Persona4 : Side of the Puella Magica   作:四十九院暁美

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すみません、MMD触ったりオリジナル小説書いてたら随分と遅れてしまいました。
多分これからもちょくちょく遅れると思います。ホントすみません。


第35話

 次の日、私は馬鹿みたいに大きなベッドの上で、ゆっくりと瞼を開いた。眼前に広がるのは、寝起きにはきついショッキングな紫色の天蓋。頭を誰かにがっちりと抱え込まれているせいで、寝違えた首は鈍痛がひどい。身体はとにもかくにも節々が妙にしびれていて、思うように動かすこともできない。僅かうめいて、何事かと視線を動かして自分の身体を確認すると、もう一度うめいた。

 茜に頭を抱かれていた。雪子が右腕を抱き枕にしていた。左腕はりせが枕かわりにしていた。そして最後に、私たちの上に千枝が乗っかっていた。

 

「なに……これ……」

 

 唸るような声で呟いてみても、答えは安らかな寝息ばかりである。

 なんでみんな、私を中心にして、しかも枕にして寝ているのだろう。千枝に至っては敷き布団代わりだ。寝相が悪すぎると思ったけれど、考えてみれば、いくら大きなベッドでもさすがに5人寝るのはキツイ。必然的に、端で寝ている人間は、落ちないように中心に集まってくる。となれば、偶然にも中心で寝ていた私がこのような被害に遭うのはしようがないことなのだろう。

 どうしようか考えた末、私は考えるのをやめた。やんぬるかな。こういう時は二度寝に限る。

 

 

 

 さて、修学旅行二日目。午前中を観光やらなんやらで適当に過ごした私たちはりせの案内で、クラブに入った。制服でクラブに入って良いものなのかはなはだ疑問ではあるけれど、店員に何も言われていないから多分良いに違いない。

 無秩序な極彩色と、やかましい音楽で満たされたここでは、若者たちが思い思いに歌い踊っていて、ちょっと視線をずらせば、ナンパに失敗したらしい男たちがカウンター席でチビチビと、明らかに身体に悪そうな色をした飲み物を飲んでいた。

 

「うお、すっげぇ……ここがクラブか」

 

「え、映画で見たのと同じだ……!」

 

「なんか、テンション上がってキター!」

 

「こういうとこ、地元にないもんね」

 

 稲羽地方から出たことのない四人が反応を示せば、私たちも同じように、感嘆とも驚愕とも取れる声を漏らす。健全な高校生ならばまずこのような場所には来ないし、そもそも、雪子が言ったように稲羽地方には――いや、私が知らないだけで、冲奈にはあるのかもわからないが――クラブなんてものはないから、とても不思議な場所に思えた。

 そんな私たちの横で、りせがちょっとだけ得意げな顔をしていたのに気が付いたのは、きっと私だけじゃないはず。

 そうして少しの間、初めてのクラブに酔っていると。

 

「良いんですか、高校生がこんなところに来て」

 

 不意に、聞きなれた声が飛んできた。

 はたと声の方向を見れば、そこには帽子が特徴的なあの子が立っていた。

 

「な、直斗!?」

 

「どうも、ほむらさん」

 

 驚いた声を上げると、彼は何でもないような口調で、口端を曲げて言う。

 どうしてこんなところにいるのだろうか。そういう性格ではなかったと思うのだけれど……。

 

「良いんですかって、お前のが先にいただろ!」

 

「問題が起きないか、確認しに来ただけです。見たところ客層も良さそうですし、問題は起きなそうですけれどね」

 

 花村くんが問うと、直斗はにべもなくそう答えて、出入り口へと歩いていく。どうやら帰る気らしい。相変わらずつれない感じだ。

 

「え? 帰っちゃうの?」

 

「どう? 一緒に」

 

 それを見止めた千枝は驚きの声を上げ、続いて雪子が言う。どうやら二人は、このまま直斗を帰らせてしまうのは、何だか気持ちの良いことではないと感じたようだ。

 

「一緒にって……僕とですか?」

 

 直斗はそう言って帽子のつばを押さえると、顔を伏せてしまう。もう一押し、といったところだろうか。

 

「今なら時間あるでしょう?」

 

「私、話したいって思ってたんだ。同じ歳で"探偵"なんて、興味あるもん」

 

 りせと一緒に続けて言うと、誘われたことが嬉しかったのか、直斗は僅かに顔を赤らめて「まあ……構わないですけれど」なんて呟いた。

 

「なんだー? 微妙に顔、赤くないか?」

 

「あ、赤くないです!」

 

 花村くんに茶化されて否定する直斗。満更でもない様子を隠せていないのが、なんとも年相応で可愛らしい。

 なんだか微笑ましい気持ちでいると、りせが振り返って

 

「ちょっと待ってて。上貸し切るから」

 

「おう」

 

 返事をした花村くんは一瞬の間を置くと

 

「おう!? 貸し切る!?」

 

 驚愕で叫んだ。私たちは驚きでものも言えず、唖然とするばかり。曰く、たぶん顔効くから。らしい。まったくアイドルはすごい。

 さても直斗くんを加えて二階へと移動した私たちは、ノンアルコールカクテルだというケバケバしい色のドリンクで乾杯した。飲んでみると、味は苦味の中から顔を出す作られた甘さが妙にクドイ、ただのジュースと言った感じだ。普段ならば顔をしかめるところだけれど、この場所の雰囲気に当てられてか、別段、不快には感じなかった。

 

「けど、大丈夫なの? こんなとこ高いんじゃ……」

 

「平気、平気。おととし、ここでシークレットライブした時、途中で電源落ちて中止になったの。そん時の借りを返したいから、むしろ今日はタダでいいって」

 

 乾杯から少しして千枝が問うと、りせはそう答えた。タダでいいとは、中々に太っ腹である。そういうことなら、ちょっとくらい多めに頼んでも良いかもしれない。

 

「それじゃあ、遠慮せずに頼みましょうか」

 

 私が言った直後、クマは

 

「よぉぉし、クマキュンもエンリョしにゃい!」

 

 と、何故か呂律の回らない口調で叫んだ。巽くんが「いつにも増して言葉が妙だぞ」なんて言えば、クマは「ちゅめたいなーん、カンジは」やっぱり呂律の回らない口調で答えた。かと思えば

 

「……ん? カンジ? カンジ、カンジ……イイカンジ! なんつってぇ、プフーッ!!」

 

「えぇ……?」

 

「なんで一人でそんなフルスロットルなんだよ……」

 

 一人で寒いギャグを言って笑い始めるクマ。どうにもおかしな様子の彼に呆れていると、今度は雪子が吹き出した。

 

「いいカンジ……ぷっ、ぶふー!」

 

「この人も、いつも以上にユルくなってんぞ……」

 

「おかわり。ロックで」

 

 巽くんが驚いたような呆れたような表情で雪子を見る。隣の鳴上くんも、なんだか目が座っているような。みんな雰囲気に当てられて、浮かれているのだろうか。なんだか私も、少し身体が熱くなってきた。

 ほうと息を吐いて、ドリンクを口に含んだのも束の間、花村くんが言う。

 

「おい、ちょっと待てよ!? ここに出てるドリンクって……!」

 

「っ!?」

 

 まさかの可能性に驚いて、思わずドリンクを飲み込んでしまう。いや、でもアルコールの匂いはしないのに、そんなはず……でも確かに身体が火照って……。

 一瞬の沈黙の後、りせが赤い顔で叫ぶ。

 

「わ、私、ソフトドリンクって言ったよ!? ちゃんとノンアルコールだって! 言ったもん……ちゃんと言ったもーーん!!」

 

「ふひひ……ほむらちゃん……」

 

 なんだか妙にフラフラと落ち着きのない茜が、こちらにもたれかかってくる。面と向かって言ったら怒られるだろうけれど、地味に重い。

 ……あれ、なんでか知らないけれど自分にもダメージが来た。

 

「やだもう……さっきから何か熱いなって思ってたら……」

 

「これ、マジで酒なんスか? けど、匂いが……」

 

「おかわり。ストレートで」

 

 千枝が片手で顔を扇ぎながら言えば、巽くんが片眉を上げてドリンクの匂いを嗅ぐ。彼の口ぶりからして、どうもアルコールが入っているわけではないらしい。でも、この惨状を見る限りとてもそうは思えない。

 なんとも言えない顔で考えていると、急にりせは立ち上がって

 

「王様ゲェーーーーム!」

 

 と唐突なゲームの開始宣言をした。しゃっくりまじりのりせ曰く「法律で決まっている」そうだ。オトナは酒に酔ったら王様ゲームしなければならない、なんてどこの国の法律だろうか。

 ……ツッコミを入れるべきはここではない気がする。ダメだ、私も少し酔っているみたいだ。

 

「なによ、自分らで"りせちー"とかロリっぽいキャラ付けしたくせに、子供、子供って……ヒック。知ってんだから……打ち入りも打ち上げも、私帰ってからの方が盛り上がってんでしょ! ぶぁかー! 今日こそ"王様ゲーム"なんだから!」

 

 なんだか闇が漏れ出ている。よくないカミングアウトだ、それ以上いけない。

 結局、誰も止めない、というか止められないまま、場は王様ゲームをする流れになってしまい、私の手の中には六番と書かれた割り箸があった。

 

「はぃ、じゃあ〜王様だぁ〜れだ?」

 

「クマの、赤! 赤! クマ、王様!?」

 

 りせの声に反応して、クマが勢いよく立ち上がる。最初から最悪の展開だ。

 

「うわ、出からやっべー……」

 

「頼むから、変なお願いはやめて……」

 

「ほぉむらちゃ〜ん、はい、あ〜ん」

 

「ちょっと茜、チョコを押し付け……むぐっ」

 

 私と花村くんの願いもむなしく、クマは叫ぶ。

 

「王の名において命ずる!! すみやかに、王様にチッス!! おう、神よ……女の子をお願いします1番!!」

 

 手を挙げたのは、いつの間にかシャツのボタンを半分近く開けている鳴上くんだった。自業自得である。

 

「やっぱ2番」

 

「変えんな王様!!」

 

「チッスチッスゥ〜!!」

 

 慌てて番号を変えようとして花村くんに言われ、雪子に急かされたクマは、覚悟を決めた表情を浮かべると

 

「センセイに 捧げてもいい この純情 『クマ』」

 

 一句詠んで"巽くんに"飛びかかった。

 

「いって、ちょ、オレじゃねーだろ! やめッ……うぶっ!」

 

 ……巽くんが不憫で仕方ない。今度何か労いの品でも贈ってあげよう。目の前で繰り広げられる光景を見て、どこか他人事のようにそう思った。

 

「さあ……1回戦で早くも脱落者二人よ」

 

「そういうゲームじゃないでしょ、これ」

 

「続けて、第2回せーんっ!!」

 

 私の声を無視して、りせは宣言する。もう収集がつかないくらいにカオスだ。いっそ流れに任せた方が穏便に済むのではないだろうか。

 諦観にも似た考えを抱きつつも、目の前に差し出された割り箸から一本を引く。番号は3番だった。

 

「王様だ〜れだ?」

 

 二度目の問いかけ。瞬間。

 鳴上くんは立ち上がると、割り箸を放り投げるとくるりと回って――何故か一緒にシャツのボタンも外れて――、落ちてきた割り箸をキャッチすると、決めポーズをとって言う。

 

「キングだ」

 

 酔ってる……のだろうか。それにしてはあまりにも、その、キャラがおかしな方向に向かっている気がする。

 

「ま、マトモな命令で、よろしく」

 

 引きつった声で千枝がお願いすると、外野の酔っ払い女子三人が口を出した。

 

「だめよぉ〜、チッスの次は〜、チッスよりキワドきないと〜。くーきよめよー? あはははは!!」

 

「じゃ、膝まくら」

 

「じゃ〜、膝に座る」

 

「いっそ抱きつくぅ?」

 

「そうよねぇ、時代は肩車よねぇ〜」

 

「ほら〜、王様決めてぇ?」

 

 なんかもうダメダメである。私がどうか選ばれませんようにと頭を抱えていると、鳴上くんはダーツの台の前に立ち、そして

 

「3番」

 

 と言って、ダーツを投げる。放たれたダーツは見事に3番の赤に刺さったのを見届けた彼は、何事かと頭を上げた私に向かって命令する。

 

「3番が、抱きつく」

 

 理解が追いつかずに固まったは私は、数秒の間を置いてやっと気が付いた。

 

「にゃっ!? ちょ、待って! 嘘よね!? 」

 

 思わず変な声が出してしまった私に対して、酔っ払い共が斉唱する。

 

「王様の命令は?」

 

「ぜったーいっ!」

「ぜったーいっ!」

「ぜったーいっ!」

 

 かくして、私は鳴上くんに抱きつくことになってしまった。洒落にならない事態である。数分前の、流れに任せた方が、なんて思っていた自分を殴ってやりたい気分だ……。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 さて。王様ゲームによって悠に抱きつくこととなったほむらは、目の前のソファにどっしりと構える彼を、悔しいような恥ずかしいような顔で見つめていた。周りの視線が、突き刺さる。残念ながら、彼女に拒否権はない。潔く抱きつくしかないだろう。

 

「ぐ……くくっ……!」

 

 首まで真っ赤になりながらも、覚悟を決めて、ほむらは一歩を踏み出す。近付くごとに鼓動が大きく、そして早くなり、ついには我知らず、口から震えた声が漏れ出す。外野の息を飲む声がいやによく聞こえ始めたあたりで、ほむらはやっと悠の目と鼻の先に立った。

 

「ぅ、くっ……い、いくわよ……!」

 

 上擦った声で呟いて、ほむらはソファの背もたれにダンと両手を突く。文字通り、目の前に悠の顔があるという事実に、彼女の羞恥心は加速していく。身体が強張り、先に進めない。

 

「抱き着かないのか?」

 

「ううううっさいわねっ! い、今、今抱きつくから、黙ってにゃさいよ!」

 

 悠に急かされて、微妙に噛みつつもそう怒鳴ったほむらは、ゆっくりと右膝をソファに乗せ、ゆっくりと体重を前へかけていく。

 

「ふっ、んぅ、くぁっ……!」

 

 恥ずかしさで奇妙な声を出しながら、上半身を密着させ、ほむらは悠の膝に腰を落とす。思わず涙が出そうになったけれど、そこはグッと堪えて、最後に左膝をソファに乗せ両腕を彼の首に回す。ついに、抱っこのような形で、正面から抱きついた彼女は、ただただ恥ずかしさで震えるばかりであった。

 ほむらの身体は、実に華奢であった。抱けば折れそうなほどに細く、軽い。けれども下半身の肉付きは、世間の女性と比べても非常に良かった。

 安産型の美しい曲線を描く臀部の、柔らかな感触の心地良きこと。ただ脂肪ばかりでなく、引き締まった筋肉質の硬さというのが実に素晴らしく、いつも履いている黒いタイツと相まって、なんとも艶かしい。

 脚の艶かしさと言うのもまた筆舌に尽くし難いもの。ただ太く大きなだけでなく、しっかりと健康的で、さながらモデルのよう。タイツの下に隠された肌の白さを暴きたくなる衝動を、強く湧き上がらせる。

 

「おおう……おおう、もう……」

 

「うわ、ほむらちゃんってば、抱きつき方えっちぃんだ〜」

 

「あはははは!」

 

「はっ、ぅ……ひぁ……!」

 

 外野の同情めいた声や、茶化す声、笑い声に、ほむらは恥ずかしさで堪らなくなって、泣きそうになった。なんでこんな目に合わなければならないのかと、何かに思い切り当たり散らしたいくらいに。

 

「も、もう……いいで、しょ……? はな、れるわ、よ……」

 

 たっぷり十分ほど経ってやっと悠から離れたほむらは、半ば涙目で立ち上がると自分の席に戻って、ドサリとうずくまるのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 しばらくして、花村くんと千枝に慰められてやっと半分くらい精神力が回復した私は、端っこで鳴上くんを視界に入れないようにしながら、ちびちびとドリンクを飲んでいた。うずくまっている間に巽くんとクマが戻ってきて、茜が寝てしまったのは不幸中の幸いだったが、しかし、これからどんな顔をして彼を見れば良いのやら。そもそも私は明日から彼をまともに見れるのだろうか。

 ……彼、結構がっしりとした身体つきだったけれど、やはりマヨナカテレビに潜っているせいなのだろうか。父さんみたいで、少し安心感する……ってダメ、ダメだ。意識してはいけない。平常心、そう、へいじょうしんだ。目を閉じて、深呼吸して、心を静かにして……うぅ……ダメだ、まぶたの裏に鳴上くんが浮かんでくる。

 

「あははは、次は私、王様〜! 女王様〜!」

 

 私が人知れず悩んでいると、雪子がくじも引かずに宣言する。花村くんの「クジひけよ!」の声もなんのそので、彼女声高々に命令した。

 

「よーし、でわぁ〜、とても口では言えないハズカシィ〜エピソード、語ってもらおー! じゃ〜あ〜、そうだなぁ〜……んふっ……あ、直斗くん!」

 

「何でもアリだな……無視していーぉ、直斗」

 

「いえ、いいですよ。その代わり、僕が話したら、皆さんにも"あること"を話してもらいます」

 

「いーよー」

 

 直斗の言葉に、りせが勝手に答えてしまう。一瞬、場がざわつくけれども、直斗が生まれの話を始めたことで一旦は収まった。

 彼の話を纏めると、白鐘家は代々、探偵の家系であり、時の警察組織に力を貸してきたそうで、直斗のおじいちゃんは警察に太いパイプがあるらしい。けれども、最近の捜査のは専門的な知識が多く要求されるから、勉強しないと。ということである。

 実に真面目な話だ。あまりの急速冷凍に、さっきまでの私が馬鹿みたいに思えてしまう。

 

「……え、終わり? オチは?」

 

「いや、そういうの期待されても」

 

 花村くんの問いかけに、直斗はにべもなく答えを返す。まあ、彼に面白い話をしろというのがそもそもの間違いだ。

 

「恥っずかし〜。ナオト君、恥っずかし〜」

 

「はふぅ……眠い」

 

「もう、帰りたいわ……」

 

 私の呟きもむなしく、直斗は続けて私たちに質問する。

 

「では、次は皆さんの番です。答えてもらいましょう。皆さんが本当は、事件とどう関わっているのかを」

 

「お前な……空気読めなさすぎて逆に面白いよ……」

 

 一人だけシリアスを演じる直斗を見て、呆れたように花村くんが言う。すると、雪子が

 

「えっと〜、誘拐された人を〜、テレビに入って助けに行きま〜す! それでぇ、うようよしてるシャドウたちを〜、ペルソナで"ペルソナァー! "って……」

 

「ば、ばかおまッ……!」

 

「ハァ……僕をからかってます?」

 

 止めに入ろうとすた花村くんを遮って、直斗は落胆したような怒っているような声で言う。対して、寝ていたはずのりせが

 

「ホントらもんッ! ペルソナーっ!」

 

 と叫んで再び眠りにつく。もうグダグダを極めすぎてて、ツッコミを入れる気力すら湧かない。

 

「あーもー! この酔っ払いコンビは!」

 

「……話す気がないのはわかりました」

 

 千枝の悲鳴にも似た憤りの声が響く中でも、直斗は変わらず冷静なままで。

 

「だいたい、何にそんなに酔っ払ってるんですか? コレ、お酒じゃないですよ」

 

「まぁったまた〜」

 

「来た時に確認したんです。飲酒運転への抗議で、ここは去年からアルコールを扱っていません」

 

 直斗の言葉に、場がしんと静まる。数秒にも、数分のも思える沈黙の中にあって、千枝がぽつりと呟く。

 

「みんなして……場酔い……?」

 

「……なんか、そんな気はしてたわ……」

 

「なんか俺、色々頭痛がしてきた……こりゃ、二日酔いだな……」

 

 私たちの疲れた声に、直斗の「バカ軍団ですか!?」という言葉が深く突き刺さる。結局最後は雪子もクマも寝てしまって、場酔いで潰れた四人を背負って帰路に着いた。

 ……明日から、どうやって鳴上くんと平静に話せるか考えておこう。


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