間違ってる青春ラブコメは鋼鉄の浮遊城で   作:デルタプラス

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第3話になります。

いつになったら戦闘してくれるんでしょうか?w


第3話 そして、彼は認識する。

一体どれくらいの間そうしていただろう。

 

 

門の近くの建物の壁に寄りかかって座り、しばらく俯いていたしていた。何かを考えていたわけではない。本当に何もしていなかった。何度かプレイヤーがこの門から外に出ていく気配があったが、一度も顔を上げなかったからどれくらいのプレイヤーがフィールドに出て行ったのかわからない。中には俺に声をかけてきたやつもいたような気がするが、はっきりとは覚えていない。

 

ようやく顔を上げると、周囲には誰もいなかった。辺りはすっかり暗くなり、街中に流れるBGMも昼間のものから夜のものへと変わっていた。なんだか寂しい曲だな。

 

ふと、プレイヤーの喧噪が聞こえた気がしてそちらを向いた。だが、視界に入るのは仄かな明かりを放つ街灯と何かの店の窓から漏れる光だけだった。

 

「ハハ、俺は今誰かを求めてるのか。」

 

笑える。プロのぼっちたる俺が一人でいたくないと思ってるってことかよ。

 

「そんなの俺じゃない。」

 

今あるべき俺の姿じゃない。俺はぼっちの中のぼっちだ。"みんな"の外にいるのはもちろん、その他の中でさえ一人になれる孤高のぼっちだ。俺はぼっちであることに絶対の自信がある。

 

「よいしょ、と」

 

いつもの調子が戻ってきた気がして、重くなった体を持ち上げる。立ち上がってから今一度周囲を見渡す。やはり誰もいないようだ。

 

「しかし寒いな」

 

夜になったからか、周りに誰もいないからか。あるいは両方か。

 

なんでもいいからどこかで温まりたい。それが正直な気持ちだった。

 

「23時12分」

 

メニューを開き時刻を確認する。この時間だと、もうほとんどの宿屋は埋まっているだろう。SAOには、NPCハウスの一部を宿屋のように利用できる場所もあるが、それを探していられるほどの元気はない。次の街に行くという手もないではないが、夜は視界が悪く、夜だけ出現するmobもいるなど危険性が高い。なにより、その元気がない。

 

「仕方ない。どこか空き家を探して、そこで休むとするか」

 

最悪、NPCハウスの隅っことかでうずくまろうと思いながら門に背を向ける。少し進んだところで、一本の細い路地の奥に窓から漏れる光が見えた。あんなところに商店はなかったはずだ。少なくともβテストの時は。そうなると、あの光はNPCハウスの可能性が高い。俺は誘われるようにその路地に入っていった。

 

 

 

「えっ」

 

その光をこぼす建物の前まで来た時、思わず声を出してしまった。

 

『INN』

 

木製の少し古ぼけた印象のあるドアの上には、確かにそう書かれていたのだ。βテスト時にはなかったはずだから、正式サービスからできたのだろう。ともかく、ここまで来たら入ってみるしかない。すでに部屋が埋まっている可能性もあるが、場所が場所だ。ひと部屋なら残っているかもしれない。

 

ギーっという音と共にドアを開けると正面におばあさんのNPCがいるカウンター。左に2回へと続く階段。右には大きめの木製円形テーブルとそこに座るおじいさんのNPC。おそらく、カウンターにいるおばあさんに話しかければ宿泊の手続きができるはずだ。

 

「あの、すいません」

 

返事がかえって来なかったらどうしようと、内心ビクつきながら話しかける。

 

「ここは宿屋です。泊まっていきますか?」

 

おばあさんは穏やかな笑顔でそう返してくれた。どうやら、まだ空きがあるようだ。同時に、泊まるか否かを選択するメニューウィンドが出現する。

 

「はい」

 

メニューウインドは操作せずに口頭で答える。

 

「わかりました。では、何泊されますか?」

 

SAOではNPCのAIが理解できる範囲であればメニューウィンドを使わずとも商品の売り買いや宿屋の契約が可能なのだ。現在、さきほどのウィンドは消えて何泊するかを選ぶウィンドが表示されている。途中で契約を切ることも可能だが、まだ明確な予定がないのでなるべく長く契約しておいた方がいいだろう。最大10泊まであるが、現在の所持金を考えると多少の余裕をもつためにも6泊くらいが妥当だ。そう考えて、6泊を選択する。今度はメニューウィンドを使ってだ。

 

「お部屋はどうされますか?」

 

今度は部屋を選ぶようだ。またメニューウィンドが出現する。それを見て少し驚いた。この宿屋は一人部屋が2階と3階に二つずつあるのだが、埋まっているのは2階の一部屋だけなのだ。この場所はかなり見つけにくいらしい。なんとなく3階の部屋を選ぶ。

 

シャラーンという鈴の音のような音が鳴り、契約完了を知らせるウィンドが表示されて、消えた。

 

 

 

「フー」

 

重い息と共にベッドに倒れこむ。疲れた。体力的にではなく精神的に。いや、SAOにいる限り現実の体を動かすことはないのだから精神的に疲れる以外に疲れるってことはないのか。このまま寝てしまいたいが、その前に最低限やっておかなくてはいけないことがある。

 

「さてと」

 

まずはメニューウィンドを呼び出し、必要ない装備類を外す。次に、所持品や所持金を確認する。現在の俺の装備は当然ながら初期装備だ。武器は片手直剣。片手剣装備の場合、盾を持てることが最大の利点と言えるが、基本的に俺は盾を装備しない。βテストの時に様々な武器を試したが、一番しっくりきたのが盾なし片手剣だったのだ。現在の主な所持品は、サービス開始からチュートリアルまでの間に狩りまくったmobからドロップしたアイテムだ。今のところ有用なアイテムはないな。だが、まだ売ったりするのは早いだろう。

 

「にしても、天才の考えることはわからないって本当だな」

 

茅場晶彦は、若いながらも、科学者・ゲームプログラマーとして莫大な富と名声を手に入れていた。普通ならばそれを自ら放棄するなど考えられない。しかも、このSAOの一件で茅場晶彦は世紀の大犯罪者になったのだ。彼はすでに213名の人間を死に至らしめたのだから。だが彼は言った。これが望みだったと。この世界こそが望みだったと。

 

「その望みのために1万人もの人間を巻き込んで、大犯罪者になってまで。…とんでもない奴だ」

 

その意志の高さは称賛にすら値する。だがそうなると、茅場晶彦にとってはこの世界こそが渇望した現実だということにはならないだろうか。なにより、この世界には、現実世界のそれよりも、より明確な"死"が存在するのだ。

 

なら。なら、この世界は、

 

 

「紛れもない現実だ」

 

 

第3話 そして、彼は認識する。 終

 




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