イリス ~罪火に朽ちる花と虹~   作:あんだるしあ(活動終了)

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「貴方が終わらせるのかもしれない」

 ――掴んでいたコードの束が、脈打った。

 

「え? は? ええ!?」

「どうしたの!? 痛いの!?」

 

 ヒステリックな心配声に応える余裕もない。

 

 無機物であるはずのモノが、ルドガーの掌の中で、心臓があるようにドクンと跳ねた。

 ルドガーはチューブの束を掴んだ右手の手首を握りしめる。右手を剥がそうとしても離せない。

 ならば。

 

「だああああああああっっ!」

 

 チューブごと剥がすまでだ。

 

 両手でチューブの束を力いっぱい引っ張った。チューブの群れは呆気なく岩から離れた。そのためルドガーは足場を失い、再びコードの地面の上にべしゃっと落ちた。

 

 起き上がる。手の中からチューブの束はなくなっていた。

 

 イリスを見上げると、彼女に絡んだチューブやコードが、ミチミチと音を立てて蠢動していた。空洞内に張り巡らせられた触手がイリスに集まっているのだ。

 集まっては、消えていく――イリスの背中が呑んでいるのだ、莫大な量の触手を。

 

 やがてイリスは、体中の力を失したように逆しまに落ちてきた。

 

 ルドガーは慌ててイリスの落下地点に走り、落ちてきたイリスをキャッチした。

 

(軽い……いや、薄い? 俺とそう変わらない歳の女の人なのに、感触に現実味がないっつーか、ここにいるのにいないような気がする? あんなにたくさんのモノが入ってったのに)

 

 イリスが顔を上げた。銀髪が顔面に一筋二筋とかかる姿は幽鬼を思わせた。

 

「貴方、時計は?」

「え、持ってない、けど。時間はGHSで見ればいいし」

「――骸殻に目覚めていないのにイリスの封印を解いたの? 何て潜在値の高さ……」

 

 知らないフレーズの羅列にルドガーも何が何やら分からず首を傾げるしかできない。

 

 すると、女はルドガーをまっすぐ見据えた。翠の目。ルドガーと同じ色。ルドガーの××と同じ、色。

 

「貴方の名前は?」

「俺は……ルドガー。ルドガー・ウィル・クルスニク」

「ルドガー。貴方はイリスが触れても何ともないのね」

 

 女の指がルドガーの頬をなぞった。

 

「何度かクルスニクの子どもと会ったけど、貴方みたいな子は初めてよ。もしかしたら、貴方が終わらせるのかもしれない。クルスニク一族の宿業を」

 

 会ったばかりの異性がするには過剰なスキンシップ。それなのにルドガーは動けない。動けなかった。女の仕草があまりに自然で。

 

 頭上で再び岩が割れる音がして、大空洞全体が震えるまでは。

 

「! 危ない!」

 

 女が目の前にいたのが幸いした。ルドガーは彼女を自分の下に抱き込んで盾となろうとした。

 

「――しょうがないわね」

 

 直後、下にいた彼女から光が炸裂した。そこでルドガーの意識は途切れた。


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