Persona4 : Side of the Puella Magica   作:四十九院暁美

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第11話

 6月23日、放課後。ジュネスに集まった特捜隊は、マヨナカテレビに映った久慈川りせについて話していた。

 

「昨日のマヨナカテレビだけど、久慈川りせに間違いないな。なんつっても顔映ったし」

 

 昨晩のマヨナカテレビには、顔や水着の色も分かるくらい鮮明に映し出される、久慈川りせの姿があった。最早、久慈川りせが次のターゲットであることは揺るぎないだろう。

 

「久慈川りせは、まだテレビの中に入れられてはいないのかしら?」

 

「ああ、今朝チラッと覗いたら、店にいた。マヨナカテレビに例のバラエティみたいのが映るのは、やっぱ本人が入った後みたいだ」

 

 暁美ほむらの疑問に、花村陽介はそう答える。すると、天城雪子がそこに情報を付け足し、マヨナカテレビの考察を始めた。

 

「あれって、入った被害者自身が生み出してるものかもって、前言ってたよね。どういう事か最初はイメージつかなかったけど、今は、そうなのかもって思う。映像に出てくるの "もう1人の自分" な訳だし。入った人の本音が、無意識に見えちゃうのかも」

 

 マヨナカテレビには、2つの種類が存在する。

 1つは、陽介と雪子が話していた "バラエティのようなもの" 、そしてもう1つは "砂嵐に浮かぶシルエット" だ。

  "バラエティのようなもの" は、先程彼女が言ったように入った被害者の本音が映し出されたもので、この映像が流れた時点で被害者はテレビの中にいるということになる。

 

「けど、マヨナカテレビって、居なくなる前から見えるじゃん? いまいち、ハッキリ見えないやつ。あれは何なわけ?」

 

 対して "砂嵐に浮かぶシルエット" は、今だにその仮説が立てられていない。映る条件が、テレビ報道された人間という以外まるで情報がない為、考察も何もないのが現状だ。

 

「事前に必ず映るって考えると、まるで "予告" みたいだよな……」

 

「犯行予告って事……? 誰に予告してるわけ? 何のために?」

 

「犯人に訊けよ。俺だって分かんないんだからさ」

 

 里中千枝の疑問に陽介が答えていると、雪子が何かを思いついたように話し始めた。

 

「結果的に、予告に見えてる……って可能性はない? 被害者の心の中が映るなら、犯人も……って思ったんだけど。誰かを狙っている心の内が、見えちゃうのかなって」

 

「そういう事もあるかもな……人をテレビに入れられるって事は、犯人も俺らと同じ力を持ってる訳だし」

 

「じゃああれは、犯人の "これから襲うぞ〜! " っていう妄想?」

 

「それは、分かんないけど……」

 

 話を聞いた陽介と千枝がそう言うと、雪子は難しい顔をする。単なる思い付きの話だ、そこまで深い考えがある訳ではなかった。

 

「そこまでいくと、あの世界そのものがそういう風って気もしてくるな。被害者とか犯人とか、とにかくいろんな人の頭ん中が入り混じって出来てるモン……ってか?」

 

「どうなんだろうな。可能性としては、無くはないと思う」

 

 陽介の仮説に悠は同意するが、どこか釈然としない。

 そもそも、マヨナカテレビという現象に対して何かしら結論を出すのが無理のある話である。超常現象に演繹(えんえき)的推理が通じないのは、当然のことだと言えるだろう。

 

「ハァ〜……相変わらずぜんっぜん、分かんない!」

 

 うんうんと唸っていた千枝がふと正面を見ると、何故か巽完二が俯いていた。

 

「ってゆーか、完二くんついて来てる? さっきから、ひとっ言も喋ってないけど」

 

「はえ……? あー……まーその……」

 

 千枝が声をかけると、完二は弾かれたように顔を上げて曖昧な返事をする。その様子を見た彼女が険しい顔でそう問うと、彼は慌ててそれを否定した。

 

「……寝てたんじゃないだろーな」

 

「そ、そんな事ねえっスよ! すっごい推理中」

 

 それから少しの沈黙が過ぎた後、千枝は溜め息と共に呟く。

 

「あの世界ってさ、ホントになんなんだろ。クマくんの説明も "たぶん" が多くて、正直よく分かんないし」

 

 テレビの中の世界に住まうクマも、あの世界がどのようなものなのかよく分かっていないらしく、説明はかなり曖昧な点が多い。マヨナカテレビとテレビの中の世界の関係性も、どこか釈然としない部分が見受けられる。

 

「そもそも、なんで犯人は人をテレビに入れるのかしら?」

 

「入れたら死ぬのは、もう分かってる筈だ……殺す気でやってんのだけは間違いない。手口がテレビなのは、犯人が絶対に証明できないからって事じゃないか?」

 

 ほむらの疑問に陽介が答えると、完二は犯行動機について予想を立てる。

 

「殺しねぇ……恨みつらみか? まぁ、オレを恨んでるヤツなら、掃いて捨てるほど居んな。けど、暁美先輩とかあるんすか? 人に恨まれる覚えとか」

 

 完二の問いにほむらは少し考えた後、余裕のない時期の自分ならばもしかしたらあるかもしれない、そう思い至った。

 ただ、あの頃のほむらに対して積極的に話しかけていた人間は、詩野茜以外に殆ど存在しない。それにそういうことがあったとしても、ほむらの見ていないところで茜が何かしらのフォローをしていた可能性もある。結局のところ、自分では分からないというのが最終的な結論だった。

 

「もしかしたら、あるかもしれない。私が憶えていなくても、相手がその事を忘れずにいる場合もあるから」

 

「んー、けど、今まで被害に遭った全員に共通する恨み……ってなると、見当つかないね」

 

 ほむらの言葉を聞いて、千枝がそう応える。

 完二は兎も角としては、雪子とほむらは共通して人から恨まれるような事件を起こしたりしていない。もしかしたら本人が関与しないところで人知れず恨まれる事もあるだろうし、何気ない日常の中で生じた八つ当たりのような恨みである場合も否定はできないが、少なくとも不特定多数の人間に恨まれるような人間ではないことは確かだ。

 

「ま、幸いまだ先回りできるチャンスだし、この際、動機は後回しだ。捕まえてから、喋らせればいい」

 

 犯行動機に関しては、確定できないことが多過ぎる。そう感じた陽介はこの話を切り上げて、久慈川りせの話題へと話を戻した。

 

「取り敢えず今ハッキリしてんのは、りせが危ないって事だ」

 

 マヨナカテレビに映った以上、久慈川りせが入れられるのは時間の問題だ。これ以上、犯人をのさばらせておく訳にはいかないだろう。

 

「……て事は、また張り込み?」

 

 千枝がそう訊くと、陽介は高らかに言う。

 

「おうよ、今度こそ先回りしようぜ!」

 

 それを聞いた特捜隊の面々は頷くと、意気揚々とマル久豆腐店へと向かった。目指すは、犯人確保である。

 

 

 

 

 八十稲羽商店街、南側。

 マル久豆腐店のすぐ隣に店を構える "四六商店(しろくしょうてん)" という小さな店に、彼らは居た。店内には日用品からどこで使うのかと思うような、様々な商品が棚に並べられている。外観も非常に古い木造建築で店主である優しげな顔のお婆さんが切り盛りしていることもあり、まさに田舎という感じの店そのものだ。

 

「やっぱ、アンパンと牛乳だよね」

 

「張り込みつったら、それしかないだろ。あとアレな、携帯用オムツ」

 

「いらねー! つか売ってないし!」

 

「ジュネスには揃ってるよ?」

 

「いらねーっつの、その情報!」

 

 彼らがここにいるは陽介と千枝の会話から分かる通り、豆腐店を張り込む際に飲み食いするものを買う為だ。

 各々買いたいものを選んでいく傍ら、ほむらは店の内装を物珍しげに見ていた。このような店に来たことがない彼女にとって、店に置かれた雑多な商品が酷く珍しく思えた。

 

「どうかしたんスか?」

 

「いえ。こういうところに来るのは初めてだから、珍しくてね」

 

 ほむらの忙しない様子に気がついたらしい完二が声をかけると、彼女は近くの棚から "こざくら餅" という駄菓子を手にとりながらそれに応える。

 

「へえ、こんなお菓子もあるのね……美味しいのかしら?」

 

 彼女は長方形のプラスチック容器をしばらく観察すると、今度は "モロッコフルーツヨーグルト" を手にとって観察する。ほむら自身は気がついていないだろうがその表情は幼子のように楽しげで美しいものだった。

 

「あれ、足立(あだち)さん? なんでここに?」

 

 ほむらが棚に置かれた駄菓子を見ていると、不意に悠が驚いて声をあげる。彼らが振り向くと、入り口付近にぼさぼさ頭でだらしなくスーツを着ている青年が立っていた。

 

「誰?」

 

「 "足立" っつー頼りねえ刑事(デカ)っスよ」

 

 ほむらがあの青年は誰かと聞くと、完二は若干の嫌悪を含む声色で答える。

 

 彼は足立透(あだちとおる)。最近になって稲羽警察署に転属された新米刑事で、悠の叔父である "堂島遼太郎(どうじまりょうたろう)" の相棒である。服装や身嗜みには頓着がないのか、いつも寝癖が立っていたりネクタイが曲がっていたりするのが特徴だ。

 

 2人の会話は彼には聞こえていなかったらしく、何事かを呟いた後に慌ててなんでもないと頭を振った。

 

「それより、君らこそ何してんの? 買い食い?」

 

「今から、豆腐屋にりせちゃんの様子見に行くんすよ」

 

「あ……そうなんだ。ボ、ボクもちょうど、行くところだったんだよ」

 

 彼の問いに陽介がそう答えると、何かを察したような呟きの後に言う。すると千枝が、ちょうど良いと彼に提案をする。

 

「あ、じゃあ一緒に行きます?」

 

 足立はその提案を受け入れると、自身も適当な菓子パンをひとつ買って彼らと共に店を出て行った。

 

 さて、現在豆腐店では久慈川りせが店番をしており、外にいる特捜隊の面々を怪訝な瞳で見つめている。

 女子たちは近くの電柱付近で話ながら辺りを監視、男子たちは目の前の通路を延々と往復、足立に至っては店の前で忙しなく辺りを見回し続けていた。

 

「立ち止まんなよ! 怪しまれんだろ!」

 

「や、もう何往復もしてっから……」

 

 立ち止まった完二に対して陽介が叱責するが、完二は呆れたような溜め息と共にそう応える。立ち止まっているより、店の前を何往復もする方がよほど怪しい事この上ないのだが、陽介はその事に気がついていないようだ。

 

「犯人め……来るなら来てみろっ」

 

 一方、そう意気込みつつも微妙に腰が引けている足立の様子を見て、ほむらは完二の言葉に納得してしまった。

 成る程、これは頼りないと言われてしまうのも頷ける。

 

「あっ……あれ!」

 

 不意に、雪子が向かいの電柱を指差す。その指が示す先には、電柱に抱きつくようにして店の2階を覗こうとしている男性がいた。

 

「だっ、だれだー!」

 

 見るからにオタクだと分かるような風貌の男性は、足立の叫び声に驚きズルズルと電柱を滑り降りると脱兎の如く逃げ出す。

 

「あっ、逃げた!」

 

「待ちやがれッ!」

 

 逃げ出した怪しい人物を追って、一行は駆け出した。

 

「逃げんなテメ……このッ!」

 

 道路を走る宅急便のトラックを傍に寄って避けながら男性に迫ると、男性は交差点で立ち止まり怯えたように叫ぶ。

 

「く、来るな!」

 

「るっせ、んな聞く馬鹿が――」

 

「と、飛び込むぞ! 僕が車に轢かれてもいーのか!?」

 

 彼は後ろにある車の通りが多い大きな通りを指差して、なんとも滑稽極まりない脅しを突きつける。

 

「な、なんだそりゃ……!?」

 

 あまりの滑稽さに特捜隊が呆れる中、足立は焦ったように声をあげた。

 

「だっ、駄目だよ! 被疑者が大怪我したら、警察の責任問われていっぱい怒られ……あ」

 

 足立の言葉を聞いた男性は、九死に一生を得たかのような顔をすると一行に警告する。

 

「マジで、飛び込んじゃうぞ! ほ、ほら、もう追うなよ、行けよぉ!」

 

 事態はどうにも緊迫している。無理に近づけば、追い詰められた男性が下手を打つかも分からない。

 

「お、おい、どーする?」

 

「ダッシュで正面から捕まえよう」

 

「それが1番手っ取り早えぇや」

 

 陽介が悠に小声で問うと、彼はそう答えた。問題はどうやって男性の気を逸らすかだが、その案を思いついたほむらは彼らにそっと耳打ちする。

 

「私が犯人の気を逸らすから、貴方たちはそれを合図に行って」

 

「了解、頼むぜ暁美」

 

 ほむらの思いついた案、それは――。

 

 

 

 

「あ、りせちー」

 

 彼の真後ろを指差して久慈川りせの名を呟く、というもの。単純だが、彼女のファンは絶対に引っかかるであろう手である。事実、男性はその言葉を聞いた瞬間、物凄い勢いで振り返るときょろきょろと辺りを見回し始めた。

 男性が後ろを向いたのを確認した男子たたちは、一斉に駆け出すと男性を取り押さえる。

 

「ぷぎゃっ!?」

 

 滑稽な悲鳴をあげて引き倒された男性は、完二によって近くのガソリンスタンド前に引っ張られ、乱暴に投げ出された。

 

「きっ、君らね、善良な一市民にこんな乱暴なマネして――」

 

「るせぇ! 人様ぶっ殺しといてテメェはそれか!? あぁ!?」

 

 乱暴な扱いに対して怒りを露わにする男性に、完二はそれ以上の怒りを男性にぶつける。この時、まだこの男性が犯人だとは思っていないほむらは、凄む彼を片手で制してそれを咎めたようとした。

 

「ちょっと、巽くん。まだこの男が犯人と決まった訳じゃ――」

 

「はぁ!? タンマ! ぶっ殺しって、何のこと!?」

 

 しかし、男性が叫んでしまったことでそれは掻き消されてしまう。ほむらと同じく、男性の態度からして犯人かどうか怪しいと感じたのか、千枝も若干自信なさげに凄む。

 

「と、とぼけたって、ムダだから!」

 

 すると彼女の言葉で本格的にマズイと悟ったのか、男性は背負っていた鞄の中身を晒して必死に弁解した。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! 僕ぁただ、りせちーが好きで、部屋とかちょっと見てみたくて……ほら! 荷物コレ、全部カメラだよ!」

 

「それはそれで犯罪よ……」

 

 ほむらの至極真っ当なツッコミと、千枝の呆れたような溜め息が場に響く。

 正当な理由無く素肌を晒す場所や場面を覗いた場合、軽犯罪法違反である。今回はたまたまそういう場面ではなかったが、このまま放っておけばそうなっていた可能性もあるだろう。

 

「はいはい、犯人ってのは、みんなそう言うんだって、そういう事。じゃ、あと僕が預かるからね」

 

 足立はそう言うと、懐から警察手帳を取り出して男性に突きつけると、自信満々に言い放つ。

 

「話は署で聞こうか……。くー! このセリフ、言ってみたかった!」

 

「やっ、やめてくださいよぉ! 僕が何しっていうんですかぁ!? し、知ってんだから! 日本には、 "盗撮罪" ってのは無いんだ!」

 

「バーカ、状況分かってる? お前の容疑は "殺人" なの! いいから来い、話はその後!!」

 

 言い訳に言い訳を重ねる男性に、どうやらかなり舞い上がっているらしい足立はそう言うと、男性の両手に手錠をはめる。

 最早修正できないくらいに事が進んでしまった為、ほむらは溜め息を吐くと諦めて流れに任せることにした。それにこの男性、言動からしてどうにも同情できるような人間ではない。こんな男性をわざわざ庇うのも癪である、ほむらは男性を完全に見捨てるのだった。

 

「いやぁ、こうも上手く捕まるとはね! ホント、大金星だよ! 君らもお疲れ様! 犯人逮捕に、ご協力感謝します!」

 

「あ、はい……」

 

「でも事件に関わるの、これっきりにしなよ。危ないし、堂島さんも心配してたしさ」

 

 嬉しそうに笑いながら敬礼をする足立に悠が微妙な返事をすると、彼は最後に特捜隊に釘を刺して犯人を引っ張りながら去っていった。

 

「なんつーか……アレだな」

 

「まあ、あとの事ぁ、警察っスね……」

 

 嵐が過ぎ去った後、どこかスッキリしないまま特捜隊が豆腐屋まで戻ってくると、久慈川りせが店に居ないことに陽介が気がついた。

 

「あれ、どこいったんだ?」

 

「おや、いらっしゃい。お豆腐かい?」

 

「あ、ど、ども。ええと……」

 

 陽介が店覗くと、久慈川りせのお祖母さんが出てきて彼にそう訊く。陽介が言いにくそうに口籠っていると、お祖母さんは合点がいったかのように言った。

 

「ああ、りせに用事の人かい? 生憎あの子、出かけたみたいだよぉ」

 

「え、ついさっきまで居ましたよね?」

 

「たまにあるんだよぉ。だま〜って出てっちゃってねぇ。まあ、色々くたびれてるようだし、許してやっとくれねぇ」

 

 黙って出て行った。その言葉が、不気味に特捜隊の合間を歩き始める。最悪の展開が、彼らの頭に浮かんでは消えていく。

 

「黙って居なくなったって、もしかして……」

 

「探した方がよくないか!? まだ遠くへは行ってないだろ」

 

「う、うん、分かった!」

 

 彼らは慌てて散らばると、稲羽市内を手分けして探し始める。また止められないのか、また止められなかったのか。彼らに頭には、後悔の念が渦を巻き始めていた。

 

 捜索から数時間、再びマル久豆腐店前に集まった特捜隊は、捜索の結果をそれぞれ報告しあう。

 

「居ない、そっちは?」

 

「近所の人、誰もりせちゃん見てないって……」

 

「あたしらが捜せてないかもだけど……どこ行っちゃったんだろ……」

 

 やはりと言うべきか、残念ながら結果は芳しくない。彼らを嘲笑うかのように久慈川りせは見つからなかったのだ。

 

「くっそ、嫌な予感がするな。当たんなきゃいいけど……」

 

 豆腐店の看板を見上げて、陽介が悔しそうに呟く。こういう場合、悪い予感というのはどうしても当たってしまう。だが、分かっていてもそれが外れることを祈らずにはいられないものだ。

 

「ここで唸っててもしゃあねっスよ……やれる事ぁやったんだ。今晩、予報じゃ雨らしいし、後ぁもう、信じて例のテレビ見てみるっきゃねえっスよ」

 

 完二の言葉に彼らは頷くと、不安を残したままそれぞれの家へと帰るのだった。

 

 そしてその日の夜、午前0時。

 マヨナカテレビは映った――映ってしまった。非常に鮮明な映像は、紫色にライトアップされた怪しげな劇場のようなものが映し出されている。

 マヨナカテレビが映ってから数秒後、画面右端からオレンジ色のビキニタイプの水着を来た久慈川りせが現れた。

 

『 "マルキュン! りせチーズ! " みなさーん、こんばんは、久慈川りせです! この春からね、私進級して、いよいよ花の "女子高生" にレベルアップ、やたー!』

 

 ローアングルで映し出される彼女は、いちいちポーズをとりながら笑顔で話を進める。

 

『今回はですね、それを記念して、もうスゴい企画に挑戦しちゃいます! えっとね、この言葉、聞いたことあるかなぁ? スゥ・トォ・リィッ・プゥー。……ん、もう、ほんとにぃぃ?』

 

 まるで何かの番組のように彼女は画面奥へ進んでいくと、身体をくねらせて言う。

 

『きゃあ、恥ずかしー! て言うか女子高生が脱いじゃうのって、世の中的にアリ!? でもね、やるからにはど〜んと体当たりで、まるっと脱いじゃおっかなって思いますっ! きゃはっ、おっ楽しみにー!』

 

 最後に久慈川りせが前かがみになりながら手を振ると、それを合図にしたかのようにマヨナカテレビは終わってしまった。

 

「これが……マヨナカテレビ……」

 

 始めて見るマヨナカテレビに驚愕を隠せないほむらは、あまりのことにしばらく呆然と目を見開いたまま突っ立っていた。どうやら今回のマヨナカテレビは、彼女にとって色々と衝撃が強かったらしい。

 しばらくして復帰すると、彼女は微妙な顔をしながら握りしめていたテレビのリモコンをテーブルに放り投げて呟いた。

 

「今日は、もう寝よ……」


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