ドラゴンクエスト―ダイの大冒険― 転生者の歩き方 作:amon
「えっ……!?」
「ど、どういう意味だよっ!?」
俺の言葉にダイ少年が驚きの表情を浮かべ、脇のポップが噛みついてきた。
「はっきり言わせてもらうと、ダイ君……今の君の実力は、軍団長を倒すのは難しいレベルだと言わざるを得ない。例え、ポップやマァムと協力したとしてもな」
「っ!」
「な、なんだとぉ~!?」
ポップが肩を怒らせてツカツカと俺の前にやって来る。
「やいやいやいッ!黙って聞いてりゃ好き放題言いやがってっ!ダイやオレ達がロモス王国を襲った百獣魔団の軍団長、獣王クロコダインを倒した事は話しただろうが!!」
「ああ、聞いた。だが、実際に剣を合わせてみて、ダイ君にそれだけの力があるのか疑問に思った」
「なんだとぉ!?この――」
「まあ、落ち着け」
「んがっ!?」
至近距離に詰め寄っていたポップの顔を掴んで、少し押し返す。
「さっきは俺の聞き方が悪かった。俺も、君達がつまらない嘘を吐く様な人間とは思っていない。だが、俺の経験から言わせてもらうと、やはり実力的に君達では軍団長を倒すのは難しいと言わざるを得ない。だから、君達が軍団長を倒せたのには、何か別の要因があるんじゃないかと思ったんだ」
「「「っ!」」」
ダイ少年達が揃って何か思い当たる節があるという顔をした。その辺りの事情は把握しておきたい。今後の彼らの訓練の参考になるかも知れない。ならないかも知れないが……。
「思い当たる節がありそうだな。ちょっと、百獣魔団の軍団長を倒した時の状況を教えてくれないか?出来るだけ詳細に」
「……はい」
ダイ少年が頷き、お互いに一旦剣を納める。そして、ダイ少年・ポップ・マァムの3人がそれぞれを補足し合いつつ、百獣魔団の軍団長クロコダインとの戦いを語った――。
初対決はロモス王国『魔の森』、始めポップが臆病風に吹かれて逃走し、ダイ少年が1人で戦う事に……聞いた時、思わずポップを睨みつけた。ポップもバツの悪い顔をして俯いていたので、悔いているのだろう。取りあえず俺からは何も言わなかった。
魔軍司令ハドラーをも上回るパワーを武器に襲いくるクロコダインに対し、ダイ少年はスピードで対抗。しかし、一瞬の油断でクロコダインの『
思わぬ負傷にクロコダインが撤退、その後マァムが仲間に加わり一行はロモス王宮へ。到着時間の関係で城下町にて一泊したダイ少年達は、翌早朝、百獣魔団の総攻撃の様を目撃。また、配下を率いて王宮へ向かうクロコダインを目にし、ダイ少年が1人その後を追ってしまう。何とも無謀な事だと、少々呆れてしまった。
で、ダイ少年はまた1人でクロコダインと対峙する事になる。一応、ロモスの兵士達も何人かいた様だが、戦力外だったのだろう。そこでクロコダインは思わぬ策に出た。何と、ダイ少年の育ての親である鬼面道士ブラスを人質に取るという暴挙に出たという。ここに俺は若干の違和感があった。ヒュンケルからの情報では、クロコダインは正々堂々とした武人だという話だった。なのに、実際には勝つ為に卑劣な手段を使っている……これではガルヴァスだ。その辺りを3人に尋ねてみたところ、詳細は不明だがどうもクロコダインも本意でそんな手段を使った訳ではないらしい。
遅れてマァムが参戦するも、ブラスの存在で思い切った攻撃に出られず、結局苦戦を強いられる内にクロコダインの大技でダイ少年達が纏めて窮地に陥る。そして、あわやのところで何か色々あったとかで更に遅れて来たポップが参戦し、何とかクロコダインに食い下がり、隙をついてブラスを敵の手から解放する事に成功。しかし、その為に全魔力を使い果たし、ポップも戦闘不能に……。
今度こそ終わりかと思われた時、瀕死だったはずのダイ少年が立ち上がった。その額には、何かの“紋章”が輝いていた。それはかつて先代の勇者アバンが魔軍司令ハドラーに敗れ、命を落とした時にも輝いた紋章だとポップは言った。クロコダインの時は、その卑怯なやり方に怒った事で発動したのだろうと。そして状況は一転、ダイ少年は圧倒的な戦闘力を発揮しクロコダインを圧倒、遂には『アバンストラッシュ』で決着がついた。
致命傷を負い、己の敗北を悟ったクロコダインは自らの行いを恥じ、後悔の涙を流しつつダイ達を激励し、自ら投身して命を絶ったそうだ。
「なるほどな……」
これで分かった。ダイ少年には何か秘められた力がある。その発動により、クロコダインを倒せた訳だ。怒りによって目覚める力……まるでどこぞの伝説の戦士の様だ。
だがしかし――。
「自在に使えない力は無いも同然」
詰まる所、ダイ少年がクロコダインを倒せたのは偶然だ。ダイ少年の紋章とやらは確かに強力なのかも知れないが、ピンチになったら発動する力という事は逆に言えば、ピンチにならなければ発動しない力という事でもある。そんな不安定な力では、到底、戦力には数えられない。
「ダイ君の紋章の力は無いものとして考えよう」
となると、やはり地道に訓練を重ねてレベルアップしていくしか戦力強化の道はない訳だが……どうしたものか。単に俺と試合形式の稽古ばかりしていても、大した訓練にならない様な気がする。かと言って、何もしない訳にもいかないし、俺も大した事を教えられる訳でなし……困ったな。
「う~ん……あ、そうだ。ダイ君、参考までに聞きたいんだが、勇者アバンからはどんな修行を付けてもらったんだ?」
「うん、一週間で勇者になれるスペシャルハードコースっていうのを受けたんだ」
「何だそりゃ?一週間?たった一週間しか教えてもらってないのか?」
「あ、えっと……実際に教えてもらったのは、3日だけなんだ。3日目の日にハドラーが襲って来て、アバン先生は……」
「「……」」
ダイ少年とポップ、それにマァムの顔が沈んでしまった。特にダイ少年とポップは、目の前で師と慕う勇者アバンを失った訳だし、その悲しみは深い筈だ。これは失言だったな……。
「……すまない。悪い事を聞いてしまったな」
「ううん、いいんです!アバン先生にもう会えないのは悲しいけど、いつまでも悲しんでばかりはいられない。命懸けでおれ達を救ってくれた先生の為にも、ハドラーや大魔王バーンを倒して、世界を平和にしなくちゃならないんだから!」
「おう!」「ええ!」
ダイ少年の力強い言葉に、ポップとマァムが強く頷く。強い心を持った子供達だ。見ていて気持ちが良い、力になりたいと思う。
「分かった。なら、今は出来ることに全力で取り組もう。改めて、勇者アバンの修行内容を教えてくれ」
「うん。えーと……先ず朝早く、太陽が昇る前に起きて岩を引いて走り込みをして、それが終わったら格闘技の指導を受けて、昼食後は剣や魔法やモンスターの事とかの猛勉強、その後は魔法の特訓……だったんだけど、おれ、魔法が苦手だったから、その分剣術の修行を増やして日が暮れるまで受けたんだ」
「なるほど」
早朝夜明け前から夕方日暮れまでか……確かに名前の通りハードなスケジュールだ。
「で、修行はどこまで進んだんだ?」
「アバン先生が編み出したアバン流刀殺法の3つの技の内、『大地斬』と『海波斬』はマスターしたんだけど最後の技……“空を斬る剣”『空裂斬』がまだ出来てないんだ」
「『空裂斬』……空を斬るって、具体的にはどんな技なんだ?」
「それが、おれもよく分からなくって……」
「詳しく教えてもらってないのか?」
「一応、説明は聞いたんだ。だけど、やっぱりよく分からなくって……」
「ふぅむ……」
説明を聞いただけでは理解し切れなかった、という訳か。
「その説明の時、勇者アバンがなんて言ってたか覚えてるかい?」
「うん、それは覚えてるよ」
「なら、それを聞かせてくれ。出来るだけ正確に」
「うん、え~と、確かアバン先生は……」
記憶を辿りながら、ダイ少年が当時の事を語った。
その話によると、アバン刀殺法とは『地』『海』『空』の3つの剣技から成り、その奥義として勇者アバンの必殺技『アバンストラッシュ』があるという。曰く『大地を斬り、海を斬り、空を斬る。そして全てを斬るのが『アバンストラッシュ』である』との事……『地』の『大地斬』はパワーの技、『海』の『海波斬』はスピードの技、そこまではダイ少年もすんなり理解出来た。しかし、『空』の技の説明はよく分からなかった。そして、アバンに尋ねたところ、こんな話をされたという。
『ダイ君、この世には神様から授かった生命以外の生命を持った生物がいます。エネルギー生命体や岩石生命体、暗黒闘気やガスの塊……悲しい事に、それらは皆、悪の魔力によって生み出された邪悪な怪物達なのです。『空裂斬』とは、そうした邪悪な生命を断つ剣なんですよ。それには、こうして剣に正義の闘気を蓄積し、一気に敵の“本体”目掛けて放たなければ、効果がありません。難しいのは、その敵の“本体”を見極める事です。何しろ、普通の怪物の急所と違って、どこにあるのか目に見えませんからね……』
ダイ少年はこの説明に聞いても、『空裂斬』が具体的にどういう技なのかが理解できず、首を傾げるばかりだったという。そんなダイ少年に、アバンは『慌てなくていい。いずれ実戦の中で理解するだろう』と笑って言っていたそうだ。
俺はその話を聞いて――
「うん、大体分かった」
「えっ!?ホントに!?」
目を丸くして驚くダイ少年に、俺は頷いて見せる。
「アバン流刀殺法『空』の技『空裂斬』……その極意はズバリ“闘気のコントロール”にある」
2/12 ご報告いただいた誤字を修正いたしました。