イリス ~罪火に朽ちる花と虹~   作:あんだるしあ(活動終了)

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「探したのよ、ずっと!」

 ルドガー一行は分史世界の「ジュード」たちと同じように排気口から要塞に入り、ローエンの案内で要塞内を進んだ。

 一番に選んだ目的地は捕虜を閉じ込める牢のあるスペースだ。一度「ミラ」が時歪の因子(タイムファクター)であったことから、今回も「ミラ」が時歪の因子かもしれないと予想したからだ。

 

 だが、牢まで行ってルドガーたちが見たものは、時歪の因子も何も関係ない、一つの死体だった。

 

「お嬢様……?」

 

 ローエンが呆然とした声を上げた。

 

 明滅する呪帯(と呼ぶのだとローエンに聞いた)の向こう側で、特に下半身を惨たらしく損ねて転がる死体は、ドロッセル・K・シャールのもので間違いなかった。今日もエルを迎えに行った時に、笑顔で「いってらっしゃい」と言ったあの若き女領主だった。

 

「ドロッセルが、どうして」

 

 エリーゼが言い切る前に、足音がした。二人分だ。ルドガーはとっさに双剣の柄に手をかけた。

 

 現れたのは、ルドガーにとっては意外であり、再会を焦がれた相手でもあった。

 

「ユリウス……」

「やっぱりお前だったか」

 

 再会できて嬉しい。嬉しいのに。ルドガーは心から喜べない。ユリウスもそれは同じなのだと表情から読み取れた。

 

 気まずい間が空いた時、ユリウスの後ろから、もう一人の足音の主が現れた。

 豊かな金蘭の髪に横顔を隠された、一人の女。

 

「ミラ、なの……?」

 

 金髪をなびかせ、女はふり返った。

 マゼンタの目に、今にも泣き出しておかしくない哀しみを湛えて。

 

 ジュードはミラの名を呼んだだけで、ミラに自ら近づこうとはしない。ミラのほうも、ジュードだけでなく、こちら側の誰に対しても歩み寄っては来ない。

 

 石化したかのような時間が永遠に続くのではと思った所で、

 

「ああ、ミラ! 探したのよ、ずっと!」

 

 ミュゼが一番に、文字通り飛んで行ってミラに抱きついた。

 

「すまない。心配をかけたようだな」

 

 ミラは、マゼンタの瞳に湛える哀しみはそのままに、ミュゼを抱き返した。

 

(ミュゼにとっては妹との再会なんだから、喜んで当然だ。けど、けどっ、すぐ近くに死体が転がってるんだぞ!? そんな状況でよく。精霊ってみんなこんな神経してるのか? ユリウスでさえためらったのに)

 

 ミュゼ以外の誰も声を上げない中で、一番に口火を切った勇者は、アルヴィンだった。

 

「ミラ。何があったんだよ」

 

 短い問いかけながら、ミラという彼女に何が起きてこの光景に至ったのかを、アルヴィンは的確に問うている。

 

「殺した」

 

 ミラはぽつりと口にした。

 

「『私』が殺したんだ。ドロッセルを。マクスウェルの使命を果たすためだけに」

 

 そこで急に悪寒が走った。ルドガーはその原因――斜め後ろに立っていたイリスをふり返った。

 

「イリス、どうし……」

 

 ふり返ったイリスは俯いていて、無言でラバースーツに包まれた腕を上げた。

 指差すのは、ミラ。

 

 ルドガーは再び、ミラを何気なくふり返った。

 

 ミラが立っていた位置だけ、床のプレートがじゅわりと溶けた。


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