かなり短いですが、ご容赦くださいませ。
「おらおら、どうした?もう後がねーぞ。」
周りから少女をまくし立てる声。
「わかってるわよ!これから私の親なんだから、まだ、負けとは決まってない……!」
目で睨み返すが、男たちにとっては少女の睨みなど可愛いものだ。
嫌な笑みを浮かべて、少女が負けるのを今か今かと待っている。
「早くしてくれよ、俺は、もう、朝からずっとビンビンにたっちまってよぉ」
ギャハハハと笑いの渦がその場を支配する。
「もう、リーチかけることもままならねぇっていうのに、どうやって勝つって?」
「うるさい!」
少女の点はもうすでに1000しか残っていない。
そして、これが南4局。
もし、誰かほかの人に上がられた時点で終局。
しかも、周りと開いた点差は少女の点数からわかるとおり一回二回でひっくり返せるような点数ではない。
そのうえ少女はトップで上がらなければ、ならないのだから勝ち目はほぼ0だった。
4人が順に牌を山から取っていく。
ゆっくりと、牌を手元でオープンさせる。
特別いい手とは言えない。
ドラなしで一気通貫を狙うか、安く早く上がるなら役牌をそろえて……と言った具合。
その手を見たすこし遠くの後ろから見ていた少女と打つ周りの男たちに少女の手を伝えるしぐさを見せる。
第一のイカサマはこれだ。
相手の手の内を打っている人間に知らせる。
振り込むことは、まずない。
そして、それはあっという間に迅速に執り行われた。
第二のイカサマツバメ返し。
ツバメ返しとは、あらかじめ自分の牌山の中に聴牌、和了となるものをまとめておき、隙を見て牌山と手牌を入れ替えてしまう技。
そのスピードは点数のことを気にして、どうするかを全神経を注いで考えている少女にはみえないほどに速いスピードで行われた。
ツバメ返しの成功とともに男たちはニヤっと笑った。
勝った……
心の声が漏れ聞こえるように見ている人間にはわかった。
だが、次の瞬間その笑みはかき消された
「見え見えのズルしちゃダメだぜ、オッチャン」
声を放った主は、少女と同じく、こういう場所にはあまり縁のないはずの一般高校生くらいの面持ち。
身長は大体170前後。
体格は、すこし細身と言ったところだろうか。
ポケットに手を突っ込み、自分よりも身長が高いはずの男たちを前にしても余裕の表情を浮かべている。
軽い感じで放たれた言葉に一番に反応したのはやはりその集団のボス(らしき男)だった。
男は、少年の方までゆっくりと歩いていき、真正面に立って言った。
「おいおい、ガキが、言いがかりつけてんじゃねーぞ」
「ぬるま湯につかるちょい悪風情が、俺をガキ扱いすんじゃねーよ……!」
さっきまでの軽い口調とは一転、少年から放たれた言葉は、つめたく、そして強い。
そして、何よりもその雰囲気が、こんなところとは比べ物にならないほどの威圧感をもち、その鋭い眼光が目の前に立つボスの男を凍らせた。
少年がすっと男の横を通り過ぎようとする頃にようやく、何かから目覚めたようにハッとなり、すぐに少年の肩をつかむ。
「チッ、おい待てよ!ガキのくせに舐めやがって、ぬるま湯、だと……!?
テメェ、俺を誰だかわかってて言ってんのか、あぁ!?」
怒りをあらわにする男に少年は見向きもせずに静かにこう告げた。
「……離せ」
その言葉は男の怒りをさらに増長させる。
「こ、のっ、どこまでも生意気なクソガキが!」
少年の方を思い切り内側に引き寄せ、それと同時に放ったもう一方の手が少年の顔面をとらえる
……はずだった。
「なっ……」
少年は男のそのパンチを片手で普通に受け止めていた。
男は、あまりの驚きにすぐにそのこぶしを引っ込める。
「何してる、お前ら!コイツをとっととやっちまえ!」
そして、何かにおびえるように叫ぶ。
しかし、少年に襲い掛かってくる男などだれ一人いない。
別に少年におびえて襲えなかったとか、そういうのではない。
もっとそれ以前の問題。
男たちがそこから姿を消していたのだ。
驚いたのは男だけではない、時雨もまたその状況には驚いていた。
(おっほぅ、あいつら以外とやるねぇ)
とりあえず、時間稼ぎをお願いしたのだが、どうやら時雨の負かした連中はそこそこの力の持ち主だったらしい。
「さぁ、どうする?」
今にも倒れそうな男に向かって時雨は余裕の笑みを浮かべてそう言った。
「な、何が目的だ?」
「目的?俺はただ、見え見えのズルしちゃだめだぜ、って言っただけだけど、ってこれは嘘くさいな。まぁ、嘘だしな。ハハハハッ」
一体なんなんだ、このガキは……と男は心で叫んだ。
だが、それに応えてくれるものはここにはいない。
彼を知る人間がこんなところにいるわけがない。
「率直に言おう、その子を俺に引き取らせてほしい。」
そこで、初めてずっと固まっていた少女が反応した。
「……あたし?」
「そう、お前だ。」
「そりゃ、困るな。その子はうちの大事の商品になる予定の子だからね。」
その声は、遠くの出入り口の方のドアから届いた。
「ボ、ボス!?」
「よう、こんなとこで会うなんてな。神前(じんぜん)。」
メガネをかけたスーツ姿の神前と呼ばれた男は、どちらかというと、専務という面持ちをしていて、計算高いような雰囲気があった。口調もどことなく丁寧さがある。
「ククク、やはり、君だったか。先ほどバカ強い高校生がココにいる、という情報を聞いてね。なんとなく君じゃないかと思っていたんだ。」
「ウソつけ、わざわざ餌までまきやがって。それにしてもよく俺がこっちに帰ってくることがわかったな。」
「僕ももう、いっぱしの組長だからね。その辺はもう、情報網があるのさ。
それとその子はうちの中でもかなりいい物件でね、もうすでに買い手もついている。だからその子を渡すわけにはいかないんだ。」
「おいおい、そこの部下たち、その大事な商品を肉○器にしようとしてたぜ?」
「しってるよ、まぁ、どうせ君がぶち壊してくれると思っていたから、特に心配はしてなかったよ。しいて言うなら僕が君と上手く鉢合わせられるかのほうが心配だったかな。
会えなかったら、君と打てないしね。」
神前のその眼には明らかにさっきまでとは違った先ほど見せた時雨と同じ鋭さがあった。
「つまりは、三年前の復讐ってわけか。ったくよ、まともな学生としてこれからだって時にしょっぱなから……。まぁ、学生になろうっていうのにこんなところに来ちまったオレがわるいんだけどよぉ……」
独り独り言のようにつぶやき、
時雨は大きくため息をつく。
「いいぜ、相手してやるよ。俺が勝てばその子を。お前が勝てば、俺をアンタの好きにして構わない。」
三年前の神前と時雨の対局。
両者とも、ある組織の代打ち。
結局勝ったのは時雨だった。
当時まだ中学生であった時雨に負けた神前は代打ちとしての名声を失い、さらには組から拷問を受け、そして放り出されたのだ。
中学生に負けるクズというらくいんまで押されて。
「君をどうこうするなんてこと僕にとってはどうでもいいことなんだよ。あれから僕もいろいろ努力してね、今では立派な地位を得た。
だけど、いつまでたっても僕の周りについて回るんだよ。当時中学生だった君に負けた代打ちという烙印がいつまでたっても。
だから、今日僕は君をつぶして、自分の地位を完成させる。」
すいません、本当は上下で終わらせるはずだったんですが
僕自身、思わぬ方向に話が飛んで行っちゃって……(^_^;)
おかげでまだ、麻雀ってこと以外咲の要素がないですね、
しかも、話自体は下世話で急展開。
気分を害された方は申し訳ありません。