ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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1ヶ月以上も間を開けてしまい、申し訳ありません。

どうにも思う様に書けなくなってきてしまいました……。


第24話『竜の騎士』

『…………』

 

 俺達の間を、沈黙が支配していた……。

 

 

 ベンガーナでの騒動を受け、住民達がダイ少年に向ける畏怖の視線を避ける為、俺達は一先ず街を離れた。

 

 そして、ナバラさんが言ったダイ少年が『(ドラゴン)の騎士』だという言葉の意味を、他ならぬダイ少年が知る事を強く希望した為、俺達は気球で彼女らの故郷だというテラン王国を訪ねた。

 

 一応王国とされるテランだが、目立った産業も名物もなく、あるものと言えば自然ぐらい、態々訪れる旅人もなく、発展性は皆無。人口も僅か50人ばかり、良く言えば綺麗でのどか、悪く言えば辺鄙で閑散……昔、俺も定住地を探していた頃に一度訪れた事があるが、とても商売が出来る雰囲気ではなく、また宿屋が無かった為に一泊すらしなかった。その時の記憶と、久しぶりに訪れたテランの風景雰囲気は何ひとつ変わっていなかった……。

 

 国というより村――とはポップの言葉だ……実際その通りだと思う。

 

 更にポップは、今日まで魔王軍の脅威に曝されていない事を不思議がっていたが、レオナは冷静にバッサリとテランに侵略価値が無い事を指摘していた。

 

 ここまでテランが衰退した原因は、国王の方針によるものだと、ナバラさんは言った。

 

 テランの王はいずれ必ずや人に災いをもたらすと考え、武器や道具の開発を禁じたのだという。結果、国力は衰退し、国民はこぞって他の国へ流れ、テランは王国の体裁を保てないまでに廃れた……。

 

「……まあ、そういうあたし達も、国を飛び出した口だけどね。国民が50人しかいないんじゃ、占い師は商売あがったりだよ」

 

 そう言った時のナバラさんの表情は、どこか寂しげだった……。何だかんだ言って、彼女も故郷を愛しているのだろう。

 

 俺が聞いた噂では、テランの王様は古代の伝承にも造詣が深い賢王だという話だったが……どうやら為政者としての才能はなかった様だ。内にどんな思惑があろうと、国を廃れさせる王は愚王だ。このままでは、遠からずテランという王国は消えてなくなる……それが見えていないなら尚のこと愚かだし、開き直って静観しているとしたら論外だ。

 

「……でも、私、好きだわ。静かで美しい、この故郷が……」

 

 若いのにテランの今を好むというメルルは、良い意味で他の人とは違う感性を持っている様だ。

 

 

 しかし……今、問題なのはテランの事よりダイ少年の事だ。

 

 

「ナバラさん!!この国のどこに、俺の正体を知る手掛かりがあるんですか!?早く……早く教えて下さい!!」

 

 テランに到着した時のダイ少年には、余裕や落ち着きは皆無だった。不安と焦りに満ちた表情で、ダイ少年はナバラさんに詰め寄り、それを諌めようとしたポップに、半ば八つ当たり的に怒鳴り返してしまう程だった。今までにないダイ少年の姿に、レオナもポップも言葉を失くしていた。ダイ少年もすぐに八つ当たりと気付いて、バツの悪そうな顔をしていたが、それでも焦りを抑えられない様子だった。

 

「……ご、ごめんよ……。でもおれ……一刻も早く知りたいんだ……!自分が一体……何者なのか……」

 

 ベンガーナでの事が頭から離れず、自分の正体とやらへの不安で一杯な様で……いつも明るいダイ少年が、見る影もなく気落ちして、その姿は見ていて不憫だった……。

 

 そして、ナバラさんに導かれ、俺達は目の前に広がる湖の畔に建てられた祠の様な場所を訪れた。そこにあったのは竜を象った石像、その土台にはある紋章が刻まれていた。

 

 ポップとレオナが、ダイ少年の額に浮き出る紋章と同じだと言ったその紋章――ドラゴンの顔の輪郭を象った様な形をしているその紋章こそ『(ドラゴン)の紋章』だと、ナバラさんは語った。

 

「テランは竜の神を讃える国……そしてこの紋章は、竜の神の力の表れとして、敬われ、恐れられているんだ……」

 

 そして、この紋章を額に抱く者こそ……『竜の騎士』であるという。

 

 テラン国民であるナバラさんやメルルの話によると、竜の騎士は凄まじい戦闘力を誇り、あらゆる呪文を使いこなし、天と地と海をも味方に変え、全てを滅ぼす者とされているとの事……テランでは“神の使い”として受け取られ、竜の神と同じく崇められているらしい。

 

 あらゆる呪文を使いこなす……それが本当なら極端な話、竜の騎士とやらは今の俺に近い存在だ。俺はこの世界に転生する際に神様からチート能力としてあらゆる呪文・特技を扱えるようにしてもらった。そして竜の騎士は、竜の神とやらから力と能力を与えられた存在……かなり似通っているが、俺がいつでも自在に呪文や力を使えるのに対し、恐らくは竜の騎士は紋章が発動しなければ超人的な力を使えないという違いはある。ダイ少年がベンガーナでドラゴン共と戦った時、苦手なはずの呪文を――それも高難易度の『ライデイン』を使えたのは、そういう事情があった訳だ。

 

「竜の騎士様が、救世主なのか破壊者なのかは分からない。ただ、竜の神の生まれ変わりの如き強さを持っている事しか、伝説には残されていないんだ」

 

 そう言ったナバラさんは、目の前に広がる湖の底に、誰も近寄る事を許されない神殿がある事を語った。竜の神の魂が眠る場所として、テランの聖域と化した所だという。もしダイ少年が竜の騎士そのものか、或いはソレと何かしらの関係があるのであれば、その神殿に立ち入り、何かの手掛かりを得られるかも知れないと、ダイ少年にひとつの手掛かりとして示した。

 

 それを聞いたダイ少年は、1人でその神殿に向かった――彼の身を案じてついて行こうとしたポップを言葉で押し止めて……。

 

「……おれ、自分が何者かなんて、今まで考えたこともなかった」

 

 湖に飛び込む前に、ダイ少年は俺達に顔を見せずに語った……。

 

「おれの育ったデルムリン島はモンスターばっかりだったし……ブラスじいちゃんにはよく叱られたけど、本当はすごく優しかったし……。それに……みんな、おれが人間だからって、モンスターじゃないからって、仲間外れにしたりしなかった……」

 

 その話を聞いて、ダイ少年がこうも純粋な心の持ち主に育った理由を理解した。人間への悪意や殺意を持たないモンスター達に囲まれて育った彼にとって、姿形や種族が違う事など当たり前の事だったのだ。自分達と姿形の違うモンスター達に温かく見守られ、共に育ったからこそ、他者を差別する意識なんか持ちようがなかった。

 

 そんなモンスター達やダイ少年に比べて……。

 

「……でも……人間は、おれが人間じゃないと……仲良くしてくれないんだよね」

 

 見た目、思想、固定観念……様々なつまらない理由で他者を差別しようとする人間の、なんと醜い事か……。ダイ少年は人間の為に、この幼く小さな体で魔王軍という強大な敵に立ち向かっているというのに……こんな悲しい事を言わせてしまうなんて……同じ人間として、心が重くなった……。

 

「だから……1人で調べに行きたいんだ……。おれ……ポップや、レオナや、エイトさんに嫌われたくないもん……!」

 

 肩を震わせ、湖に飛び込んでいったダイ少年に……俺は、言葉すら掛けてやれなかった……。

 

「バッ……バカ野郎ぉぉ!!くだらねえこと気にしやがって……ッ!!俺とお前は、友達じゃねえか!!仲間じゃねえかぁ!!同じアバン先生の弟子じゃねえか……ッ!」

 

 姿が見えなくなったダイ少年に向けて、ポップは叫んでいた。泣きながら、叫んでいた……。

 

「俺はッ……たとえお前の正体が化け物だってかまわねえさッ……!そんなの……関係ねえよッッ!!」

 

 ポップの慟哭が、俺の胸を痛いほどに締め付けた。

 

「…………」

 

 レオナも、涙こそ流さなかったが、ダイ少年が飛び込んだ湖を見つめていた時、今までにない悲しみを湛えた表情を浮かべていた……。きっと、彼女もダイ少年の言葉を否定したかったはずだ。「そんな事はない!」と叫びたかったはずだ。

 

 

 

 しかし、現実として言葉は出てこず……その後、俺達は揃って口を閉ざし、それぞれ湖を見つめている……。

 

 

 

「……」

 

 俺もまた、祠の隅に腰を下ろし、湖を見つめていた。ダイ少年が潜ってから、もう30分は経っただろうか。体も、目線も、動かす気に全くならない……。

 

 ただの買い物のつもりが、こんな事になるとは思わなかった。ダイ少年、ポップ、レオナ……子供達の心を、こんなにも傷つけてしまう結果になるなんて……。俺が迂闊に、あんな国(ベンガーナ)にダイ少年を連れて行ったりした所為で……あそこがああいう国だという事を、知っていたはずなのに……。

 

 後悔先に立たず、というが本当だ。何とかして、ダイ少年やポップ、レオナを慰めたいが……どうすればいいのか分からない。もどかしいな……幾ら圧倒的なチート能力があっても、子供達の繊細な心を救うことはできない。所詮俺も、1人の人間に過ぎないという事か……。

 

「……む?」

 

 何だ?湖の底から妙なプレッシャーを感じる……。

 

 そのプレッシャーを感知した直後、湖に異変が起こる。俺達から見て、湖の中心付近――ちょうど、ダイ少年が飛び込んでいった先の方の湖面が渦を巻き、水が荒れ狂い始めたのだ。

 

 その異変は、ポップ達もすぐに気付いた。

 

「うううっ……!な、なんだ!?一体、何が起こってるんだ!?」

 

 異常事態にポップを初め、全員が慄いている。中でもメルルの表情が一番険しかった。

 

「……いる……!!凄まじい力を持った何かが……この下に……!!」

 

 確かに、言われてみれば強力な気配が近づいてくるのを感じる……!どうやら、メルルは感知能力に優れている様だ。

 

 直後、水面から青白い光の柱が立ち上った――!

 

「む!?」

 

 柱の中にダイ少年が――!

 

「あ、あれを見て!!今、ダイ君が……!!」

 

「えっ!?」

 

 レオナとポップも気付いた様だ。

 

「ッ!!」

 

 助けに向かおうかと思った瞬間、ダイ少年は上昇する力に抗う様にどうにか態勢を立て直し、その反動で弾かれてしまう。

 

「ダイ君!!」

 

 俺はすぐさま『トベルーラ』で飛び上がり、弾き飛ばされたダイ少年を空中で受け止め、彼の体を支えながら湖の湖畔に着地する。

 

「ダイ君!大丈夫か!?『ベホマ』!」

 

 深くはないが幾らか傷を負っていた上、体力を消耗している様子だったので、念の為に回復呪文を掛けておく。

 

「あ、ありがとう、エイトさん……!」

 

「ダイ~~~ッ!!」

 

「ダイ君っ!!」

 

 ダイ少年が全快したところへ、ポップとレオナ、それにナバラさんとメルルも駆け寄ってきた。

 

「おい!大丈夫かよっ!ダイ!?」

 

「ああ、大丈夫!エイトさんの『ベホマ』で回復してもらったよ。それより……ッ!!」

 

 ポップへの返答もそこそこに、ダイ少年は空を睨み付ける。その先――未だ立ち上り続けている光の柱の中に、1人の男が立っていた。

 

 短いマントが付いた肩当、背中に柄尻に竜の細工が施された長剣を背負い、黒の短髪、鼻の下に髭を生やし、左目に広げた翼の様な形の……片眼鏡か何かを付けている。その眼光は鋭く険しく、見るもの全てを萎縮させる様な迫力を放つ。

 

 そして何より目を引くのが、その男の額の部分――。

 

「あっ、あの紋章は、ダイと同じっ……!!そ、それじゃあ!!?」

 

「あの男も、竜の騎士……!?」

 

 ポップとレオナが驚愕の声を上げる。そう、恐らくは敵であろう宙に立つ男の額には、竜の紋章が輝いていたのだ。

 

「あいつは……魔王軍だ!!」

 

 ダイ少年は、そう告げながら剣を構えて前に出て来る。

 

「魔王軍の超竜軍団長……バラン!!」

 

「「ええっ!?」」

 

 あの男が、魔王軍最強の軍団を指揮する軍団長……それがテランの伝説にある竜の騎士……。

 

 これは、今までの様に一筋縄ではいかなそうだな……。

 

 

 

 


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