ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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お待たせしました。何とか書き上げました。

※2015/12/17 主人公ステータスの下方修正に伴い、微調整しました。


第25話『危機』※調整

「まさか、伝説の竜の騎士が魔王軍にいたとはな……」

 

「そんなはずは……!」

 

 俺の言葉に、何故かメルルが否定的な言葉を出した。

 

「伝説によれば、竜の騎士はこの世にただ1人しか現れないはずです!」

 

 何を言っているんだ、彼女は?現に目の前に、竜の騎士がいるじゃないか。そして、ダイ少年もまた竜の騎士な訳だから、現実として竜の騎士は2人いる。伝説なんか、どこかで曲がったり尾ひれが付いたりするもの……全て鵜呑みにする方が間違いだ。

 

 そんな事を考えている間に、敵方の竜の騎士が降りてきた。

 

「……そう、この私こそ、この時代ただ1人の……“真の竜の騎士”だ!」

 

 バランとかいった男が、そんな事を言い放ってきた。“真の”とはご大層な事だ。

 

「だが、本来この世に1人しか生まれぬはずの竜の騎士にも、例外が起こった。それがお前なのだ!!」

 

 バランはダイ少年を指差す。

 

「今こそ竜の騎士としての使命に目覚め、私と共に人間を滅ぼすのだ!!」

 

「そんなのっ、絶対に嫌だ!!何度も言わせるなッ!!」

 

 ダイ少年が怒りを込めて言い返す。この男、一体何を言っているんだ?

 

「……何故そこまで人間に肩入れする?」

 

「なっ、何故って……」

 

「今はまだ良い。子供の頃の竜の騎士は、並の人間と大して変わらん」

 

 また妙な事を言いだしたな……。

 

「だが!お前が成長し、竜の力に目覚め始めるに連れ、人間はお前を恐れ、疎み、迫害を始めるだろう!!その時、地獄の苦しみを味わうのは、お前なのだぞ!!」

 

「っ!!」

 

 そうか、今分かった。この男……バランも、同じ経験をしたのだ。ベンガーナでのダイ少年と……いや、きっとあれ以上の苦しみを味わった。それまでの価値観が、一変してしまう程の絶望を……。

 

 くそ、やり難い……!敵意が鈍る、なまじダイ少年が受けた心の痛みを知っているだけに……。

 

「ふざけんじゃねえッ!!」

 

 叫びと共に前に躍り出たのは、ポップだった。

 

「ダイはオレ達の仲間だぜ!!例え正体が何だろうと、迫害なんざするもんかッ!!」

 

 怒りを含んだ、迷いのない言葉……だが、表情が少し違う。その怒りは、目の前のバランより寧ろ……ポップ自身に向いている様に思える。

 

 そうか、ポップは……さっきダイ少年を1人で行かせてしまった事を悔いているんだ。俺達に嫌われたくない、などと言わせてしまった事を……そして、ベンガーナでダイ少年を守ってやれなかった事を悔い……そんな自分が許せない。

 

「人間を滅ぼす為に手を貸せだとぉ!?ダイが、ダイが死んでもそんな事するもんかよッ!!」

 

 だからもう迷わない――その思いが、この気迫を生んでいる。少なくとも、俺にはそう思える。

 

「その通りだ」

 

 ポップの言葉と背中に、俺も学ばせてもらった。大切なのは、何があろうと俺達がダイ少年を信じ抜き、彼の仲間であり続ける事だ。

 

 迷いは晴れた――俺も竜神の鎧と盾で武装し、剣を抜いて前に出る。

 

「ポップ、レオナ、何があってもダイ君から離れるな」

 

 言って返事は聞かず、俺はバランにゆっくりと歩み寄って行く。バランは近づく俺を睨みつけてくる。

 

「……貴様がエイトだな」

 

「だったら何だ」

 

「なるほど……確かに人間にしては出来そうだ。ヒュンケルやフレイザードが敗れたのも頷ける」

 

「それは、暗に“自分はその2人とは格が違うぞ”って言ってるのか?」

 

「さてな……」

 

 言葉を交わしながら、俺とバランは互いに緊張感を高めていく。お互いに今までとは格の違う敵との対峙……恐らくだが、敵同士でも俺とバランの考えている事は一致している。

 

 激闘必至――だが、違う事もある。

 

 バランはこの場で戦う事を考えている。だが俺は、ここでは戦わない――!

 

「ッッ!!」

 

 かなり久しぶりのやや本気の踏み込み――並みの人間には俺が消えた様に見えるだろう速さ、バランに肉薄するのに1秒掛かっていない。

 

「ッ!?」

 

 だが、バランはそんな俺を目で捉えていた。とはいえ、予想外の速さには違いなかったらしく、驚きで一瞬反応が遅れた。その一瞬の硬直で俺には十分――バランの腕を掴み、呪文を唱える。

 

「『ルーラ』!!」

 

 バランを巻き込み、俺は光球となって空へ飛び上がる。

 

「何だとぉ!?」

 

 そして数秒の飛行を経て、目的地に到着――空中でバランの腕を離し、距離を取って着地する。

 

「くっ……!」

 

 バランも着地すると、すかさず俺を睨んでくる。

 

「やってくれる……。私をあの子から引き離したか……!」

 

「まあ、それもあるが……メインの目的はそっちじゃないな」

 

「なに……?」

 

「ここなら……思いっ切り戦えるからだ!!」

 

「なッ!?くッ!!」

 

 闘気を解放し、すかさずバランに斬り掛かる――流石は伝説の竜の騎士と言うべきか、バランも瞬時に背中の剣を抜き、俺の剣を受け止める。耳を劈く金属の衝突音と周囲を吹き飛ばす衝撃波が広がる。

 

 俺が戦いの場所を移したメインの理由がコレだ。バランは今までの敵とはレベルが違う。俺とバランの戦闘は周囲への影響が大き過ぎる。テラン王国で戦いを始めてしまうと、戦えるダイ少年達はともかく、ナバラさんやメルル、それにテランの国民達が多大な被害を受ける恐れがあった。

 

 だが此処なら――かつてガルヴァス共を倒した時に、俺が吹き飛ばして広大なクレーターにしてしまった元ベルナの森のこの場所なら、誰にも迷惑を掛ける事なく戦う事が出来る。

 

「ぬぅぅぅ……はッ!」

 

「うおッ!?」

 

 数瞬の鍔迫り合いから一転して、受け流された。バランスが崩れ倒れかけるも咄嗟に前に跳ぶ事で回避、5mほど距離を取って再びバランと向き合う。

 

「ッ……このパワー、このスピード……貴様、唯の人間ではないな……?」

 

「失礼な奴だな。俺はれっきとした人間だよ」

 

 転生者という事で、多少特殊ではあるが。

 

「ふん……まあ、白を切るならばそれでよい。しかし、如何にパワーやスピードがあろうと、それだけでは真の竜の騎士には勝てん」

 

「ほう……じゃあ、これならどうだ?『メラゾーマ』!!」

 

 掌を頭上に掲げ、直径3mの大火球を生み出し、バランに向かって投げ付ける――!

 

「ッ!?」

 

 目を見開いたバランに大火球が直撃、火柱が立ち昇り、熱風が吹き荒れる。

 

 この世界では強力ではあっても『ベギラゴン』や『イオナズン』より劣る呪文として扱われているが、ゲームのドラクエシリーズにおいてはそれらと同等かそれ以上に強力な呪文だ。しかも俺の魔力で使えば、その威力はそんじょそこらの魔法使いが使う『メラゾーマ』とは次元の違うモノとなる。

 

 それが直撃した。避けた様子も、闘気や呪文で防御した様子もなかった。幾ら伝説の竜の騎士だろうと、少なくともノーダメージという事は――

 

「なるほど、凄まじい威力だ」

 

 あっただと!?

 

「これほどの『メラゾーマ』は見た事がない。なるほど、魔力も並の人間とは比べ物にならない様だな」

 

 どういう事だ!?確かに直撃したはず……なのに奴は肌はおろか、髪の毛1本、服の端すら焦げ跡も付いていない……ん?奴の額の紋章が光っている。それに、奴の全身が青白く光る闘気で覆われている。あれで防御したのか?だが、幾ら闘気で体を覆っても呪文を完璧に防ぐなんて事が可能か?ましてや、俺の『メラゾーマ』だぞ?

 

「戸惑っているな。貴様ほどの者ならば見えていよう、私の体を包むこの生命エネルギーの気流が……」

 

 やや優越感が漂うバランだが、俺は口を挟まない。手品の種を教えてくれるというなら、お言葉に甘えさせてもらう。

 

「これこそが竜の騎士最強の秘密……『竜闘気(ドラゴニックオーラ)』!!」

 

 バランが声を大にして言い放つ。

 

「竜の紋章が輝く時、私の体は竜闘気と呼ばれるこの生命エネルギーの気流に覆われるのだ。それは、全身を鋼鉄の様に強化し、あらゆる呪文を跳ね返す防御幕となる……!」

 

 なるほど、俺の『メラゾーマ』で焦げ跡1つ付かなかった理由はソレか。あの竜闘気とやらには、『マホステ』に近い特性がある訳だ。防御力アップと呪文無効化……前にダイ少年から聞いた百獣魔団の軍団長との戦いの話も合わせて考えると、多分攻撃力と素早さ、魔力でさえも上がると考えるべきだな。

 

 となると……奴に効くのは呪文以外の物理攻撃のみ、という事になる。なら、俺には特技がある。呪文が無効化されても大したハンデにはならない。問題があるとすれば、(ブレス)系の特技や『ビックバン』『ジゴスパーク』の様な呪文に似た特技はどうなるのか分からないぐらいか。

 

 相手は今までの様に余裕で勝てる相手じゃない。不確定要素は排除、今回は効かないかも知れない特技群は封印しよう。

 

 それにしても……竜の騎士最強の秘密とやらをあっさりと暴露するのは、自分の実力への絶対的の自信かブライドか……俺なら例え相手が100%勝てる雑魚だろうと、自分の秘密を喋る様な事は絶対にやらないな。

 

「そして、この竜闘気を全開にし、その威力を持って戦えば……この地上の如何なる生物も太刀打ちできんッ!!」

 

 言うが早いか、バランは剣を手にかなりの速さで駆けて来る――一瞬で間合いを詰めてきた。だが反応できない速さじゃない、迫る剣を竜神王の剣で受け止める。

 

「むっ!?」

 

 止められたのが意外なのか、バランが微かに動揺の色を見せた。だがそれも一瞬にも満たない刹那の間――すかさず連続の剣撃が襲ってくる。勿論俺も防戦ばかりじゃない。連撃を受け止め、跳ね返し、逆にこっちからも連撃を見舞う。

 

「うりゃあぁッ!!」

 

「ぬぅッ!!」

 

 剣の攻防は一瞬の内に何十回と入れ替わり、耳を劈く剣と剣のぶつかる音が響き、お互いの躱した斬撃が地面を斬り裂き、衝撃波が嵐の様に吹き荒れる――俺とバランを中心とした台風が発生しているかの様だ。

 

 勝負は互角……だが。

 

「ッ!!」

 

 バランと斬り結ぶ最中、俺は内心密かに驚きと焦りを覚えていた。バランを捉えられない……パワーもスピードも俺の方が上のはずなのに、何度振っても俺の剣は奴に当たらない。殆どが受け流され(・・・・・)ている。俺の剣の威力が、バランにもバランが持つ剣にもまともに伝わっていかない。更に、受け流される時に微かに体勢が崩れる所為で隙が生じてしまい、そこを突かれて斬撃が来る。俺は身体能力に物を言わせて何とか奴の剣を止めるか躱す。

 

 だが、少しずつ……ほんの少しずつだが、時間が経つに連れて俺が攻撃される回数が増えてきている気がする。いや、多分間違いない。

 

「ふっ!」

 

 その証拠に、バランの動きと呼吸が落ち着いている。表情にも余裕がある様に見える。バランは確実に、俺の動きに対応している。

 

 まさか、こんな短い時間で俺の動きを見切ったとでもいうのか……!?

 

「むん!」

 

「ッ!?」

 

 奴の額から光弾――!

 

「くッ!」

 

 咄嗟に剣で弾く――弾いてしまった。その結果――

 

「なッ!?」

 

 俺の剣が……竜神王の剣が……折れた。

 

 初めての強敵を前に……俺は、最強の武器を失った。

 

 初めての……危機、かも知れない……。

 

 

 


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