遅くなりました。
今私の腕の中では、1人の少女がその拘束から逃れようともがいている。だが私より低い身長では些か分が悪い。私の方が頭1個分は高いのだ、上から押さえ込めば良い。
それに彼女も本気で抵抗している訳ではないのだ。嬉しいけど恥ずかしい……、そんな気持ちが彼女の赤くなった顔から伝わってくるから、私は更に彼女のことを抱きしめ………。
「ふふー、本当は嬉しいくせにさー?ほらほら、もっとぎゅーってしたげるから素直になりなよー。ぎゅー」(ニヤニヤ)
「アンタは…っ、酸素魚雷を喰らわせるわよ!?」
物騒なセリフで私を脅す彼女の名前は〈叢雲〉、吹雪型駆逐艦の五番艦で、私が〈艦隊これくしょん〉で1番最初に手に入れた艦娘である。
「キタカミさん!!つぎはわたしもぎゅーってしてくださいです!!」
「みこさまずるいー、わたしもしてほしいですー」
「うちもー」「わたしもですー」
「きましたわー!!」「うぇひひ、たまりませんなー」
「みなぎってきたー!」「うひょひょー」
「ゆりゆるですねー」「だ・い゙・じけ・ん゙っ!!」(低音)
「「「それいじょういけない!」」」
「いやー、じつになかよしでありますなー」
「コイツら………っ!!?っちょっと何処触ってんのよっ!?」
「そりゃーもちろん、叢雲の脇だよー?ほーら、コチョコチョー」(さわさわ)
「っな!?っやだ、っちょ、くすぐった…!?や、やめなさっ…、やめなさいよーーーーッ!!!?」
森の中へと少女の絶叫が木霊する。しかしここには、ニヤニヤと笑いながら手を動かす性犯罪者1歩手前の加害者(私)、それを羨ましく思い自分にもとお願いする無垢な妖精さん達、興奮して電波を受信し欲望を垂れ流す変態+αしかいない。
私は、彼女を抱きしめるに至った会話を思い出しながらも、叢雲をくすぐる手は止めない。
彼女が呼吸困難に陥って気絶し、慌てて介抱されるまで、あと5分―
◆
私が〈北上〉になって、〈キタカミ〉となった翌日。寝るときに私が心配したとおり、何人かの妖精さんが私の下敷きになっていた。気付いた私が急いで上からどけると、まるで漫画のキャラの様にペラペラになった妖精さんが複数。どうしようと思ったが、彼女達はものの数秒でッポン!と音をたてて復活。
唖然としていると、それぞれ私にむかって―
「だいじょぶですよー」「ですです」
「みんなでねてるとにちじょうさはんじですしおすし」
「もっとのっててください」「むしろふんでください」
「さげすんだめでみてください!!」
「あしをなめさせてください!!」
「いぬとおよびください」「「「それだ!!」」」
………駄目だコイツら、早くなんとかしないと。
なんか小さい子に混じって変態が湧いている。壮絶にドン引きしている私の冷たい視線に見据えられた数人の変態が、その愛らしい顔を愉悦に染めてくねくねしてる。
「ふぁ…キタカミさん、おはようございますです~」
「え、あぁ…おはよ、ミヨっち」
「はいです~」(にぱー)
「おぅふ…」
―ま、眩しすぎるっ!?
その笑顔はどこかのオヤシロ様を彷彿とさせる、とても無邪気なものだ。さっきの惨状を見たあとだからなのか、まるで後光が指しているようだ。癒される。
私は、彼女を穢してなるものかと後ろの汚物を背中に隠す。
「どうかしましたか~?」
「いやいやなんでもないよー。うん、ほんと。なんでもないから。ミヨっちはそのままでいいから」
「???はい~。なんかよくわからないけど、わかりました~」
うん、素直なのは良いけど。今度は別の意味で心配になってきたよ、ミヨっち。あ、1匹足で潰しちゃった。なんか下から「うひぃ(恍惚)」とか聞こえたし………。後でちゃんと足は洗っとこっと。
「うんうん、なかよきことはすばらしきかな、であります」
「!?」
「あ、ハカセ。おはようございますです~」
後ろからいきなり聞こえた声に、慌てて振り向くと、長い茶髪を後ろで2本の三つ編みにし、ぐるぐる渦を巻いた瓶底メガネをかけ白衣を着た妖精さんが、こっちを見ながらウンウン頷いてる。
「ハカセ?」
「はい~。あのこはハカセといって、みんなのためにたくさんのはつめいをつくりだした、てんさいさんなんです~」
「へー、そーなんだー」
ミヨっちには悪いけど、全然そんな風には見えないけどね。むしろ下っ端研究員の雰囲気なんだけど。
「おはつにおめにかかるであります。いろいろつくらせていただいている、ハカセであります」
「へー…。私はキタカミ、まぁよろしくー」
「よろしくであります、キタカミどの。ところでみこさまは、キタカミどのにはもう?」
「ふぇ?……あっ、わすれてたです~」
「おいおい……」
ミヨっち……。
「ふぇ~、キタカミさんごめんなさいです~」(うるうる)
「あー大丈夫大丈夫。あんまり気にしてないよー」(ナデナデ)
「あわわ、キタカミさん~……」
「ふむ、それはつごうがいいでありますな」
「?」「?」
「おふたりとも、ちょっときょうりょくしてもらいたいことがあるのですありますが、ついてきていただいても?」
「はいです~」
「私も良いんだけどさ…」
「?」「?」
(……ぐー)
「……」「……」
「……なんか食べるものない?」
その後食事をいただいた(牛缶だった)私は、ミヨっちと一緒にハカセについていく。歩幅違いすぎるのでミヨっちは私の右肩に乗っているが、ハカセは自前の「カ号観測機」(カ号)に乗っている。なんでも妖精にも個性があって、もともとはただのカ号の妖精だったのだが、自分のカ号のメンテナンスや改造をしているうちにいろいろな改造をするようになって、皆からハカセと呼ばれるようになったのだとか。
ちなみにハカセのカ号観測機は、魚雷に爆弾なんでもござれで航続距離や搭載量もマシマシの特別仕様なのだと。しかもプロペラの音が全くしない静音装置搭載。敵艦が可哀想な事になりそうだ。
「んで、どこにつれてくのさ」
「そのまえに、キタカミどの」
「なに?」
「みこさまにやさしくしてくれて、ありがとう、であります」
「ん?どゆこと?」
お礼を言われるような事ではないと思うのだが…。
「みこさまはここのところ、こんかいのことでひじょうにおもいつめておられたのであります」
「今回の事?」
「あなたを[コチラ]につれてきたのは、わがはいとみこさまなのです」
「…………」
チラッと横目で見ると、ミヨっちはとても辛そうな顔で俯いていた。
「わがはいはみておりませんが、ほかのものからみこさまがとてもたのしそうだったときいているであります。だから、ひとことれいをつげたかったのであります」
「キタカミさんだまっていてごめんなさ「いいよー別に」……へ?」
不思議そうにコチラを見つめる彼女に目を合わせて、自分でも意外に思うほど穏やかな気持ちで告げる。
「まぁ確かになんで私がーとか、いろいろ思う事はあるけどさ」
「………」
「でも、ミヨっちもハカセも、ほかの妖精さんも良い娘じゃん。それに…」
「それに?」
「ミヨっちはもう私の友達だからね。友達を助けるのは当然じゃん」
ちょっとクサかったかなー。なんて思いながら、最後のほうは恥ずかしくなったので、目を逸らしながら言う。ていうか、キタカミでも北上でもこんな熱血なキャラじゃないよ……。
自分のキャラとのギャップを感じてると、横から顔に抱きつかれた。
「ギダガミ゙ざん゙~、あ゙りがどうございま゙ず~」
「うわっ、ちょっ!?ミヨっち、鼻水が!!顔に鼻水がー!!!?」
「はっはっは。ほんとうになかよしでありますな」
「笑ってないで助けてー!?」
結局ミヨっちが落ちついたのは、地下に続く階段に着いてからだった。
「でっか……」
地下におりて私を待っていたのは、結構な高さの天井まで届く大きさの金属製の巨大な箱。でもこれってどうみても…。
「ただの冷蔵庫じゃん」
見たことない大きさだが、どうみても大きいだけの冷蔵庫だ。これがいったいなんだと言うのだろうか。
「もとはそうでありますが、なかみはわがはいがてをくわえた、まったくの別物であります。なづけて、[けんぞーくん]、であります」
「けんぞーくん?」
「しかり。この[けんぞーくん]は、かんむすのみなさんをけんぞーするとともに、あることをしてくれるのであります」
「あること?」
「そうであります。ときにキタカミどの、ごじぶんのかっこうをぎもんにおもったことはないでありますか?」
「えー?あ、最初から改二の制服着てること?」
私の答えを聞いたハカセは頷いてる。確かになんで初期に着てる緑の地味なヤツじゃないのかは気になっていたが。
「[けんぞーくん]でけんぞーされたかんむすさんには、ふねのたましい…[艦魂《かんこん》]がやどっていないのです」
「艦魂?」
「そうであります。ほんらいのけんぞーでは、ねんりょうやだんやく、こうざいにぼーきさいとといったしざいをよりしろとして、みこさまのようなのーりょくのようせいのちからでよびだした[艦魂]をがったいさせる。それでたんじょうするのがふつうのかんむすさんなのであります」
「うん。言われてることは理解したけど、なんか凄すぎて逆に驚けない。でもそれだと、けんぞーくんから出てきた艦娘は……言いかたが悪いけど死んでるも同然じゃないの?」
「そこで、みこさまのでばんなのであります。みこさまののーりょくはほかのようせいよりきょうりょくでありまして、[コチラ]だけでなく、キタカミどののいた[アチラ]の[艦魂]をもよびだせるのであります」
「へー…、ミヨっちは凄いんだねー。でも私は、もともと艦娘じゃないよ?」
「それはでありますな…、む?どうやらけんぞーがおわったようであります。とりあえず、あたらしいかんむすさんをおむかえするであります。みこさま、おねがいするであります」
「わかりました~」
建造が終了した様なので、一旦話を区切る
「さぁごたいめん、であります」
ハカセが扉を開くと、そこには1人の少女が佇んでいた。青味がかった長い銀髪で、前髪は切り揃えて横髪を赤いリボンで結んだ少女―〈叢雲〉は、まるで人形のようにピクリともしない。
「さて、これから[艦魂]をがったいさせるのでありますが…」
「何か問題でもあんの?」
「いえ、キタカミどのにもきょうりょくしてもらいたいのであります」
「私?なんでさ」
「じつは、[アチラ]からよびだす[艦魂]というのは、キタカミどのがあそんでいた[艦隊これくしょん]からよびだすのであります」
「…………はぁーっ!?」
いやいやいやいや、どゆこと!?だって、えぇ!?
「びっくりするのもむりないでありますが、せつめいはあとでちゃんとするので、まずはかのじょをおこすであります。みこさま」
「はいです~」
あわあわしてる私の肩から飛び降りたミヨっちは、〈叢雲〉目の前に移動して静かに跪く。
「みこさまが[アチラ]とのつながりをたどって[艦魂]をよびだすので、キタカミどのはごじぶんのかんたいにいた〈叢雲〉どののことをおもいうかべていただきたいのであります」
「うー、ちゃんとせつめいしてよねー…」
ハカセが頷いたのを確認してから、目をつぶり深呼吸をして一旦落ち着いてから、私の〈叢雲〉の事を思い出す。
「つかまえたです!!」
「では、ぽちっとな、であります」
どうやら成功したようだ。人知れず安堵の溜め息をついていると、〈叢雲〉がピクリと震えて目をゆっくりと、開いていく。
「ん、………?」
完全に目の開いた叢雲と目が合うと何故かとても怪訝な顔で睨まれる。
「えーと、叢雲?」
「なによ」
「私の事、分かる?」
「………なんか信じられないものを見た気がするわ」
「あー、まぁ…そうねぇ」
「姿や声は北上なのに、雰囲気や仕草に司令官の面影がある……。いったいどういう事?それとも、二人して私の事をからかっているの?ここもどこか分からないし…」
「いやー、私も正直分かんない事が多いけどねー」
「はぁ?」
驚いた事に、[アッチ]ではゲームの中の存在であるはずの彼女は、元の私を知っているようだ。
「せいこうでありますな。みこさま、おつかれさまであります」
「はい~、よかったです~」
「……ようせい?」
「はじめまして~、わたしはミヨです~」
「わがはいはハカセであります」
「………私は[叢雲]よ。よろしくするかは説明次第だけど……。んで、アンタは?いい加減司令官なのか北上なのかハッキリしてほしいのだけど?」
「一応今は[キタカミ]って名乗ってるねー」
「あっそ」
随分と冷たい態度だが、それも仕方ないだろう。私だっていきなり知らない場所で胡散臭い人が居たらそうなるだろうし。
「なのりあったところでおはなししたいのでありますが、ここではなんなのでうえでおはなしするであります」
「……分かったわ」
「あいよー」「です~」
妖精さん達と雑魚寝した部屋に戻る。途中で寄った台所で準備したお茶を飲んで、昨日から今日までの私にあった事を叢雲に説明した。ちなみに、台所は昔ながらの釜だった。茶葉はティーバッグ、熱源はハカセの作った[コンロン]とかいう発明品だった。
「…つまり、アンタはやっぱり司令官で、昨日いきなり[北上]の姿で砂浜にいて、探索してたらコイツらに呼ばれて、友達になったらお礼に私を建造して貰った………、って事なのね?」
「まぁ、そうねぇ。そうなっちゃうね」
「です~」「でありますな」
「…………訳が分からないわ」
「ですよねー」
そりゃーそうだろう。私だって説明してたら、何言ってんの私って思ったもん。
「まぁ100歩譲って、アンタが司令官ってのは認めてあげるわ。私の知っている司令官と同じ仕草だし、雰囲気もかなり似ているし……。」
「えーと、信じてくれるの?」
「ふん、私を誰だと思っているの?伊達に初期艦として、ずっとアンタの側にいた訳じゃないわ」
「叢雲………」
――嬉しい。私は本気でそう感じた。顔を赤く染めてそっぽを向きながらも、チラチラとこっちを見る彼女の目には、私への信頼が感じられる。
「……?ちょっと、いきなり立ち上がってどうしっ!?」
叢雲はいきなり抱きついた私に目をシロクロさせていたが、そんなことは無視だ。
「ちょっと、いや…。凄く、うん…凄く嬉しいよ。ありがとう、叢雲」
「……これから大変だろうけど、ま、せいぜい頑張りなさい」
顔は見えないが、彼女は顔を真っ赤にしているのだろう。そんな彼女を想像すると、何だか凄く苛めたい気分になってきた。
「ねぇ…、そろそろ離してくれないかしら?」
「えー、どうしよっかなー」
「っな!?ちょ、調子に乗るんじゃないわよ!!何でアンタなんかといつまでも抱きついてなきゃならないのよ!!冗談じゃないわっ!」
叢雲はじたばたしているが、もう少しだけ我慢してもらおう。腕のなかで暴れる、クールで、厳しくて、素直じゃないけどとても頼りになる彼女を抱きしめながら、私はそう思った。
◆
「あのー、そろそろ許し「駄目よ」……ガクッ」
叢雲が目覚めて初めにしたのは、私へのオシオキだった。気がついた瞬間、上から見ていた私の顎に向かって放たれた拳は見事に命中。呻いている私を外に連れ出し、砂利の上に座らせながら説教を開始。もうすでに30分が経過している。
最初は痛かったのだけど、足の感覚がなくなって来たので許しを請うも素気無く一蹴。まだ彼女の怒りは収まらないらしい。
ちなみに、ミヨっちは早い段階でハカセに連れていかれた。変態達は縁側でコチラを羨ましそうに見ている。解せぬ。
「あと1時間耐えられたら許してあげるわ。ま、せいぜい頑張りなさい」
そう言うと叢雲は、私を外に放置してお社へと戻っていった。
「くぅぅ、防御力は無いんだよぅ〜……」
呟きは虚しく響いた。
~唐突な次回予告~
君達に最新情報を公開しよう!
新たなる仲間、叢雲が加わり、キタカミも彼女の参入に大いに喜ぶ。
しかし、そんな彼女達の前に更なる刺客が現れる!
彼女はいったい何者だ、どうする我等がキタカミさん!
[それいけ?!キタカミさん!]NEXT
『帝国海軍最後の重巡』
次回もこの小説で、艤装装着《ファイナルフュージョン》承認!!
コレが勝利の鍵だ!
NEXT『不調ばかりのカタパルト』
次回お楽しみに*
次回予告は完全な、悪のりです。
ですが反省も後悔も致しません。(馬鹿)
だって好きなんですよあの予告。この為にわざわざDVD見直すくらいには。(予告のとこだけ)
でも、次回出てくる艦娘バラしたし大丈夫ですよね?(慢心)
内容としては、正直皆様に「勝手な妄想してんじゃねーよこの変態が!!」とか罵倒される覚悟で書きました。笑って許して下さる人が好きです。
※ここから蛇足
あと、艦娘の建造方法はブドウ糖の独自解釈&ご都合主義です。そうしないと、建造の度に意識ある艦娘を解体or改装しなきゃならなかったんですよ。
つまり[けんぞーくん]は、資材投入→依代完成(意識無し)→ダブってなかったら[艦魂]合体、それ以外は解体or改装、ってなるわけです。
ちなみに普通の建造は、資材投入→[艦魂]投入→中で合体→艦娘完成。にります。
だから、普通の建造だと意識のある艦娘が出てくるので、
T督「またか、解体or改装にまわすか」
FUSO姉妹「空はあんなに青いのに……」「不幸だわ…」
解体のアイドル「NAKAちゃんダヨー、よっろし(カーンカーンカーン)」
ってなるわけです。(上のはあくまでイメージです)
なので[けんぞーくん]の登場になりました。
ハカセは都合のイイ機械を開発させる為のキャラです。一応元のカ号観測機の妖精さんがモデルで、開発者っぽい格好と持ち主(烈風拳の使い手)の口調を足して誕生しました。
長くなりましたが次回も頑張っていきます。
あと活動報告を書いてます。よろしければご覧下さい。
※2015/01/27-誤字修正