いつもより更新遅くなってしまいました。申し訳ありません。
いよいよボス攻略が始まります!
アインクラッド第1層《迷宮区》最上階のボス部屋前。
今この場所に、45人のプレイヤーが集まっている。これから、初のフロアボス攻略が行われる。
「俺からみんなに言うことは一つだ。死ぬなよ。ここにいる全員で第1層を突破して、第2層に到達しよう」
今回のボス攻略でリーダーを務めるディアベルが44人のプレイヤー全員の顔を見回す。
こいつは本当にすごいと思う。俺なんかが到底成し得ないことを実現してしまう。攻略会議を開くのも、そこに集まったプレイヤーをまとめるのも、こうしてボスに挑むのも。
最初は、爽やかなイケメンだし、ナイトを自称するし、なんか葉山みたいなやつだと思った。要するに、"いいやつ"なんだがどこか胡散臭い。好きになれないタイプだと。だが、葉山とディアベルでは決定的に違うことが一つあった。ディアベルはSAOに囚われた人々の未来を、希望を、あるいは祈りを守ろうとしている。葉山は今を、あるいは過去を守ろうとしていた。そこが決定的に違う。
しかし、現状を維持するよりも、現状を打ち破って先へ進むことはずっと困難である。さらに、現状を打破して先へ進もうとすれば、必ず何かを犠牲にすることになる。ディアベルは一体、何を犠牲にしたのだろうか。きっと、大事なものを犠牲にしたのだ。それが何かはわからないが、大事なものだったと思う。でなければ、ここまで強くなれないと思う。
本当に、あんたはすげぇよ。ディアベル。
心の中で、そう呟いた。
「よし、行くぞ!!」
ディアベルの掛け声と共に、ボス部屋の重々しい扉が押し開かれ、プレイヤーたちが鬨の声を上げて雪崩れ込んだ。
ここに、初のフロアボス攻略戦が開始された。
ボス部屋に入ってはじめて抱いた感想は、「こんなにデカかったか」というものだった。βテストの時に一度は足を踏み入れたことがあるが、その時よりも広く感じた。奥行き50メートル、幅30メートル、高さ10メートルはあるだろうか。その直方体の空間に、4体のモンスターがポップしていた。
1体は、この部屋の主であり、第1層フロアボスモンスターでもある《イルファング・ザ・コボルド・ロード》。その巨体は3メートルはあり、凶暴そうな容姿と相まって、いかにもボスという感じである。もう3体は、その取り巻きである《ルイン・コボルド・センチネル》。こちらは全身くまなく鎧で覆われており、大きさはプレイヤーと同じか少し小さいくらいだ。
ちなみに、コボルドというのは、MMORPGでは一般的な獣人型のモンスターで、人間と同じように武器を使って攻撃してくる。通常、コボルドは雑魚モンスターとして扱われることが多いのだが、このSAOでは事情が変わってくる。なぜなら、武器を使ってくるということは、ソードスキルを使ってくるのと同義だからである。ソードスキルは、プレイヤーの特権ではないのだ。
「スイッチ!」
キリトのその声を聞き、Asunaがすかさず突っ込む。Asunaは剣を体の正面に構えると、鮮やかなライトエフェクトに包まれた細身の刀身を捻りを加えながら突き出す。片手細剣ソードスキルの基本突き技《リニアー》。その一撃は正確無比な一撃となって、《センチネル》の弱点、のど元にあるわずかな鎧の隙間へと突き刺さった。《センチネル》が吹き飛ばされる。凄まじい一撃だ。Asunaは初心者のはずだが、その剣撃の速さと正確さは元βテスターである俺やキリトを凌ぐほどだ。
センチネルが起き上がって攻撃態勢に入った。
「スイッチだ」
その様子を見た俺は、すぐさまAsunaの前に出る。《センチネル》が手にしたポールアックスで斬りつけてくる。俺は剣を下から上に払いあげるようにしてそれを弾く。小気味のいい金属音と共に、お互いに少しずつ後退する。今度は、体を捻ってから水平に斬りつけてくる。それを鋭く踏み込んだ垂直斬りで相殺する。ふと、《センチネル》が後方へ飛び退く。ソードスキルがくる。技自体は単純なもので、突進の後に大上段から斬りつけてくるだけだ。直線的な攻撃なだけに、避けることも可能だ。
「ここは受けだな」
俺はあえて受けることを選択する。ソードスキルはソードスキルによって相殺できる。そして、ソードスキル同士が相殺すると、使用者は大きくノックバックしてしまう。このノックバックが狙いだ。《センチネル》がノックバックしている間に、Asunaが弱点を攻撃する。それでこの《センチネル》は倒せる。
「ふぅ」
短く息を吐き、《アニールブレイド》を構える。システムがソードスキルの予備動作を検出し、刀身が青く輝きだす。片手剣ソードスキル・単発水平斬り《ホリゾンタル》。それを《センチネル》のソードスキルとぶつける。
ガンッ
強い衝撃が手から腕全体に広がる。
「スイッチ!」
俺が叫ぶと、Asunaが流星の如く《リニアー》を叩き込む。予想通り、その一撃で《センチネル》はたくさんのポリゴン片になって四散した。
「Good job!」
キリトが声を掛けてくる。
「お前もな」
俺はそれに応じるが、Asunaは俺たちのやり取りを横目で見ただけだった。
回復ポーションを飲みながら他の戦闘の様子を見る。俺たちが戦っていたのは部屋の入り口に近い左側だが、その反対側に《センチネル》と戦っているパーティーがある。あの巨漢の外人さんエギルが率いるパーティーだ。特に苦戦している様子もないし、援護は必要ないだろう。部屋のほぼ中央でも《センチネル》と戦っているパーティーが一つある。あのトゲトゲ頭ことキバオウが率いるパーティーだ。こちらも特に苦戦している様子はない。
そして、部屋の奥では、ディアベル率いる本隊5パーティーが戦っている。ディアベルがよく通る声で指示を飛ばしている。ボスの三段あるHPバーの二段目が8割近く削れている。ここまでは順調といっていいだろう。
「ん?」
なんか違和感があるな。陣形か?いや、陣形は問題なさそうだ。極端にHPが減っているプレイヤーや突出してしまっているプレイヤーがるわけではない。ならばボスか?ここからだと距離があるからわかりずらいが、特に変わったことはないように見える。
「気のせいか…」
「どうしたんですか?」
Asunaが少し訝しむような声で尋ねてきた。どうやら独り言を聞かれてしまったらしい。変なことを言ったわけではないが、ちょっと恥ずかしい。
「いや、なんでもないよ」
ボスそばにいるディアベルたちが何かに慌てていたり、警戒している様子はないので、俺の勘違いなのだろう。
「そうですか。ならいいですけど…」
フードの下に不安げな表情をのぞかせる。全く、そんな心配しなくても、いざという時にはディアベルとかキリトとかエギルとかがいる。キバオウ?ああ、あのトゲトゲ頭ね。
「まあ、そんな心配すんなよ」
そう言って、Asunaの頭に手を置く。
「え?」
「あっ」
やべぇやっちまった。ナチュラルにお兄ちゃんスキル発動させちまった。急いで手をどける。
「わ、わりい。つい癖で」
「く、癖なんですか?」
Asunaが若干引いていた。しまった。これでは俺は年下の女の子の頭をポンポンするのが癖みないじゃないか。確かに、小町には時々やるが、それは妹だからだ。
「いや、俺には妹がいてな。癖っていうのは、妹にしてるみたいにって意味だ」
「そ、そういうことですか」
どうやら変な誤解を生まずに済んだようだ。この世界でリアルの話をするのは、正直いただけないが、今回ばかりは仕方がない。俺が変態認定されるのを防ぐためだったのだから。
「お二人さん、もう少し緊張感を持ってくれないか?」
先ほどの俺とAsunaのやり取りを見ていたのだろうキリトが、やや呆れた様子でこちらを見ていた。
「そんなの言われなくてもわかってるわ」
Asunaは素っ気なく返す。
「ああ、すまん」
そうだ。今はボス戦の最中なのだ。気を抜いていい場面ではない。そう思い直す。
「そろそろ、次が来るぜ」
キリトがそう言って、ボスの方を指差す。ボスの二段目のHPバーが9割以上削れていた。いよいよ、ボス攻略も終盤へ突入しようとしていた。
第11話 ボス攻略は幕を開ける。 終
ボス攻略はあと2話ほど続く予定です。
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