咲-saki- 裏世界の住人   作:アレイスター

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またしても、感想をいただきました。
いやはや、大変うれしいものです。(´∀`*)
というわけで、書けるうちに書いておこうと思います。
春休みを存分に使って、頑張ります。


第二話  麻雀部

時間はまもなく8時半。

だんだんと学校の中も登校してきた生徒たちや教師たちでにぎわい始めていた。

黒板やら机、教室の雰囲気を存分に楽しんだ後、時雨は再び職員室へと戻り、自分のクラスでの紹介を待つ形となっていた。

「あ、そうそう、時雨君達ってまだどの部活入るか決めてないわよね?」

デスクでパソコンをカタカタと打ちながら沢木は二人に尋ねた。

「私は特に何も。」

「俺も特に決めてないな。そもそも部活って何やるかも知らねーし」

あぁ、そういえば、と沢木は思い出したような声を上げる。

「時雨君は小学校以来学校行ってなかったのよね」

デスクから立ち上がり、コピー機から吐き出された紙を時雨たちに一枚ずつ手渡す。

「部活の一覧と活動場所よ。あと、一応功績も打ち出しておいたわ。放課後にでも見回ってらっしゃい」

「さっすが、沢木さん。仕事が早いな。……おっ、麻雀部なんてのもあんのか、それに全国優勝ってこれ、スゲーな」

このとき、時雨はすれ違った女生徒―宮永 照のことをすぐに思い出した。

(へぇ、あんな怪物みたいな奴がゴロゴロいるのか。ちょっと興味がないわけでもねーな)

先ほどは、すごい奴がいるなー、程度で流したが、今の時雨の気持ちはそれとは違う。

時雨は世間の情報には疎く、現在、麻雀が人気の競技となり、もはや将棋のように普通の競技としてとりいれられていることを知らない。

時雨の常識では、麻雀は賭博競技。

中年のオッサンから、ものほんのヤクザまでの高い年齢層が法律で禁じられている賭けを前提として打つ悪の競技。

だが、高校に麻雀部があることを知って、その常識が一部崩れ去り、それが次は純粋な時雨の麻雀の強者を求める欲につながったのだ。

時雨は本来麻雀を嫌いなわけではない。

散々、自分をめちゃくちゃにしておきながら、嫌な思い出が多いくせに、それでもひょっこりと雀荘に首を出してしまうような人間である。

その行動の表す意味は、時雨が麻雀という競技を楽しむ人間なのだ、ということを表しているに他ならない。

だが、本当に嫌な思い出だけが麻雀に詰まっている者もいる。

「私、麻雀部だけはちょっと遠慮したいかも……」

時雨は幸いにして麻雀を楽しんでいたが、裕香はそうではない。

どこまでも非道な連中によって打たされた裕香に麻雀を楽しい競技だと思えるだけの心の余裕は残されていない。

「別に部活って俺たちが同じ部活に入る必要ないんだろ?まぁ、なんにしても決めるのは見てからだけどな。」

その一言を聞いて、裕香はすこしショックを受けた。

いつからかわからないが、裕香はいつの間にか時雨とは同じ部活に入るのを前提として考えていた。

だけど、それは時雨の中では違った。

別にただ、自分が勘違いしていただけだ。だけど、すこし切なかった。

「……うん、そうだね。よく考えたら時雨と一緒の部活に入る必要なんてないもんね」

そこで、チャイムはタイミングがいいのか悪いのか校舎内に響き渡った。

「ほら、クラスで紹介があるんでしょ。はやくいこ」

裕香はせっせと職員室を出て行ってしまう。

「あいつ、なに急いでるんだ?紹介する先生様がまだここにいるってのに。」

(せっかく一緒の部活に入ろうとしてくれてるのに、なんであんなこと言っちゃうかなー、時雨君は。)

この状況を唯一察していた沢木はため息をついて時雨に忠告する。

「ダメよ、そんなことばっかりしてたらいつか逃げられちゃうわよ?」

しかし、そのあまりに抽象的すぎる忠告に時雨は頭に?を浮かべるだけだった。

 

 

 

                 ☆

 

 

 

一年四組

それが、二人の転入したクラスだった。

同じクラスに二人の転校生とは少し、異例のことではあったが、そこは沢木の手回しによって簡単に受け入れられた。

新しい転校生という情報にクラスはその話題一色。

「どんな人がくるんだろうねー」

金髪のロングヘアーを持つ日本人離れした美少女―大星 淡は机の冷たさをほおに感じながらクラスメイトの友人と話していた。

「ほんと、この時期に転校ってどんな人なんだろう?」

「麻雀が強い人だといいなー」

「淡ちゃんってば、また麻雀の話ー」

「わたしは麻雀に恋してるのだー!」

また始まった、といったようにクラスから和気藹々とした雰囲気で笑いの声が上がる。

外見も魅力的ながらその子供じみた元気のいい性格はとても評判がよかった。

そして、淡が麻雀の話題を持ち出したのはただ単に麻雀好きだからだけではない。

今朝、麻雀部の部室にいつものように遊びに行ったときのことだ。

てるー、こと宮永 照はいつも通りはやくから登校して部室で読書をしていた。

その照の話によれば、見たことのない生徒でそこそこ強そうな雰囲気を持った生徒がいる、ということだった。

そして、偶然にも自分のクラスには珍しい転入生が来る。

人物はほぼ同一とみて間違いなかった。

「すこし、興味があるから様子を見ておいて」

それが、照からのお達しだ。

ええー、私だけじゃ不満なのー?などといつものごとくじゃれ合っていたのは置いておくとして。

そんなことは淡にとってはどうでもよかった。

麻雀が強いか、弱いか、それには興味があった。

淡は割と自信家なほうだが(自分は麻雀年齢であれば100歳はあると思っている)その自分でさえ勝てないと悟った相手宮永照。

その照に興味を持たせた相手、実力がないとは到底思わない。

でも、少しがっかりしたことに照の見通しでは自分よりもはるかに実力は劣るらしいということ。

だから、さほど期待はしていなかった。

チャイムが校内に響き渡り全員が着席する。

間もなくして、担任である沢木が教室に入ってる。

二人の生徒をひきつれて。

一人は、少し柄の悪そうな雰囲気を身にまとった野性的な男子。

もう一人は髪をポニーテールにまとめ、整った顔立ちをしたわりと可愛い女子。

胸もそこそこあり、クラスの男子は転校生の女子に少なからず好意を抱くだろう。

男子の方は、ものすごくモテるといった雰囲気ではないが、部活が野球部やサッカー部ならいずれ有力選手になればもてるだろう、と言った感じだ。

(確かに照の言ってた感じで、ちょっとは感じるけど、そんなに強そうじゃないなー、残念。まぁ、でもこれくらいなら麻雀部にいてくれたら悪くないかも♪)

「今日からこのクラスに入ることになった二人です。右から」

「今日から世話になる、御堂 時雨だ。仲良くしてくれ」

(あそこの席の奴か。コイツはこいつで中々)

これが、時雨の淡に対する感想だった。

このクラスは一部を除いてそれほど意地の悪いやつがいるクラスではない。

彼には暖かい拍手が送られた。

「私は、牧野裕香です。これからよろしくお願いします。」

こちらの声援はさらに暖かい。主に男子からだが。口笛なんかも飛び交ってかなりいい感じで自己紹介は幕を閉じた。

そして、淡にとって運のいいことに照の言っていた麻雀がそこそこつよそうな転校生の少年はたまたま空いていた淡の隣の席に座ることになった。

そして、早速距離を近づけるために挨拶をする。

「大星 淡だよ。よろしくね、しぐれん」

「ん、んん、まぁ呼び方はなんでもいいか。さっきも自己紹介をしたが御堂 時雨だ。今日は教科書とかもらってないから授業中はずっと頼りにすることになるがよろしく頼むぜ」

(しぐれんは気に入らなかったのかな?私的にはなかなかいいネーミングだと思ったんだけどなー。まぁ、とりあえず近づくことには成功したしいっか)

その仲良くしている様を複雑な気持ちで裕香は遠目で見つめていた。

 

 

                ☆

 

 

昼休みになって、転校生恒例の質問攻めタイムが訪れていた。

しかし、訪れていたのは裕香ひとり。

時雨は、完全にスルーされていた。

「なんで、アイツにはあれだけ来て俺にはこねーんだ?」

「そりゃ、裕香可愛いもん。しぐれんも一人の転校生だったらあぁなってたと思うよ」

ニコニコしながら淡が机に座って説明してくれる。

「そういや、お前はいかねーのか?」

「私は、別に聞きたいこととかないし。あぁ、じゃあ一つだけしぐれんにしつもーん?」

「ん?俺にか?」

「そう、オレ。しぐれんは麻雀強い?」

いつの間にか淡の笑みは初めのニコニコしていたものから裏でよく見かけた獰猛な笑みへと変化していた。

クラスに入ってきたときよりも一層強い禍々しい、オーラ。

時雨は勝手にプレッシャーと命名していたりする。

登校途中にすれ違った少女も、麻雀を意識するとこんな感じであれよりもすごくなるのか、と思うと時雨の麻雀部への興味はさらにわいた。

(とはいえ、まだまだぬるいな。所詮は部活動のレベルか。少し教えといてやるか)

興味がわくと同時にその裏で培われた獰猛な性格の一部が一瞬だがあらわになった。

「プレッシャーってのはこうやってかけるんだぜ?」

ゾクゾクゾクッ

いままでに感じたこともないような恐ろしい空気。

身動きとれずに淡は頬から冷や汗を流した。

そして、おびえる少女を見て時雨は後悔した。

(しまった、攻撃的なプレッシャーにあてられてつい……)

だが、一瞬だったのが幸いしたのか淡はすぐに笑みを取り戻した。

「あはっ☆これはかなり強そうだね」

その言葉に時雨はホッと一息つく。

恐ろしく、おぞましかったがそれでも淡は笑った。

ただ単にその場を取り繕うために、笑ってごまかそうとして笑みを浮かべたのではない。

これほど強い人間がいたことがうれしかったのだ。

それほどまでに、大星 淡の麻雀の強さへの執念は貪欲だったのだ。

(これは、てるーにも報告しとかないとね)

てるーの実力、しぐれんは超えてるかもよ?




それでは、また感想の方お待ちしております。


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