ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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 ご指摘頂いた部分を、少々修正してみました。

※2015/12/17 主人公ステータスの下方修正に伴い、微調整しました。


第2話『商売開始』※調整

 一夜明けて、ドラクエ世界転生2日目――今日も朝から良い天気、旅立ちには絶好の日和だ。

 

「さぁて、先ずは買い物だな」

 

 泊まった宿屋を出た俺は、首をコキコキ鳴らしながら考える。

 

 旅に必要な物は……着替え、食料、水くらいか。食料は出来合いの弁当にするか、食材にするか迷うところだな。どっちもカバンに入れておけば、いつまでも鮮度は保たれる。水だって、その気になれば呪文で賄える。武器も防具も最強クラスが揃っているから、買う必要はない。

 

 必要な物資はそう多くないな。ゴールドも有り余っている訳だし、何か目に留まった物があれば買ってみよう。

 

 大まかに買う物を決め、俺は朝の町に繰り出した。

 

 朝だというのに町は結構賑わっていた。俺と同じく通りを歩く通行人が多い。それに伴ってか、既に看板を出して、開店している店が何件も見られる。道具屋や武器屋・防具屋、それにレストランも何件か……俺の目的の品を扱う店も開いていたので、目に付いた店を何件か巡って、必要な物と必要かどうか分からないが目に付いた物を買い込んでいった。

 

 これだけ買い込めば、一ヶ月は持つだろう。

 

「よし、行くか」

 

 全ての荷物をカバンに収め、俺はカールの城下町を出た。

 

 

 

「この辺でいいか」

 

 町から離れた森の中で、1度荷物を下ろす。そして、地面に五芒星の魔法陣を描いていく。

 

「こんなもんか」

 

 魔法陣が描けたところで、上着を脱いで上半身裸になり、陣の上に立つ。

 

「ロキ・パルロ・エリワ・ノクスルツ……」

 

 目を瞑り、自然体で立ちながら図書館で呪文について調べていた時に覚えておいた『契約の言霊』を述べていく。すると、全身が熱い何かに覆われるような感覚を覚える。その熱は数秒ですぐに収まり、俺の中に新たな“呪文”が刻まれた。

 

「ふぅ、無事に契約できたな。よかったよかった」

 

 脱いでいた上着を着直す。初めての呪文の契約だったが、成功して良かった。

 

 この世界の呪文は、契約の儀式を行い、然るべき能力を身に付けることで習得する。一々魔方陣を描いて言霊を唱えなきゃならないので、中々に面倒だ。契約が出来るかどうかは個人の適性による。

 

 契約したのは『トベルーラ』という空を飛べる様になる『ルーラ』の派生呪文の1つ。この世界の呪文について調べていた時に見つけ、「これは真っ先に覚えるしかねえ!」と思っていた。

 

 契約を済ませた今、俺は空を自由に飛び回る事が出来る……はずだ。早速、試してみよう。

 

「『トベルーラ』」

 

 呪文を唱えると、俺の身体が宙に浮き上がる。

 

「おっ、とと……!」

 

 バランスを取るのが結構難しい。身体がフラつく……無重力状態の宇宙飛行士がこんな感じなんだろうか?

 

「む……ほっ……」

 

 段々、コツが掴めてきた。抵抗のない水の中にいる様なイメージをすると大分安定する。

 

 浮遊が安定したところで、次は飛行――これもバランスが難しかったが、数分フラフラ飛び回っているとコツを掴み、スイスイ安定飛行出来るようになった。これも、レベル99の『賢さ』のおかげだろう。便利な身体だ。

 

 10分程練習して、『トベルーラ』はほぼマスターした。それに伴って、この呪文の事も把握した。浮き上がるだけなら魔法力、MPの消費は極微量……飛行でも微量、高速飛行でも殆ど気にならない程度と燃費が良い。更に俺には『勇気スキル』の効果でMP消費は通常の半分で済む。元々微量の上に更に半分、これで今の俺のMP量と合わされば、何日でも余裕で飛び続けられる。これで世界一周もかなりの時間短縮が出来そうだ。

 

 住む所も、きっとすぐに見つけられるだろう。港町とかに住んでみたいな。いつでも趣味の1つである釣りが出来る海沿いに暮らすのが密かな念願だった。早速、世界一周『快速』空の旅と洒落込むとしよう。

 

 俺は荷物を抱え直し、空へと飛び上がった。

 

 

 

 それから俺は、空から陸を見下ろし、村や町を見つけては降りて何日か滞在し見物するという行程を繰り返した。

 

 初めにいた世界の最大の大陸『ギルドメイン大陸』を端まで周り、その次に北の大陸『マルノーラ』、そこから南下してギルドメイン大陸を跨ぎ『ホルキア大陸』、海を挟んで西へ飛んで『ラインリバー大陸』……と、俺は約半年を掛けて世界の国々、町々、村々を巡った。余程巧妙に隠蔽された隠れ里でもない限り、もう世界に俺が行っていない町や村はないと言ってもいい。

 

 機械文明が殆ど発達していない、人間が自然により近い生活を送るこの世界は、俺がいた日本より遥かに前時代的と言える。だが、俺には逆に新鮮に思えた。どの町や村も、人が活き活きしている風に見えた。この世界に比べると、俺がいた現代日本はやや無機質な感じだったと思える。人が文明の発達に伴い失くしたもの、捨ててしまったものが、この世界にはある様な……そんな気がする。

 

 総じて言えるのは、この世界は“良い世界”だという事――国同士の諍いも無く、魔王も既に倒れ、モンスターも滅多に襲って来ず、自然も豊かで平和な世界、更にチート能力に豊富な資金――正に『至れり尽くせり』というヤツだ。

 

 そうして世界を一回りし終え、何処に居を構えるかを考えた結果――俺は『ホルキア大陸』の『パプニカ王国』の城下町に決めた。景色も良く、気候も温暖、港があり、交易も盛んで、初めに訪れた時にすぐ町の雰囲気が気に入った。

 

 そして、俺は改めてパプニカの城下町を訪れ、住む家を探したところ、ある一軒の空き家に行きついた。

 

 

「へー、結構広いなぁ!」

 

 不動産屋の様な商売をしている人に紹介してもらったその物件は、元は富豪の邸宅だったという2階建ての結構大きな煉瓦造りの屋敷、庭付き、井戸付き――きちんと管理されていたと見えて、建物に傷みはなく中も綺麗なものだ。メインストリートから少し離れているが、気にならない程度で立地も悪くない。これなら少し手を加えれば、立派な店が出来る。

 

「如何ですか?こちらの物件は」

 

「いいですね、気に入りました。お幾らですか?」

 

「おお、お買い上げ頂けますか!ありがとうございます。こちらの物件、ご奉仕価格5万ゴールドになります」

 

「買います」

 

 家屋の相場は分からないが、とにかくこの家が気に入ったので即決。ゴールドを支払い、俺は夢のマイホームを手に入れた。そして、これからここは俺の店にもなる。

 

 これからどんな商売をするかをじっくり考えて、大工を呼んで内装を整えて……先の展望を想像するとウキウキしてくる。これから忙しくなるが、それすらも楽しみで心が躍る。

 

「よしっ!手始めに、自分の生活家具でも揃えに行くか!」

 

 俺は誰にともなく宣言し、意気揚々と自宅となった屋敷を出て『ルーラ』で買い物へ飛んだ。

 

 

 

 それから俺は、商売を始める準備に取り掛かった。

 

 先ず、何の商売を始めるかを決めるところから――色々と考えたが、俺は『宿屋』と『レストラン』を始めることに決めた。この2つなら両立が可能だし、屋敷の広さと今の俺の能力が活かせると考えた。

 

 この世界、というかドラクエ世界の宿屋は素泊まりが基本――食事、風呂等のサービスは別料金だ。つまり、寝泊り出来る部屋さえ用意できれば開業可能なのだ。 各地で泊まった宿屋を思い返してみても、恐らく日本で民宿を営むより遥かに簡単だろう。俺が買った屋敷なら広さも部屋数も充分、ロケーションもバッチリで2階からは海が見えて眺めが良い。宿屋を開くにはもってこいだ。

 

 そして宿屋に併設して1階でレストランを開く。宿泊客だけでなく食事だけのお客も呼び込む作戦だ。レストランと言っても高級料理を出すような気張ったものではなく、下町の洋食屋をイメージしている。この世界の食文化はパンを主食とした西洋風の料理が基本だから、洋食メニューもきっと受け入れられるはずだ。更に言っては悪いが、平均的な味のレベルは現代日本に劣る。これは調理法や食材の保存法が洗練されていない為だろう。だが、俺には数多の呪文や特技がある。肉や魚の冷蔵・冷凍も容易だし、キンキンに冷えた飲み物も提供できる。転生する前は洋食レストランのキッチンで約2年アルバイトをしていたから、料理の腕だってそれなりに自信がある。

 

 宿屋とレストラン、2つの相乗効果を上手く出せれば、結構繁盛させられるかも知れない。例え繁盛しなくても、それはそれでのんびりと楽しんでやれればいい。

 

 そうして業種を決めたら、そこからは開業に向けて本格的に準備を進めた。パプニカ王国の役所に商売を始める旨の申請を提出して許可を貰い、各地を『ルーラ』で飛び回って必要な機材・材料・資材を集め、大工を雇って内装等を相談しながら屋敷の改装工事を進め、工事に並行してレストランで提供するメニューを作成し、必要な食材の仕入れ先を探し、そこから宿泊代や料理の価格を考え設定し、必要な人員の募集を行い……。

 

 忙しく動き回っていると、時間はあっという間に過ぎて行った。

 

 

 

「えー、皆さん。いよいよ明日からオープンとなります」

 

 2ヶ月の準備期間を経て、遂に俺の宿屋が完成した。その完成した宿屋のスタッフルームにて、俺は雇用した10人の従業員を集め、明日に向けて最終ミーティングを行う。

 

「出来る限りの研修はしましたが、恐らく初めの内は慣れない事で戸惑い失敗も多々あるでしょう。ですが、それを恐れず楽しんで仕事をして頂けたらと思います。明日から、どうぞ宜しくお願いします」

 

『宜しくお願いします!オーナー!』

 

 人柄とやる気を重視して選んだ従業員の皆さんは、声を揃えて良い返事を返してくれる。オープンが目の前に迫って俺も緊張していたが、彼らの返事を聞くと安心感が湧いてくる。

 

 明日から俺も自営業の責任者……頑張らなければ。

 

 

 

 そして翌日――俺の宿屋兼レストラン『双頭のドラゴン亭』はオープンした。

 

 

 

 


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