ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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間を開けてしまい、申し訳ありません。


第22話『競売』

「ねえねえねえっ!これどうかな!」

 

「ブフッ!?っ……ッんな格好した賢者がどこにおるかッ!!もっと地味なのにしろおッ!!」

 

 試着室から現れる、何だかよく分からないビキニの様な衣装を着たレオナ……それを見て鼻血を噴き、叫ぶポップ――。

 

「お待たせ!」

 

「……やっぱりサイズが合わないじゃないか。諦めて、こっちの鋼の鎧にしておきなさい」

 

「え~!?」

 

 ぶかぶかの騎士の鎧を無理矢理着込んでブリキの玩具の様になったダイ少年、それを見てダイ少年のサイズに合う鋼の鎧を薦める俺――。

 

 5階建てのベンガーナ百貨店の最上階の防具屋フロアにて、俺達は新しい防具を見繕っていた。

 

 デパートに着いた俺達は、上から順番に見て行こうという事でエレベーターで最上階に上った。デパート初体験のダイ少年とポップが、エレベーターで騒いだり、売り場を見回してぽかんとしたりキョロキョロしたり、中々に面白い反応を見せてくれた。

 

 そして、売り場に着いてから色々と展示してある防具類を見て回り、それぞれ選んで試着していた訳だが、俺は竜神の鎧があるし、ポップも来る直前にマトリフ老人からお下がりの装備を貰ったそうなので、主に試着するのはダイ少年とレオナだ。

 

 代金は密かな金持ちである俺が全て払う。だから、2人には値段を気にせず好きな物を選ぶ様に言ったのだが……方向性こそ違うものの、2人とも微妙な物をチョイスしてきた。

 

 2人ともチェンジで――ダイ少年は結局俺が薦めた鋼の鎧を購入、レオナはその後も(何で置いてあるのか知らんが)かの有名な『危ない水着』やら『ぬいぐるみ』やらを試着して遊び、最終的にミニスカートタイプの旅人の服に決まった。

 

「あとはダイ君の新しい剣ね」

 

「武器は確か4階だったよな」

 

「良い剣があると良いなぁ!早く行こうよ!」

 

「コラコラ、1人で先に行くな。迷子になるぞ」

 

 レオナとポップが話しながら歩き、ダイ少年がそれを追い抜いて階段を駆け下り、俺が最後について行く。何だか、家族サービス中のお父さんの様な気分だ……俺には家族どころか恋人も……止めよう。

 

 そうして、階段を降りて4階の武器屋フロアに入ると、何やら騒がしかった。

 

「あら?何かしら、あの人だかり……」

 

 レオナが見つめる先には、戦士やら商人やらが集まっていた。これは、もしかすると……!

 

「行ってみよう」

 

 俺はダイ少年達を先導して、その人だかりの中に入った。人垣を抜けて騒ぎの中心に辿り着くと、驚くべきものが目に入る。

 

「っ、『ドラゴンキラー』……!」

 

 思わず声が出てしまった。剣の一種でありながらガントレットの様に腕に嵌めて装備する、どちらかと言えば爪に近い独特の形をした武器……それが、台座の上に飾られている。

 

「ドラゴンキラーって……あの有名な!?」

 

「そうよ、鋼鉄よりも硬いと言われるドラゴンの皮膚をも容易く貫くと言う……最高級の武器だわ!」

 

 ポップとレオナも、ドラゴンキラーを見て目を丸くする。滅多に見られないレアな一品、俺も実物は初めて見た。

 

 これは思いがけず掘り出し物に出会えた。ダイ少年の新しい武器は、アレで決まりだ……!

 

「あれっ?値段がついてないよ?」

 

 ダイ少年が、台座のドラゴンキラーの前に置かれた白紙の値札に気付いた様だ。

 

「ああ、あれはオークションに掛けられるのさ」

 

「オークションって……?」

 

 俺が説明すると、ダイ少年が首を傾げる。

 

「1つの品物を買う為に、みんなで値段を言い合って、1番高い値段を言った者が買う事ができるという方法だよ。あのドラゴンキラーは、多分あそこにある1本しか入荷できなかったんだろう。そこで催し物の意味も兼ねて、ああして飾ってオークション参加者を募っているのさ」

 

 以前、ベンガーナ百貨店に来た時にもやっていたので覚えている。あの時は別のフロアで開催されていて、興味が湧かなかった上に余りに喧し過ぎて近寄る気になれずスルーした。

 

 だが、今回は違う――あのドラゴンキラーは必ず手に入れる!

 

「すまない、オークションに参加したいんだが」

 

「畏まりました。では、こちらの方にお名前をお願いします」

 

 近くにいた受付担当らしき店員から紙とペンを受け取り、名前を書いてから返す。

 

「ありがとうございます。では、こちらがお客様の番号札になります。オークションが始まりましたら、こちらを掲げてご入札をお願いします。オークションはもう間もなく開始となりますので、この場のお近くでお待ち下さい」

 

「分かった」

 

 番号札を手に、ダイ少年達のところへ戻る。すると、ポップが声を潜めて話しかけてきた。

 

「な、なあ……あれ買う気なのか?高いんだろ?」

 

「まあ、相場は15000ゴールドってところか」

 

「マジかよっ!?そんなに金持ってんのか!?」

 

 問題ない――そう返そうとした時だった。

 

「おいおい~、おめえらみたいなガキがオークションに参加する気か~?」

 

 神経を逆撫でする様な、不愉快な声が降ってきた。思わず無表情になりながら振り返ると、声と同じく神経に触る薄ら笑いを浮かべた連中が目に入った。

 

「この剣の相場知ってんのかぁ?15000ゴールド以上だぜぇ?」

 

「せやせや、お子さんの小遣いじゃあ、買えまへんでぇ!ヘッヘッヘッ……!!」

 

「冷やかしなら、どっか他所の駄菓子屋ででもやってな!」

 

「「「アッハッハッハッ!!」」」

 

 これだ……こういう俗物が多いから、俺はこの国が嫌いなんだ。どうしてこうも浅ましくなれるのか、全く理解できない。

 

「っ……!」

 

 おっと、いかん。

 

「よせ、レオナ」

 

 険しい表情になっていたレオナの肩に手を置いて止める。

 

「エイトさんっ、でも……!」

 

「勝手に言わせておけ。あんな連中、放っておけばいい。相手にするだけ色々無駄だ」

 

「そのお若いのの言う通りだよ」

 

「「!?」」

 

 突然掛かった老婆の声に、俺とレオナが同時に振り向く。振り向いた先には、黒いとんがり帽子とローブを羽織ったかなり小柄な婆さんと、長い黒髪の若い娘さんが立っていた。娘さんが水晶玉を持っているところを見ると、占い師だろうか。

 

「ついでに言わせてもらえば、そんな武器を大金払って買うのもお勧めしないね。自分の力量以上の武器を持って、強くなった気になりたい馬鹿の仲間入りなど止めといで……!」

 

「なっ、なんだとぉ!?このババア!!」

 

「そりゃあオレたちの事かぁ!?」

 

 占い師の婆さんの言葉に、周りの連中が怒り出す。しかし、婆さんは全く気にした様子もなく鼻を鳴らす。

 

「へっ……他に誰がおるんじゃ」

 

「「てめえッ!!」」

 

 拙い雰囲気だな、止めた方が良いか?

 

「おやめ下さい!おばあ様!」

 

 俺が割って入ろうかと思った直後、婆さんの傍にいた娘さんが声を上げた。そして、娘さんがいきり立った連中に頭を下げ始める。

 

「皆さん、すみません。祖母は口が悪くて……」

 

「ふん、あたしゃ思った通りを言ったまでだよ……!」

 

 歯に衣着せない婆さんだ。ともすれば袋叩きに遭いかねない状況で、ここまでハッキリ物を言う度胸は凄いな。

 

「あれ?ナバラさん!」

 

 そう声を上げたのは、人垣から顔を出したダイ少年だった。

 

「おや?誰かと思えば、パプニカで会った坊や達じゃないか」

 

「あの時はありがとう!おかげで、マトリフさんを見つけられたよ」

 

 マトリフ老人?何故、ここで彼の名前が……?聞いてみるか。

 

「ダイ君、この占い師さんと知り合いなのかい?」

 

「うん!前にレオナを助ける為にマトリフさんを探しに出た事があったでしょ?」

 

「ああ、ガルヴァスの一件の時だな」

 

「そう。その時にパプニカの城下町で会って、マトリフさんの居場所を占ってもらったんだ。そのおかげで、マトリフさんを見つける事が出来たんだよ!」

 

「へえ~、そうだったのか」

 

 なるほど、だからあの時、ダイ少年達の帰りが異様に早かったのか。占いが大当たりで、殆ど迷う事なくマトリフ老人を発見できたから……この世界の占い恐るべしだな。

 

「おいッ!何オレたちを無視して楽しくお喋りして「あ?」――ひぃッ!?」

 

 いつまでもギャーギャー五月蝿い連中を、軽く(・・)睨み付ける。勝手に絡んできておいて、人の顔を見るなり「ひぃ」とは……全く失礼な連中だ。

 

「あんた、若いのにえらく凄みがあるねぇ……」

 

「そうですか?」

 

「今のはかなりの手練れのガンくれだったよ……」

 

 ナバラさんとやらが引き攣った顔でそう言ってきた。それにしても、凄みねえ……このステータスカンストの身体のおかげだろうか?睨みにまでよく分からない力が宿るとは……色々と気を付けないといけないな。

 

「何だか面白いものが見れそうな予感がしてきたよ。メルルや、少しこのオークションを見物していくよ」

 

「はい、おばあ様」

 

 どうやら孫娘らしい娘さんは、メルルさんというのか。この娘、肌は白いが、格好と占い師という職業がドラクエⅣの双子姉妹の片割れに似てるな。大して重要ではないが。

 

「お待たせ致しましたっ!これより本日の目玉商品、一刀限り『ドラゴンキラー』のオークションを開始致します!入札希望のお客様は入札札をお持ちになり、こちらにお集まり下さいっ!!」

 

 始まるか。じゃあ、サクッとドラゴンキラーを手に入れるとしよう。さっき受け取った入札札を手に、ドラゴンキラーが置かれた台座の近くによる。商人や戦士など、集まった入札者は俺を含めても5人と、案外少ない。しかも全員が、さっき俺達を馬鹿にした奴らだ。おまけに、商人はともかく恐らくは自分で使おうと考えているであろう戦士や剣士の類は、見るからにレベルが低い……いや、もう寧ろ酷い。奴らに比べれば、パプニカの兵士達の方がよっぽど強い。

 

 欲の皮が張った商人、戦士と名乗るのも烏滸がましい奴ら……まかり間違ってこんな連中にドラゴンキラーが渡ってしまったら酷い宝の持ち腐れだ。余裕だとは思うが、絶対に渡さない。

 

 あのドラゴンキラーは、ダイ少年の新しい剣にするのだ!

 

「それでは、只今よりオークションを開始致します!では本日の商品ドラゴンキラー!13000ゴールドからスタートです!」

 

 スタートは相場よりやや安い値段、だがきっとすぐに相場を超えた額になる。だったら――

 

「15500」

 

『おおっ!』

 

 様子見も兼ねて、相場やや上乗せの額を提示する。

 

「ぅ……やっぱ無理か……」

 

 早くも1人脱落――戦士モドキの男が札と一緒に肩を落とした。

 

「16000!」

 

 やはりと言うか、商人の男が競って来た。仕入れ目的の商人なら、ある程度ゴールドの持ち合わせがあるだろうとは思っていた。よぉし、目に物見せてやろう……。

 

「ぐ……」

 

 っと、ここで2人目脱落――剣士っぽい優男が札を下げた。

 

「ぅ、うぅぅ……い、16500!」

 

『おお~!』

 

 ここで残っていた1人、重戦士?のつもりなのか分厚い鎧を着て頭に丸太を乗せている様な珍妙な兜を被った大男が入札した。しかし16500ゴールドか、よくそんな大金を持ってたな……ぜんぜんそんな風に見えなかった。恐らくは全財産……苦渋の決断だったであろう事は、汗まみれの苦しそうな顔からして分かる。

 

 だが残念――現実は残酷だ。

 

「17000」

 

「んがっ!?」

 

 俺がさらりと入札すると、大男は口をあんぐりと開けた上に鼻水を垂らした。

 

「むむっ、17500!」

 

「かはっ……!?」

 

 更に商人が競って値段が上がったところで、大男が真っ白になった。脱落3人目――これで俺と商人の一騎打ちになった。まあ、最後には俺が勝つがな。

 

「19000」

 

『おおぉ~~~!!』

 

「ぐ……!」

 

 会場が盛り上がる中、商人の男の顔にも焦りが出始める。もう少しで詰めそうだ。

 

「ぐ、ぅ……い、195ひゃ「20000」――ぐぅっ!?」

 

 絞り出す様な入札を最後まで言わせず被せる。ふふん、商人よ、俺の上限はまだまだ遥か先だ。さっさと降りるがいいわ。

 

「はい!20000ゴールド、他にございませんか?」

 

「ぬ、ぐぐ、むむむむ……!!」

 

 ワナワナと震えだす商人。まだ足掻くか?

 

「~~~~ッ!!……あかん……これ以上は無理や……」

 

 悪足掻きするかと思ったが、商人は肩を落として萎れた顔になった。よしよし、降りたな。

 

「……はい!では本日の目玉商品『ドラゴンキラー』は、入札番号5番エイトさんが20000ゴールドで落札されました!!」

 

『おお~~~!!』

 

 オークショニア兼任の店員の宣言でオークションは終了――相場を大きく超えた額になってしまったが、まあ大した事はない。ダイ少年の戦力が増して世界の平和が少しでも近づくと思えば、20000ゴールドぐらい惜しくはない。

 

「では、こちらが品物のドラゴンキラーになります」

 

 そう言って店員がドラゴンキラーを差し出してくる。丁寧な事に、いつの間にか鞘に納められていた。だが念の為『インパス』で確認しておこう……。

 

『ドラゴンキラー――ドラゴンの硬い鱗を貫き、更に装備者の腕を守る様に設計された武器。ドラゴン系の敵に効果大』

 

 よし、間違いなく本物だ。この国は商業で発展しているが故に玉石混交……偽物が売られている事も珍しくない。『インパス』は非常に有用だ。

 

「じゃあ、お代はこれで」

 

「はい、確認させて頂きます………………はい、20000ゴールド、確かに頂戴いたしました。ありがとうございます!」

 

「はい、どうも」

 

 代金20000ゴールドと引き換えにドラゴンキラーを受け取った。

 

「「やったぁ!!」」

 

「マジかよ……20000ゴールドなんて大金、惜しげもなくポンと出しやがった……!?」

 

 ダイ少年とレオナが手を取り合って喜び、ポップは何やら戦慄の表情を浮かべている。

 

「かっかっかっ!こりゃ傑作だ!一切迷いなくあんな大金を使っちまうとはね!あそこまで行けば、いっそ爽快さね!」

 

「もう、おばあ様ったら……」

 

 ナバラさんは愉快そうに笑い、そんなナバラさんを見てメルルさんは困った様な表情を浮かべた。

 

 だが――

 

「ッ!?」

 

 突然メルルさんの表情が変わる――顔色が蒼白になり、何かに脅える様に震え出した。これは只事じゃない!

 

「お嬢さん!どうした!?」

 

「むっ、メルル?」

 

 俺の声で異変に気付いたナバラさんも、笑うのを止めてメルルさんに問いかける。

 

「っ……おばあ様……!何か、来るわっ……恐ろしい力を持った生き物が……沢山……!」

 

「何だって!?……あたしにゃまだ見えん……。メルル、お前も我が一族の能力に目覚めてきた様だね……」

 

 能力?これまでのやり取りを見るに、何かの感知能力……いや、占い師だから予知能力の類だろうか?どっちにしろ、人知れず身を潜めていたマトリフ老人を見つけ出す程の彼女達の能力だ。確かなんだろう。

 

 恐ろしい力を持った生物……つまり、敵が来る!

 

「……来るわ……今すぐに……!」

 

 メルルさんがそう言った直後、地震が起こる――そして。

 

「たっ、大変だああ!!」

 

 外を見ていた客の叫びで、窓から外を見れば……4頭のドラゴン、そして首が5本あるドラゴン系モンスターのヒドラ1頭が街を破壊している様子が見えた。

 

「ど、ドラゴンの軍団だあぁーー!!!」

 

 誰かの叫びを切っ掛けに、デパート内が騒然となる。

 

 やれやれ、軽い気持ちで買い物に来ただけのつもりだったのに……どうやら戦わなければならない様だ。

 

 

 

 


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