ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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※2015/12/17 主人公ステータスの下方修正に伴い、微調整しました。


第4話『魔王復活』※調整

「いらっしゃいませー!『双頭のドラゴン亭』へようこそー!」

 

『いらっしゃいませー!』

 

 今日も今日とて盛況、盛況♪

 

 この世界での暮らしも8年目に突入し、我が『双頭のドラゴン亭』も開店8周年――俺も今年で28歳、いい歳になった。

 

 天下泰平、事も無し。俺の宿は連日大賑わいで、元々莫大だった財産(ゴールド)は増える一方。変わった事と言えば、ウチで働いていた数人が料理の腕を上げ、暖簾分けの形で独立して行きスタッフが多少入れ替わった事ぐらいか。

 

 他所でウチの店を真似た宿やレストランが出来たこともあったが、それは俺の関知するところじゃない。別に真似られても気にならないし、噂を耳にしてもいつの間にか話が聞こえなくなるのが大抵なので、そういうのは放置している。

 

 そうして他所を気にせず、ウチはウチでやりたい様にやってお客から長く好評を頂いているのだから、実に有り難いことだ。

 

「こんにちはー!エイトさん!」

 

「おお、レオナ(・・・)。いらっしゃい」

 

 昼時のピークが過ぎた丁度のタイミングで、レオナ姫が来店した。彼女は8年前の誕生パーティー以降、3日に1度はウチに食事に来る様になり、すっかり常連客となった。そして何年か通ったある日、応対した時にこう言われた。

 

『姫じゃなくてレオナって呼んでよね!あと敬語もやめて。堅苦しくって折角のお料理が美味しくないわ!』

 

 今にして思えば、実にレオナらしい言葉だったと思う。以来、俺は『レオナ』と呼び捨て、レオナも俺を“さん”付けはするものの敬語なし、平民と王族とは思えないフランクな間柄となってしまった。更にその関係にいつの間にか慣れて当たり前になってしまったのが今更ながらに驚きだ。

 

「今日はマリンが付き添いか」

 

「ええ。こんにちは、エイトさん」

 

 そう挨拶してくるのは、長い黒髪を後ろに纏めた女性賢者のマリン。俺より確か7つ若い彼女だが、パプニカ王国最強の3人の賢者『パプニカ三賢者』の1人という肩書きを持っている。マリンと他2人の三賢者、そしてバダック老人を加えた計4人が持ち回りでレオナの護衛としてウチに来るので、彼女らも立派な常連客だ。

 

「君も大変だねぇ、レオナの我儘に付き合わされて」

 

「あ~らご挨拶ね!1番常連のお客に向かって!」

 

「うふふっ、そうですね。でも、その姫様の我儘のおかげでここのお料理が食べられますから、寧ろ役得ですわ♪」

 

「ちょっと~マリン~?」

 

 俺の言葉を肯定するマリンを、レオナがジト目で睨む。こういう臣下や国民とも仲良く軽口を交わせる寛容さと素直さがレオナの魅力だ。それでいて締めるところはきちんと締める王族のカリスマ性も持っている。パプニカ王国は安泰だな。

 

「あっはっはっ!御愛好ありがとうございますだな。ありがとうついでに、2人に新作デザートの試食でもお願いしようか」

 

「「やったあ!」」

 

 ぱぁっと輝く笑顔で手を取り合うレオナとマリン。やはり、何処の世界も女性はスイーツに目がないらしい。

 

「さて、お客様。ご注文はお決まりですか?」

 

「ん~、そうね。前はシーフードナポリタンだったのよねぇ。だったら今日はお肉かしら?よし!チキンソテーのセットにするわ!」

 

「私はシーフードドリアとフレッシュサラダをお願いします」

 

「はい、畏まりました」

 

 2人のオーダーを聞き、俺はキッチンに戻り調理に取り掛かる。他のオーダーもまだ少し残っているが、全部合わせても10分未満で仕上げないとな。

 

「さぁてと……むっ!?」

 

 調理に取り掛かろうとした瞬間、全身に静電気が走る様な不快な感覚に襲われた。なんだ、この異様な空気は?明らかに異常、反射的に身構えてしまう嫌な気配だ。

 

「っ!」

 

 どうにも気になり、俺は調理の手を止めて外へ飛び出す。

 

「…………」

 

 辺りを見渡してみても、特に異常はない。だが、確かに青空が広がっているはずなのに俺の目には暗雲が立ち込め、空気は重く淀んでいる様に見えてしまう。

 

「どうしたの?エイトさん!」

 

 飛び出した俺を見たのか、レオナがマリンを伴って追ってきた。その事に、俺は不思議な危機感を覚える。

 

「2人とも、宿の中に入ってろ」

 

「「え?」」

 

「空気がおかしい……何か嫌な感じがする」

 

 俺がそう言った、次の瞬間――異変は起きた。

 

『うわあああああッッ!!??』『きゃあああああッッ!!??』

 

 突如として響き渡る悲鳴、爆音――そして。

 

『『『カカカカーーッ!!』』』

 

 甲高く耳障りな声を上げる骸骨の化け物共が、地面から這い出してきた。

 

「なっ、モンスターが町中に……!?」

 

「ま、まさか、これは……!?」

 

 俺と同じく骸骨のモンスターを見たレオナの呟く声が聞こえた。が、その『まさか』の内容を確かめている暇はない。目の前で、町民が骸骨に襲われようとしている――助けなければ!

 

「やめろぉーーーー!!」

 

 反射的に全力で駆け出す。感覚が急速に研ぎ澄まされ、時間感覚が凝縮し、まるで自分以外がスローモーションになったかのような世界が見えた。一瞬で骸骨に肉薄、力加減など考えず勢いをそのまま全て乗せた跳び蹴りを繰り出す。

 

 そして足裏に骸骨が触れた瞬間――骸骨は粉々に粉砕した。

 

「あ……え……?」

 

 襲われる寸前だった人が、放心した様に俺を見てくる。

 

「ここは危ない。俺の宿の中に入ってるんだ!それと中にいる他の人達に、外に出ない様に伝えてくれ!急ぐんだ!!」

 

「は、はいっ!」

 

 腰が抜けかけていたのか、その人はモタつきながら立ち上がり、俺の宿の中に駆け込んでいった。あの人とウチのお客はこれで一先ず良いだろう。問題は他の場所で現在進行形で危機に曝されている町の人々だ。モンスターがこれだけのはずがない。

 

 骸骨に蹴り砕いた時、足には極々微細な抵抗しか感じなかった。モンスターが雑魚だったのか、今の俺の攻撃力が高いのかは判断が難しいところだが、今はどうでもいい。

 

 今俺がやるべきことは、この戦闘力を駆使して1人でも多く町の人々を救う事――。

 

「マリン!!」

 

「っは、はい!?」

 

「レオナを城へ!それと大至急、城から救援部隊を引っ張って来てくれ!」

 

「あ、あの……!?」

 

「頼んだぞ!!」

 

 確認もそこそこに、俺は再びあらん限りの力で町に向かって飛び出した。

 

 悲鳴と破壊音、火事の黒煙にモンスターの声がそこかしこから聞こえてくる。一々確認する手間も惜しい。とにかく目に付いたモンスターから虱潰しに叩き、怪我人も片っ端から治療していくしかない。

 

「くそッ!平和はもう終わりかよ!!」

 

 思わず毒づいてしまう。さっきの骸骨は魔王の魔力が無ければ存在できないタイプのモンスター……それが現れたという事はつまり、15年前に勇者に倒されたという『魔王ハドラー』が復活でもしたか、或いは別の魔王が出現したという事になる。

 

「……くッ!」

 

 美しい港町のあちこちから黒煙が上がり、あちこちから悲鳴が聞こえてくる……。腹の底が沸々と煮え滾り、怒りが込み上げてくる……。

 

 俺の第2の故郷となったパプニカの町を、その穏やかな平和を壊す奴が許せない……!

 

「許さねぇぞ……!」

 

 

 そして俺は怒りと共に込み上げてくる力を全て、町を襲うモンスター共にぶつけた。人々を襲い、建物を破壊する骸骨・ミイラ・腐った死体などのアンデットモンスターの群れを、見つけては一撃で粉砕した。途中見つけた怪我人には、立ち止まる時間が惜しかったので『ベホマ』で対応した。更に何人か、死者も出てしまっていた……。すぐさま『ザオリク』で蘇生させたので一応事無きを得たが、そうした死者を、その死者を想い涙を流す人々を見る度、俺の怒りは更に高まった。

 

「魔王……のこのこ出てきた事を後悔させてやるぜ……!」

 

 魔王への怒りと憎しみを腹に抱えたまま、俺はパプニカの町と人々を救う為に奔走し続けた。

 

 やがて町を襲うモンスターを殆ど葬った頃に……と言っても恐らく1時間も経っていないと思うが……城の方からマリンが兵士を引き連れてやってきた――。

 

「エイトさん!!」

 

「マリンか、ご苦労さん」

 

 片付けの途中で持ち上げていた瓦礫を脇の邪魔にならない所に放り捨て、駆け寄ってきたマリンに応える。

 

「モンスターは粗方片付けた。死傷者も見つけた傍から治療した。君達には、後始末を頼みたい」

 

「ええ、分かっています!皆っ!聞いての通りよ!小隊毎に分かれてモンスターの残党を退治し、負傷者を救助しなさい!」

 

「「「はッ!!」」」

 

 マリンの号令で兵士達が4、5人のグループに分かれて散らばって行った。

 

「俺達も行こう」

 

「ええ」

 

 俺とマリンは頷き合い、手分けしてモンスターの残党と負傷者を探しに走った。

 

 

 

 そうしてマリンやパプニカの兵士達と協力して町中を走り回り、崩れた建物の瓦礫を腕力に任せて取り去り、僅かに残っていたモンスターを始末し、負傷者の治療と死者の蘇生に没頭したおかげで、夕方には町の様子も一先ず落ち着いた。

 

 美しかったパプニカの城下町は、たった数時間でボロボロになってしまった。崩れかけた建物、荒らされた道、焼け焦げた煙の臭い、人々の悲しみに満ち疲れ切った顔……赤い夕焼けと相まって、悲しくて心にぽっかり穴が空いた様な気分になってしまう、悲惨な光景だ。

 

 死者がいない事がせめてもの救いだろう。いなかった訳ではないが、俺が蘇生させたので結果的に0という事になる。『ザオリク』が使えて本当に良かった。

 

 

 

 そして俺は……王宮に呼び出されてしまった。

 

 

 

「エイトよ、此度の魔物の襲撃に際したそなたの働き、誠に天晴。大儀であった」

 

「恐れ入ります」

 

 謁見の間にて、王座に座るパプニカ王の前で跪き頭を下げる。周囲にはレオナとバダック老人、そしてマリン達『パプニカ三賢者』のみ……明らかに人払いをした状態だ。

 

「さて……本来であればそなたの働きに対し、褒美のひとつも与えて報いたいところなのだが……その前にどうしても尋ねなければならぬ事がある」

 

「……はい」

 

 何を聞かれるか、おおよその見当は付く。

 

「マリンからの報告によれば、そなたは呪文を使い負傷した民を瞬時に治療し、更に事切れた民をも蘇らせたとの事だが……これは誠か?」

 

 やはりな。この世界は呪文の習得難易度が、ゲームとは比較にならないほど高い事になっている。『ベホマ』『ザオラル』ですら修得困難な高等呪文とされ、『ザオリク』など書物に名が残るのみの伝説級呪文……それをいち宿屋の店主が使える事が知られれば、事実確認の為に呼び出しのひとつやふたつ来るのは必然と言っていい。

 

 面倒なのは好きじゃないが、誤魔化しても意味はないだろう。そもそも何も後ろめたい事などないのだから、堂々としていればいいのだ。

 

「誠にございます」

 

「ふむ……では、その際に使った呪文は『ベホマ』と『ザオリク』か」

 

「はい」

 

「むぅ……やはりそうか」

 

 答えた途端、パプニカ王は難しい顔で唸る。

 

「兵達からの報告にあった、町民達の証言からそうではないかと予想はしていたが……『ベホマ』のみならず、よもや伝説に名を残すのみであったはずの完全蘇生呪文『ザオリク』を使える者が現代に、それも我が国にいたとは……」

 

 パプニカ王はそう言うと、再び俺を見つめてくる。

 

「エイトよ、察するにそなたが扱えるのは『ベホマ』『ザオリク』のみに留まらぬのではないか?」

 

「……はい」

 

 一瞬迷ったが、ここは正直に話した方が良いだろう。流石に転生云々は言わないが、下手に隠すと余計な面倒を生みそうだ。

 

「詳しくは一身上の都合により申し上げられませんが……私は少々特殊な体質というか、能力を備えております。膨大な魔法力と身体能力、そしてありとあらゆる呪文と特殊な技をこの身に宿しているのです。『ベホマ』も『ザオリク』も、使える呪文の内の1つに過ぎません」

 

「なんと……誠か!?」

 

「はい。お疑いであれば、何かお望みの呪文を実演致しますが?」

 

「ああいや、その必要はない。そなたの言葉を疑っておる訳ではないのだ。しかし……」

 

 パプニカ王は一瞬言葉を切るが、すぐに意を決した表情を浮かべて俺を見てくる。

 

「それだけの力がありながら、そなたは何故、宿屋の主という職を選んだのだ?その力を示せば、我がパプニカを初め世界中のどの国でも身を立てられたであろうに」

 

 なんだ、そんな事か。

 

「私は基本、争い事は嫌いなのです。王宮仕えも性に合いません。日々平穏に、店を訪れるお客に料理を作って暮らしている方が私は良いのです」

 

 とは言え……そんな平和な暮らしを理不尽に踏み躙られて怒らないほどお人好しでもない。

 

「ですが、平穏は破られました。奪われた平穏な日々を取り戻す為ならば、戦う事は厭いません」

 

「っ!戦ってくれると申すか?魔王の軍勢と……!」

 

「それが私自身の為でもあります。平和が訪れるその日まで、持てる力の限り戦いたいと思います」

 

「おおっ!なんと頼もしい言葉!!」

 

 パプニカ王を初め、レオナ姫やバダック老人や三賢者達も、俺の言葉を聞いて安堵と期待が入り混じった笑みを浮かべるが、正直あまり期待されても困る……。俺はあくまで“俺自身の”平穏を取り戻す為に全力で戦うつもりなのだから。

 

 敢えて口に出しはしないが、俺は俺の親しい人々が平和に笑っていてくれれば、他の事は正直どうでもいい。例え世界の何処かで見知らぬ誰かがモンスターに襲われる等して命を落としたとしても、その事実を知らなければ俺にとっては“元から存在しなかった”のと同じ事だ。

 

 俺は“勇者”じゃない。世界の為、世界中の人々の為……なんていう実感の持てない理由ではやる気が湧いてこない。だから俺は、あくまで俺自身の望みの為に戦わせてもらう。

 

 しかし、前に勇者が魔王を倒して勝ち取った平和は15年で終いか……長いのか、短いのか。どちらにせよ、丁度その年に生まれた子供が一人前の歳に成長する時期だと考えると、タイミングがえげつないな。

 

「エイトよ、そなたの働きに期待しておるぞ!」

 

「はっ!」

 

 かくして俺も、戦いに身を投じる事となった。8年間料理ばかりだったから、少し鈍っているかも知れないな。軽く慣らしておくか。

 

 

 

 


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