ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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第21話『買い物』

 マァムが旅立ってから1週間――至ってパプニカは平和だ。

 

 俺は魔王軍の襲撃を警戒しつつ、ダイ少年やパプニカの兵士達の修業を見たり、自分の店の様子を見に行ったり、魔弾銃の運用を考えたりとそこそこ忙しくしていた。

 

 パプニカ王やレオナ、三賢者の面々は世界連合軍の結成に向けて既に動き出している。詳細は分からないが、毎日忙しそうだ。

 

 ダイ少年はその恐るべき上達の早さでどんどん剣の腕を上げ、更に闘気のコントロールも洗練されてきた。俺が教える前に闘気コントロールの応用技を独自に習得してしまったぐらいだ。残る課題は呪文、流石に使えるのが『メラ』だけでは心許ない……。一応、マトリフ老人に頼んで基礎修業を見てもらっているが、果たして成果は如何ほどか……。ポップもマトリフ老人の厳しい修業に喰らいつく事で、結構魔法力が上がってきている。幾つか新しい呪文も覚えた様で、魔法使いとしてのレベルアップは順調と見える。

 

 

 平和……そう、平和なのだ。

 

 だが、魔王軍にまるで動きがないのが逆に不気味に感じる……。偵察に向かったヒュンケルからも、今のところ音沙汰がない。

 

 色々と待つしかないというのは嫌なものだ……。

 

 

 そうしてどこか気を抜けない日々が続いたある日、俺はダイ少年からある相談を持ちかけられた――。

 

「何?装備を新調したいって?」

 

「うん、防具の方はロモスの王様から貰った『鉄の盾』と『鋼のプロテクター』をパプニカの金属で強化してくれる様に、レオナのお付きの兵士のバダックさんが手配してくれてるんだ。けど、剣の方は他で探した方が良いって言われて……」

 

「なるほど」

 

 確かにパプニカでは、布や金属に特殊な法術による加工を施す事で軽さと強度を両立させる技術があり、そうして加工された布や金属は優秀な武具の素材になる。しかし、パプニカは『賢者の国』というお国柄の影響か、防具はともかく武器の製造技術は若干拙い。この世界で暮らす様になって知ったが、武器と防具はそれぞれ製造技術が違うらしい。呪文を得意とする魔法使いや僧侶、賢者を輩出するパプニカでは武器より防具の需要が高い為、必然的に技術に差が出てしまう。勿論、良い武器が作れない訳ではないが……やはり品質に限界はあるし、時間も掛かって効率が悪いという事だろう。

 

 それに、そもそも商店で買える武器の品質・性能には限界がある。遠からずこの先の戦いについて来れなくなるのは間違いない。魔王軍の総大将たる大魔王バーンと鋼の剣で対決など出来る訳がない。やはり、伝説級の武器の1つや2つは欲しいところだ。そう簡単に見つかれば苦労はないが……。

 

 まあ、伝説の武器は追々として、取りあえずは間に合わせで、出来るだけ攻撃力の高い武器を手に入れたいところだ。

 

 そうなると……あそこしかないか。

 

「それなら、ベンガーナ王国に行くのがいいだろう」

 

「ベンガーナ王国?」

 

「ああ、ギルドメイン大陸にある商業国家さ。世界一金持ちな国で、武器も物資も豊富に持ってる。あそこなら金さえ出せば大抵の物は手に入る。デパートまであるくらいだからな」

 

「デパート?何それ?」

 

「あ、ダイ君、知らないか。百貨店と言って、1つの大きな建物の中に色んな店が出店して商売をしている商業施設の事さ」

 

「大きいって、宿屋ぐらい?」

 

「いやいや、城ぐらいある」

 

「へええっ!!ホントに!?」

 

「ああホントだ」

 

 昔、ベンガーナに立ち寄った時にその存在を知って「何でドラクエ世界にデパートなんてあんだよ……?」と密かに唖然とした事があった。中に入っていた店は確かにドラクエ世界のソレだったが……。

 

「すっげーな~!」

 

 ダイ少年の目が、好奇心に輝いている。

 

「じゃあ、そこに行けば新しい武器も手に入るかな!?」

 

「多分な」

 

 少なくとも鋼の剣よりは強力な武器が手に入るはずだ。

 

「行きたいなら、俺が『ルーラ』で連れて行ってやろうか?」

 

「ホントっ!?いいの!?」

 

「ああ、問題ないよ」

 

 とは言うものの……ダイ少年の手前、口には出さないが、本当はダイ少年の様な純粋な心の持ち主を、あの国に連れて行くのは少し抵抗がある。

 

 あの国は確かに豊かで商店の品揃いは大したものだ。だが、そこにいる人間の気質が俺はイマイチ気に入らない……どうも自分の事しか考えていない人間が多い様に思う。自分に利益のある事以外には消極的というか……まあ、人間誰しもそういう面があるとは思うが、あの国の人間はそれが表に出過ぎな気がして、俺はベンガーナ王国が好きじゃない。

 

 しかし、今は魔王軍との戦いに備えて、装備の充足を図らなければならないのも事実……サッと行ってパパッと必要な物を買い揃えてサッと帰ってくれば良いだろう。

 

「話は聞かせてもらったわっ!」

 

「「!?」」

 

 突然の後ろからの声に、俺とダイ少年が同時に振り返る。そこには、満面の笑みを浮かべたレオナ……嫌な予感がする。

 

「ベンガーナに買い物なら、あたしも行くわ!」

 

 やっぱりか!

 

「行くわって、レオナ……連合軍結成の仕事はいいの?」

 

 ダイ少年が尋ねると、レオナはウインクをしながら答える。

 

「大丈夫!今は各国にお父様の意向を伝える段階だから、あたしがやる事はまだないの。お父様にも『今は私達に任せてダイ君達とゆっくりしていなさい』って言われてるしね♪」

 

 なるほど、パプニカ王の親心と言ったところか。そう言われるとレオナの同行を断れない……むぅ、これはサッと行ってサッと帰って来るのは無理かもしれない。女の買い物が長いのは、どの世界でも変わらないみたいだからなぁ……仕方がない、我慢するか。

 

「……分かった、じゃあ一緒に行くとしよう」

 

「そーこなくっちゃっ!」

 

 諦めと共に俺が言うと、レオナが笑顔を更に輝かせる。やはり、どの世界でも女とは買い物に胸をときめかせる生き物の様だ。

 

「じゃあ、早速『ルーラ』でベンガーナへ「ノンノン!」――レオナ?」

 

 何故か、レオナが指を振って止めて来た。

 

「『ルーラ』じゃ味気ないわ!折角の遠出なんだから、ここは気球で行きましょっ!」

 

 なんでやねん……。

 

「じゃっ、屋上へレッツゴー♪」

 

 ツッコミを入れる間もなくレオナに主導権を握られ、俺とダイ少年は先を歩いていくレオナについて行くしかなかった……。

 

 それからのレオナの行動は迅速だが強引なものだった。屋上で気球を見張る兵士達を『ラリホー』で眠らせ、慣れた手つきで気球の機械を操作し、気球に熱気を溜めて手早く宙に浮き上がり……騒ぎを聞きつけ駆けつけて来たバダック老人を出し抜いてしまった。

 

「姫ぇ~ッ!!お戻りくだされぇ~~~!!!」

 

「ごめんねえ、皆ぁ!すぐ帰るから、心配しないでねえ~!」

 

 遠ざかるバダック老人と兵士達に、抜け抜けと言ってのけるレオナ。お転婆姫め……。

 

「いいのかい?これって、泥棒じゃないの?」

 

 ダイ少年がバダック老人達を見下ろしながら、バツの悪そうな表情を浮かべる。確かに、見張りを眠らせてその隙に気球を奪って逃亡~なんて立派な泥棒の所業だ。

 

「王宮の物を、あたしが使って何で泥棒なのよっ。いいじゃない!」

 

「コラコラ、王宮の物だからと言って君の物な訳じゃないぞ、レオナ」

 

「いーのっ!これは、勇者であるダイ君の装備充足の為の大事な用事でもあるんだから!」

 

 そうきたか……でも、それなら尚の事、俺の『ルーラ』で行った方が良いと思うがな。気球を飛ばすには燃料が要る訳だから経費も掛かるし、何より瞬間移動ならサッサと行き来できるし。

 

 まあ、これからパプニカの王女としての公務で忙しくなるレオナの英気を養う意味もあるし、正論でツッコむのは無粋か。

 

「あ、ところでさ。ポップは連れてかないの?」

 

「ポップ……?ああ、あの魔法使い君ね」

 

 ダイ少年の言葉に、一瞬怪訝そうな顔をしたものの思い出した様に言うレオナ。実に興味が薄そうだ。

 

「別にいいんじゃない?何か頼りなさそうだし、まだまだ実戦経験足り無さそうだし、いてもいなくても同じだと思うけど?」

 

 かなり厳しい評価、レオナらしい歯に衣着せぬ物言いだ。

 

「い、いや、ああ見えて結構頼れる奴なんだぜ……?」

 

「そうかな?ああいうタイプって、仲間がピンチになったら真っ先に逃げるわよ?」

 

「ぁ、ぅ……」

 

 自信足らずのフォローをバッサリ切られ、ダイ少年が言葉に詰まった。そう言えば前に、ポップが何度か臆病風に吹かれて逃げ出した事があると聞いたっけ。その話を聞いてもいないのにそれを言い当てる辺り、レオナの人を見抜く目は中々のものだ。俺は多分、そこまでは見抜けない。

 

「ん?」

 

 何だ?気球の下に気配が……この感じ、ポップか。いつの間にか『トベルーラ』を覚えたらしい。で、飛んで追いついたはいいが、レオナの辛口評価を聞いて出るに出られなくなった、と……。

 

「大体、あの手の顔はさぁ~」

 

 レオナの口が止まらない……。取りあえず、相手はダイ少年に任せて、俺は景色でも眺めてる事にしよう。

 

 

 

 そうしてポップも合流し、俺達は気球でゆったりとベンガーナ王国へ向かった。

 

 

 

 空の旅は1時間程、余りにゆったりし過ぎて景色を見るのも飽き、焦れったくなり始めた頃にベンガーナ王国に到着。町から少し離れた港の一角に気球を留め、そこで馬車を借りた。

 

「あはははっ!そおれっ!!」

 

 手綱をレオナが握り、これでもかと馬を走らせる。大した舗装のされていないデコボコの道で、結構なスピードの出ている馬車はちょくちょく車輪が引っ掛かって跳ねる。

 

「もっ、もうちょっとスピード落とせよ姫さんよおッ!!」

 

「なんてことないわよ、このぐらい!」

 

 ポップの抗議も聞く耳持たず、レオナは笑顔で馬を走らせる。

 

「ど、どういう性格してんだよ、こいつ……!?これでホントにお姫様かよ……!」

 

「気持ちは分かる」

 

 ポップを初め、世間一般の男達の中にある“お姫様像”とレオナはまず合わないだろう。俺も昔はそういう幻想を持っていた。別にそれをレオナに壊されたなんて思わないが、俺の中でレオナはレオナであって、お姫様とは別物だと思っている。

 

「ちょっとーエイトさーん!いま何か失礼な事考えてなーい?」

 

「いいや、別に」

 

 変なところで変な勘を働かさないでもらいたいもんだ……。

 

「あははっ、良かった……」

 

「あん?何がだよ?ダイ」

 

 レオナに聞こえない程度の声で言ったダイ少年の言葉に、近くで聞き取ったポップが尋ねる。

 

「パプニカにいる時のレオナは、王女として王様と一緒にみんなを纏めなきゃいけない立場だったから、ちょっと冷たい感じがしたんだ……」

 

「そうかー?」

 

「うん。だけど、今のレオナは活き活きしてて、おれが知ってるレオナなんだ。だから、レオナが変わってなくて良かったって思ってさ……」

 

 変わってなくて良かった、か。何だか2人の間にある通じ合う想いが窺えて、気を抜くとニヤニヤしてしまいそうだ。オッサンだなぁ、俺……ていうか、この歳になって恋人の1人もいない俺って……いや、止めよう。

 

 少年少女の青春に当てられた思考を頭から振り払い、気を取り直してベンガーナの町の方に目を向ける。すると、すぐに一際目立つ巨大な建物が見えた。

 

「おっ、城が見えて来たぜ!」

 

 ポップも俺と同じ建物に目を付けた様だ。確かにそれはパッと見、城に見えるが残念――あれは城ではない。

 

「バカねえ。お城にあんな気球が付いてる?」

 

 レオナが言う通り、その建物の屋上には小さな気球が幕を垂らして浮かんでいた。

 

『激安!!大特売セール』

 

 所謂、アドバルーンというものだ。

 

 つまり、あの城並の建物こそが『ベンガーナ百貨店』――俺達がこの国に来た目的のデパートなのだ。さぁて、掘り出し物があるといいな。

 

 

 

 




ベンガーナへ向かうぞ!という方向を示す回として書きました。少々、主人公が空気気味かとも思いましたが、次回以降で何か挽回する策を考えます。

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