。
さぁ、麻帆良へ旅立つとしよう。