咲-saki- 裏世界の住人   作:アレイスター

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かなりリメイクしたので、新しい作品として投稿させていただきました。
かなり遅筆ですが、お付き合いいただけたらと思います。
ついでに私は麻雀あんまりやりませんので、知識がヘボいです。
間違っているところなどあれば、どんどん指摘してください。
お願いします。


プロローグ上

「なぁ、おっちゃん。俺の相手してくんない?」

そう告げる少年―御堂 時雨がいるのは東京某所の地下

たばこの煙の渦巻く、雰囲気の悪い雀荘。

来る客のほとんどがマンション麻雀並みの高レートで打つため、政府には非公認の賭博雀荘。

当然、中にいる客のほとんどは中年のおっさんばかりで、そのほとんどが入れ墨や、いくつものピアスとガラの悪い男だった。

声をかけられた男は時雨の姿を認めると、少し驚いた様子だったがすぐに普段通りに戻り

「いいぜ。でも、ガキ、お前ここはどういう場所かわかってきてるんだろうな?」

「金のことなら心配ねぇよ、こう見えてそこそこ金はあるんだ」

時雨はパンパンと財布の入った方のポケットを叩いてみせる。

その答えを聞くと男はにやりと笑みを浮かべて

「へっ、そいつを聞いて安心したぜ、で、メンツは?」

「いんや、まだおっちゃんだけ」

「そうか、じゃあ、オレが集めてきてやるよ。そうだな……あそこの卓が空いたな。あそこで待ってろ。」

そういうと、男は打ってない男たちが集まっている集団の中へと向かっていく。

時雨はその言葉通り、卓について待つことにした。

 

 

「おい、お前ら、絶好のカモがきやがったぞ」

集団の中で男は声を上げた

その言葉にその場の男全員が反応する。

「ガキが来た。それもそこそこ金持ちだ。」

「まったく最近のガキはちょっと打てるようになったからってすぐこういうところに来たがる。まぁ、俺たちはそれのおかげでこうして財布が潤ってるわけだけどな」

ワハハハ、と全員がうれしそうに笑い声をあげる。

主導となっている男が少年のことを気にしてその声を静止させる。

「で、どうする?今回は誰が行く?」

「そんなもん、全員行きたいに決まってらぁ、なんせ金のなる木だからな、ガキは。」

「この中で金の無い奴が打てるっていうのはどうだ?」

「そりゃねーぜ、今日はタマタマ勝ってるけどいつもは負けてる奴だっているんだぜ?」

「主に自分のこと言ってるだろ、それ。自虐か?」

また笑いがあがる。

「しゃあねー、じゃんけんだ。じゃんけんで行くやつさっさと決めろ」

「チッ、いいよな、テメェは確実に行けるんだもんな」

「話持ってきてやっただけで感謝しろ」

じゃんけんで結局勝ったのは今日大負けした男と、たまたま今日だけバカつきしている男の二人だった。

そして、その二人と時雨に声をかけられた三人は時雨の待つ卓へと移動する。

 

 

「すまねーな、待たせちまって。さぁ、はじめよーぜ。」

三人が卓につく。

「レートは?」

「俺はいくらでも構わねーよ」

「ガキがいるからなー。点5くらいにしとくか?」

ふざけた口調で言う男にほかの男二人が笑う。時雨も笑った。

「はっ、面白いこと言うねぇ、オッチャン達。そんな点数でする気、無いんだろ?」

「「「………!!」」」

その鋭い一言に男たちは一瞬ドキッとする。

「おいおい、言ってくれるじゃねーか、ガキ。俺たちはお前のこと気ぃ使っていってやってるんだぜ?」

「顔に、カモから金を吸い上げるぜ、ヒャッホウ―って書いてあるぜ?」

「んだと!言いたい放題いいやがってクソガキが!!」

カッとなって飛びつきそうになる男に右手の制止が入る。

制止させたその男は自分の胸ポケットから一本のたばこを取り出し口にくわえて火をつけ

ゆっくりと息を吐き出した。

「そこまで言うからにはそれなりのレートでする覚悟があるんだろうな?」

「言っただろう?俺はそこそこ金持ってるって、アンタらの好きなレートでやってやるよ。」

少年の言葉を聞いた男たちは盛大に大笑いした。

「いい度胸だ、だったらデカピンでやろうじゃねーか」

その言葉を聞いた瞬間時雨の顔色があからさまに曇った。

「なんだ?怖気づいたのか?デカピンでするだなんて思いもしなかったか?ああ?泣き言いったって遅いぜ?お前がどんなレートでもいいって言ったんだからなぁ!」

「ガキが調子に乗ったこと言うからだぜ。本当の裏の世界の怖さってやつをとくと教えてやるよ。覚悟しろよ!」

べらべらとまくし立てる男たちをよそに時雨は大きなため息を吐き出して、小さくつぶやいた。

「……ガッカリだ。」

耳ざとく男たちが反応する

「なんだと!」

「ガッカリだっつってんだよ。ココが本当にこのあたりで一番のハイレート店なのか?デカピンくらいではしゃぐ客がいるなんて、思いもしなかったぜ」

「なっ!?」

時雨の言葉に毒気を抜かれて声も出ない。

「ごめん、やっぱ帰るわ、俺。そんなレートじゃ暇つぶしにもなりゃしねー。」

店を出ようとと席を立つ時雨。

「逃げるのか?クソガキ。」

「あ゛?」

「なんだかんだ言って、本当はデカピンが怖いだけじゃねーのかっつってんだよ、ごるぅあ!打てよ!テメェから誘ってきたんだからよ!」

いや、言ってないだろ、と一応時雨は心の中で突っ込んだ。

卓から離れようとしていた足を再び卓の方に戻し、もう一度椅子に腰かける。

「……いいだろう。」

そして、強く言い放つ

「ただし!やるならデカピンじゃなくてデカデカピンだ。」

今度は男たちの顔が明らかに時雨の時よりも大きく顔がゆがむ。

目線で会話を飛ばす

(どうする?)

(どうするも何もするにきまってんだろ!)

(でも、デカデカピンだぜ?もし負けたら……)

(ガキが強がってるだけだ、そんな高レートでガキが打ってきたとでもおもってるのか?)

(いや、でも……)

(それにいざとなりゃ)

手をクイクイと動かして見せる。

(なるほど。ガキ相手に俺ら、最悪だな)

グヘヘと今にも聞こえてきそうなあくどい笑み男たちは浮かべて、そして、自信満々に言った。

「やろうぜ、デカデカピンで」

「そうこなくっちゃな」

 

              ☆

 

 

対局はわずか3局でけりがついた。

結果は役満二回、満貫一回をツモって全員を飛ばした時雨の一人勝ちだった。

男たちは今でも信じられないといったように固まっている。

「じゃあ、一人25万。それともまだやるかい?」

男たちはおびえきった様子で卓に茫然と座り込んでいる。

「裏の世界の怖さ、だっけ?」

卓に身を乗り出して、男たちに問う。

「「「うっ!」」」

男たちの悲鳴が重なる。

「金、払えないならどうなるか、わかってるんだろうな?」

「頼む!金は必ず用意する。一日でいいから待ってくれ!」

「そんなの払うわけないだろ?逃げるだろ、お前ら」

「くっ!」

「正直だなー、お前ら」

(さぁて、こいつら、どうするかなー)

時雨にとって男たちからのはした金などどうでもよかった。

何度か、仕掛けられたイカサマを難なく崩し、さらに自分に優位なように配置を変える。

男たちはそんなことにはまったく気づいていなかったようだが……

すっかり委縮しきった男たちを心底楽しそうに眺めている。

とそのとき、また新たな入店者が訪れる。

5人くらいの男と一緒に、女の子、それも時雨と同じくらいの学生の年齢と思われる子が入ってきた。

長い少し茶色めの髪をポニーテールにまとめ、その吊り上った瞳はその少女の活発さを表すようだった。

「へー、あんな子もくるんだ。あれは何してんの?」

男たちは時雨の指差す方に顔を傾ける。

だが、誰も答えようとしない。

「教えてくれたら、さっきの負けチャラにしよっかなー」

その言葉を聞いた途端、三人が一斉に説明をしだす。

「おれは、聖徳太子じゃねーんだ、3人一緒に喋るな。心配しなくても負け分はチャラにしてやるから」

そんなつもりで言ったわけではなかったが、そう口にした途端、時雨の頭の中で、今とはまたちがった場所で出会った少女の言葉が脳をよぎった。

イカサマで手に入れた金なんて捨てちゃいなさい!そんなもの、嘘っぱちの金だわ。

その時は、金を集めるのに必死だったが今ではそのことがわかるような気がする。

「で、あの子はなんなんだ?」

「親の借金を返すために打ってる子さ。今日で5日連続だ。俺たちからしてみればけなげなもんだぜ、毎日借金返済のために打って。」

自分とおんなじだ……

年齢の違いや、環境の違いはあるかもしれないが、親の借金を麻雀で返すという行為は昔の時雨と全く同じだった。

「だが、あの子は弱い。話にならない。ちょっと役を覚えただけの初心者。それに、ここで行われる麻雀が普通の正当な勝負であるほうが珍しい。イカサマもバンバン仕掛けてる。そんな状態であの子が勝てるわけもなく、今で借金はもういくらか……」

「そんな奴がどうして、麻雀を選ぶ?他にも賭博なんていくらでもあるだろ」

「一勝。五日間のうちに一勝でもできたならそれで借金はチャラ、そういう条件らしい。ただし、一度も勝てなかったら」

「勝てなかったら?」

「お体でお支払よ。お前もわかるだろ、あのルックスだ。」

もう一度少女の方を見る。

もうすでに卓について打っている。

「ロン!」

少女は悔しそうに歯噛みする。

それでも、少女は諦めようとはしていない。

果敢に立ち向かっている。

昨日今日で詰め込んだ浅い知識だけで。

イカサマなんてされてることも知らずに。

そして、自分と同じ境遇。

時雨が少女に肩入れするには十分すぎるほどの素材がそろっていた。

「5日ってことは今日が最終日か」

「まさか、お前あれにちょっかい出す気か?」

その言葉に時雨は笑いを返すだけ。

ただし、その笑みは力のない笑みなどではない。

不敵に、強気に、負けることをしらない野獣のように口もとを釣り上げて笑った。

「やめとけ、あれはかなり有名な組らしい。下手したら命までとられるぞ」

「ここからは俺の問題だ。お前らにはもう関係ないだろ。情報サンキュー。」

そういって席を立つ時雨の背中を呼び止める声が聞こえた。

「負け分は、働いて返す。くさっても極道もんは仁義ってやつを通すもんだぜ」

「逃げ出そうとしてたやつが、よく言う」

 

 

 

 


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