モノクロシンドローム   作:AK74

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冬は手を繋いで

あっと言う間に冬である。

 

とは言っても中間テストが終わって数日しか経ってないので秋の終わりとも言えるのだが。

 

さて、どうしたものか。

 

『デート一回ね!』

 

…本当にどうしたものか。

デートって言ったってどうすりゃいいんだ一体。

 

正直に言おう。

そんなことしたこと無いから今現在本当に困り果てている。

 

…とりあえずいつもの探索のノリで大丈夫なのか?

 

「…やれやれ」

 

ベッドに転がりながらため息を吐く。

 

明日の朝、11時に駅前集合。

 

…知らん。

いつものノリで行ってやる。

どうせ罰ゲームなんだから俺の奢りは確定だ。

ハルヒより遅れて集合場所に着く心配もない。

そうと決まれば寝るとしよう。

…まぁ特に変な下準備もいらんだろう。

 

…いらないよな?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…何故俺はこんなところにいるのだろうか。

翌日、集合時間より明らかに早い時間に駅前に着いた俺は、何故かそこら辺の店でアクセサリを物色していた。

 

 

…あれだ、別にハルヒへのプレゼントとかそんなんじゃないんだ。

ただ見てるだけ見てるだけ、何か良いやつ無いかなぁって…

 

「おや、こちらの髪飾りをお求めですか?」

 

そうそう、この桜の花を縁取ったやつか綺麗だなぁなんて。

まぁ俺はこんなのつけても似合わないんだけどな。

 

「えっと…値段ってどれくらいしますか?」

「こちらはですね…──」

 

 

…買っちまった。

 

ボーっとしながら店を出る。

 

え、何?

何で俺はこんな完璧なプレゼント用に飾り付けしてもらってるんだ?

 

…ま、いっか。

買っちまったものはしょうがない。

…ハルヒにあげるとするか。

 

…本当に何してんだろ、俺。

 

「あれ?珍しいわね、あんたが先に来るなんて」

 

咄嗟にプレゼントの包みをポケットに隠してしまった。

 

「そ、そうか?というか早いんだなハルヒも」

「早いって…11時5分前よ?」

 

…なんと。

ということは1時間近く店の中で物色していたことになるのか。

 

「ん?どうかしたの?難しそうな顔して」

「いや、何でもない。で、今日はどこ行くんだ?」

「んー、映画を見に行きましょ!面白そうなのがあるのよ」

 

おし、じゃあ映画館に行くか。

というか寒くて手が痛い。

早く暖まりたい。

 

「もう冬になるのよねぇ…あんたとあったのがつい最近のことに思えるわ」

「まぁ半年しか経ってないんだけどな」

「…違うわ、もっと前のこと」

 

…あぁ、子供のころか。

 

「覚えてるのか?」

 

「家のアルバムを漁ったりしてる内に少しずつ、ね」

「…まぁ何にしろ、まだまだ時間はたくさんあるぞ。少なくとも今日は後半日も残ってる」

「そうね!じゃあ行きましょっか!」

 

そう言うとハルヒは俺の手を掴んで歩き出す。

 

…っておい、ハルヒ?

 

「ほらキョン、早く!」

「やれやれ…」

 

…まぁ、いいか。

 

 

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「ちなみに何の映画を見るんだ?」

「これ、前評判が物凄く…」

 

良いのか?

 

「悪いのよ!」

「…何じゃそりゃ」

「ほら、見てみなさいよこの雑誌、レビューで好き放題言われてるわよ」

 

…本当にそんなんで良いのか?

 

「うん、ほら、早く入りましょ!」

 

兎にも角にも、俺は無愛想な店員からチケットを購入し、上映場へ入った…のだが

 

「…ほとんど貸切みたいなもんだなこりゃ」

「キョン!真ん中空いてるわよ!」

 

流石に雑誌等でボロクソ言われていると寄りつく客も少なくなるのか、中には2、3人程いるだけだった。

…本当に大丈夫なのかこの映画…

 

 

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結論から言おう。

ちっとも大丈夫じゃなかった。

 

内容は…内容?

説明しようとしても言葉が出てこないような訳の分からない内容だった。

 

「あー面白かった!」

「………」

 

ハルヒに至ってはそのぶっ飛んだ映画の構成がツボにはまったのか、はたまた単純に気に入ったのかは知らんが一部始終笑い転げていた。

ほかの客に迷惑だからと注意しようとしてあたりを見回すと、座っていた筈の客はみんな横になって眠りこけていた。

何というか…そこまでできるこの映画になんとなく尊敬の念を覚えたね。

 

「…まぁハルヒが楽しかったならいいが…」 「あれ?キョンは面白くなかった?」

 

…正直に言えばそうなんだがな…

 

「いや、あれはあれでありだと思ったぞ」

「でしょ!?あんな雑誌で見るのをやめる人って勿体ないわよね!」

 

…勿体ない、か。

 

「それにしてもお腹空いたわね…」

「お前散々ポップコーン食ったじゃないか」

「あれは別腹よ!というわけでさっさとお昼でも食べに行きましょ!」

 

そういや昼飯はまだだったな。

しかし、何というか…今日のハルヒはいつもの数倍アグレッシブに見える。

…何かあったのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こんな店で良かったのか?」

「うん、この上まともな店に入ったらキョンの財布も危ないでしょ?」

「スマン、正直助かる」

 

俺とハルヒはすぐ近くにあったファミレスに入ることにした。

既に従来の昼飯の時間から少し遅れていたため、店内はそう混んでいなかった。

 

「あたしは…ミートソースとドリアとサラダと…」

「…どれだけ食う気だ」

「だって朝ご飯食べるの忘れたんだもん。あとパフェ下さい」

「はい、かしこまりましたぁ。そちらの方は何にいたしましょうか?」

「えっと…このピザをひとつください」

「はい、では用意ができるまで少々お待ちください」

 

…なんだかんだで財布に優しくないと思えるのは俺の気のせいかね?

 

「午後は何しようかしらね…あ、また服とか色々見に行きたいんだけど良いかしら?」

「あぁ、構わんぞ」

「あとあの店も行きたいし…」

 

…まだどこか行くのか?

 

「え?駄目かしら?」

「いや、駄目ってわけじゃないんだが…無理して楽しもうとしてないか?」

「そうかしら…」

 

…いかん、盛り下げてしまったか。

 

「あ、あのー…注文の品を置いても良いでしょうか?」

 

気がつけばいつからそこにいたのかは知らんが困り顔のウェイトレスが立ち尽くしていた。

 

「あ、はい。大丈夫です…ほら、ハルヒ」

「…ん、ありがと」

「その…すまん。折角ハルヒが楽しんでたのに」

「別にいいわよ。あたしもなんか焦ってた」

「焦ってた?」

「あー…気にしないで。それより冷めないうちに食べましょ」

 

…それもそうだな。

 

「あたしね、ずっと色んな人とキョンの影を重ねてた気がするわ」

「なんだそりゃ」

「んー…うまく説明できないんだけど…」

 

手に持ってたフォークを置いてハルヒが話す。

 

「小さいときに一緒にいて、一緒にいたからキョンのことを覚えてて、覚えてたからそれを基準に色んな人を見ちゃうっていうのかな…キョンはそういうのある?」

「俺は無かったな…というか人を見るのも億劫だったしな」

「今もそうじゃない」

 

アハハ、とハルヒが笑う。

 

「ね、服買いに行くの止めて散歩しない?」

「いいぞ。時間はたくさんあるんだしな」

 

そのままのんびり食事をしながらくだらない談笑をする。

店を出たときにはもう3時を回っていた。

 

「ちょっとゆっくりしすぎたかしら」

「ま、いいんじゃないか?」

「そうね、よし!あっち歩いてみましょ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは…最初の探索の時の…」

 

あの日、桜並木だった場所は今やもうただの枯れ木が並ぶ淋しい通りになっていた。

 

「もう一度歩きたかったのよここ」

「ものの見事に何もないな…ってか寒くなったな」

 

言うが早いかハルヒが俺の手を掴む。

 

「これで少しは暖かくなるでしょ?また風邪ひいたら大変だしね」

 

…もう何でもいいよ。

 

「ねぇ、キョンは小さい時にあたしとあった最後の日のこと覚えてる?」

「いや、だからハルヒと一緒にいたことを覚えてないって…」

「そっか。ま、あたしも覚えてないんだけどね」

 

というかいきなりどうしたんだ?

 

「別に。何となく気になっただけ。たまには昔のこと振り返ったっていいじゃない」

「それもそうだな」

「…楽しい?」

 

え?

 

「あんた高校最初に会ったときに言ってたじゃない。毎日がループばっかで面白く無いって」

「…面白くも楽しくもなかったらこんな寒空の下お前に会いになんかくるわけないだろ」

「良かった、もしかしたら勝手に引っ張り回したの迷惑だったのかなって思ってたの」

 

…こいつが今日1日変だった理由はこれか。

 

「お前はどうなんだ、ハルヒ」

「あたし?」

 

そう言うと辺りに花が咲くんじゃないかってくらいの笑顔でハルヒが答える。

 

「楽しいに決まってるじゃない!」

 

あの春の日歩いた道で、あの夏の日のようにもう1度2人で笑う。 秋の日にハルヒが気遣ってカーディガンをかけてくれたように、今手を繋いで暖めてくれてる。

 

多分こんな感じでこれからずっと過ごすんだなって、何となくそう思った。

 

と、ここでポケットのプレゼントを思い出す。

…今はいいか。

桜が咲いた時に渡そう。

 

…気に入ってもらえると良いが。

 

「それにしてもなかなか雪降らないわね」

「もうそろそろじゃないか?のんびり待とうぜ」

「…うん!」

 

のわっ、腕を強く振るな!

痛い痛い!

 

「アハハ!ごめんごめん!」

 

何か言おうとした矢先にハルヒが俺の口を塞ぐ。

 

「お詫び!」

 

あぁ、そう。

 

心から楽しそうに通りを歩くハルヒを見ながら、やれやれ、とため息を吐いた。

空も青くしてくれたのもきっとハルヒで、というか世界を色付けてくれたのがハルヒという大切な存在で。

あー…いいや。

これ以上考えるのが面倒くさい。

 

今が楽しい。

 

それだけでいいじゃないか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…だけど、ハルヒが今日一日変だった理由は全然別のものだった。

多分早い内から気がついてほしくて、それでも言えなくて。

あいつらしいといえばあいつらしいと言うか…

 

話はデートの日から2日飛んだ、休み明けの月曜日のことになる。

朝のホームルームが始まるや否や、岡部がこう言ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー…突然だが、涼宮が転校することになった」

 

 


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