まぁ、咲の話がはいってきてないんだからプロローグだよねって思っておくことにしますので、皆さんもそう思っておいてくださると助かります
(……あ、でもそうすると、もうチョイプロローグってつづいてしまうなぁ、どうしようか(^_^;))
「さて、どういったメンツでやるつもりなんだ、神前?」
「メンツはすでにここにいるじゃないか、ちょうど4人」
関係者的立場にいる人間がぴったりと4人いる。
時雨を釣るための餌にされた少女。
グループの中でリーダー的存在だった男。
そして、時雨と神前。
確かに、メンツはそろっていた。
「いいのか?」
「うん?何がだい?」
神前は一切余裕の表情を崩す様子はない。
「いや、お前がいいのならいい」
まだ何か言いたげだったが神前の崩れぬ余裕に言葉を失い、黙って席に着く。
神前も卓へと向かってくる。
途中、立ちほうけていたリーダー(本当のリーダーは神前なので、っぽい奴というのが付く)に声をかけた。
「いつまで、ぼーっとしているんだい?いくよ」
「えっと、あの、ボス、あのガキは?」
かなり戸惑っているようで、言葉がやや詰まり気味である。
それも、そのはずだろう、目の前に現れたちょっと小生意気なガキ、という印象だったはずの時雨がまさかそんなすごい人物であっただなんていうことはこの中でも本人たち以外は知らない。
二年前、時雨は突如として裏の世界から姿を消した。
運命的に出会った少女に連れられて。
姿を消してから二年間時雨は九州でその少女の家族と一緒に暮らしていた。
二年という歳月は噂を消すには十分すぎる年月だ。
そして、噂が完全消滅するとともに彼は東京に戻った。
「君は、そのことを知る必要は無い。本人も知られたくないだろうしね。でも朝霧、先に言っておく。彼に君程度のイカサマは通用しない、下手なことはせずに正々堂々と打ちなさい。ほら行くよ」
どうやら、朝霧、というのがあの集団のリーダーっぽい奴の名前のようだ。
二人が席に座り、4つの席全てが埋まった。
「あんまりしゃべらねーな、大丈夫か?」
ずっと黙り込んだままでいる少女に時雨が声をかけた。
「……しゃべりかけないで」
時雨に対する少女の答えはこれだった。
「はぁ?俺、なんかお前にしたか?」
「ック、白々しい。アンタもどうせ、こいつらと同じであたしの買って何かの道具にしようとしてるんでしょ!そんな奴と話す言葉なんて何もないわよ!」
放たれた言葉に時雨は驚きを隠せないようで目を丸くしている。
その様子にこらえきれなくなった神前はついに大声で笑い出した。
「ちょっと、何がおかしいのよ!」
「どう勘違いしてるのかは知らないけどね、彼は純粋に君を助けようとしているんだよ?」
すこし、驚いたような顔をしたがすぐに冷静に戻って
「アンタたちの言葉なんて信用できないわ。どう考えたってそいつもアンタたちと同じじゃない!」
同じ、というのは人を売ったりするヤクザや極道と時雨がという意味だろう。
相手のボスである神前にあれほど親しげにはなしかけているのだから、そうとらえられても仕方ないかと言われればもしかしたら仕方ないのかもしれないが……
「だって、どうする時雨君?」
「俺の周りはいつでも素直じゃないやつであふれてるんだ、気にすることじゃねーよ」
「心が広いね、感心するよ。」
「フンッ、ちょーうれしい褒め言葉だぜ。」
「おっと、おしゃべりが過ぎたかな。じゃあ、そろそろはじめようか」
☆
対局が始まって少しばかり和やかになっていた雰囲気はその片鱗を一切残さずに消え去っていた。
そのあまりに強烈な支配されるような雰囲気はいかに高レートで打てるこの雀荘でも頭が一つも二つもぬけて凄いものだった。
当然、その空気を作り出しているのは神前と時雨。
打っているのはただの麻雀なはずなのに、まるで別世界で戦っているような雰囲気が二人にはあった。
その空気は途切れることなく東一局を流局にした。
親が、朝霧から次の時雨へと移った。
と、その途端、空気が明らかに変わった。
「……来たな」
神前は待ち構えていたかのようにつぶやく。
それまで、二人の間に拮抗していた空気が明らかに時雨の方が強まった。
中学時代、この圧力に神前はあっさりと握りつぶされた。
この、何を出しても和了られそうな恐ろしい雰囲気に
しかし、今回は違う。
何万局と打ち続けるうちに、自然と身についた勘がその支配を退けている。
「どうだい、僕も成長しただろう?」
以前打った時とは違う自分の中にある余裕に彼は少しの安心を得ていた。
これで、時雨とは対等だと。
そして、ついに親になった途端異常な強さを見せる時雨を親で流局にした。
半荘、親になるのは2回
その一回を乗り切ったと思うと、神前は少しほっとして心の中で息を吐いた。
「なかなか、やるじゃねーかよ」
向かいの席に座る時雨からも称賛の声が飛ぶ。
東3局もまた流局となり、次に神前が親となった。
神前は特にことさら自分が親になったからと言って強くなるわけではない。
だが、ことさらに弱くなるわけでもない。
……はずなのに
再び、時雨の支配が強まった
それも、先ほどの時雨が親の時とは桁が違うほどの。
このときに初めて神前は時雨の本当の力を目の当たりにした。
☆
「……完敗だよ」
対局は終わってみれば、時雨と神前の差だけが3万点にまで広がっていて、残りの二人は当てられもあてることもしない空気同然のものだった。
神前の目には涙があった。
どれだけの努力をしてきたのか、どれだけこの日にかけてきたのか。
いつも飄々として、決して本当の感情を表に出さない神前が見せる涙からそれらを予想するのは簡単だった。
「勝者が敗者に声をかけるのはマナー違反かもしれねーが、間違いなく、お前は強くなってたぜ。」
そう言って立ち上がると、すぐ隣に座る少女に
「これで、お前は自由だ。どこへでも好きなところに行け」
少女は、何が起こったのかわからないように目を丸くしている。
どうやら、あの言葉は本気だったらしい。
(俺も随分悪人面なんだなぁ)
ちょっとショックだなと思いつつ、時雨は店を立ち去った。
もう雀荘には近づくまい、と思いながら。
外は、夕焼けに染められ赤色に染まっていた。
せわしなく、ビルがひしめき合い、ビルのど真ん中にある大画面では、新しい映画の情報なんかが大きく宣伝されている。
「ちょっと!」
そんな時雨の背中に聞き覚えのある声が聞こえた。
ふりかえってみると、先ほどの少女だった。
走ってきたのか息を切らしている。
「なんだ、礼か?そんなもんなら俺はいらねーぞ」
「そんなんじゃない!」
(そんなんって……)
少々戸惑っている時雨を
少女はじっとまっすぐに時雨を見つめる。
こうして、間近でみてみるとやはりかわいらしい少女だった。
そりゃ、高値で売れるいい商品だろうな、俺だったら1000万は出すぜ、などとバカなことを考えてしまったほどだ。
「その……さっきはごめんなさい」
そう言ってまっすぐ時雨に頭を下げた。
その声の大きさは夕暮れ時の人々の静けさから言ってかなりうるさいものだった。
その大きな声のおかげで注目を浴びた。
「もういいって、顔上げろ。」
時雨は焦って少女を起こそうとする。
少女も逆らわずにすぐに顔を上げる。
「謝ることが目的だったならもう用は済んだな。じゃあ、俺は帰るから。」
自分で言っててこのまま突き放すのはもったいなかったなぁと思いながら、時雨は歩き進める。
しかし、再び強い力で後ろに引っ張られる。
もちろん、引っ張ったのは先ほどの少女だ。
「何だよ?」
これ以上何があるんだ?といぶかしむようにして尋ねる。
「えっと、あの、その……」
とうの少女は、引き留めたにも関わらず、言葉が浮かんでいないようだ。
その慌てふためくさまは、時雨にとって中々キュンと来るものが有る。
小動物のような感じでとてもかわいかった。
「わ、私を一晩でいいので家に泊めてくれないでしょうか?」
時雨は少女の思わぬ言葉に目を丸くした。
少女の方も自分が言っていることを理解しているようでかなり顔が赤い。
「襲ってもいいの?」
「なっ!」
さらに顔を真っ赤にして絶句する少女。
さすがに悪いと思って軽く笑って
「冗談だよ、冗談。」
「ほんとに?」
いぶかるようにして少女は時雨を見上げる。
からかっていて楽しそうなので、明らかにわざとらしく時雨はさっと目をそらす。
「ちょっ!目ぇ逸らさないでよ!」
「エ?ナンナコト?」
「今そらしたじゃない!うぅ、やっぱりアンタもあいつらと同じなんだ!」
少し怒っている表情にも見えるが最初ほどの剣幕ではない。
「でも、お前、住むところないんだろ?」
「ウッ……」
痛いところを突かれて少女の顔がゆがむ。
「あぁ、春先とはいえまだ気温は低いし、野宿はつらいなー。
それに、外で寝れば俺みたいなやつに寝込みを襲われないとも限らないし。
臭いし、さげすまれた目で見られるし。あー、嫌だ嫌だ。
でも、まぁ仕方ねぇな。頑張れや。」
もちろんこの言葉が時雨の本心なんかではない。
ただ単なるほんのちょっとしたいたずら心だ。
友人何かとよくやる、冗談。
もしかしたら、少し時雨もまっすぐに手を差し伸べてやれるほど素直な性格じゃないだけなのかもしれない。
だが、少女は少年と親しい中でもなければ、もちろん友達なんかでもない。時雨のそんな性格など知る由もない。
それが、冗談だとわかるはずもないのだ。
背を向ける時雨に少女は不安げな様子を隠しきれずにあっ、とつぶやく。
だが、なんとなく少女にもわかっていた。
自分がどれだけずうずうしいことを言っているかということくらい。
だから、時雨が背を向けたことについても文句は言わない。
ただ諦めてその場を去ろうと決意したとき、少年の口から再び声が聞こえた。
「信じる信じないはお前の自由だ。ついてきたいなら、ついてこい。寝床くらいなら用意してやるよ」
その言葉が少女にとってはうれしかった。
だから、満開の笑顔で
「うんっ!ありがとう!」
と言った。
そのあまりに可憐な笑顔に時雨は一瞬時を忘れて見とれていた。
一応、これで長い長いプロローグは終了です。
これからが、やっと本番です。
遅筆なうえに、どう進んでいくかわからない迷走状態のこの作品ですが、
コイツ初心者なんだな、と生暖かい目で見ていただけると幸いです。
これからもよろしくです。