ソロアート・オフライン   作:I love ?

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一年間も更新を怠って申し訳ありません。
リアルでの人間関係で色々あり、正直全く書ける心情ではありませんでした。
ですが一年経っても感想をくださった方々がいて、まだ読んでいただけているならとまた書き始めた次第です。ありがとうございます。
色々グダグダな作者ですが、また読んでいただければ嬉しいです。


彼がしたことはきっとどこかにつながっている。

その異端な姿を見た時、右手が勝手に動いたかのようにオブジェクト化していた剣をストレージに収納していた。

 

ーーダメだ、これ以上は。

 

なぜか、そう感じた。

これ以上見たら、俺はこの少女を恐怖の視線でしか見れなくなってしまう。そんな確信が心のどこかにあった。

粒子化されて消えた剣を探してか、辺りをキョロキョロと見回す小さい子が、自分にとっての恐怖対象になる。そんなことになるのは、ユイも俺も望んじゃいない。

 

ーー未知。

 

それに対する接し方は好奇心を以って積極的に関わっていくか、分からないことに恐怖して遠ざけていくか……。俺は後者だ。

分からないことが怖いのだ。

分からないから関わらず、分からないから遠ざけてきた。

こんな小さい子にすら恐怖の心を抱くなんて、我ながらなんて臆病な心を持っているのだろうかと思う。だか、それでも今は逃げることも遠ざけることもできない。それは、ユイを見つけて家に連れて帰った責任を放棄することだ。

ゆえに、その責任を果たすためにユイの保護者を見つけてやらねばならない。その方がお互いのためだろう。

興味を持った対象が消えたからか、小さな体を動かしてこちらへやってくる。腰に回された手は細く、力もそんなに感じない。とてもあの剣を持つには程遠い筋力値だ。

十歳程度の少女の笑顔をずっと疑うなんてことができるはずもなく、思考を放棄してユイの頭を撫でた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

なんやかんやで女性二人は年下の対応ができるのだと思い知った。まぁ片方スカートめくりに怒ってやんちゃボーイ説教してるけど。

膝の上に座るユイの頭を撫で続けながら、大人気ないことに小さな子供相手に腕相撲で無双している黒の剣士を見ると10人抜きしたところだった。ドヤ顔すんな。筋力値違いすぎるから。

 

「姉ちゃん強すぎー!」

 

「ふふん、私はあそこのお兄ちゃんより腕相撲強いんだよ?」

 

向けられる視線とは真反対に首を動かして追及から逃げる。お、俺はスピード型の剣士だから……。キリトに純粋なパワーで勝てそうなやつなんてヒースクリフくらいしかいないだろ。だから少年たちよ、マジかあの兄ちゃん弱えみたいな目で見ないで、マジで。俺が弱いんじゃなくてキリトが馬鹿力なだけだから。

現実世界で腕相撲やったらさすがに負けないと自分に言い訳していたが、女子と腕相撲したら手汗が気になって結局負けるな。こと腕相撲に関してはキリトに勝てないという結論でQEDだ。

失望したような子供たちの視線を遮るためではないのだろうけど、いつの間にかサーシャさんが向かいの椅子に座っていた。

 

「ありがとうございます。あんなに楽しそうな笑顔をした子供たちは久しぶりに見ました」

 

「……礼なら俺じゃなく、あの二人に言ってやってください。俺は何もしてないんで」

 

実際剣を出したくらいしかしてない。

 

「いいえ、今のはこのゲームを攻略してくれていることも含めてです。攻略組は有名ですし、さっき出した数々の剣は明らかに上層の物でした」

 

「……それこそ感謝される謂れはないですよ。サーシャさんや子供たちのためにやったわけではないですから」

 

「……自分の命を懸けてまで戦うことがどれだけ大変で難しく、怖いかは曲がりなりにも分かっています。私もこのゲームが始まってすぐの時はこのデスゲームをクリアしようとレベル上げしてましたから」

 

サーシャさんはどこか申し訳なさそうな顔で「結局この子たちと一緒にいることを選びましたけど」と続けた。前線を退いたことの負い目が今なお戦い続ける俺を目前として出てしまったのだろう。

凄いのはこの人の方だ。

ここにいるのは精神が成熟しきっていない子供たちが多い。そんな年齢の子供たちがデスゲームという極限環境に置かれ、どんな気持ちになったのか。恐怖に押しつぶされて精神を病んでしまったこともザラにあっただろう。

ーーでも、今この子達は笑っている。

自分のことだけを考えていては、やり通すという強い気持ちがなければ今ここでこうしていることはなかった。自分のしたことを後悔していない。きっとこの人は子供たちの笑顔を見ることで正しいことをしているのだと思えるのだ。

ーーならば、俺は?

答えは、まだ見つからなかった。

 

 

× × ×

 

 

存外、人と話すことが苦手な俺でもサーシャさんと話すことは苦ではなかった。子供達と暮らすことの楽しさや嬉しさを語ってくれるので相槌をうつだけでいい。……話してねぇな、これ。そんな俺に気を悪くした様子がないサーシャさんは本当に人間ができているんだろうと、まだ成人にすらなっていない未熟な精神ながらに思った。

年はそんなに違わないのに何が違うのだろうか。育ってきた環境だろうか。……ならしょうがないね! うちにはクズの英才教育が得意なクソ親父がいるからね!

しかし、聞いているだけというのも流石に感じが悪いと思い始めたので少し気になったことを質問してみる。

 

「……でも、こんなたくさんの子供達と暮らすための生活費ってどうしてるんですか? 子供の面倒を見ながら生活費を稼ぐなんてサーシャさん一人じゃとても不可能だと思うんですけど」

 

「もちろん私だけじゃ無理です。でも、ここを守りたいと思ってくれてる年長の子達がいて、周辺のフィールドで食費とかを稼いでくれてます」

 

もちろん絶対に安全なレベルですよとサーシャさんははにかみながら付け加えた。立派なものだと素直に感心する。サーシャさんは絶対に安全なレベルと言っているが、この世界に〝絶対安全〟なんて保証はない。ある日突然強力なモンスターが出現するかもしれないし、ちょっとしたミスで命を落とすかもしれない。少しでも命の危険があるのならば、好き好んでやりたくはないというのは俺だけではないはずだ。

 

「……へぇ、すごい立派ですね。さっき会った人はモンスターと戦ったら必ず死ぬみたいな口ぶりでしたけど」

 

「……今のはじまりの街はむしろそういう考えの人が大半だと思います。だから私たちの収入はこの街の平均より上なんですけど……」

 

そこで、この会話で始めてサーシャさんの顔が翳る。サーシャさんは口を噤んだが、俺はその次に続くはずだった言葉を簡単に予想することができた。

軍の税収。

きっとそれが影を落とした原因だろう。軍はきっとまだ攻略組に成り上がろうとしていて、その足がかりが資金を集めることーーつまり税の徴収。

であるならば、その遠因は少なからず俺にもある。七十四層で無理やりにでもあの攻略パーティーを止めていたらきっとここまでにはならなかっただろう。

もちろん自分たちと相手の力を見極められなかった軍に一番大きな責任があることに疑いはない。しかし俺が下した選択で他人に迷惑がかかったのも、また事実なのだ。

……そして俺は、それを望まない。

 

「サーシャさん、この装備稼ぎに出てる人にあげてください」

 

たまたま持っていた低階層の武器や防具。エギルの店で売ろうかと思っていたが、はした金を得るよりも明らかに必要としている人にあげる方が有用だろう。

 

「え、でもいいんですか? これだってエイトさんが命を懸けて手に入れたものじゃ……」

 

「あれですよ、フリーマーケットと同じです。俺にはいらないものでも、必要としている人がいる。もしこの装備がサーシャさん達に必要なら遠慮せずもらってください」

 

サーシャさんは微笑を浮かべてありがとうございますと言った。そんな綺麗な理由じゃない。自分がしたことで他人に迷惑をかけるのがぼっちの信条に反するだけだ。

だから、ここの子であろう少年が飛び込んできて言った内容を聞いた俺はすぐに走り始めた。




こっちはいつも通りにいきます。
SAO ifのコハルかわえぇんじゃあ〜。早く五層以上実装されて欲しいですね!
パーティーの組み方よくわからんのでソロで頑張りまーす笑

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