ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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※ご指摘を受けて主人公のヒドラへの攻撃方法を変更しました。
バイキルトを削除、アルテマソードをドラゴン斬りに変更しました。


第23話『畏怖』

「あれが……超竜軍団ってやつか……!?」

 

 ダイ少年が竜の群れを見て言う。

 

 確かに竜が属するのは超竜軍団のはず、つまり今度の敵は魔王軍六軍団中最強の軍団という訳だ。軍団長が来ているかどうかが気になるところだが、一先ずは暴れているヒドラとドラゴン4頭を何とかしなければならない。

 

「こっちへ向かって来るぜ!」

 

 ポップが言う様に、竜共は建物を薙ぎ倒し焼き払いながらこのデパートを目指して侵攻して来ている。俺達がここにいると知っているのか、それともこの街で1番巨大な建物だからか、何にしても急いで倒さなければ街の被害がどんどん大きくなってしまう。

 

「迎撃するぞ」

 

「え!俺達でか!?」

 

 俺の言葉に、ポップが驚く。

 

「ヒュンケルの話では、ベンガーナの攻略担当は妖魔士団だったはずだ。なのに、あの竜共が現れた。そして俺達はここにいる……偶然にしては出来過ぎだ。奴らは俺達を狙って攻めて来たと見るべきだろう。それに……周りを見てみろ」

 

「え?」

 

 ポップが怪訝な顔で辺りを見渡す。

 

「ど、ど、どうすんだよぉッ!?」

 

「や、やるか……!?」

 

「バカいうんじゃねえ!!他のモンスターならいざ知らず、ドラゴンだけはシャレにならねえ……!!」

 

 それらしく鎧を着て武器を下げた大の男共が、一様に恐怖に震え、戦う意思を微塵も持っていない様子がそこら中で展開されている。それを見たポップは、不快そうに眉を顰めた。

 

「けっ、情けねぇの……」

 

「あの連中に、あの竜共をどうにか出来ると思うか?」

 

「絶対無理……だな」

 

「だろ。ここで俺達が戦わなければ、このデパートの客は勿論、街中の人間が焼き殺されるか踏み潰される事になる。見捨てる訳にもいかないだろう」

 

「……それもそうだな。よっしゃ!いっちょやってやるかっ!」

 

 僅かに考えた後、ポップは戦う決意の表情でそう言った。ダイ少年とレオナも同じ、全く頼もしい子供達だ。

 

 おっと、そうだ。

 

「ダイ君、これを使え」

 

 ダイ少年にさっき買ったばかりのドラゴンキラーを渡す。元々その為に買った物だし、今の状況には打ってつけの武器だ。

 

「そいつと君の力があれば、ドラゴンなんか敵じゃない」

 

「ありがとう!エイトさん!」

 

 ダイ少年がドラゴンキラーを受け取り、すぐに腕に装備する。

 

「よし、俺がヒドラをやる。ダイ君とポップはドラゴン共を、レオナは街の人達の避難誘導を頼む!」

 

「分かった!」

 

「修業の成果を見せてやるぜ!」

 

「こっちは任せておいて!」

 

 ダイ少年達に手早く指示を出し、俺は窓から『トベルーラ』で飛び出し、一直線にヒドラに向かう。

 

「「「「「ギュワアアア!!!」」」」」

 

 5本の首を振り乱して建物を破壊し、口から炎のブレスを吐き出して辺りを焼き払うヒドラ。まだ俺には気付いていない、鎧で武装するまでもないな。不意打ちで一気に仕留める!

 

「コオォ~~……!!」

 

 飛びながら大きく息を吸い込んで『気合溜め』でパワーを充填――竜神王の剣を抜き、闘気を高めて剣に集める。

 

 喰らえ――!

 

「『ドラゴン斬り』!!」

 

 空から急降下と共に上段から竜殺しの斬撃――剣に抵抗を返す事もなく、ヒドラの巨体は首2本を道連れに縦半分に両断された。

 

「「「ギ?……ギュッ!?ギャワアアァァ~~!!??」」」

 

 一瞬、自分が斬られた事に気付かなかったらしいヒドラだが、すぐに真っ二つになった自分を認識して断末魔の叫びを上げた。そして、少しの間残った首3本でのたうち回り、やがて力尽きて倒れた。

 

「ふぅ、こっちはこれで良し、と……ん?」

 

「あ、ああぁぁ……!!」

 

 気配がして振り向くと、1人の男が瓦礫の側で腰を抜かして震えていた。逃げ遅れたのか……。

 

「大丈夫か?」

 

「ッ!?ひ、ひぃぃ~~~!!?」

 

 何だ、あいつ……声を掛けただけなのに、悲鳴を上げて逃げやがった。感じの悪い……。

 

『ウッフフフフ……ホント、人間って勝手だよねぇ』

 

「…………」

 

 やれやれ、一難去ってまた……か。

 

『折角、キミのおかげで命拾いしたっていうのに、お礼の1つも言わずに逃げ出すなんて……』

 

 そこか――!

 

「ふんッ!!」

 

 ふくろからメタルウイングを素早く取り出し投げつける――高速回転しながら飛ぶメタルウイングは崩れかけの建物の壁を貫通し、向こう側からまた貫通して俺の手元に戻って来た。

 

「チッ……」

 

 外した……というか避けられたな。結構、速く投げたつもりだったんだが……。

 

『お~、怖い怖い……!』

 

 変わらずお道化た、そして不気味な声が響いた後、壁からぬるりと妙な格好の奴が現れた。薄ら笑いを浮かべた様な仮面に、若干装飾は派手だが色が黒い所為で不気味な雰囲気を醸し出す……頭の天辺から爪先まで不気味な奴だ。

 

「酷いなぁ、有無を言わさずいきなり攻撃するなんて。おかげで衣装が破けちゃったじゃないか……」

 

 大袈裟に首を竦め、斬れた右肩の破れた部分を指し示す黒衣の男……ふざけた言動だが、仮面の所為か声がくぐもってて不気味な雰囲気に拍車を掛けている。それに、何とも表現できない異様な気配を感じる……こんな奴は初めて見た。

 

 人間では先ずあり得ない……。

 

 アンデッドモンスターの類とも違う気がする……。

 

 魔族?どうだろう……俺が会った事がある魔族と言えばガルヴァスぐらいだが、何だか違う気がする。

 

 よく分からん奴だ……だがまあ――

 

「それにしても、キミ凄まじいよねぇ……ヒドラを一撃で葬るなん――」

 

 正体なんか些細な事だ。敵なら倒すまで――べらべら喋って隙だらけの黒衣の男にほぼ全力の踏み込みで懐に入り、その胴を薙ぐ。

 

「ッ!!??」

 

 黒衣の男はまともな声を上げる間もなく、腹の辺りから真っ二つになり、飛んだ上半身が地面に落ちる。次いで、残った下半身もその場でバタリと倒れた。

 

「勿体ぶって出てきた割りに、脆い奴だったな」

 

 剣の血糊を振り払う。さて、倒した後で今更かも知れないがどうも気になる……一応、正体を確かめておくか。

 

 地面に転がった上半身に歩み寄り、仮面に手を伸ばした――その時。

 

『ギュワワワアァァァーーー!!??』

 

 雷鳴に次いでドラゴンの断末魔の叫びが響いてきた。

 

「今のはっ!」

 

 咄嗟に音の方へ振り向けば、落雷の残光と上空に小さな雷雲……あれは魔法によるものだ。となると、音の大きさからして使われたのは『ライデイン』……誰が使ったんだ?ドラクエ的に考えれば、デイン系の呪文が使えるのは(俺は例外として)勇者……その法則に漏れなければ、さっきのはダイ少年がやった事になるが果たして?彼は呪文が苦手だったはず、マトリフ老人に一応の訓練を受けてはいたが、いきなり『ライデイン』なんて高度な呪文が使える様になるほど上達するだろうか?

 

「ふ~む……」

 

 どうするか?静かになったところを見ると、向こうも片付いた様だ。ダイ少年とポップのコンビなら、余程油断しなければ問題ないと思うが……『ライデイン』の事は少し気になる。しかし、黒衣の男の正体も……。

 

「むっ?」

 

「わわッ!?見つかった!!」

 

 不意に気配を感じて振り向くと、真っ二つになった黒衣の男の傍にいつの間にか一つ目ピエロがいた。使い魔か何か、まあ何であれ敵なら容赦しない――斬る。

 

「ッ!!」

 

「何!?」

 

 一つ目ピエロと黒衣の男の死体がふっと消え、俺の剣が空振った。『レムオル』か?いや違う、姿だけじゃなく気配まで完全に消えている。特殊な呪文か何かで、この場を離脱した様だ……。

 

「チッ、逃がしたか」

 

 失敗した、ダイ少年達の様子と黒衣の男の正体暴きの間で迷った所為だ。さっさと黒衣の男の仮面を剥がしてしまえば良かったんだ……くそ。

 

「それにしても……」

 

 何故、あの一つ目ピエロは危険を冒してまで黒衣の男の死体を持ち去ったんだろう?胴を両断されて生きていられる訳がないだろうに……まさか、あそこから蘇生させる術でもあるのか?無い、とは言い切れないが……もし本当にそんな術があるとしたら反則だな。俺が言えた義理じゃないかも知れないが……。

 

 後は、何か、あの黒衣の男の素顔を見られては拙い理由があったからか……。

 

「う~ん……ここで考えてても仕方がないか」

 

 実際のところは結局分からない。取りあえず黒衣の男の事は、また姿を現す可能性と合わせて頭の隅に置いておき、ダイ少年達と合流しよう。

 

 俺は『トベルーラ』で飛び上り、デパートの方へ戻った。大して離れていなかった為、1分と掛からず戻ってこれた。

 

 しかし、戻ってみれば妙な空気が広がっていた……。

 

 何故か、ダイ少年を中心に街の人間が人垣を作り、距離を取っている。しかも、街の人間達はほぼ全員が脅えた表情で中心に立つダイ少年を見ている……どうもダイ少年を恐れている様だ。

 

 一体何があった?疑問に思いつつ、俺は下に降りた。

 

「ダイ君」

 

「あっ、エイトさん……!」

 

 何て顔をするのか、ダイ少年……まるで今にも泣きそうな迷子の様な不安げな表情、どう見ても戦いに勝った後の勇者がするような顔じゃない。本当に、何があった?

 

「ん?」

 

 ふと、瓦礫の側にドラゴンの亡骸が転がっているのが目に入った。ダイ少年達が倒したのだろうから、転がっている事自体に不思議はない。問題なのは、その亡骸の有り様だ……首を斬り落とされたのが1頭、刺し傷を中心に全身が焼け焦げているのが2頭、もう1頭は見当たらないが……とにかく、少々やり過ぎ感がある。周りの瓦礫の様子も、ドラゴン4頭が暴れたにしても被害が大きく範囲が広い気がする。

 

 まさか、これはダイ少年が……?益々分からん、一体ここで何が起きたというんだ?

 

「……ダイ君、一体何があったんだ?説明してくれ」

 

「そ、それが……おれにも、分かんないんだ……」

 

「え?どういう事だ?」

 

「……戦ってる途中で、ドラゴンの1匹がレオナ達の方に行っちゃって……襲われそうになったのを見たら、カッとして……それからの事が何だかぼんやりとしか覚えてなくて……気が付いたら、みんながおれを怖がってて……」

 

「む……」

 

 何とも曖昧な話だが、要するにダイ少年がドラゴン共をあの無残な状態にしたという事だろう……そして、その一種の暴走状態のダイ少年を見て、街の人間達は恐れ戦いている訳だ。

 

 さっきの俺と似た様な状況だな。あの逃げ遅れた男も、ヒドラを真っ二つにした俺を恐れて逃げて行った……。助けてもらっておいて何て態度だ!と思わないでもないが、冷静に考えると、仕方のない事なのかも知れない。

 

 竜は火を吐き、腕の一振りで建物を破壊する力を持つ恐るべきモンスター……だが、俺やダイ少年はそんな竜を倒してしまえる存在……見た目が同じ人間であるからこそ、余計に恐怖を煽るのかも知れない。ましてダイ少年はまだ子供、大人の俺より周りの人間は大きな恐怖を感じてしまうのだろう。

 

 そう思うと、周りの人間をあまり怒れない……。

 

 とは言え、ダイ少年の精神衛生上ここに長居はしない方がよさそうだ。

 

「……詳しくは後で聞こう。今はとにかく、この国から離れよう。俺達は、ここにいない方が良い」

 

「う、うん……」

 

「でもよ……いや、そうだよな」

 

 ダイ少年が肩を落として頷くと、それを見たポップも同じ様に頷く。可哀想だが、こればかりはどうしようもない。

 

「ちょっと待って!」

 

 と、何故かレオナから待ったが掛かった。何だ一体……?

 

「ねえ、ナバラさん、メルル。あなた達、さっきダイ君の事を『(ドラゴン)の騎士』って読んでたわよね」

 

 ドラゴンの、騎士……?なんだそれは?

 

 見れば、ナバラさんとメルルは2人揃って、真剣な表情でダイ少年を見つめている。

 

「……如何にも。その方こそ、我が祖国の伝説に記された『(ドラゴン)の騎士』様に相違ない……!」

 

 ダイ少年を見つめた目を逸らさず、言い切るナバラさん。

 

 ただの買い物だったはずが、妙な展開になって来たぞ……。

 

 

 

 


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