咲-saki- 裏世界の住人   作:アレイスター

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またしても随分と間隔があいてしまいましたOTL
せっかく前回の話で感覚を取り戻したと思ったのですが……
まぁ、くよくよしていても仕方ないですね!
正直ダメ文章なのは前から同じだと思いますので、暖かい目で見守ってやってください!


第十話 発見

意識が自分の体に戻り、スーッと目を開けると真っ先に目に入ったのは白い天井だった。

なんとなく、雰囲気からして病院であるということは察しがついた。

体は痛すぎて、とても動かせる状態ではない。

そこまで思考が働いた時点で照は自分が今までどういう状況にいたかを思い出し、謎に包まれた少年時雨のことを思い出した。

(私……助かったの?)

にわかには信じがたいことだった。

だが、事実自分はこうして病院のベットでこうしてのんびりと体を動かすことなく思考にふけってられるのだから助かったのだろう。

とりあえず誰か呼ぼうと思って首だけを起こした瞬間、照はあまりの驚きに声を上げそうになった。

自分から右斜め前には椅子に座った時雨がぼんやりと夜空を見つめている姿があった。

時雨を見た途端、照は顔が熱くなるのを感じた。

『よく頑張りました、先輩。』

その言葉が自然と脳内で再生される。

照が起きていることに時雨が気づく様子はない。

(何か考え事でもしてるのかな?)

イロイロと聞きたいことをとりあえずは心の奥に抑え込んで向こうが気づいてくれるまで待つことにした。

幸いにして向こうが気づくのにそう長い時間はかからなかった。

「よう、具合はどうだ?」

時雨がいつもの調子で照に言った

「お、おかげさまで」

まだ、熱が冷めず少しろれつが回っていない。

「そうか、じゃあ俺は帰るとするか。あんまり遅いと裕香に文句言われそうだしな。」

そう言ってゆっくりと立ち上がる。

大きく伸びをして、ふぅと一息つくと、派手に登場したときと同じようにポケットに手を突っ込んで帰ろうとした。

このまま何も言わないと普通に出ていきそうな雰囲気だったので、どうにかして引き留めようとして、そのままの感情が口に出た。

「待って」

「まだ、何かようか?」

あくびをしならが眠そうに返す。

「起きるまでわざわざ待ってたの?」

まぁな、と短く返す。

「怒らないの?」

「はぁ?」

予想外の質問に素っ頓狂な声が時雨の声から飛び出る。

「だって、私、アナタにすごい迷惑をかけたわ。身勝手なことして、拉致されて、たぶん助けに来てくれたってことはあなたなりに責任を感じていたからでしょう?

だったら……」

「随分と賢いな、お前。あれだけのことがあって今もまだ傷は痛いだろうに、よくそこまで分析できるな。冷静すぎて逆に怖いわ」

時雨のその声はどこか冷たかった。

その言葉に少し照は傷つき、すこしむっとした。

「じゃあ、冷静なお前ならもう思い出してるんだよな?俺に聞きたいこと、あるんじゃねーの?」

再び時雨は座りなおした。

「あなたはいったい何者なの?」

「お前、それ本当に知りたいか?」

時雨の眼は真剣そのものだった。

時雨にとってそれはとても重要なことで、軽々しく話せる内容ではない。

照はあまりの真剣なまなざしにひるんだ。

だけど、それでも知りたいとその時の照は思った。

普段ならきっと話したくないなら話さなくていい、と多少気を使いつつ、と言ったテンプレートなことを言っただろう。

だけど、照は時雨のことが知りたかった。

「教えてほしい」

時雨は目を丸めた。

「聞きたいのか?」

思わずそう聞いてしまうほどに時雨は驚いていた。

「ダメ、かしら?」

照が先ほどの時雨と同じように真剣なまなざしで時雨を見つめる。

時雨は、すっと話を始めた。

「俺は小学生のころから親の借金を返すためにある組の代打ちとして麻雀をやってきた。負ければ、命を取られるような対局も何度もあった。今、生きていられるのは奇跡みたいなもんだ。ケンカは組の連中と遊び程度に鍛えたもんだから、アイツらみたいに素人なら大丈夫だが、本来はそんなに強くはない。お前たちと違って俺は小学校も途中だったし、中学も通ってない。ひたすらずっとそういう世界で麻雀をやってきた人間なんだ。」

時雨のそれほど多くない身のうちばらしだけで照の中ではかなり多くのことに合点がいった。

時雨の余裕のあるふるまい。圧倒的な麻雀の強さ。そして、自分を助け出せるだけの実力も。

「まぁ、念を押しといてなんだが俺の話はこれくらいだ。俺が何者かって聞かれたら今はただの高校生。麻雀にかかわりさえしなければ、本当にただそれだけなんだ」

少しばかり空白の時間が流れる。

そして、再び時雨の口から言葉が発せられた。

「じゃあ、俺からも質問だ。どうしてそこまでして俺のことを聞きたかったんだ?」

照は答えに困った。

自分自身、どうしてそこまでして時雨の過去を知りたかったのかわかっていないのだ。

「じゃあ、もう一つ質問だ。なんでそこまで冷静でいられるんだ?どうして取り乱さない?」

こういう状況の人間を多く見てきた時雨にとって照の今の状態は異常以外の何物でもない。

取り乱さず、暴れず、何をするわけでもなく、本当に冷静にまるで何事もなかったかのように話をしている。

その対応はまるで照が人間ではないかのように時雨には思えた。

だが、照がこうして普通にしていられるのには理由があった。

あの時……

何もできなくて、悔しくて、苦しかったとき

あのまま、自分があのままの感情を抱いたまま倒れこんだならば間違いなく自分は人間不信になっていただろうと思う。

だけど、優しくささやいてくれた時雨の言葉はそれまでも苦しい感情を吹き飛ばしてくれた。そこに時雨がいると思うだけで安心が出来た。

それが倒れる直前、最後に抱いた感情だったからこそ自分はこうして冷静でいられたんだと照は思う。

だが、それを包み隠さず話すのはかなり気恥ずかしかった。

だけど、大事だと思ったからこれだけは言った。

「あなたのおかげよ」

「俺の?」

「うん」

その安心しきっている顔を見ていたら時雨も納得するしかなかった。

「そっか。」

あなたのおかげ、ということを話した途端照は急に何か気持ちが軽くなったような気がした。

そして、軽くなったついでにもう一つ時雨に話したくなった。

「一つ、私の話聞いてもらってもいい?」

「なんだ?」

「私にはね、一人妹がいるの。咲っていうんだけど。すごく気を遣う子で家族麻雀をしてる時でもいつでもまわりに影響を及ぼさないように±0を狙ったりするの。

すごいでしょ?ふつう狙えるものじゃないわ。だけど、いつも麻雀しているときのあの子は辛そうで。それが私にとってはつらかったし、腹が立ったの。絶対あの子は普通じゃない強運を持った子なのに、絶対強いはずなのに、いつも本気は出さないで、つらそうに打って。私は麻雀が好きでこんなに打ってるのに、それでもそんな咲にすら勝てないような気がする。ううん、勝てないわ。でも、私はだからこそ咲には負けたくなかった。だから絶対的な強さが欲しかった。で、こっちに来てずっと打ってるうちに強くなったと思った、絶対的な強さまでになった。そう思った時にあなたがきたのよ。全然自分がまだまだだな、って思い知らされた。それで、どうにかして強くならなきゃって焦って雀荘に言って、拉致されて、結局こうなっちゃった。」

照は苦笑して見せる。

「やっぱり私って麻雀の才能ないのかな?」

照は今までに見せたことのないような不安な顔をしている。

「心配するな。お前は強くなるよ。その気になればどこまでだって」

それは偽らざる時雨の本心だった。

「ホント?」

少し笑顔になりながら照は聞いた。

「うそ」

「えぇ!?」

「冗談だ。」

ハハハッと軽快に時雨は笑った。

「もう!こっちは真剣なのに」

「俺はシリアスが嫌いなんだ。もっと明るく楽しもうぜ、麻雀もな」

その時、照は悟の言っていた言葉を思い出した。

『咲はどんな時にその才能を輝かしたのかしら?』

咲が強かったのは決まって自分と二人の気兼ねのないとき。

咲はとても楽しそうに、私と本当に勝ち負けなんて関係なしに楽しそうに打ってた。無邪気で、純粋に。

自分に足りなかったものにようやく照はたどり着いた。

「ありがとう。とっても参考になったわ。」

「へっ、そうかよ」

わかっててあえて時雨はそのような言い回しをしたのだろうか?

だとしたらどこまでも計り知れない強さを持った人だ。

だけど不思議と挑戦的な言葉が口からは出ていた。

「次は負けないわ」

「才能どうのって言ってたやつがよく言うぜ。」

随分いい顔になったな、と時雨は思った。

「もう、大丈夫!」

「私って麻雀の才能ないのかな?」

ワザとらしい真似を時雨がしてみせる。

「もう!そんな言い方してない!」

憤慨して、足はまだ動かせないので手だけをバタバタと動かしている照は冷静な時とは打って変わって元気でかわいらしかった。

時雨はそんな照の頭に手を置いて

「良い顔してるぜ。今のお前。」

そういって時雨も笑って見せた。

そして、さっと身をひるがえして

「監禁プレイお疲れさん。また来週学校でな」

そう言い残して時雨は病室を後にした。

照は顔を真っ赤に染めていた。

 


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