咲-saki- 裏世界の住人   作:アレイスター

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第九話 破壊

「ちっ、まだなのか!!!」

屋敷の大広間で一人の男が叫んだ。

中にいるどの男よりも年老いており、やたらエラそうな態度であることからその組織の頂点であることがうかがえる。

「あと少しですよ。もうほとんど意識は無いです。今日で……」

一人の男が顔をひどくあくどく笑っていった。

その顔は悪人の顔そのもの。

恐ろしい人間というのには二通りあって、一つはどこまでも冷静であること。

何をしても心を揺らさず、どんな状況であっても決して間違った行動はしない。

そして、この男はもう一つの方。

どこまでも悪事を楽しむ人間なのだ。

その顔を見て組長を少し安心したように笑った。

「フフッ、そうか。早くしてくれよ……。俺にだって時間はあまりないんだからな。最悪、今日は死ぬ手前までならやって構わん」

その言葉を聞くと粘つく笑みを浮かべて男は立ち上がった。

「じゃあ、ちょっと最後の仕上げに行ってきますよ」

会話していた男以外にも何人かが立ち上がりその部屋を出て行った。

数分して、男たちはすこし狭い目の蔵へと到着した。

その蔵には一人の少女が今にも死にそうな弱り切った状態で突っ伏していた。

「そろそろ、限界だろ?」

「なーにお前ほどの腕なら大丈夫だ、決してミスなんてしねーよ」

男は少女に近づきながら諭すように言う。

「………」

だが、少女は何も言わない。

次の瞬間、男の足が少女の弱り切った腹をとらえた。

鈍い音を立てて、少女は転げた。

「今日はさぁ、死ぬ直前までならアンタをやってもいいって許しが出てんだよ」

男は嬉々として語る。

「だがよぉ、オレこういう仕事って初めてだから死ぬ直前ってどこだかわかんねーんだよなぁ」

再びけりが入る。

少女の口から声にならない悲鳴が上がる。

そして、男は容赦もなしに少女の髪をひっぱりあげる。

「だがまぁ、何も言わねーならそれでもかまわねーけどよっ!」

少女は投げ飛ばされる。

手足が縛られているせいで、顔から地面へと叩きつけられる。

それがどれほどの痛みであるかさえ感じられないほどに少女はすでに憔悴しきっていた。

男は少し前まではこういった性格ではなかった。

上からの命令で照に代打ちをさせることだけを考えて行動していた。

だが、男は気づいてしまった。

他人をいたぶることへの楽しさに。

つい最近までは普通の高校に通い、普通に部活に入り普通に生活をしていた少女が一週間以上もこの拷問のような生活に耐えられていたのはひとえに彼女の

 

 

麻雀への愛

 

 

だがそれも限界に来ていた。

体は動けないほどに傷つき、精神は何も考えられないほどに弱り切っていた。

口を動かすことさえ、もうすでに難しい。

悔しい、と思った。

少女は最近になって同じような感情を一度抱いていた。

それはは部活で初めて大好きな麻雀で圧倒的な力の差で負けた時。

今と同じで何もできない。

屈服しそうになっている自分が悔しかった。

何もできない自分に腹が立った。

でも、それでももう耐えられない。

そう思って口を開きかけた時だった。

何かが大きな音を立てて破壊され、外の光が少女を照らしたのだ。

「お待たせ!」

そこに立っていたのは一人の少年。

ポケットに手を突っ込んで、足を大きく上げていることから彼がドアをけ破ったのだろう。

その声を少女は聞いたことがあった。

「なんだ、テメェは!」

男たちが一斉に怒声を上げる。

「……もう、お前らに名乗る名前は捨てたよ」

ゆっくりと少年は歩み寄っていく。

なぜか男たちはその少年に気圧されたように後ずさった。

いつの間にか少年は少女の下まで来ていて、少女の縄をほどいた。

「あーあ、随分傷だらけになって。ほんと意地っ張りだな。でも……」

 

 

――よく頑張りました。先輩

 

 

その少年の言葉はとても優しく少女の折れそうな心を優しく包んだ。

「アナタ、一体、なにも、の……?」

不思議とそんな言葉が少女の口から出ていた。

「それは、もう一回アナタが起きた時に。今は、眠っていてください」

その言葉に誘導されるままに少女――宮永 照は目を閉じた。

 

そして、その直後

「ちっ、なにドラマ広げちゃってんだよ、ごるぁ!」

男が怒声を上げた。

「アンタら意外と空気読める奴らだったんだな。わざわざ待たせちまって悪かったな。」

少年――御堂 時雨は高らかに笑った。

「チッ、ふざけやがって……!お前ら、コイツは関係ねぇぶっ殺しちまえ!」

男が声を上げたのとほぼ同時のタイミングで一斉に男たちが時雨へと突っ込んでいく。

そして、一番早くに時雨の下に到達した男は迷いなく大きく腕を振り上げて時雨へと襲い掛かった。

だが、次の瞬間、にわかに信じがたい光景がそこにいた男たち全員の視界の中で起こった。

鈍い音を立てて飛んで行ったのは時雨、ではなく襲い掛かった男の方だったのだ。

あまりに予想外の光景に全員の動きが止まる。

「フッフフフフッ」

時雨は気味悪く笑った。

少し顔を下向けているせいで表情が見えず、それが男たちにとっては余計に気味悪いものに思えた。

「何年ぶりだろうなぁ。こういうの」

そして表情が見えた時、男たちはその気迫だけで一歩退いた。

そして次の瞬間

「ぐふぅ……」

一人の男がまた倒れこんだ。

一人、また一人とやられていく。

威勢の良かったリーダーらしき男はすっかりと弱気になって、足をガクガクと震えさせてその場にしりもちをついた。

「……なんなんだよ、コイツは」

「殺すなんて生ぬるいことだけじゃ、俺はすまさねぇぞ。生き地獄を体験させてやるよ、覚悟しろよ……!」

 

 

                 ☆

 

 

蔵が騒がしいということで、何も考えずに出てきた組長はそこで信じられない光景を目にしたようだった。

たった一人の少年に十数名の組のメンバーがまるで赤子のようにひねられていた。

だが、さすがは組長と言ったところか、すぐに冷静に立ち直って支給組織のメンバーを全員集めようとケータイを取り出した。

が、そのケータイは第三者によってはじかれ、踏みつぶされることであっけなく粉々になってしまった。

怒りのまなざしで、手の伸びた方向を見ると吊り上った目にメガネをかけ雰囲気はどこか気品さを感じられる男が立っていた。

その人物は組長も知る顔だった。

「神前……貴様……!」

「そんな顔しないでくださいよ。僕はあなたの組を救ってあげたのですよ?」

「なにを!?」

「いやーしかし、随分な暴れようですねぇ。予想通り昔のままだ。」

蔵の中を覗き込みながら感心、と言った様子で見ている。

「あいつを知っているのか。……まさか貴様の差し金か……!」

神前は何を言ってるんだと言わんばかりに、言い返した。

「彼を呼び寄せたのはあなたですよ?」

またしても組長から驚きの声が上がる。

確かに、彼からしてみればそのつもりは全くないのだろう。

「アナタはこちらに来てから日が浅いようですから、彼を知らないのも無理はありませんね。あの少年はね――――だったんですよ、つまりあの少年を敵に回すということは、アレを敵に回すのと同義というわけです。」

それを聞いた瞬間、組長の顔から色が消えたように真っ青になり、冷や汗が顔からぽたりと落ちた。

その表情を見て満足そうに神前は笑った。

「では、そろそろ僕は去りましょうかね。彼の実力が落ちていないこともわかったことですし。」

そう言って神前は待たせておいた車に乗ってその場を立ち去った。

言うまでもなく、その組織はわずか一日にして壊滅。

だが、破壊した人物は割り当てることが出来なかった。

時雨だったということを知っているのは、神前と照だけだった。




時雨の正体は少し伏せておくことにします。
私は名詞を考えるのが大の苦手ですから、思いついてないだけなんですけどねw
なんとなく、紹介はしたかったので名前は伏せてということで。
文字数が少ないとかはきにしちゃだめよwww

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