Persona4 : Side of the Puella Magica   作:四十九院暁美

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第23話

『杏子さん、大丈夫だった!? みんな怪我してない?』

 

「大丈夫だ、問題ない」

 

 杏子の影が発生したのを感知したらしいりせから、杏子に通信が入る。余裕を見せるためか、杏子はりせの問いに対してやけにいい感じのドヤ顔で答えると、りせはホッと息を吐いた。

 しかし、残念ながらそのドヤ顔は多分りせに見えていないだろう。

 

「みんな無事よ。それより、こっちには何もなかったわ。そっちはどう?」

 

『んーと……あ! 花村先輩が階段見つけたみたい!』

 

「分かった、すぐ戻るわ。ほら、行くわよ杏子、鳴上くん」

 

「はいよー……あー、そういやペルソナ使ってる最中って変身できな……い?」

 

 私が2人に声をかけた直後、杏子が首を傾げる。何かあったのかと問いかけると、彼女は「いや、なんでもねーよ」と首を振る。

 何か少し怪しいが、なんでもないらしいので気にせず、今度は鳴上くんの方を見ると、僅かに憂いを帯びた表情を浮かべて立ち尽くしていた。

 

「鳴上くん?」

 

「――! あ、ああ、大丈夫だ」

 

 再び声をかけると、彼は我に返ったように慌てて返事をして、いつもの調子に戻っていく。

 こっちもどこか怪しい雰囲気だ。一応、気にかけておこう。

 

「さ、行きましょう」

 

 私の言葉に頷いた鳴上くんが青い妖精のようなペルソナを召喚、青白い光に包まれたかと思えば私たちは一瞬でダンジョンの入り口に戻っていた。

 既にみんな揃っていて、私たちの姿を見つけるなり口々に杏子を気遣う言葉をかける。それに対して杏子は、笑顔でそれに答えていくが、心なしか少し照れているようだった。

 さて、話もほどほどにして再度ダンジョンに突入した私たちは、ワープ部屋 (花村くん命名) を抜けて、更に上へと登っていく。

 道中現れるシャドウは、クマと杏子がペルソナを慣らすついでと言わんばかりに殲滅していくので、私の出番があまりない。

 

「ゴー! キントキドウジ!」

 

 クマが自身のペルソナであるキントキドウジを召喚すると、冷気で氷漬けにしたシャドウに担いでいたミサイルを投げ付けて爆殺した。どうやら、クマのペルソナは冷気を操るのが得意らしい。

 

「出ろ、ジャンヌ・ダルク!」

 

 一方、杏子のペルソナであるジャンヌ・ダルクは、召喚されると腰に差したサーベルを抜いて頭上に掲げる。すると、剣から発せられた白色の閃光がシャドウたちを穿ち、小さな爆発を起こして一瞬の内に絶命させる。それは明らかに質量を持った光だったが、性質は概ね私のペルソナが使う光と同じようだった。

 

「勝ったクマー!」

 

「ま、こんなとこだな」

 

 つい最近ペルソナが目覚めたばかりだというのに、二人は既に十二分にペルソナを使いこなしている。まあ、ペルソナとはまさしく自分自身なのだから、当たり前と言えば当たり前なのかもしれない。

 探索を続けていると、明らかに怪しい扉の前に辿り着いた。花村くん曰く、中ボス部屋だそうだ。

 

「いくぜッ!」

 

 先陣を切って花村くんが部屋に突入すると、それに続いて部屋に雪崩れ込む。待っていたのは、黒い手の姿をしたシャドウだ。そして、私の頭上には〔シャドウが あらわれた ! 〕というテキストが表示される。正直、鬱陶しいことこの上ない。

 黒い手のシャドウは、私たちの姿を見るや否や指を鳴らし、新手のシャドウを召喚する。

 

「げ、こいつ……」

 

 千枝は思わず呻いた。何故ならシャドウが召喚したのは、見滝原中学校に居たあの魔獣もどきを小さくしたようなシャドウだったからだ。

 

「まさか、魔獣……か?」

 

「いいえ、アレも立派なシャドウよ。忌々しいくらい似てるけどね」

 

 それを聞いた杏子は少し拍子抜けしたような顔をした後、クールに笑いながらシャドウに突撃する。

 

「喰らいな!」

 

 大きく跳躍した彼女は右腕を振るってペルソナを召喚、朱色のオーラを纏うとシャドウの顎に強烈な右ストレートを浴びせる。衝撃と共にシャドウの体躯が僅かに浮き上がり、ゆっくりと倒れ始めた。

 

「まだ終わりじゃねえぞ!」

 

「一気に畳み掛ける……!」

 

 杏子が作ったこのチャンスを逃す訳にはいかない。私とほぼ同時に巽くんがペルソナを召喚して、倒れゆくシャドウに更なる攻撃を仕掛ける。

 巽くんのペルソナであるタケミカヅチが、シャドウの胸倉を掴んで無理やり引き起こすと腹を殴って吹き飛ばし、ツルヒメが追撃のミリオンシュートを放ってダメージを加速させていく。

 

「千枝!」

 

「おーまかせってね!」

 

 吹き飛んだ先に待っていたのは、自身のペルソナであるトモエと共に仁王立ちする千枝だ。

 

「ほああぁぁぁ!」

 

 彼女がカンフー映画でお馴染みの怪鳥声を上げながらそれっぽい構えをとると、何故かトモエが薙刀をバットに見立ててバッティングの構えをとる。

 

「必殺!」

 

 掛け声と共にトモエが薙刀でシャドウを野球ボールの如くに打ち返し、そのままの勢いで薙刀を回転させると今度は薙刀を掬い上げるように振るう。

 

「ドラゴン……キィィック!!」

 

 すると、千枝が薙刀に飛び乗ると発射台のように利用して、凄まじい速さで空中に飛び出し、龍の顎を象ったオーラを纏った飛び蹴りでシャドウを貫いた。

 錐揉みしながら地面に墜落したシャドウは、しばらくして何事も無かったかのように起き上がり、こちらにレーザーを放ってきた。物理攻撃はイマイチ効果が薄いようだ。

 

「チッ……しぶてぇ……」

 

 レーザーを躱しながら、巽くんが思わず悪態を吐く。

 やはり、物理攻撃では決定打にならないか。連携して有無を言わせず叩くより、弱点を探って確実に仕留めたほうが良さそうだ。

 

「千枝、巽くん、私たちが気を逸らすから貴方たちは魔法を!」

 

「オッケー!」

 

「了解っス!」

 

「さあ、行くわよ杏子!」

 

「ガッテンだ! 久々にちょっとだけマジでいくぜ!」

 

 私と共に空中へ飛び出した杏子は、私が伸ばした鋼線を足場にして肉薄すると、後ろ回し蹴りをシャドウの土手っ腹に叩き付ける。くの字に身体を曲げてよろけたシャドウに対してツルヒメが無数の矢を放ち、瞬く間の内に壁に縫い付けた。更に追撃としてシャドウの胸元にジャンヌ・ダルクがサーベルを突き刺し、完全に動きを止める。

 

「トモエ!」

 

「タケミカヅチィ!」

 

 2人がペルソナの名を叫ぶと同時にジャンヌ・ダルクがその場から飛び引くと、シャドウの下半身が凍り付き雷撃が閃光と共に降り注ぐ。凄まじい音とシャドウの絶叫が響き、焦げた匂いが辺りに漂い始めた。

 

「良し、怯んだ!」

 

「いくぜ、パワーをペルソナに!」

 

 千枝と杏子が声を荒げると、私たちは自身のペルソナを集結させて力を集中させる。

 ツルヒメが両手を掲げ、トモエが薙刀を胸の前で回転させると青色の光がタケミカヅチの右手に、白色の光が左手に宿る。その両手を組んで前方に突き出せば、ジャンヌ・ダルクが進路上に魔法陣を幾つも作り出した。

 全員の力を合わせれば、さすがのシャドウもタダでは済まないだろう。

 

「ぶっ潰れろォォォ!」

 

 巽くんが雄叫びを上げると、タケミカヅチが凄まじい勢いで飛び出す。地面を抉りながら突進するタケミカヅチは魔法陣を通り抜ける度に加速していき、遂にシャドウのみぞおちと壁に大穴を開けた。

 

Rest in peace(安らかに眠れ)……なんて、ね」

 

 最後にシャドウは跡形も無く爆散。これにて排除完了だ。

 ふっ、と短く息を吐いてから鳴上くんたちの方を見ると、ちょうど転倒した黒い手のシャドウに全員で襲いかかっているところだった。

 相変わらず、えげつない絵図らだ。

 

『いけー! ぶっ飛ばしちゃえー!』

 

 りせの声援を受けて激しさを増した壮絶な袋叩きを受けたシャドウは、土煙と共に黒く変色してそのまま霧散してしまった。

 

「ふぅ……お疲れさん!」

 

 戦闘が終了すると、花村くんがヘッドホンを外しながらみんなに労いの言葉をかける。向こうも特に苦戦せず倒せたらしく、精々がかすり傷程度で済んでいるようだ。鳴上くんも、今のところ変わりはない。私が心配し過ぎただけだろう。

 辺りにまだシャドウが潜んでいないかどうかを確認すると、部屋の奥に宝箱があることに気が付いた。警戒しつつ宝箱を開けてみると、中には真っ黒な球体が入っていた。

 

「これは……?」

 

 手にとって持ち上げると、突然妙なファンファーレが流れると同時に〔くらやみのたまを てにいれた ! 〕というテキストが私の頭上に現れる。

 最初に宝箱を開けた時はこんなことは無かった筈……ということは、この真っ黒い球は何か重要なアイテムなのだろうか。

 

「あら、ポケットがいっぱいだわ。杏子、持ってて」

 

「おっけ」

 

 ぽい、と球を杏子に投げ渡して、私たちは再びダンジョンの最上階を目指して上へ上へと登っていく。相変わらず階段を登る度に変なテキストが頭上に現れるが、一々相手をするのは面倒極まりないので無視。先を急ぎたいから、シャドウも出来る限り無視。そうして階段を登って行くと、突然諸岡の声が響いた。

 

 〔わあっはっはっはっ ! くさったミカンの ぶんざいで ワシに はむかうとは いいどきょうだ !〕

 

「ん? 今度は何だ?」

 

 花村くんが声を上げるのとほぼ同時に、頭上に〔諸岡が あらわれた !〕テキストが現れる。エンカウント、ということだろうか。最初の方では問答無用でゲームオーバーにされていた筈だが……。

 そう思った直後、私は何か言い知れない違和感を覚えた。何かがおかしい、何かが違うという微妙な違和感。例えるなら、喉に小骨がつっかえているかのような感覚が私の身体を襲ったのだ。

 ここまでテキストを無視してきたのは、マズかったか。自分の浅はかさに舌打ちしそうになるのも束の間、次に現れたテキストでそんな違和感は一瞬にして吹き飛んだ。

 

 〔どうする ?

  >ころす

  にげる 〕

 

「な……はあ!?」

 

 杏子が思わず声を荒げる。私も、思わず声を上げそうになった。ころす、という直接的な表現もそうだが、それ以上にこの選択肢からは明らかな殺意の色が感じ取れた。

 私たちが唖然とする中、カーソルは幾度か上下に動いた後、ころすを選択する。

 

 〔ミツオの こうげき !

  諸岡を 殺した。 〕

 

 さも当然のようにそんなテキストが現れてから数秒の沈黙の後、仰々しいファンファーレが鳴り響くとテキストの続きがスクロールで表示される。

 

 〔ミツオは レベルアップした!

  ちゅうもくどが 16 アップした!

  わだいせいが 17 アップした!

 かっこよさが 3 アップした! 〕

 

 絶句した。

 殺人についてではない。人を殺しておいてこんなことを考えられる少年の精神に、私は絶句したのだ。

 注目度だとかだとか話題性だとか、正気じゃない。明らかに精神に異常をきたしている。

 

「なに、これ……注目とか話題とか、信じらんない……っ! かっこいいって何よそれ!」

 

「人殺しで注目集めたいとか、頭イカれ過ぎだろ……!」

 

 誰もが怒りを露わにして口々に呟く中、私は心を落ち着かせようと深呼吸をした。

 ここで熱くなってはいけない。周りが熱くなっている時こそ冷静にならなければ、判断を見誤って大変なことになる。しかし、今回ばかりは少し抑えられそうにない。こんな最低なものを見せつけられて、それでもなお怒りを抑えるのは中々に難しかった。

 何とか怒りを抑え込んだ後、上へと登っていくこと数分、辿り着いたのは今までよりも大きな扉だった。扉と言うよりは、最早門とでも言うべき大きさのそれは "この先に何かが居るぞ" とこれ以上にないほど雄弁に語っていた。

 

「よっし、気合い入れていき――あだぁ!?」

 

 勇んで歩き出した千枝が、突然何かにぶつかったかのように仰け反る。どうやら見えない壁のようなこのがあるらしい。

 特定の条件を満たさなければ通れないとか、そういう類のものだろうか。面倒な仕掛けだ。

 

「いった〜……なんなんの、もう!」

 

「千枝、大丈夫?」

 

 千枝と雪子を横目で見ていると、頭上に〔とひ゛らは かたく とさ゛されている 〕というテキストが表示された。

 しかし、何でコイツは毎回毎回、私の頭の上に現れるのだろう。私はゲームの主人公になったつもりはないんだが。

 

「ったく、面倒くせえ仕掛け作りやが……おお? なんだなんだ!? 」

 

 ジャギジャギした文字に少しばかりイラついていると、杏子が突然変な声を上げる。何があったのかと彼女を見ると、黒いモヤのような何かがズボンのポケットから溢れていた。

 

「何よそれ!?」

 

「知るか! こっちが聞きてえよ!?」

 

 杏子は慌ててポケット手を突っ込み、中に入れていたものを手当たり次第に投げ捨てる。あの黒い球を投げ捨てたところで、またも頭上に〔くらやみのたまから しっこくのやみが あふれだす ! 〕というテキストが現れると同時に、透明の壁が徐々に黒く染まっていく。壁の全てが真っ黒に染まると、今度はガラスがひび割れたような音と共に壁全体にヒビが走り、一瞬の間をおいた後に砕け散ってしまった。

 この一連の出来事に、私たちはあまりの驚きで固まってしまう。突然過ぎて思考が停止してしまったのだ。

 

「ゲームのキャラって毎回こんな思いしてんだな……知らなかったぜ」

 

 杏子のそんな呟きが、やけに大きく聞こえた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 門を蹴破る勢いで開け放ち、特捜隊の面々は内部へと突入する。

 中は闘技場のような円形の広場で、よく見れば壁際には見るからにペラペラな骸骨が積み上げられていた。

 広場の中央には2人の黄色いシャツを着た少年がおり、一人は目の前には置かれたテレビの前に座り込み、もう一人は何やら憤った様子で地団駄を踏んでいる。おそらく、本体と影だろう。

 

「やぁーっと見つけた! あそこ!」

 

「テメェが久保か! 歯ぁ食いしばれッ!」

 

 千枝がその姿を見つけて叫ぶと、完二は怒りを露わにして怒鳴り声を上げる。しかし、少年の様子がどこかおかしいことに気が付いた陽介は、今にも飛び出しそうになっている完二を制止した。

 少年は何事かを叫んでいるようだった。声を荒げて、子供のように地団駄を踏みながら、テレビの前に座り込む少年に訴えている。

 

「どいつもこいつも、気に食わないんだよ……だからやったんだ! どうだ、なんとか言えよ!」

 

 しかし、座っている少年は何一つ反応を示さない。耳元で喚かれているにもかかわらず、地蔵か何かかと思うほど彼は微動だにしなかった。

 その態度が、殊更に喚く少年の感情を逆なでしたらしい。彼は更に声を荒げて、半ば絶叫するような形で言う。

 

「たった二人じゃ誰もオレを見ようとしない……だから3人目を殺ってやった! オレが、あの諸岡を殺してやったんだッ!!」

 

 その言葉を聞いた特捜隊は最初に絶句し、次に腹の底からかつてない程の憤りが湧いてくるのを感じた。

 座っている少年は、なおも黙りこくっている。その異様さに、喚いていた少年は若干の恐怖を含んだ声色で訊く。

 

「な、なんで黙ってんだよ……なんとか言えよ!?」

 

 ここで初めて、座っている少年が口を開いた。

 

『何も……感じないから……』

 

 それは、抑揚の無い平坦な声だった。感情も何も見出せず、まるでロボットのような無機質、不気味とも言える程に無色透明な声色だった。

 

「な、なに言ってんだ……? 意味分かんねぇよお前!?」

 

 その言葉に立っている少年は逆上して、更に激しく地団駄を踏む。駄々をこねる子供でも、ここまで酷い地団駄を踏んだりはしないだろう。

 

『僕には何も無い……僕は、無だ……。そして……僕は君だ……』

 

「なんだよ……なんなんだよそれ!! オレは、オレは無なんかじゃ……!」

 

「いけない、このままじゃ!」

 

 逆上した少年がブロックワードを叫びかけ、雪子が思わずそれを制止する。

 すると、彼は驚いて振り向き、特捜隊の面々を見つけるやいなや叫ぶ。

 

「どうやってここに……! くっそ、誰なんだよ! こんなところで何やってんだよ!」

 

「お前を追ってきたに決まってんだろ」

 

「アンタが犯人なの?」

 

 それに対して、杏子は静かな声で答えを返した。更に続けて千枝が問うと、少年は気が違ったかのようにゲラゲラと笑った後、清々しいまでのしたり顔で言った。

 

「そうだよ決まってんだろ! 俺が全部やったんだよ!!」

 

 そして、彼は振り向いて座っている少年に向かって唾を吐きかけると、見下した口調で喋り始める。

 

「そうだお前なんか関係無い、ニセモノが何言おうが知るかよ! オレの前から消え失せろ! オレはお前とは違う、オレは出来る……出来るんだからなァ!!」

 

 

 ニセモノと呼ばれた少年は、それを聞いて落胆したように呟く。

 

『認めないんだね……僕を……』

 

 その瞬間、黒い何かが少年の身体に集まっていく。そして突風が吹き荒ぶと、そこには頭の周りに意味不明な文字が輪になって並んでいる胎児が浮かんでいた。

 何が起こったのか分からない少年は、呆気なく突風で吹き飛ばされ、無様に地面を転がるとそのまま気を失ってしまう。

 

「結局こうなんのかよ……」

 

 半ば諦めたかのような声色で呟く花村くんは、得物の苦無を取り出すと油断なく構える。それに同調するように全員が得物を取り出して構えると、りせがペルソナを召喚しながら激励の言葉を叫ぶ。

 

「みんな、頑張って! こいつを倒せば、事件解決は目の前だよ!」

 

 少年の影はそれを聞いて、羨むように耳障りな泣き声を上げた。すると、特捜隊の目の前に〔キャラメイク〕というテキストが電子音と共に現れて、少年の影は真四角のブロックで覆われていく。全てが終わると、そこにはまるでゲームに出てくる勇者のような姿の巨大なドットのキャラクターがいた。

 

「この姿……何かと思えばゲームのキャラか? どこまでフザけたヤツだよ!!」

 

 陽介がそう叫ぶと、影が妙なエコーのかかった声で囁く。

 

『僕は……影……。おいでよ。空っぽを、終わりにしてあげる』

 

 それを聞いた杏子は、不機嫌そうに鼻を鳴らすと獰猛な笑みを作ると一歩前に踏み出す。

 

「生憎だけど、空っぽなのはお前だけなんでね!」

 

 ほむらもまた一歩踏み出して杏子の横に並び立つと、一瞬だけ彼女に視線を向けた後に強気な笑みを浮かべて言った。

 

「終わるのは、貴方1人だけよ」


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