咲-saki- 裏世界の住人   作:アレイスター

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第六話  校長

「アレが、転校生か……けしからーん!」

白糸台高校の校長室で窓越しに望遠鏡をのぞきながら声を荒げる男がいた。

その場所にいることからこの学校の校長なのだろう。

しかし、校長というわりには若い顔立ちをしており、髪は8:2分け。

スッと望遠鏡を目から遠ざけ、机の上に置くと、机に脚をクロスする形で踏ん反りが得るように椅子に座った。

「即刻退学だぁ!朝から私のモロ趣味の女の子と楽しく登校だなんていい度胸だ。

沢木君、今日は彼らと面会のはずだね?」

矢継ぎ早に言葉を繰り出して、よく息が続くものだと、沢木はいつも思っている。 

「はい。放課後に。」

この校長―江角 洋介はこの学校に赴任してわずか2年で校長にまでのし上がった超のつく天才だ。

だが、彼の身内の中での普段の態度はまるでわがままな子供の態度のそれと同じだということをこの一年で学んできた。

表にはあまり出ない人間だから、その実体はあまり知られていないようだが。

「フンっ!まったく誰のおかげでこの学校にいるのか、理解してもらう必要があるな!それと昨日の麻雀部騒動は彼らによるものらしいが……そんなに彼らは麻雀が強いのか?」

「裕香ちゃんの方はともかく、時雨くんの方は、相当な実力者でしょう。」

それは、あの女子レギュラーチームを倒した時点で疑う余地のないものだろう。

「だが、中学のころに麻雀大会に出ていたことも無ければ、どこの中学出身でどこの高校から転校してきたのかも不明。不明な点の多い奴だ……ふーん。」

にやっ、と口もとを釣り上げて江口があくどく笑った。

だが、その笑みをコロッと一転させて沢木の方を見た。

「それより沢木先生、今夜、夜景の美しいレストランのチケットが取れたんですが、あのクゥソォガァキと御嬢さんの相手が終わった後に、どうですか?」

江角が丁寧な口調に代わる時は、わがままモードから紳士的な態度に変わることが多い。仕事や初対面の人間への相手の時はほとんどこれだ。

クソガキというところが激しく強調されていたところを見ると、相当に時雨のことが気に入らないらしい。

なんとなく、この二人をぶつけてみるのは面白いと思い沢木は発破をかけるようなことを口にした。

「ごめんなさい、私、時雨君の方が好みなんですぅ。それでは、失礼しまーす。」

陽気に去っていく沢木を後ろ目に江口は再び大声を上げた。

「くっそぉぉおお!退学だ!即刻退学だぁ!私の平穏な暮らしを邪魔する虫は排除だぁぁあ!クソッ……痛っ!なんで固定型なんだ、ココの机は!気に入らない、気に入らない!、すべて撤去だぁ!」

足の痛みに目に涙を浮かべながら盛大に宣言したのだった。

 

 

                 ☆

 

 

「うぅー!やっと授業終わったぁ」

「お前、ずっとケータイで麻雀やってただけじゃねぇかよ」

大きく伸びをして、喜びにひたる淡に時雨がツッコむ。

「教師の目を欺いてゲームやるのって結構肩凝るんだよ?それよりもさぁ、しぐれんは今日も当然、麻雀打ちに来てくれるんだよね?勝ち逃げなんて許さないんだからっ!」

さも当然のように言う淡に時雨はこういった。

「……俺はもう、あの麻雀部にはいかねぇぜ。」

「え?」

「お前らは、弱い。圧倒的に弱い。弱いお前らと打ってても俺はつまらねー。もし、俺と打ちたいなら、それ相応の賭け素材を持ってくるか、強くなることだ。俺が認めるくらいにな!」

そう言い残して時雨は裕香の下へと行こうとする。

「……どうしてそんなことが言えるの?私たち本当はもっと強い!この前だってちょっとしぐれんの実力確かめたかったから手加減しただけ!もう一度でいいから打ってよ!」

大きな声を張り上げる淡にクラスがどよめきをみせる。

それは、普段の淡いとはあまりにもかけ離れていたからだ。

「……ちょっと手加減しただけ、か。うらやましい限りだ。」

そんな淡に向かって憐みの眼を持って時雨は向き合った。

「俺たちの世界じゃ、そんなの、許されなかったぜ?」

敗北=死。

そんな場面を時雨は幾度となく経験してきた。

それゆえに、その言葉の重みが淡に届いたのかもしれない。

淡はそれ以上、何も言わなかった。

淡の放心姿を見て寄ってきた時雨に尋ねた。

「どうして、行ってあげないの?」

「お前には関係ねぇだろ。それにお前も麻雀いやがってただろ。」

「私が理由なら、行ってあげて。私はそんなこと気にしないから……」

「俺の言ったことは本当だ。あんなのじゃ、打ってても面白くないんだ。それだけだ……」

だが、内心時雨は少し後悔していた。

自分の世界のルールを理由に使ったことを。

ここはあんな場所とは違う。

一緒にしてはダメなんだと。

だから、少しだけ言葉を追加した。

「3人で俺を狙い撃ちする作戦でも立ててから、かかってこい。」

そう言って二人は教室を出た。

「優しいね♪」

「うるせー」

二人は昼休み、沢木に連絡を受けていた通り校長室へと向かった。

 

 

                ☆

 

 

部室で淡は教室で時雨に言われたことを説明した。

「って、いわれちゃったー、あはは……」

淡のその言葉にいつもの元気はない。

笑い方もやはりぎこちない。

「負けは許されない、か……」

照は言い訳をしていた自分を恥ずかしく思った。

初対面だから、相手の力を見誤っていた、と理由をつけてもう一度闘わないと分からないから闘ってみたい、そう考えていた自分が。

でも、時雨と打ちたい、という気持ちは今も変わっていなかった。

だが、今度は自分が彼にどこまで食らいついていけるか、という考えはなく、純粋に勝ちたいと思っていた。

照は今初めて、悔しいという気持ちを自覚した。

いままで無敗の自分が軽くひねられたことが悔しかったのだ。

言い訳は、もう抜きだ。

だが、時雨の言っていた3人ではなく自分一人で勝ちたい。

自分の力だけで

だが、今の状態では勝てない。

だとすれば、方法はただ一つ、母の言っていたことの意味を探すしかない。

「私、今日は帰るわ」

照は部室を出て行った。

5人が4人になった。

ソファーで寝転んで足をばたつかせていた淡が質問した。

「私のうち方って、何がダメなのかな?いっつもてるーにも負けちゃうしさ。

この前だって飛ばされたのは私だったし」

「麻雀年齢100歳のお前がそれを私たちに聞くのか?」

部長の弘世が挑発するように言う。

彼女も、まったく名も知らないような人間に負けたことにいら立ちを覚えているのだ。

「私もそう思ってたけど……」

「お前は、考えなしに打ちすぎなんだ。運がいいのをいいことに自牌ばかりを見すぎだ。もっと周りの動きや空気を読め」

「だって読むまでもなくみんな飛んじゃうし……」

「……なんか腹立つな、お前」

淡は不幸なことに自分を打ち負かす超人がいない中で今まで育ってきた。

井の中の蛙状態だったのだ。

周りが弱すぎた彼女は一度麻雀を止めた。

時雨の言っていたことがそのまま彼女にも当てはまった。

―弱い奴と打っててもおもしろくねー

だが、この学校に来て照と出会った。

自分でも勝てないと思えるほどの超人とであったのだ。

そして、こうして今は麻雀部にいる。

だが、まだ一度として照にすら勝てていない。

強いところに胡坐をかいている間に成長しようとする気をなくしていたのだ。

照と打つことを自分は楽しんでいるが、照はいったいどうだろう?

これからも一向に成長しない自分とまだ打ちたいと彼女は思うだろうか?

照は自分より強い時雨と出会って、まだ強くなろうとしている。

今の彼女なら打ってくれたとしても強くなった照はどう思う?

自分は今の照よりも弱いのにこの実力に胡坐をかいていていいのか?

いや、ダメだ!とその考えをばっさりと否定する。

私は麻雀が好きだ。

だから、まだまだ強い人たち……時雨や照に自分と打ってほしい。

「じゃあ、教えて。どうやって考えて打ってるのか!」

「いつになく、本気だな。いいだろう。座れ」

4人が卓についた。

だから強くなる!

もう、打っててつまらないなんて絶対言わせない!

そう強く思った。

 

 

 

                 ☆

 

 

「私が校長の江角です。どうぞ、以後お見知りおきを」

現在、校長室にいるのは、時雨、裕香、沢木、そして江角の4人。

「俺は御堂だ。」

「私は牧野 裕香です。」

「かぁぁあ、やはりこちらの御嬢さんは礼儀というものをわかっていらっしゃる。

それに対して御堂君、君は年配の人にはです、ます、をつけるように教わらなかったのかね?」

お得意の早口でさっそく時雨を攻め立てる。

「悪いなぁ、そんなこと教えてもらう間もなく蒸発されたもんで」

「それにしたってこれだけ大きくなれたんだ、当然一人の力でそうなったわけではあるまい?だとすれば当然君にそういうことを教えてくれる大人がいたはずだ、違うかい?」

相変わらず、どこで息継ぎをしているんだろうと思うほどに長い文章をよくも噛まずにいえるものだ、と沢木は一人感心する。

「ぜんぜん習わなかったけど?むしろ理屈は力でねじ伏せられたね。3つ下の奴に敬語なんて使われたことなかったぜ?」

「それは君が居候という立場だったからだろうが!だが今の私と君との立場関係は学校の校長と生徒だ、つまり君が私を敬うのは当然であってそんな口をたたかれるいわれはない!敬意の払えない生徒はうちにいらない。即刻出て行きたまえ」

ビシッと時雨に指をさす。

「じゃあ、そうするか。」

「え?」

時雨の言葉に疑問符を浮かべたのは江角だった。

江角はこの放課後になるまでインターネットと人員を用いて時雨のことを調べ上げていたが情報はまったく得られなかった。

そんな得体のしれないやつが沢木の力まで使ってこの学校に入ってきたのだ、何か大きな理由があるとみて当然だろう。

「学校はもっと面白いところだと思ってたんだが、割と面白くなかったしな。裕香も退学でいいか?」

「あ、いや牧野さんを退学にするとは一言も……」

その反応を見て時雨はピンと来た。

「俺がこいつの金は出しているんだからな。俺が退学ならこいつも道ずれだ。それに、俺たちを受け入れてくれる学校の校長のために手土産も持参してたのになぁ」

時雨はポケットから通帳を取り出す。

そして、机の上に放り投げる。

江角はちらっと確認した直後に大きく目を見開いたまま固まった。

そのすぐ後に机から時雨がその通帳を取り上げる。

江角の視線は通帳から外れない。

「いやぁ、実に残念だ。それじゃあ、失礼。行こうぜ、裕香」

「ちょっと、待ちたまえ」

立ち上がって江角は二人が出ていこうとするのを止める。

「いやぁ、敬意を払えないのは家庭の事情があってのことだ、仕方が無い。これからそういうことをぜひともわが校で御堂君には身に着けてもらいたい。そういうことを学ばせるのが学校というものだ。いやはや、先ほどは私の失言だった。御堂君、牧野さん、これからもわが校の一生徒として勉学に励んでくれたまえ」

時雨はそれを呼んでいたかのようにニヤっと笑うと

再び江角のもとまで歩いていき

がっしりと江角の手を握った。

「物わかりのいい人で助かったぜ。」

その手には先ほどの通帳がしっかりと握らされている。

「じゃあな」

晴れやかな笑顔で江角は二人を送り出した。

そして、その後

「一 十 百 千 万 十万 百万 一千万!!きたぁぁぁあああ!!新しい車でもかっちゃおっかな~♪」

手放して喜んだ。

一方、校長室を後にした時雨たちも同じことを話していた。

「ねぇ、あの通帳、いくらいれてたの?」

「一千万」

「一千万!?」

「どうだ、恐れ入ったか!」

偉そうにする時雨に裕香は心底ため息をついて

「いや、いろんな意味で恐れ入ったわ……」

とつぶやいた。




書いているうちにだんだんマンネリ化といいますか、話の進むスピードがだんだんと重くなってきているように感じます……。

あと、今回の校長誰かに似ていると思うのですが、わかりますかね?
ゼヒわかった方は教えてくださいませww

勿論のことですが普通の感想もお待ちしておりますので、ぜひお寄せください!

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