ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方   作:amon

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お待たせ致しました。

※タイトルに深い意味などはありません。

※2015/12/17 主人公ステータスの下方修正に伴い、微調整しました。


第20話『別離』※調整

「な、なんでだよ!?どうして急に、俺達と別れるなんて言い出すんだよ!!」

 

 突然のマァムのお別れ宣言に、真っ先に食いついたのはポップだった。

 

 割と怒鳴り声に近いポップの問いかけだが、マァムは真剣な表情を崩さなかった。

 

「私……エイトさんに言われてからずっと考えていたの。そして思ったわ、エイトさんの言う通り……今の私は中途半端……魔弾銃があっても、結局ポップに呪文を込めてもらわないと攻撃呪文は使えないし……回復呪文だって、エイトさんやレオナの方がずっと上手いし……。このままじゃ、私、絶対にみんなの足手纏いになっちゃう……」

 

「ま、マァム!」

 

「そ、そんなことねえよ!マァムが足手纏いだなんて……!!」

 

「いいえ、分からないわ」

 

 ダイ少年やポップはその言葉に反論したが、レオナの冷静な声がそれらを静めた。

 

「確かに、これからはより強力な相手が次々と現れるはずだしね。もっと強い攻撃能力か、よほど優れた回復能力でもないと、本当に足手纏いになりかねないわよ」

 

『…………』

 

 レオナの歯に衣着せぬ物言いに会議室に、暫し緊張が走った。しかし……。

 

「ハッキリ言うのね。あなたのそういう所、すごく好きよ。レオナ」

 

 マァムはすっきりとした表情でそう言った。レオナの言葉に悪意の類が一切なく、寧ろマァムの今後の事を考えた発言だっただろう。こういうところが女性の強みだと感じるな。

 

「だから!だからね!故郷のロモスに帰って修業しようと思うんだ。自分だけの特技を身に付ける為にね!」

 

「……自分だけの特技って、何だよ……」

 

 何やら不満げなポップが、フイと明後日の方を向いて聞く。おや?この反応……もしかして、ポップってマァムの事が……あ~、なるほど、そういう事か。若いな、青春だな。

 

 と、それよりも今はマァムの話だ。

 

「……武術よ」

 

『武術っ!?』

 

 会議室の皆の声が重なる。

 

「そう!私、武闘家になろうかなって思ってるの!!」

 

 明るく言うマァム。きっと自分の道がみえたからだろう。

 

「私には、戦士だった父さん譲りの力がある。でも、自分で言うのもなんだけど、私って不器用で、剣とか槍を使うのは苦手だから、だったらこの手や足を武器にして戦う武闘家がいいかなって考えたの」

 

 なるほど、確かに良いかも知れないな。

 

 マァムは攻撃呪文が使えないし、回復呪文を追究するのも今更だ。ゲームと違って実際に戦闘が激しくなれば、回復している暇はそうない。乱戦ともなれば尚更、求められるのは寧ろ攻撃力だ。だからと言って戦士になろうと思うと、剣や斧、槍と言った武器に加えて、場合によっては盾の扱いまで一から覚えなければならない。俺もこの世界に転生して身を以って知ったが、武器や盾などの扱いにはある程度の技術が要る。俺の場合は、転生の際に神様に貰った俺が育てたドラクエⅧの主人公のステータスの中にある『スキル』のおかげで難なく自在に扱えるが、普通の人間は修業でその技術を磨くしかない。そうなると、マァムのセンスにもよるがやはり時間が掛かってしまう。

 

 勿論、武術が簡単という事は断じてないが、こういう事は直感(フィーリング)が大事だったりする。マァムが自分で考えて、自分に合っている思えるのなら、それが1番いいと思う。

 

「それで武闘家で思い出したの。故郷のロモスの山奥に住んでいるという、伝説の武闘家の事を……」

 

「ああ、俺も聞いた事があるな。ロモスの何処かに『武術の神』と呼ばれる武闘家がいるって話」

 

 パプニカに定住を決める以前、ロモス王国を訪ねた折に町の噂話で聞いた。『世界一の武闘家が何処かの山奥に住んでいる』とか、『武術を極めた仙人が何処かにいるらしい』とか……聞いた時には亀の甲羅を背負ったサングラスのじい様を思い浮かべてしまったのは内緒だ。

 

「……けどよ、そりゃ要するに伝説だろ?そんなのホントにいるかどうか分かんねえじゃねえか……」

 

 ポップが不貞腐れた顔と声でそんな事を言う。おいおい、その言いぐさは流石に子供じゃないか? 

 

「いいや、その武闘家なら実在してるぜ」

 

 と、ポップに呆れていたところ、マトリフ老人の声が掛かった。

 

「本当!?マトリフおじさん!」

 

「ああ、俺の数少ねえ友達(ダチ)の1人さ。『“拳聖”ブロキーナ』、間違いなく世界一の武闘家さ。懐かしいなぁ」

 

 初めて見る穏やかな表情で語るマトリフ老人。

 

「じゃあ、おじさんはその人の居場所も知ってるの!?」

 

「昔と同じ場所に今も暮らしてるなら、ロモス王国の東の山奥にいるはずだぜ。ただなぁ……」

 

「ただ?」

 

「いや……奴さんと最後に会ったのは、もう17年も昔の話でよ。そん時にゃあ、既に俺と並んで結構な歳のジジイだった上に、詳しくは知らねえが何か病気持ちらしくてゴホゴホ言ってやがったからなぁ……。今も生きてやがるかどうか、と思ってな……」

 

「……!」

 

 マトリフ老人の言葉に、ポップが一瞬目を光らせたのを、俺は見逃さなかった。色々と思う事はあるのだろうし、人間、魔が差す事もあるだろうが……理由はどうあれ、他人の不幸(未定)を喜ぶのは如何なものか……。

 

「でも、まだ生きていらっしゃるかも知れないのよね?」

 

 対してマァムは希望がある方に目を向けている。この娘は大人……というのも少し違うかも知れないが、俺としてはこちらの方が好感が持てる。

 

「そりゃあそうだ。俺がしぶとく生きてるぐらいだからな。ジジイで病気持ちたぁ言え、鍛えに鍛え抜いたブロキーナの大将の事だ。贔屓目だが、俺は生きてる可能性の方が高いと思うぜ」

 

「そうよね!やっぱり私、ブロキーナ様を訪ねてみるわ!」

 

「……」

 

 マァムの決意の表情と言葉に、流石にポップもそれ以上食い下がるのを止めたらしい。まあ、それでもやっぱり不満げで寂しげな表情を浮かべてはいるが……こればかりは仕方がないだろう。

 

 とにかく、この場の話は決まった様だ。

 

 パプニカ王は世界に対魔王軍『世界連合軍』結成の計画を始動、三賢者は順次使者の役目で世界各国へ飛び、マァムは武闘家に転職する為に修行へ出かける――これでパプニカに残る戦力は、俺、ダイ少年、ポップ……残念ながらレオナは戦力にはならないし、マトリフ老人は年齢的にも性格的にも恐らく積極的な参戦は望めないだろうからな。

 

 こちらの動きがいつ何処から魔王軍に漏れるか分からない……漏れればほぼ間違いなく妨害してくるだろう。一旦奴らの攻勢が止んでいるからと言って油断は禁物、警戒が必要だ。となれば、当分の間、俺はダイ少年達の修業を見つつパプニカの防衛と警戒の任務に就くのが良さそうだな。マァムの決意表明のおかげ、というのも少し変だが俺も自分のやる事が決まった。

 

 そして、それ以上の議題もなかった為、会議は今度こそ解散となった――。

 

「エイトさん!ちょっと待って!」

 

「ん?」

 

 会議室を出て少しのところで、マァムに呼び止められた。

 

「どうした?マァム」

 

「エイトさんに、これを貰ってほしいの」

 

 そう言ってマァムが差し出したのは、彼女の武器の1つである『魔弾銃』だった。

 

「俺に?何故?それは確か、勇者アバンから貰った大切な物なんだろう?」

 

「ええ。だけど、正直言って、私はこれまであまり魔弾銃を上手く使いこなせてなかったわ。これから武闘家になったら、きっと今まで以上に魔弾銃を使わなくなる。それなら私が持っているより、戦闘も出来て呪文も得意なエイトさんに持っていてもらった方がいいと思うの。アバン先生は言っていたわ、魔弾銃は人を救う為の武器だって……エイトさんならきっと、魔弾銃を人を救う為に有効に使ってくれるだろうし、その方が魔弾銃も幸せだと思うから」

 

「ふむ……」

 

 死に別れた師の思い出のアイテムを託す、か……マァムとの付き合いはまだ短いが、それでも随分と信頼してくれている様だ。この信頼を蹴る様では男が廃るな。

 

「分かった、大事に預かるよ」

 

「ありがとう、エイトさん」

 

 マァムの手から、俺は魔弾銃を受け取る。新しい装備、しかも魔法とはいえ銃だ。エアガンはおろか、祭り屋台の射的すらやった事がない俺に扱えるかどうか……次の戦いが始まる前に練習しておかねば……。

 

 

 

 そして翌朝、マァムはロモスへ旅立った――。

 

 俺はマァムを見送ってから、魔弾銃の練習と性能のチェックの為にパプニカ近くの海岸に出た。

 

「さぁて、どんなもんかな?」

 

 昨日の内に、マァムから魔弾銃の基本的な使い方は聞いてある。弾の先端に指を当てて呪文を唱えると中に呪文が込められ、銃に装填して引き金を引けば撃ち出せる。

 

 マァムから説明を聞いて疑問に思ったのは、射程距離と集団に効果を及ぼす呪文はどうなるのか?という事だ。その辺りをマァムに聞いてみたが、射程距離は測った事がなく正確には分からないそうだがマァムの感覚で大体10mぐらい、呪文の効果範囲に関してはポップがそういう呪文を使えなかったので分からないと言っていた。

 

 この世界だと、攻撃呪文の効果範囲は威力に比例する形だし、『ベホマラー』や『ベホマズン』の様な集団回復呪文はそもそも使い手がいない伝説級の呪文扱い……そう考えると、製作者である勇者アバンもそういう呪文が込められて使われる事を想定していない可能性が高い。

 

 想定外の使い方をするとどうなるか……諸々確認して、次の戦いまでに魔弾銃の性能を把握しておかなければならない。

 

 先ずは射程距離の確認から――

 

「っ」

 

 手頃な浜辺の岩に簡単に円形の的を刻み、それに向かって魔弾銃を発射――撃ったのは『メラ』、距離は10m――撃ち出された火の弾は的の右端に当たった。

 

「うーん……」

 

 中心に当たらなかったのが俺の射撃の腕の所為なのか、それとも射程が既にギリギリなのかがよく分からない。もう少し撃ってみよう。

 

 それから暫く、俺は魔弾銃の試し撃ちを続けた――結果、知りたかった事は大体把握した。

 

 先ず射程距離――これは大体15m前後が限界だった。何度か撃っている内に安定して的の中央に当てられる様になった上での結論なので、ほぼ間違いないだろう。『メラ』以外の呪文でも試してみたが、呪文によって射程距離が前後する事もなく一律な様で、呪文に込める魔力を増やしてみても距離は伸びなかった。しかも銃身の強度の問題で、俺の全力の呪文は撃てない事も分かった。俺が半分ぐらいの魔力で込めた呪文を撃った時、魔弾銃の銃身が悲鳴を上げた……。

 

 次いで集団効果呪文について――これも正直、残念な結果が出てしまった。パプニカの兵士数人に協力してもらい『ベホマラー』を魔弾銃で撃ってみたところ、呪文弾を当てた対象を中心に半径3m程に広がって効果が及ぶ形になった。それ以上離れると効果が出ず、呪文弾を当てた対象のみが回復する。しかも現状では、その範囲内に敵がいた場合、その敵にまで効果が及んでしまうのかどうかが分からない。俺が直接呪文を使う場合は、俺の意思が反映されて味方にのみ効果が及ぶ様に出来るが、1度魔弾銃の弾に込めてしまうとその後のコントロールがきかない。敵にまで回復呪文が効いてしまうのは困る……。

 

 他にも色々な呪文で試してみたが、結局、魔弾銃を使うより自分で呪文を唱えた方が効果も効率も良いという結論に達してしまった……。

 

「さぁて……どうしたもんかな?」

 

 残念な結論に達したからとて、死蔵させるのは勿体ない。幾らかの制限があるとはいえ、事前に呪文を込めておけばいつでもMPを気にせず使えるのは大きな利点、活かす方法は幾らでもある筈だ。ましてマァムから信頼と共に託されたアイテム……今後の戦いにも是非役立てたい。

 

 色々と考えてみるとしよう。

 

 

 


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